第12回:最適通貨圏理論(3) 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 1 概要 1. 2. 3. 4. 5. 6. 今回のねらい 通貨統合による信認の輸入 為替リスク消滅の影響 貿易開放度と通貨統合の便益 古典的なOCA理論は無意味か? 例題 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 2 1. 今回のねらい • 前回の講義では最適通貨圏理論に向け られたいくつかの批判的見解を紹介した。 • 具体的には、通貨統合による差異の内 生的変化、成長率の差異に関する実証 的批判、通貨統合の差異の長期的解消 といった議論を紹介した。 • 今回は引き続き、前回紹介できなかった 批判的見解を概観していく。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 3 2. 通貨統合による信認の輸入 • 通貨統合は良くも悪くも、加盟国の金融政策 運営を縛る制度。 • もし金融政策当局に を 起こす誘因があるとすれば、通貨統合に伴う 縛りは望ましい結果をもたらすかも知れない。 • 金融政策独立性の喪失は費用だけでなく、便 益をもたらす可能性がある。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 4 2.1 閉鎖経済のBarro-Gordonモデル • 金融政策当局の信頼性に着目したモデル。 • 金融政策=インフレ率のコントロール • 短期フィリップスカーブ – 予想されないインフレが失業を生む。 • 長期フィリップスカーブ U UN – 長期的には NAIRU (Non accelerating-inflation rate of unemployment) e 。垂直なフィリップスカーブ。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 5 短期と長期のフィリップスカーブ e 0 UN 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) U 6 (補足)貨幣錯覚とフィリップスカーブ e • インフレ発生( 1 )。 長期フィリップスカーブ U UN 1 1 e 1 e 0 • 貨幣錯覚により消費・生産 増大。 • 失業減少( U N U 1 )。 • 期待インフレ率修正 e ( 1 1 )。 • 生産減少、失業増大。 0e 0 a 短期フィリップスカーブ U U N a ( e ) 0 U1 U0 U N U 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 7 政策当局のインフレ・失業選好 • 政策当局はインフレと失業に関する効用関数 を持つとする。 l1 l2 0 UN – インフレ率、失業率が ( l1 l2 )。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 、効用は高い 8 インフレ・失業選好の差異 0 UN 0 UN 平らな効用関数は相対的にインフレを嫌う政策当局を表す。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 9 政策当局の効用最大化 • 目的関数と制約条件 – 目的関数:効用関数 – 制約条件:フィリップスカーブ 0 UN • 効用関数とPCの接線で効用最大化。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 10 裁量的金融政策と信認の失墜 • 裁量的金融政策:金融政策当局が自由に(裁 量的に)政策を発動。 • 金融政策当局には、 (金融 緩和)を発生させるインセンティブがある。 • 予期せぬインフレ発生に伴い、短期フィリップ スカーブは上方シフト。 • 長期的に極めて高いインフレ率と失業率が達 成される恐れがある(裁量的金融政策のリス ク)。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 11 裁量的金融政策の帰結 予期せぬインフレ発動のインセ ンティブはない。 E B A 0 UN U 予期せぬインフレ発動を繰り返す結果、高インフレ(低効用)が実現する恐れ。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 12 インフレ・失業選好の差異と裁量政策の帰結 (インフレに厳しい当局) (インフレに甘い当局) E E B B 0 A U 0 A U インフレに甘い当局の方が均衡インフレ率も高くなる。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 13 Barro-Gordonモデルの示唆 • 金融政策の裁量的運営は、予期せぬインフ レ発動と、信認低下に伴う短期フィリップス曲 線のシフトを通じて悪い結果をもたらす可能 性がある。 • の存在は、経済厚 生の改善に寄与。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 14 2.2 二国版Barro-Gordonモデル • 通貨統合により、イタリアがドイツにペッグす る例を考える。 – ドイツ:インフレに厳しい。低い均衡インフレ率。 – イタリア:インフレに甘い。高い均衡インフレ率。 • 購買力平価より、ドイツとイタリアのインフレ 格差はゼロになる。 I G • イタリアがドイツにペッグするため、イタリアの インフレ率がドイツのインフレ率に一致。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 15 インフレ・失業選好の差異と通貨統合 (ドイツ) (イタリア) G I E E 0 A UG 0 A UI 「インフレに厳しい」ドイツ当局の方針をイタリアは輸入できる。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 16 ドイツの金融政策信認が高いケース (ドイツ) (イタリア) G I E 0 A UG 0 A UI イタリアはドイツ当局の「裁量的政策を発動しない」という信認を 輸入することが出来る。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 17 通貨統合による信認の輸入 • 通貨統合により、イタリアはドイツの政策当局 の「インフレに厳しい」という信認を輸入するこ とができる。 • イタリアは裁量的金融政策の害悪を回避。 • 結果としてイタリアでは低いインフレ率と高い 効用水準を実現。 • 通貨統合がもたらす 。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 18 3. 為替リスク消滅の影響 • そもそものMundellの議論では通貨統合に対 する悲観的な見方が主であった。 • 後にMundell自ら、通貨統合の 。 – 為替リスク消滅と金融市場統合の深化。 – 非対称的ショックとしての為替変動。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 19 3.1 為替リスクの消滅と金融市場統合の深化 • 金融市場の統合は して有効であった。 の手段と • 金融市場の統合と域内所得移転の実現は通 貨統合の費用緩和につながる。 • 為替リスクの存在は、外貨建て資産の自国 通貨建て価格に不確実性をもたらす。 • (リスク回避的な経済主体を想定すれば)為 替リスク消滅は金融市場統合深化に寄与。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 20 3.2 非対称ショックとしての為替変動 • これまで単純に為替レートはインフレ格差(購 買力平価)で決まると想定してきた。 • 現実には投機的取引などもあって、為替レー トは購買力平価から乖離して動く。 • 為替レートの変動は非対称ショックの調整手 段である一方、非対称ショックそのものでもあ る。 • 通貨統合による はこの意 味で望ましい側面も持っている。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 21 4. 貿易開放度と通貨統合の便益 • • 貿易開放度の高い国ほど、為替変動に伴う 国内物価水準の変動が大きい(為替変動の 費用)。 • 通貨統合はこうした為替変動による物価変動 の費用を消滅させる(通貨統合の便益)。 • 開放度の高い国ほど、通貨統合から得られ る便益が大きくなる。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 22 貿易開放度と自国通貨減価 PO (開放度の高い国) 純輸出↑ PC (開放度の低い国) 輸入中間財価格↑ AS O AS C 純輸出↑ 0 ADO YO 輸入中間財価格↑ 0 ADC YC 貿易開放度の高い国ほど、自国通貨減価に対して大きな国内 物価変動が発生する。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 23 貿易開放度と通貨統合の費用・便益 • McKinnonの議論によれば、 の 高い国ほど通貨統合のネットの便益は大きい。 • EC ViewとKrugman’s View – EC View:貿易統合(開放)⇒垂直分業⇒需要 ショック対称化⇒費用緩和 – Krugman’s View:貿易統合(開放)⇒水平分業⇒ 需要ショック非対称化⇒費用増幅 • 現実に貿易開放度が通貨統合のネットの便 益にどう影響するかは実証的課題。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 24 5. 古典的なOCA理論は無意味か? • 第5回で見た古典的なOCA理論( は意味のないものか? ) – 通貨統合による差異の解消。 – 様々な便益の存在。 • 古典的OCA理論は当然有効 – 差異が100%解消することはない。 – 便益の存在は費用の存在を否定するものではない。 • 費用と便益のバランスおよび、通貨統合それ自 体による内生的な経済の変化を考慮することが 重要。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 25 6. 例題 • インフレ・失業選好の差異が通貨統合の費用 を生む可能性について説明せよ。 • 貿易開放度が高い地域は、通貨統合に向く 地域といえるか、向かない地域と言えるか、 理由を添えて答えよ。 国際金融論Ⅱ(南山大学2014) 26
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