住民のイメージ調査にもとづく 防災用語選定の試み ―とくに防災情報・行政措置の呼称について― 教育学部 総合科学専攻 4年 小山研究室 3031-6023 谷村 麻由子 <目的> ・適切な防災情報伝達のためには,まず防災についての 住民の意識や基礎知識の理解の仕方・程度を調べるこ とが重要である。 ・本研究はとくに東海地震・富士山噴火に関する情報伝達 が課題となっている静岡県の住民(主に静岡大学の学 生)に対して,情報呼称についての認知度や恐怖感、 切迫感などの意識を知る。また、現在防災の情報呼称 が多く理解しにくいものとなっているのでその現状を知 り、それに応じた防災用語の見直しや改善方法をさぐり 検討していくことを目的とする。 1.従来の防災用語選定と情報伝達 専門家 ユーザー(住民) 一方通行 専門家側での用語選定 学術的正確さ 一部の専門家の狭い経験・見聞 わかりにくい・誤解 過大評価・過小評価 ↓ 正しい理解を導くための 莫大な周知・伝導努力 2.これからの防災用語選定と情報伝達 ユーザー(住民) 専門家 双方向の情報伝 達 学術的正確さ 事前の系統的な意識調査による ユーザーイメージ・意見の把握 誤解があったとしても 最小限の周知努力で済む (平常時に周知を怠って いたとしても間に合う) <研究方法・対象> 方法: 情報呼称・行政措置用語の意識・知識をさぐるため記号選択のアン ケートを作成し実施する。集計はMicrosoftExcel2003を使用。 SPSSソフトによる多変量解析(クラスター分析)を行った。 対象: 静岡大学 学生 (2006年6月26日~7月20日実施) 教育学部総合科学課程1年生 47名 教養授業「地学の世界」主に2年生 人文学部、農学部、教育学部 94名 「自然災害と現代社会」 理学部、教育学部3~4年 30名 1年生(新入生セミナー)理学部・教育学部生 230名 1年生(新入生セミナー)理学部・農学部生 242名 1年生(新入生セミナー)人文学部生 157名 合計 795名 <実施するアンケート設問1> ・東海地震に関連する情報名称についての認知度 ・火山噴火に関連する情報名称についての認知度 ・災害時における避難に関する行政措置の認知度 (8種類+※架空の呼称4種類=計12種類) 1.次の言葉について,どの程度知っていますか? あて はまる語句を○で囲んでください. (用語名)(認知度の測定) 1意味がだいたいわかる 2聞いたことはあるが意味は知らない 3聞いたことがない <現行の情報や行政措置の呼称> 東海地震 観測情報 観測された現象が東海地震の前兆現象であると直ちに判断で きない場合や、前兆現象とは関係がないとわかった場合に発表 東海地震 注意情報 観測された現象が前兆現象である可能性が高まった場合発表 東海地震 予知情報 東海地震の発生のおそれがあると判断した場合に発表 火山観測情報 緊急火山情報又は臨時火山情報の補完その他火山活動の状 態の変化等を周知する必要があると認める場合に発表。 臨時火山情報 火山現象による災害について防災上の注意を喚起するため必 要があると認める場合に発表。 緊急火山情報 火山現象による災害から人の生命及び身体を保護するため必 要があると認める場合に発表。 避難勧告 居住者に立ち退きを勧め促すもの(避難を強制はしない) 避難指示 被害の危険が切迫したときに発せられるもの。勧告より拘束力 が強い。 <設問1 ※架空の呼称について> 1東海地震警戒情報 2火山噴火注意情報 3火山噴火警戒情報 4避難命令 これは、実際に行政や専門家の間では使われて いないが、認知度が高かったり、住民にイメージが 把握しやすいかなどをふまえ、より理解しやすい用 語の選定をするにあたり参考にしたい考えがあっ たので、アンケート調査に組み込んだ。 ・気象業務法の足かせ 「警報」「注意報」は地震・火山情報に使用できない (定義)第2条 4 この法律において「気象業務」とは、左に掲げる業務をいう。 2.気象、地象(地震及び火山現象を除く。)及び水象の予報及び警報 (予報及び警報) 第13条 気象庁は、政令の定めるところにより、気象、地象(地震及び火山 現象を除く。この章において以下同じ。)、津波、高潮、波浪及び洪水につい ての一般の利用に適合する予報及び警報をしなければならない。 <アンケート設問2・3について> 2.次の言葉を聞いた第一印象はどんなものですか? あなたのもつイメージにあてはまる語句を○で囲んでください. (用語イメージの測定)(用語名) (形容詞群1) 1恐い 2どちらかと言えば恐い 4どちらかと言えば恐くない 3どちらとも言えない 5恐くない 3.次の言葉を聞いたときどのくらい頻繁に発表されそうですか? あなたのもつイメージにあてはまる語句を○で囲んでください. (用語の発表頻度イメージ測定)(用語名) (形容詞群1) 1発表されやすい 2どちらかと言えば発表されやすい 3どちらかと言えば発表されにくい 4発表されにくい ・設問2は形容詞節(恐い、暗い、心配、重い、急ぐか)を設問。 <結果 設問1 用語の認知度について> 用語の認知度 ・架空の言葉について、3東 海地震警戒情報、6火山噴火 注意情報、9火山噴火警戒情 報は現行の情報呼称と同様 に認知度が高い。 ・避難に関する行政措置の呼 称が、90%超の認知度が得 られている。12避難指示につ いて聞いたことがあるとの回 答は60%にとどまった。 ・火山情報全般についてはそ の呼称を聞いたことのない学 生が50%を上回っている。 結果 設問2 <恐さ・東海地震情報について> ・意味がだいたいわかる 人の「東海地震観測情 報」の約25%が、「どちら かといえば恐くない」・「恐 くない」と答えた。 ・認知度に関わらず、 架空名称の『東海地震 警戒情報』は、約75% ~90%の人が「恐い」 「どちらかと言えば恐 い」と回答した。 設問2 結果 <暗さ> 聞いたことがある人 聞いたことはあるが意味がわからない人 +聞いたことがない人 8は、「わからない」と過半数回答。20%「どちらか といえば明るい」「明るい」と考えている人がいる。 12は認知度により、暗さの感じ方の違いに大きく差がでた。 設問2 結果 <心配さ> 聞いたことがある人 聞いたことはあるが意味がわからない人 +聞いたことがない人 3は意味がわかる人の90%超が「心配である」聞いたこと がない人も80%が「心配である」という回答が得られた。 8は「安心」「どちらかと言えば安心」が20%前後である。 設問2 結果 <重さ> 聞いたことがある人 聞いたことはあるが意味がわからない人 +聞いたことがない人 架空用語の3,6,9は、同等にあたる現行使用の名称 よりも言葉の印象を重いと感じている。 設問2 結果 <急ぐか> 聞いたことがある人 聞いたことはあるが意味がわからない人 +聞いたことがない人 全体的に他の形容詞節の質問に比べ「急がない」が 多く切迫感がうすい。特に8は「急がない」が30%前 後であり高い。10~12は、「急ぐ」が80%の割合で 回答が得られた。 結果 5つの形容詞節の平均値 <東海地震情報について> 設問3 結果 <情報の発表頻度について> 聞いたことがある人 聞いたことはあるが意味は知らない人 +聞いたことがない人 1、4、8、12について発表されやすいと60%回答。 7,9は30~40%発表されにくいという結果が得ら れた。 結果 クラスター分析によるデンドログラム イメージが類 似している <まとめ・考察①> ・現行使用されている情報の中で火山情報に関する認知度が低い。 ・全呼称について認知度が高いと恐怖感や切迫感があるという傾向が あるが、反対に認知度が低いとその傾向が弱くなっている。 ・架空の名称「避難命令」は「避難指示」よりも意味がわかると約10% 多い。→マスメディアから得た情報を解釈し認識しているのではない か。また、意味がわかるにも関わらず間違った認識をしていると考え られる。 ・架空名称に「警戒」が使われている情報呼称は恐い、暗いなど恐怖を 表すイメージが高く、これは「警戒」の言葉のストレートさからではな いか。 ・「観測」の言葉の入る用語の発表頻度は「発表されやすい、どちらか と言えば発表されたすい」が50%強を占めている。しかし、「観測」の 言葉の入る用語は認知度に関わらず、急がないという回答が60% を超えており 「観測」の言葉の印象からの切迫感はうすい。 <まとめ・考察②> ◎架空の言葉として入れた「東海地震警戒情報」は、それに相当する 危険度をもつ現行の呼称「東海地震予知情報」より重大性・緊急性 を表す形容詞節の全項目にわたり20%から30%上回り、リスクイ メージが住民に伝わりやすいことが判明した。 →「東海地震警戒情報」のほうが情報呼称として適しているのではな いか。気象業務法の見直しを検討するべきである。 ◎クラスター分析により、発表段階の違う。「東海地震予知情報」「東海 地震注意情報」のイメージが近似している。 →「予知」の言葉には、リスクイメージが伝わりにくいのではないか。 ・発表頻度イメージは、認知度の低い人にとって全体的に小さく感じる 傾向が見られた。つまり、用語の認知度と正しい理解を高めること が、用語が与える恐怖感・切迫感等と同様に、正しい発表頻度イ メージの伝達に欠かせないと言える。
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