固定為替相場制度 vs. 変動為替相場制度 国際金融論 1 国際通貨制度の変遷 1870年~1914年:国際金本位制 1914年~1925年頃:変動為替相場制度 1925年:イギリス、金本位制に復帰 1931年:イギリス、金兌換停止 1944年~:ブレトンウッズ体制(金ドル本位制) 1971年8月:ニクソン・ショック(アメリカ、金ドル交換停止) 1973年:主要国が変動為替相場制度へ移行 1978年:キングストン合意(自由に為替相場制度を選択) 1979~1998年:欧州通貨制度(EMS)の下でECUを中心 とした共同フロート制度 1999年:EU11カ国で単一共通通貨ユーロが導入(現在、 EU 15カ国) 国際金融論 2 国際金本位制 金 £ $ 国際金融論 DM 円 3 変動為替相場制度(金兌換停止) 金 £ $ 国際金融論 DM 円 4 金ドル本位制 金 $ £ DM 国際金融論 円 5 共同フロート制(EMS) $ 円 ECU EMS通貨の加重平均値 £ DM 国際金融論 EMS F.Fr 6 現在の国際通貨制度 $ 円 EU15 € £ 国際金融論 7 国際金本位制下での「物価正貨流 出入メカニズム」(Hume) (1) (2) (3) 国際金本位制が依拠している条件 通貨当局が一定の価格で無制限に金を売買する用意 がある。すなわち、金の増減が通貨の増減となる。 金が無条件に自由に国際間を移動しうる。 実体経済において価格メカニズムが十分に機能する。 「物価正貨流出入メカニズム」 国際収支(経常収支)不均衡が金の移動によって金準 備高の変化を通じて物価が伸縮的に変化することによ り、交易条件(相対価格)の変化を通じて国際収支(経 常収支)が是正する(金本位のルール)。 国際金融論 8 通貨当局のバランスシート 資産 負債 金準備残高 兌換紙幣 金準備残高増加 兌換紙幣増加 国際金融論 9 国際収支調整(自国財需要の増加) 外国人による自国財への需要が増加のために経常収 支黒字が発生 ⇒国際決済手段の金から自国通貨への交換が増大 ⇒金に対する自国通貨の交換レートが上昇圧力 ⇒通貨当局は、交換レートを一定に保つために、自国通貨 を売って、金を買う。 ⇒通貨当局の金の保有量が増加するとともに、国内経済に おける自国通貨の流通量が増加する。 ⇒国内で物価が上昇する。すなわち、自国財の相対価格が 上昇する。 ⇒経常収支黒字が縮小する。 国際金融論 10 国際収支調整(外国での金鉱の発見) 外国で金鉱が発見され、金の供給量が増加。 ⇒金に対する外国通貨の交換レートが上昇圧力 ⇒交換レートを一定に保つために、外国通貨当局が外国通 貨を売って、金を買う。 ⇒外国の通貨の流通量が増加。外国で物価上昇。 ⇒外国財の相対価格が上昇。自国財の相対価格が低下。 ⇒自国の経常収支黒字。 ⇒金に対する自国通貨の交換レートが上昇圧力。 ⇒交換レートを一定に保つために、自国通貨当局が自国通 貨を売って、金を買う。 ⇒自国の通貨の流通量が増加。自国で物価上昇。 国際金融論 11 固定為替相場制度 (1) (2) 固定為替相場制度の下では、通貨当局は公定相場を 維持するために、外国為替市場に介入する。 外国為替市場への介入は、貨幣供給量に影響を及ぼ しうる。 外国為替市場への介入によって通貨当局が保有する 外貨準備残高が変化し、その変化が国内信用残高の 調整によって不胎化されないかぎり、貨幣供給量も変 化する。 外貨準備残高の変化が国内信用残高の反対方向の変 化によって不胎化される場合には、貨幣供給量が変化 しない。 国際金融論 12 通貨当局のバランスシート 負債 資産 国内信用残高 (対政府信用+対民間信用) ハイパワードマネー ハイパワードマネー 外貨準備残高 国際金融論 13 為替介入(外貨買い介入) と通貨当局のバランスシート 負債 資産 国内信用残高 (対政府信用+対民間信用) ハイパワードマネー ハイパワードマネー 外貨準備残高 外貨買い介入による 外貨準備残高増 国際金融論 ハイパワードマネー増 14 不胎化政策を伴う為替介入と 通貨当局のバランスシート 負債 資産 国内信用残高 (対政府信用+対民間信用) 国内信用残高減 ハイパワードマネー ハイパワードマネー 外貨準備残高 外貨買い介入による 外貨準備残高増 国際金融論 15 不胎化政策を伴う為替介入⇒通貨危機 自国通貨の減価を抑える為替介入を不胎化す ると、 ①為替介入によって外貨準備残高が減少するが、 貨幣供給量は不変。 ②ファンダメンタルズが変化しないために、自国通 貨減価圧力が続く。 ③外国通貨売り介入を続けなければならない。 ④いずれは外貨準備残高が尽きる。 国際金融論 16 国際金融のトリレンマ 自由な 資本移動 通貨統合 カンレシー・ボード 変動相場制 金融政策の 自律性 資本管理・為替管理 国際金融論 為替相場の安定 17 為替相場制度の分類 自由変動 変 動 為 替 制 度 ソフト・ペッグ 管 理 フ ロ ー ト 制 度 B B C ル ー ル ハード・ペッグ 固定為替制度 バ ス ケ ッ ト ・ ペ ッ グ 国際金融論 ド ル ・ ペ ッ グ カ レ ン シ ー ・ ボ ー ド ド通 ル貨 化同 盟 18 両極の解 と 中間的為替制度 両極の解(two corner solutions):自由変 動為替相場制度(free float)または厳格な 固定為替相場制度(hard peg) 中間的為替制度(soft peg) :伝統的な固 定為替相場制度、管理フロート制度 WilliamsonのBBC(Basket, Band, Crawling)ルール 国際金融論 19 図4-3:為替相場制の推移 200 180 160 その他 変動相場 管理フロート 単一通貨に対する制限変動相場 協調為替取極め ある指標によって調整 SDR・通貨バスケットへの固定相場 その他の単一通貨への固定相場 ドルへの固定相場 140 120 100 80 60 40 20 0 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 国際金融論 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998Q3 20 中間的制度は消え行く? IMFの分類で中間的為替制度は消え行く。 (Fischer(2001), Mussa et al. (2000)) 実際には、IMFの分類と異なる為替政策を採用。 通貨当局は為替相場変動を恐れる。(←外貨建 て債務、名目アンカーとして為替相場) アジアはドル本位制(McKinnon(2000)) 。 アジア通貨危機以降、ドルとの連動性が高まっ ている。 国際金融論 21 両極の為替制度は通貨危機に 耐えられる? 変動相場制度は、定義上、通貨危機に陥らない。 通貨同盟内において、通貨危機に陥らない。但 し、外部の通貨に対し通貨危機の可能性がある。 ドル化経済国と米国と間では、通貨危機に陥ら ない。但し、「最後の貸し手」としての中央銀行が 存在しないので、金融危機が深刻化。 カレンシー・ボードでは、外貨準備でバックアップ されている部分については問題ないが、それを 超える部分については投機攻撃の対象となる。 香港ではダブル・マーケット・プレイによる投機 攻撃。 国際金融論 22 両極の為替制度 vs. 中間的為替制度 為替相場の変動性・固定性には、様々な メリット・デメリットによるトレード・オフ関係 がある。最適な為替制度が両極(corner solution)にあるとは一概には言えない。 どの為替制度が良いかは、ケース・バイ・ ケース。 中間的為替制度より両極の為替制度の 方が望ましいという理論的根拠はない。 国際金融論 23 固定為替相場制度のメリット 為替相場の安定性 インフレ的金融政策の抑制 金融政策に対する信認 国際金融論 24 為替相場の安定性(1) 企業が為替リスクに直面している。 企業の利潤 SP Q C (Q) * 12 S E S , S V S : 利潤、 S : 為替相場、 P* : 価格(外国通貨建て) 、 Q : 生産量、 C : 生産費、 S : 為替相場の期待値、 s : 為替相場の標準偏差 国際金融論 25 為替相場の安定性(2) 利潤の期待効用( E U ) E U E V 12 S P Q C (Q) S P Q * 国際金融論 * 26 為替相場の安定性(3) 利潤の期待効用最大化 S P C(Q) S P * * ⇒生産の限界費用に企業の危険負担費用 が上乗せされたものと価格が等しい生産 水準で最適化される。生産量が減少する。 国際金融論 27 インフレ的金融政策の抑制 政府にインフレを発生させる誘引(通貨発 行利益、インフレ税)がある。 固定相場制度下において、金融政策の自 由度を失うことによってその誘引を抑制す る。 インフレ抑制的な金融政策を行う外国の 通貨に自国通貨を固定することによって、 自国でインフレ抑制。 国際金融論 28 図4-4:政府収入に占める通貨発行利益の比率とインフレ率 インフレ率 % 50 40 30 20 10 日本 アメリカ 0 0 5 10 15 20 25 % 30 政府収入に占める通貨発行利益の比率 (資料)Cukierman(1992)pp48-49. 国際金融論 29 金融政策に対する信認 インフレ抑制的な金融政策スタンスをもつ 外国の通貨に自国通貨を固定することに よって、金融政策の自由度に縛りをかけ、 民間経済主体による金融政策に対する信 認を高める。(インフレ抑制の名声の輸 入) 国際金融論 30 変動為替相場制度のメリット 国際収支調整の費用 金融政策の自由度 安定的投機 国際金融論 31 国際収支調整の費用 固定為替相場制度下における国際収支 調整の費用=赤字の場合には失業の増 大 変動為替相場制度下における国際収支 調整の費用=為替相場の調整 国際金融論 32 金融政策の自由度 変動相場制度下においては、金融政策の自由 度が高まる。 外国の金融引締めによって外国利子率が上昇 すると、資本が自国から外国へ流出する。自国 通貨に対して減価圧力が作用する。 変動相場制度下では、貨幣供給を管理可能。 固定相場制度下では、為替介入によって貨幣 供給が減少。自国でも金融引締め。 国際金融論 33 マンデル・フレミング・モデル i IS LM ' A i0* i i* y y0 A E0 FF E XX 国際金融論 34 変動相場制下における金融政策の自由度 i IS IS LM B ' ii * A i* i i* y y0 y1 A E0 FF E1 FF B E XX XX 国際金融論 35 固定相場制下における金融政策の自由度 i B ' ii * A i* i i* LM IS LM y1 y y0 A E0 B FF FF E XX XX 国際金融論 FF 36 安定的投機 Friedman:投機の自然淘汰説 ファンダメンタルズを知らない投機家は市 場から排除される。 結果として、ファンダメンタルズを知ってい る投機家のみが市場に残る。 投機は為替相場をファンダメンタルズに向 かって安定化させるように作用する。 国際金融論 37 投機は本当に安定的か? バブルの発生 情報の不完全性⇒群衆行動 ①美人投票モデル ②名声モデル ③情報の段階的伝達(カスケード)モデル 合理的予想を持つ投機家vs.ノイズ・トレー ダ 国際金融論 38 固定為替相場制、カレンシー・ ボード、ドル化、通貨同盟 より厳格な固定制のメリット ①制度の信認 ②金利のリスク・プレミアムの軽減 より厳格な固定制のデメリット ①為替相場以外による調整 ②国内の中央銀行(最後の貸し手)の不在 国際金融論 39 固定為替相場と最適通貨圏 供給ショックの非対称性 生産要素の移動 経済の開放度 財政移転 国際金融論 40 固定相場制vs.管理フロート制 制度の透明性とアカウンタビリティ 信認⇒ハネムーン効果 介入の効果や制度の維持のための裁量 と曖昧さ 国際金融論 41
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