立命館高校 三村 知洋 宮崎 航輔 村田 航大 ■ 研究概要 ■ 平面上の任意の図形を切り抜いた板上に塩を振りかけると塩山を描く稜線ができる。この稜線は平面幾何における様々な性質を表現できることが分かっている。例えば三角形の板上に描かれる塩山の稜線は角の二等分線になり、その交点は内心になる。このように角の2等分線や 線分の垂直2等分線などを塩山の稜線を用いて表現することで、平面幾何の様々な性質を解析することができる。更にこの手法を用いることで、生物の棲み分けや最適配置問題に応用することができると考えた。この研究ではこうした塩山による幾何学を用いて、生物モデルのボ ロノイ図に応用した。その結果ボロノイ図を塩山で再現できることがわかった。 キーワード : ■ 研究動機 稜線 塩山 ボロノイ図 ■ 数学科の先生から配られたプリントのなかに塩山を使ったいろいろな図形の解析というものに興味を持ち、自分達でもいろんなことができるのではないかと思い、この研究を始めた。だんだんと色々な図形を解析していくうちに、ボロノイ図へと発展させることができることを 発見し、研究を続けている。 1 塩山幾何学とは 「塩が教える幾何学」(黒田俊郎)によって提案されたものである。ある形の板を作ってその上に塩をかけると、どのような形の山ができるかというかというもので、私たちはこれを「塩山幾何学」と呼んでいる。 2 ボロノイ図とは 平面上に、いくつかの点が配置されている。このとき最も距離の近い点がどこになるかによって分割してできる図をボロノイ (Voronoi) 図という。例えば右図のように、3点から同距離で区域をわけることによりできる図形がボロノイ図である。 この図における、上の点と下の点の2点で同距離の点を集めることによりできる線がボロノイ図の線となる。また、3線が重なったところは3点からの同距離の点になる。 3 塩山幾何学を用いた初等幾何の解析 3-1 三角形 結果 • 辺と辺の同距離上に稜線があらわれる。 • 稜線は角の二等分線で、3線の交わった ところは内心点になっている。 3-2 四角形と五角形 結果 • 三角形と同じように角の二等分線でてきた。 • 四角形、五角形では角の二等分線以外にも稜線がでてきた。 四角形の考察 • それぞれの角からは二等分線があら われた。また直線ADとBCの等距離 に稜線が現れた. • 点Fは三角形ABEの内心点、点Gは 三角形ABEの傍心だということもわかった。 • また内心円の書ける四角形や五角形の場合には内心点と傍心 点が重なるため、1点しか表れないことがわかった。 五角形の考察 • 元の五角形がABCDEで、五角形も延長してできた三角形ABE の内心点と延長することによってできた2つの三角形の傍心 だということがわかった。 3-4 板に穴をあけたとき 四角形に穴をあけたとの結果 • 四角形に穴を1つあけると、 右図のような曲線がでてきた。 • 四角形の辺と穴との等距離 に線が出てくるため、さっき の凹の形と同じような原理で、 放物線がでてくることが わかった。 同じ大きさの穴を2つあけたときの結果 • 左図は穴と穴の関係についての 写真である。穴とヘリとの関係 は上の図と同じ。 • 穴を2つあけることにより穴と 穴の等距離に線ができるた めこの写真のように直線、つ まり2つの領域を等しくわけ ることができるというのがわ かった。これは線分の垂直2等分線にあたる。 大きな円の中心からずらした所に穴をあけたときの結果 • 今回は楕円形の稜線が表れた。 • またGRAPESというソフトを用いてこ の塩山について解析した、この結果 は穴と中心との距離を離せば平たい 円形になることが分かった。稜線と ソフトで出した楕円が一致すること が分かった。 3-3 凹のある四角形、五角形 結果 • 今までのように二等分線が出てきた。 • 図のようにある曲線が出てきた。 考察 なぜ、曲線が表れるのか考えた。右下の図のよう にへこんでいる点を点A、下の辺を直線 l と置き 点と直線の当距離の点を集めると左下の図のよう に曲線になることが分かる。 また、これを数式的に解析すると点a を (0, 0)、直線 l を y = - a とするとこの曲線は x2 a2 y 2a となり、放物線であることがわかる。先ほどの凹のある多角形の 場合は、角の二等分線と放物線が組み合わさった稜線であること がわかる。 ED=EA CE+BE =CE+EA+AB =CE+ED+AB =CD+AB =(大きな円の半径)+(小さな円の半径) =一定 4 3-5 様々な形に塩をかけた場合 二次曲線に塩をかけた場合 • 中心に直線の稜線が出てきた。 • これまでとは違い稜線は途中で切れていた。 考察 • 二次曲線の塩山の直線が消えたのは、ある点からの最短距離を出すと 解を持たないところが出てくる。これが直線の限界である。 d x ( x p) x (1 2 p) x p 2 2 2 2 4 2 2 1 2 p 1 x p 2 4 2 2 p <1/2 のときに最小値 d p >1/2 のときに dp p 1 4 つまり p =1/2 のときより小さいときに稜線が崩れる 楕円に塩をかけた場合の結果 • 円の時とは違い直線が現れた。 • 二次曲線の時と同じように直線は端まで 行かずに途中で切れていた。 考察 • 楕円の直線が消えたのも二次曲線の直線が 消えた理由と同じように、ある点を超える と解を持たなくなり、こうした現象がおき る。ここが直線の端であることが分かった。 • 曲線と円の半径の大きさが関係しているこ とが分かった。 塩山のボロノイ図への応用 ボロノイ図も等距離の位置で領域分けされたものなので、その性質を使うことによりボロノイ図を塩山でつくれるのではないかと考えた。例えば水にできた波紋のように塩が同心円で穴におちて広がっていくことによって、円と円の等距離に稜線があらわれるため、ボロノイ図 と一致するのではないかと考えた。 4-1 4-2 ボロノイ図作成のためのフローチャート 最初に塩山とボロノイ図を比べるためにボロノイ図のプログラム を作成した。使ったソフトは十進BASIC(白石和夫)。 塩山のボロノイ図とプログラムの塩山を比べる 4-4 係 実際に穴をランダムであけて実験した。結果は左側がプログラムで作ったボロノイ図で右側が塩山である。塩山の稜線だけをとってボロノイ図と重ねてみると ぴったりと合うことがわかった。 Start L(i)<MIN 座標系の設定 (x0,y0)-(x1,y1) 点の個数の設定 num 点の座標の決定 (AX,AY) 円の半径 r の設定 色 ct の設定 NO YES MIN=L(i) ct=i 重みつきボロノイ図と半径との関 加法的重み付きボロノイ図では、「距離+重 み」で計算されるため、重みの分を半径の長さ で表現することにより、「重さ=半径」と考える。 このようにして穴の半径を大きくすることによっ て、加法的重み付きボロノイ図が塩山で再現で きる。これは、半径を変えたときに出てきた曲線 と同じ原理である。 ループ 1 y は y0 から y1 まで 点に ct+2 の色をつける SET POINT STYLE=1 ループ 2 x は x0 から x1 まで ループ 3 ループ 2 ループ 3 i=0 から num まで ループ 1 L(i)=SQR((X-AX(i))^2 +(Y-AY(i))^2-r(i) i=0 ループ 4 i=0 から num まで NO YES プログラムによる予測 半径 r(i)、中心 (AX(i),AY(i)) の円を描画 MIN=L(i) ct=i 4-3 実際の実験結果 プログラムによる予測 実際の実験結果 4-5 ボロノイ図の稜線のシミュレー ション作成 加法的重みのついたボロノイ図 次に重みつきボロノイ図を塩山で再現しようと考えた。重みつきボロノイ図とは、ボロノイ図を拡張したもので、いままでは各母点は同じ重みだったが、これは 異なる重みがついたボロノイ図である。距離に重みを加えることで重みつきボロノイ図を作ることができる。点p(i)の重さをw(i)とすると ループ 4 End d(x, p(i)) = d(p(i)) - w(i) この値が一番小さい値の点で平面を分割する。 ■ 乗法的重みつきボロノイ図 ■ x2 y2 n (x a)2 y2 m ボロノイ図には2つのタイプがある。1つは加法的重みつき ボロノイ図で、もうひとつは乗法的重みつきボロノイ図であ る。今回の実験で出てきたのは加法的重みつきボロノイ図の 方で、これは重みを足したたり引いたりすることによって再 現している。残念ながら乗法的ボロノイ図の再現方法の良い アイディアが浮かばず、今後の大きなテーマとして残ったま まである。 このボロノイ図は自然界で の重力場や磁場の解析に応 用できると考えています。 5 ボロノイ図の応用例 5-1 応用例1 学区分けとボロノイ図 という等式ができる。この稜線は2点からの差 が一定である点の集合であるから双曲線であ るといえる。 プログラムによる予測 5-2 応用例2 数式で解析すると原点(0,0)を小さいほうの円 の中心とし大きいほうの円の座標は(a,0)とす る小さいほうの円の半径を n、大きい円の半径 m とすると円の円周から同じ距離の位置に点を とるため式は 実際の実験結果 5-3 細胞とボロノイ図 写真のように細胞の区分けの仕方はボロノイ図になって いる。これは自然界にできるボロノイ図の1つである。 「ある地域に4つの高等学校が図のようにあったと する。一人ひとりの生徒はこの4校のうち最も近い学 校に全員入学できるとすると校区はどのようになる でしょう。」この問題に対して、4つの学校を半径 の等しい円にすることで再現することができ、図の ような結果になる。 応用例3 プログラムによる予測 実際の実験結果 分子の結晶構造 格子点と他のあらゆる格子点を結ぶ線分を引き、各線分を垂直に 等分する直線を作る。その格子点を含み、それらの直線によって 囲まれてできる多角形のうち最小のものを選び出す。この方法で 分子の結晶構造を作ることができる。 私たちは、この方法で分子の結晶構造を塩山を用いて再現してみた。 結果 • 次のように点を配置したときボロノイ図を塩山で再現すると、真ん中の穴を取り囲む塩の稜線のようになることがわかる。 考察 • 1つ目、2つ目の図は物理の分野の面心立方格子と同じであることが分かった。 同様に3つ目の図は六方細密充填構造になることがわかる。このことからも分子の結晶構造を 再現することができるのがわかった。 ユキノシタの表皮細胞 (本校の顕微鏡で撮影) 6 • • • • • これまでの結論 塩山の稜線のでき方は最短距離が等しい値のところにできる。 半径の大きさが等しい場合は、ボロノイ領域は直線で分けられボロノイ図と一致する。 半径の大きさを変えてそれを重みに見立てると双曲線の稜線ができて、加法的重みつきボロノ イ図と一致する。 数式的に解析した図形と実験で実際に出てきた稜線はぴったりと一致した。 ボロノイ領域は生物や化学分野における、多くの現象を再現することができる。 7 今後の予定 • もっといろいろな形の図形でどうなるかを実験する。 • 加法的重み付きボロノイ図はできたので、乗法的重み付きボロノイ図も塩山で再現 できないかをしらべる。 • 任意の稜線を決め、それに合わせたように半径を自由に決定出来るようにする。 ■ 参考文献 ■ • 「塩が教える幾何学」 • 「折り紙で学ぶなわばりの幾何学」 • 「関数グラフソフト GRAPES 」 http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomodak/grapes/ • 「数学のいずみ」 • 物理学教室 数理生物学研究室 R-JIRO 黒田俊郎 加藤渾一 友田勝久 早苗雅史 中島久男
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