電気回路学講義資料

電気回路学
Electric Circuits
情報コース4セメ開講
回路に関する諸定理
山田 博仁
ガイダンス
1.教科書
1) 大学課程 電気回路(1) (第3版) 大野 克郎、西哲 生 共著、オーム社
2) 電気回路 - 三相、過渡現象、線路 - 喜安 善市、斉藤 伸自 著、朝倉書店
※ 2) は12月中頃から使用予定
2.成績評価
・ 講義点と定期試験の点数(約3:7の比率)を勘案して行う
・ 講義点(約30点)は毎回講義時のレポート提出をもって認定する
・ 定期試験を受けていない者は再試を受けても失格となる
(再試は行なわないかも知れない)
3. オフィスアワー
随時OK、2号館203号室 (事前に電話またはE-mailにより予約のこと)
E-mailによる質問・相談も可
E-mail: [email protected]、電話(内線): 7101
4. 皆さんへの連絡および講義資料のダウンロード
Website
http://www5a.biglobe.ne.jp/~babe/
線形回路
実在する抵抗は、抵抗値が素子を流れる電流 I の関数になっている (非線形素子)
V = R(I) I
RR
(I)
I
V
つまり、V と I は比例関係にない
しかし、電流がごく小さい範囲では、R =一定とみなせる (線形近似)
V=RI
R が線形素子なら、
つまり、V と I は比例
(重ね合わせ)
R (I1+I2) = R I1 + R I2
R が線形でなければ、 R(I1+I2) (I1 + I2) ≠ R(I1) I1 + R(I2) I2
である
(重ね合わせ)
R が線形であれば重ね合わせが可能で、素子に I1 のみが流れている状態と、
I2 のみが流れている状態を重ね合わせると、 I1 と I2 が同時に流れている状態
に等価となる
実在する電気回路素子は非線形素子であるが、線形電気回路学では近似的に
線形素子として扱える場合を対象にしている
重ね合わせの理
複数の電源を含む線形回路網中の電圧・電流分布は、各電源が単独にその位置
に存在するときの分布の総和に等しい。
I1
I
V
E1 のみ存在
V1
E1
J1
E1
その他の電源
は殺す
電圧源→短絡
E2
電流源→開放
J2
複数の電源を含む回路網
In
Vn
V = V1 + V2 + ‥ + Vn
I = I1 + I2 + ‥ + In
J1
J1 のみ存在
その他の電源
は殺す
重ね合わせの理の証明
n 個の電圧源 E1, E2, ‥, En が存在する線形回路網において、各閉路に電流 I1,
I2,‥, In が流れていたとすれば、
 E1   z11 z12  z1n   I1 
インピーダンス   
I 
E
z
z

z
2
21
22
2
n
 
 2 
(Z)行列
 (1)
  
     
  
 
 En   z n1 z n 2  znn   I n 
次に E1 のみが存在する場合の各閉路の電流を I11, I12,‥, I1n とすれば、
 E1   z11 z12  z1n   I11 
Z行列は、
I 
 0  z
z

z
21
22
2
n
  12 
 
線形回路
 ( 2)












なので普遍
 
  
z
z

z
0
   n1 n 2
nn   I1n 
次に E2 のみが存在する場合の各閉路の電流を I21, I22,‥, I2n とすれば、
 0   z11 z12  z1n   I 21 
I 
E   z
z

z
21
22
2
n
2
  22 
 
 (3)
  
     
 
  
z
z

z
0
   n1 n 2
nn   I 2 n 
重ね合わせの理の証明
さらに En のみが存在する場合の各閉路の電流を In1, In2,‥, Inn とすれば、
 0   z11 z12  z1n   I n1 
 0  z
I 
z

z
21
22
2
n
 
  n2 
 ( 4)
   



  

  
 
 En   z n1 z n 2  z nn   I nn 
(2), (3), ‥ ,(4)式の左辺同士、右辺同士を足し合わせると、
 E1   E1   0 
 0   z11
E   0  E 
 0  z
2
2
               21
  
 
     
  
E
0
0
 n    
 En   z n1
z12
z22

zn 2
 z1n   I11   I 21 
 I n1  

I 
 z2 n   I12   I 22 
n2 







  
        
    
 
 znn   I1n   I 2 n 
 I nn  
 (5)
(5)式と(1)式とを比較すると、
 I1   I11   I 21 
 I n1 
I  I   I 
I 
2
12
22
            n2 
 ( 6)
      
  
     
 
I
I
I
 n   1n   2 n 
 I nn 
即ち、もとの回路の電流は、各電源が単独に存在する場合の電流の総和となる。
重ね合わせの理
例題8.1
E1のみ
I
I1 
E1
7R
E2のみ
重ね合わせの理
I2  
I1
I2
E2
21R
I  I1  I 2  I 3
J のみ
I3  
4J
7
I3
重ね合わせの理
例題8.2
E1のみ
I
I1
I1 
E2のみ
Jのみ
I2
I2  
E1
R1
重ね合わせの理
I  I1  I 2  I 3
I3
E2
R1
I3  J
重ね合わせの理
演習問題(8.1)
I
E1のみ
I1
I1 
E1
4R
重ね合わせの理
E2のみ
I2
I2
I2 
E2
R
Jのみ
I3
I3  
J
4
双対性
電気回路においては、法則や記述などが多くの場合に二つずつ対をなして現れる。
例えば、電圧と電流、抵抗とコンダクタンス、並列と直列などがそれに当たり、この
ような対応関係にある概念は双対といわれる。
双対関係にある素子などの例
双対関係にある概念の例
電圧 V
電流 I
直列接続
並列接続
インピーダンス Z
アドミタンス Y
短絡
開放
抵抗 R
コンダンタンス G
閉路
カットセット
Y型接続
D型接続
キルヒホッフの
第2法則
キルヒホッフの
第1法則
インダクタンス L キャパシタンス C
リアクタンス X
サセプタンス B
電圧源 E
電流源 J
双対回路
ある電気回路に対して成立する関係式があるとき、その関係式に対して電圧と電
流とを入れ替えた式もまた成立し、この新たな関係式を満足するような電気回路が
あるとき、このような2つの回路を互に双対回路という。
双対回路の作り方
双対な回路を求めるには、まず双対グラフを求め、原グラフの枝と双対グラフの枝
とが合い交わる枝同士で、素子をそれと双対な素子に入れ換えればよい。
Z
q
1
E
q
J
p
原グラフ
双対なグラフ
電源など、極性のある素子の扱い
(a) 電圧源 → 電流源
原回路で点 p を囲んで時計回りに
電圧が上昇(降下)する電圧源なら、
新回路では点 p の方向(点 p から出
る方向)に電流を流す電流源になる
E
J
Y
2’
p
双対回路
2
原回路
1’
p
双対回路の作り方
(b) 電流源 → 電圧源
原回路で点 p を囲んで時計回りに
(反時計回りに)電流を流す電流源な
ら、新回路では点 p の方向に電圧
が上昇(降下)する電圧源になる
J
p
E
(c) ダイオード → ダイオード
原回路で点 p を囲んで時計回りに
順方向(逆方向)のダイオードなら、新
回路では p の向きに順方向(逆方向)
のダイオードとなる
p
以下の回路と双対な回路を求めよ
Z1
E1
Z3
Z2
E2
J
L
C
G
双対回路の作り方
4
J1
2
1
J2
原回路の電源 E1が
閉路3と同じ向きな
ので、節点3に向か
うように J1=E/K を入
れる
E2
E1
3
原回路の電源 J2が
閉路2と同じ向きな
ので、節点2に向か
うように E2=K J2 を
入れる
逆回路
逆回路とは
2つの二端子回路があり、そのインピーダンスを
Z1, Z2 とするとき、その積が周波数 w に関係なく
Z1 Z2 =K2 となるならば、二つの回路は K に関し
て互いに逆回路であるという。
Z1
逆回路
逆回路の作り方
D=1/C
K2
R1
R2
L1
Z2
2
K2 L  K
D
R2
K2
R3
D
R1
K2
Z2 
Z1
R3
K2
D1 
L1
ただし、D1=1/C1
逆回路
演習問題(8.2)
Kに関しての逆回路を求めよ
L1
R1
D1
R2
逆回路
K2
D1 
L1
K2
R1
K2
L1 
D1
K2
R2
上の二つの回路は双対回路となっているが、逆回路は Z1 Z2 =K2 の関係を満たし
ていればよいので構造的な双対性は必要なく、一般に種々の逆回路が存在する
逆回路
演習問題(8.2)の解答
Kに関しての逆回路は、
K2
L1 
D1
K2
D2 
L2
K2
D1 
L1
K2
D3 
L3
K2
L2 
D2
K2
L4 
D4
K2
R
K2
D2 
L2
K2
L2 
D2
K2
D3 
L3
K2
L3 
D3
K2
D4 
L4
定抵抗回路
インピーダンスが w に依存しない二端子回路
下の回路のインピーダンスはいずれも R となり、w には依存しない定抵抗回路
Z
Z
R
R
R
R2
Z
Z
R
R
Z
R2
Z
R2
Z
Z
R2
Z
R
R2
Z
R
定抵抗回路
演習問題(8.4)
R1
R2
L
C
インピーダンス
 w 2 LCR1R2  jw ( LR1  LR2 )  R1R2
Z (w ) 
 R0
 w 2 LCR2  jw ( L  CR1R2 )  R1
この式が、周波数 w の値に関係なく成立するためには、分母と分子の各項
の係数の比が R0 に等しくなければならない
つまり、
従って、
LCR1R2 L( R1  R2 ) R1R2


 R0
LCR2
L  CR1R2
R1
R1 R2  R0
L
 R02
C
定抵抗回路
演習問題(8.6)
I1+I2
I1
Z
R02
Z
V
R02
ZI1 
I 2  E  (1)
Z
R02
R0 ( I1  I 2 )  ZI1 
I2  0
I2
Z
R0
E
I2
R02
Z
I1- I2
Z
I1
I1+I2
E
I1 
R0  Z

 Z

R  Z
 0
R02
( R0  Z ) I1  ( R0  ) I 2  0
Z
(2)

  I1   E 


R02   I 2   0 
 ( R0  )
z 
R02
Z
2
2

E 
R
R
0
0
 I1 
1

(
R

)

0

 
I  
Z
Z
2
2
 0 
 2   Z ( R  R0 )  R0 ( R  Z )   ( R0  Z )
Z

0
0
Z
Z
I2 
Z
E
R0 R0  Z
I1  I 2 
E
R0
相反定理
Ip’
Ep
JpVp’
p
Iq
相反回路
Black
Box
Black Box
相反回路
q
Eq’
Ep Ip’= Eq’Iq の関係が成り立つ時
VqJq’
Jp Vp’= Jq’ Vq の関係が成り立つ時
相反定理の証明
線形回路網において、各閉路に電圧源E1, E2, ‥, Enが
あるとき、各閉路の電流をI1, I2, ‥, Inとすると、
I1
E1
E2
I2
In
線
形
回
路
網
En
E2’
I2’
In’
En’
Z12
Z 22

Z n2
 Z1n   I1 
 Z 2 n   I 2 
    
 
 Z nn   I n 
 (1)
回路が線形ならば、Z行列は電流値に依らず普遍。
また、回路網が相反回路なら、Zjk = Zkj が成り立つ。つ
まり、Z行列は対称行列となる。
I1’
E1’
 E1   Z11
 E  Z
 2    21
  
  
 En   Z n1
線
形
回
路
網
また、各閉路に電圧源E1’, E2’, ‥, En’があるとき、各閉
路の電流をI1’, I2’, ‥, In’とすると、
 E1'   Z11
 E '  Z
 2    21
    
  
 En'   Z n1
Z12
Z 22

Z n2
 Z1n   I1' 
 Z 2 n   I 2' 
    
 
 Z nn   I n' 
 ( 2)
相反定理の証明
(1)式から、転置行列の公式および Z 行列が対称行列であることを用いて、
t
 E1 
E 
 2 

 
 En 
t
 I1 
I 
 2

 
In 
t
 Z11
Z
 21
 

 Z n1
Z12
Z 22

Zn2
t
 Z1n   I1   Z11
 Z 2 n   I 2   Z 21

      
  
 Z nn   I n   Z n1
Z12
Z 22

Zn2
 I1' 
I ' 
上式の両辺に対して右から  2  を作用させると、
  
 
 I n' 
t
 E1   I1' 
E  I ' 
 2  2  
    
  
 En   I n' 
t
 I1   Z11
 I  Z
 2   21
   
 
 I n   Z n1
Z12
Z 22

Zn2
 Z1n   I1' 
 Z 2 n   I 2' 
    
 
 Z nn   I n' 
 Z1n 
 Z 2 n 
  

 Z nn 
相反定理の証明
(2)式の関係より、
t
 E1   I1' 
E  I ' 
 2  2  
    
  
 En   I n' 
t
 I1   E1' 
I  E ' 
 2  2 
    
  
 I n   En' 
つまり、
E1
従って、
E2
 I1' 
I ' 
 En   2   I1
 
 
 I n' 
I2
 E1' 
E ' 
 In   2 
  
 
 En' 
E1I1'  E2 I 2'   En I n'  E1'I1  E2'I 2   En'I n
この特別の場合として、p番目の端子対にのみ電圧源 Ep を接続し、それ以外の端
子対を短絡(Ep≠0 = 0)した時、q番目の端子に電流 Iq が流れたとする。次にq番目
の端子対にのみ電圧源 Eq’ を接続し、それ以外の端子対を短絡(E’q≠0 = 0)した時、
p番目の端子に電流 Ip’ が流れたとすると、EpIp’ = Eq’Iq となる。