カンボジア・トンレサップ湖の水質について

カンボジア・トンレサップ湖の水質について
*奥村康昭(大阪電気通信大学),塚脇真二(金沢大学)
,遠藤修一(滋賀大学)
はじめに
カンボジアのトンレサップ湖は東南アジアで一番大きな淡
水湖であり,乾季と雨季で面積や水深が大きく変化する湖とし
て有名である.この特徴はメコン川の水理特性と密接に関係し
て,湖の水質にも大きな影響を与えている.また,この湖は世
界でも類を見ないほどの多種多様な生物相を呈することでも知
られている.筆者らは科研費による海外学術調査(基盤研究
(B)(1),課題番号 15405004)
「カンボジアのトンレサップ湖にお
ける生物多様性維持機構の評価にかかる現地調査」の一環とし
てトンレサップ湖の水質の観測を分担している.現地調査は
2003 年 11 月,2004 年 5,11 月,2005 年 5 月に予定していて,前
半はすでに実施済みである.
定点における連続観測
Fig.2
電気伝導度 センサの検定が海水用にされていたため,淡
水では分解能が悪く精度が良くない.傾向としては南部で小
さく北部へ行くほど大きな値を示している.
濁度 底層では大きな値を示し,浸水林近くでは比較的小
Fig. 1
1
Dry
Fig.3
Season
科研費の研究代表者である塚脇は,科研費による調査とは無
関係に過去3年間,年に数回の割合でトンレサップ湖を訪れ,
定点において電気伝導度,溶存酸素濃度,pH など物理センサで
測定できる水質項目の観測を続けてきた.今回の調査の参考と
して,ここでは,電気伝導度の測定値を取り上げ,Fig.1に示
す.この図を見れば乾季に電気伝導度が小さくなり,雨季には
大きくなることが分かる.雨季にはメコン川の水が逆流してト
ンレサップ湖の水位を上昇させ,湖水はほとんどがメコン川の
水で占められる.乾季には水位は下がり湖水は湖周辺から流入
した河川水だけになるが,河川水の電気伝導度はメコン川に比
較して小さい.例えば,トンレサップ湖に流入する代表的な河
川の一つであるシェムリアップ川の電気伝導度は 20μS/cm 位
である.Fig.1の電気伝導度の変化はこのことを示しているも
のと考えられる.
横断観測
科研費による調査期間中に多項目水質計(アレック電
子,AAQ1183)を用いて,トンレサップ湖北部の水質の横断観測
を実施することにした.観測項目は DO,pH,クロロフィル濃
度,水温,濁度,電気伝導度で,小型なのでスーツケースに入
れて持って行くことが出来る.
観測点の配置を Fig.2 に示す.2003 年 11 月の観測時の平均水
深は 6.5m であった.この時の各点での透明度と水深を表に示
す.また.横断面内の各観測項目の分布を Fig.3 に示し,各項
目の特徴を以下に要約する.
水温 全体的に一様であるが,北部の表層で少し高くなって
いる.日差しが強かったので,南から北へ観測が進むにつれて
水温が上昇したものと思われる.
さな値になる.透明度と良い相関を示している.
クロロフィル濃度 全体的に小さな値を示すが,北で少しお
おきくなる.植物プランクトンが増殖し,クロロフィル濃度の
値が大きくなると pH が大きくなると言われているが,pHの値
とは相関がない.
DO ほぼ全層,全地点にわたって飽和に近いが,浸水林の
近くと底層では 60%近くまで低下している.南部での酸素飽和
度の低下は著しい.
pH 湖中心部から北部にかけて 8 を超える値を示すが,南
部では 7 近くの値を示す.
Station
1
2
3
4
5
6
7
8
9
Transparency 3.2 2.4 2.3 2.0 2.0 1.9 2.0 2.2 1.9
(m)
Depth(m)
6.3 6.4 6.5 6.4 6.6 6.6 6.6 6.6 6.5
10
2.0
6.4