年越夜勤 - タテ書き小説ネット

年越夜勤
聖魔光闇
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︻小説タイトル︼
年越夜勤
︻Nコード︼
N9459Z
︻作者名︼
聖魔光闇
︻あらすじ︼
12月31日から1月1日の1日の変化の中には、凄いドラマ
が埋まっている事だってあるんだ。
でも、これはその一端の話⋮⋮。
1
︵前書き︶
私の専門職が介護なので、介護をモチーフに書きました。時折、
食事中には適切ではない表現を含むかもしれませんが、ご了承くだ
さい。
2
﹁あ∼! 欝陶しい!!﹂
そう声に出して鬱憤を晴らす同僚に、僕はボソッと呟いた。
﹁じゃあ、こんな職種選ばなきゃいいんだよ⋮⋮﹂
﹁何だって! 聞こえたぞ! 俺だって別にこんな仕事したくてや
ってんじゃねぇよ!﹂
﹃じゃあ、どんな理由でやってんだよ﹄と思っていると、利用者の
年寄りがトボトボと、歩いてくるのが見えた。
﹁増田さん。どうかしましたか?﹂
こんな夜中に出歩くなんて本当に珍しいしっかりしたおばあちゃ
んだっただけに、僕は余計に心配になって声を掛けた。
﹁おいおい、山下。増田さんだって、紅白くらいは観たいんだろう
ぜ!﹂
そう言って、増田さんの傍にしゃがみ込んだ栗木は、﹁な!﹂と
増田さんの顔を覗き込んだ。
紅白か⋮⋮。紅白歌合戦。毎年年の瀬の恒例行事。紅白をみて、
除夜の鐘を聞いて、百八つの煩悩を振り返りつつ、未来に繋げてい
くのだ。そう、僕達は今、大晦日と元旦をまたいだ、正月夜勤の真
っ最中だ。
﹁増田さん、そろそろオムツの交換時間ですよ﹂
そう言う僕を栗木は、﹁まぁそんなに真面目になんなよ。増田さ
ん、気が済むまでテレビ観てていいからな﹂と言いながら押し退け
た。
﹃何が、あ∼! 欝陶しい!! だ! 一番イキイキ仕事してんの
は、お前じゃないか!﹄
そんな事を思いながらも、僕はオムツ交換の台車の用意を済ませ
ると、施設の一番奥の部屋からオムツ交換を始めた。
﹁♪♪♪﹂
3
﹁♪♪∼♪﹂
﹁♪∼♪∼♪♪﹂
オムツ交換をしながら気が付いたことだが、栗木の奴が音量を上
げた為か、多くの利用者がテレビから流れる演歌を口ずさんでいる
のだ。
﹁なぁ、山下⋮⋮。お前真面目なのは良い事だけどよ、真面目真面
目も、適当が一番だと俺は思うぜ! 周りの人達を見てみろよ。聞
こえる歌を口ずさみ、中には涙を流している人もいる。これが年越
し夜勤なんだよ。確かに俺は、欝陶しいって言った。でもよ、それ
は、お前みたいな真面目君との夜勤が欝陶しいって意味でもあるん
だよ。みんな、年越しで、また一つ寿命が縮まる。でも、今年にあ
った事を振り返って、家族が迎えに来ない事を悔やんで、それでも
やっぱり正月はめでたくて、また一年経ったって、実感してんのさ。
これは、しっかりしているとか、認知症だとか関係ねぇ。紅白がや
ってりゃ大晦日で、何だか知らねぇが、年越蕎麦食って、除夜の鐘
聞きながら眠るんだよ。そうして、また一年、先まで頑張って生き
るのさ。俺達が今ここで、どれだけ真面目に業務をこなしたって、
利用者は誰も感謝なんてしねぇ。だからと言って、不真面目にやれ
って言ってんじゃねぇんだけどな﹂
そう言ってニカッと笑った栗木を見て、僕はなんだか恥ずかしく
なった。初めは人間らしく人間らしい生活を提供したい⋮⋮。なん
て思っていたのに、気が付いたら、介護ロボットになってしまって
いて、業務を時間通りにこなす事ばかりが頭を支配していた。
﹃そうだよな。︻人間らしく人間らしい生活︼そう思うなら、大晦
日に紅白を観たって全く変じゃないじゃないか!? ︻人間らしく
人間らしい生活︼そう思うなら、除夜の鐘聞いて、年越蕎麦食べて
も普通だよな。明日の朝は、寝坊して、眠い目を擦りながら、新年
の挨拶をひたすら繰り返すんだ。﹃あけましておめでとうございま
す。昨年は大変お世話になりました。本年も宜しくお願いします﹄
ってね﹄
4
そう思うと、手際よくオムツ交換するのが馬鹿らしくなって、気
が付いたら、利用者と笑顔で話をしながらオムツ交換をしていた。
﹁山下。そういう事だ﹂そう言って、ポンと僕の肩を叩くと、別の
部屋へと入って行った。オムツ交換を終えると、増田さんが僕の傍
へやってきて、僕をトイレの方へと連れていく。
﹃うん。そうだね。オムツ交換じゃなくても、トイレ誘導でもいい
んだよね﹄
そう思って、増田さんをトイレ誘導し、汚れたオムツを交換する
と、増田さんが僕の方を見て満面の笑みを浮かべた。そのまま去っ
ていく増田さんを後ろから眺めながら、﹃やっぱり介護って楽しい
なぁ﹄と思った僕だったが、汚染オムツの片付けがまだだった事を
思い出して、慌てて汚物処理室へと足を運んだ。
汚物室を出ると、初めて施設の生活がいかに人間らしさを損ねて
いるのかを実感した。
﹁けど、俺達ぁプロだ。どれだけ人と掛け離れた生活を提供しよう
が、集団生活の場で各個人を尊重しつつ、個人を無視した業務を遂
行する矛盾した観念を持ち合わせた介護のプロだ。そこんとこ、忘
れるなよ!﹂
僕の心を見透かしたように、栗木がそう言って通り過ぎて行った
と思うと、ただ、サボるのではなくて、ただ、愚痴るだけではなく
て、利用者の笑顔を引き出しながら、手際良いとはとてもいえない
業務を遂行していた。
﹃介護のプロ。介護を行う事により、生計を営む者。けれども、だ
からと言って介護ロボットになる必要なんてない﹄
僕の中で何かが弾けたような気がした後、僕はその光り輝く暖か
い場所へ戻って行った。
外の暗さを忘れてしまう程の気持ちで。
5
6
︵後書き︶
本当の現場は、こんなにもドラマチックではありませんけどね︵
^o^ゞ
7
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n9459z/
年越夜勤
2012年9月6日07時55分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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