色素性乾皮症(XP)由来細胞の紫外線感受性と遺伝子解析

色素性乾皮症(XP)由来細胞の紫外線感受性と遺伝子解析
UV Sensitivity and Genetic Analysis of Cells Derivedfrom Xeroderma Pigmentosum
奥井 登代 館 延忠* 大山 徹
Toyo Okui, Nobusada Tachiand Tohru Ohyama
色素乾皮症(Xeroderma Pigmentosum以下XPと略
す)は常染色体劣性遺伝によるヒト遺伝病であり、臨床症
した。
XP11SAの37%致死量は正常細胞の約1 /10であること
状としては日光露出部位の紅斑や水泡形成などの急性皮膚
が認められ、紫外線に対して非常に高い感受性を示した。
炎症状、皮膚の乾燥、角化、色素沈着や脱色などが認めら
また、紫外線照射後の不定期DNA合成は5 %以下で、ほ
れる。さらに、これらの皮膚病変部位に正常人の約2000倍
の高頻度で皮膚癌が発生する。また、他臓器の痛も正常人
の10∼20倍高頻度に発生する。これらの症状に加えて、知
能低下などの神経症状が合併する場合もある。 XP患者の
細胞は紫外線誘発除去修復能が欠損していることにより紫
外線に対して高い感受性を示すことが明らかになっている。
また、細胞融合による遺伝的相補性テストによってA-G
の8群と紫外線照射後の複製後修復能が欠損しているバリ
アントの8つの遺伝的相補性群の存在が知られている1-2)。
皮膚症状や神経症状の重症度は相補性群により違いがあり、
原因遺伝子が異なること、さらに同一群の患者でも遺伝子
の変異の箇所により症状の程度の差があることなどが遺伝
子レベルの研究から明らかになってきた3-9)。
今回我々は、札幌医大でXPと診断された患者
(XP11SA)の紫外線感受性とDNA除去修復能を調べた。
また、この患者と併せて、過去に紫外線感受性を調べた
XP患者(XP6SA、 XP1AS、 XP12SA)10)の遺伝子解
析も行った。
紫外線感受性試験および遺伝子解析には患者の皮膚由来
線維芽細胞を使用した。対照として正常人の皮膚由来線維
芽細胞を用いた。培養は10%の牛胎仔血清を含むMEM培
養液を使用し、 5%CO2培養器中で行った。一定数の細
胞をシャーレに播種し、紫外線照射後のコロニー形成率を
得るコロニー形成法を用いて紫外線感受性を調べた11)。
細胞のDNA除去修復能の判定には紫外線照射後の3H-チ
ミジンの取り込みをオートラジオグラフィーによって判定
する不定期DNA合成(UDS)の検出法を用いた11)。
XP11SAの紫外線感受性とUDSの結果をFig. 1に示
Fig. 1 (a) Lethal Effect of UV-irradiation on
XP11SA
*札幌医科大学医学部
(b)The Induction of UDS in XP11SA
とんど認められなかった。臨床症状とこれらの結果から、
この患者はXPA群であると考えられた。さらに詳細な判
定を得るために遺伝子解析を行った。
についても遺伝子解析を行った。
正常人、 XP11SA、 XP6SAおよびXP1ASは培養線
維芽細胞から、 XP12SAでは神経組織からDNA摘出キ
XPA群の原因遺伝子は田中3)らによって見い出され、
ット(和光)を用いてDNAを抽出した後、 Satokataらの
XPAC遺伝子と名付けられた。日本の大部分の患者は
報告9)に従い下記のプライマーを用いて、エキソン4、エ
XPAC遺伝子のイントロン3のスプライシング受容部位
キソン6およびエキソン3を増幅した。、
のAGがACにG-Cトランスバージョンして、スプラ
41 5-gggaattcTTGCTGGGCTATTTGCAAAC-3(イントロン3)
イシング異常が起こっていることが報告されている。また、
42 5-gggaattcGCCAAACCAATTATGACTAG-3 (イントロン4)
A群の患者のうち、臨床症状がやや軽く、発癌年令も高
51 5-gggaattcCATTCTTTGGTACCTTTGGA-3(イントロン5)
い患者からXPAC遺伝子のエキソン6のコドン228のC-
52 5-gggaattcGTAAAACACAATCCTTCACG-3(イントロン6)
Tの変異、あるいはエキソン3のコドン116のT-Aの変
31 5-gggaattcGAAACTAGAGTTCATTTTCC-3(イントロン2)
異が検出されており、 XPA群の中でも遺伝子の異常の箇
32 5-gggaattcGTTTTGCCCTAAACCTACAC-3 (イントロン3)
所と臨床症状に関連があることが明らかになっている9)。
今回、札幌医大から提供されたXPA群患者(XP11
これらのPCR産物をそれぞれ制限酵素AlwN1 、 Hph
1およびTru91を用いて制限酵素断片長多型(RFLP)
SA)、すでに死亡したXP患者(XP12SA)および以前
の検出を行った。その結果、 XP6SA、 XP11SAおよび
に紫外線感受性を調べた患者(XP6SA)の細胞DNA
XP12SAではAlwN1で消化後G-Cトランスバージョ
を抽出し、遺伝子解析を行った。また、細胞致死では高い
ンによって切断が生じ、 328bpと244bpおよび84bpのバ
紫外線感受性を示したが、 UDSが正常細胞の約20%認めら
ンドが見られた。しかし、 Hph1とTru91による消化は
れたことからXPC群が疑われた患者の細胞(XP1AS)10)
正常細胞と同様のバンドが得られた(Fig.2, Fig.3)c
Fig.2 (a) Pedigree ofXP Analyzed byAlwN1 in Amplified DNAs
(b) Diagram of the Position of the PCR Primers for Alw N 1 RFLP Analysis and the Location
ofthe New Alw N 1 Site Generated by the Nucleotide Transversion
Fig. 3 (a) Pedigree ofXPAnalyzed by Hph1 and Tru91 in Amplified DNAs
(b) Diagram of the Position of the PCR Primers for Hph1 and Tru91 Site Generated by the
Nucleotide Transversion
Fig. 4 Sequence of XPAC Gene Fragments ofXP Patients
また、 XP11SA、 XP1ASおよびXP12SAについて
定試験には1か月以上要していた。 PCR-RFLPやダイレ
はPCR産物のダイターミネーション法を用いたシークエ
クトシークエンシングなどの遺伝子診断は少量の血液や細
ンシングを行った。その結果、 XP11SAとXP12SAで
胞模本で迅速にしかも遺伝子の異常の箇所を特定できるた
はイントロン3のスプライシング受容部のG→Cトラン
め、的確な治療方針の決定に貢献すると考えられる。
スバージョンが確認されたが、エキソン6のコドン228お
文 献
よびエキソン3のコドン116には変異は認められなかった。
XP1ASでは変異は認められず、正常細胞と同じであっ
1) Cleaver, J. E. : Nature, 218, 652 (1968)
た(Fig.4)。
2) Friedberg, E. C.: DNA Repair, Freeman, New
これらの結果により、 XP6SA, XP11SAおよびXP
York (1984) p.505
12SAが日本で85%を占めているAlwN1 -/-タイプであ
3) Tanaka, K. etal. : Nature,348, 73 (1990)
ることが明らかになった。また細胞実験でC群を疑われ
4) Weed, G. etal. : Cell,62,777 (1990)
たXP1ASは正常細胞と同様、 AlwN1 +/+、 Hph1+/
5) Legerski, R. et al. : Nature, 359,70 (1992)
+、およびTru91A+/+を示し、 A群ではないことが遺
6) Scherly, D. et al. : Nature, 363, 182 (1993)
伝子解析からも認められた。
XP6SAの患者は受診当初、臨床症状が軽く、 XPA群
ではないと推定されたが、当時はまだ遺伝子診断法が確立
していなかったため、細胞培養を行い、紫外線感受性試験
7) D'Donovan, A. etal. : Nature, 363, 185 (1993)
8) Nishigori, C. etal. : Arch. Dermato. 1, 130, 191
(1994)
9) Satokata, I. etal. : Mut. Res., 273, 193 (1992)
および相補性試験によって典型的なXPA群であると診断
10)奥井登代:道衛研所報, 40, 94 (1990)
された例である。しかし、これらの細胞学的試験による判
11) Okui, T. etal : Mutat. Res., 172,69 (1986)