被疑者の身柄拘束 (逮捕・勾留)

2012年度冬学期「刑事訴訟法」4
逮捕・勾留(1)
ポイント
○逮捕の種類・要件・手続
・通常逮捕の要件(理由・必要)
・現行犯逮捕
・要件(明白性・緊急性)
・準現行犯逮捕の要件
○勾留の要件・手続
○逮捕前置主義
・法的根拠・趣旨
・例外の有無
・逮捕の違法と勾留の可否
○事件単位の原則
・趣旨ー異なった考え方との差異⇒効果
○一罪一勾留の原則
・趣旨
・集合犯,包括一罪,科刑上一罪への適用のあり方
○再逮捕・再勾留の可否
・許される場合の要件
・先行する逮捕・勾留が違法な場合
逮捕の種類と相互の異同(1)
要 件
逮捕者
令状の要
否 (請求権
者)
同 左
§199①
逮捕の手続
通常逮捕
§199
①②
§§201
~203
緊急逮捕
§210①
同 左
同 左
§211
現行犯逮
捕
§212①②
§217
§213
§213
§§214
~216
逮捕の種類と相互の異同(2)内容
要 件
令状の要否
(請求権者)
逮捕者
逮捕の手続
通常逮捕
相当な理由
必要性
要(検察官・司
法警察員*)
捜査機関
令状呈示
引致,被疑事
実の要旨・弁
護人選任権の
告知,弁解聴
取
緊急逮捕
一定以上の罪
充分な理由
緊急性
否(事後に要。
捜査機関)
捜査機関
理由の告知
令状請求
明白性
必要性
(準現行犯)
否
現行犯逮
捕
(引致後の他の
手続は同上)
誰でも
捜査機関への
引き渡し,逮捕
事由等の聴取
(引致後は同上)
通常逮捕の要件
○逮捕の理由
「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」
(刑訴法199条1項,2項)
○逮捕の必要
刑訴法199条2項但書
規則143条の3「被疑者が逃亡する虞がなく,かつ罪証を
隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認め
るとき」は逮捕状の請求を却下
逮捕の必要性
○取調べの必要は逮捕の必要性の根拠となり得るか?
・§199①但書
軽微事件の場合,正当な理由なき出頭拒否=逮捕可
⇒取調べの必要=逮捕の必要性ということを含意?
⇒但書=逃亡のおそれのある場合を限定?
・勾留の必要性(逃亡・罪障隠滅の防止)
と逮捕の必要性の異同
・弾劾的捜査観と糺問的捜査観
・§198①但書との関係
逮捕・勾留中の被疑者の取調べ受忍義務の有無
現行犯逮捕
○なぜ令状主義(憲法33条)の例外とされてい
るのか。
・明白性(犯罪であること,犯人であること)
誤認のおそれが小さい。
⇒裁判官による審査の必要性が小さい。
・緊急性(その場で直ちに身柄を拘束しなければ,
逃亡ないし罪証隠滅のおそれが一般的・類
型的に大きい。)
⇒裁判官による審査の暇がない。
実質的要件(特に明白性)
現行犯の明白性の認定
○時間的接着性
必要条件
明白性
○場所的近接性
十分条件
明白性の要件
○誰にとって明白であること必要か?
○明白性認定の根拠
・犯行の現認が必要か?
・被害者・犯行現認者の供述(犯人識別)のみで足り
るか?
・逮捕者の有する特別な知識・情報を考慮に入れて
よいか?
⇒他の者でも,逮捕当時の逮捕者の立場に身を置いたとす
れば,当該行為が犯罪であり,被逮捕者がその犯人であ
ることが明らかだと判断される場合なら,明白性肯定可
現行犯,準現行犯,緊急逮捕の関係(1)
時
間
の
経
過
「現に罪を行い」(現在進行形)
「現に罪を行い終わった」
(現在完了形)
現行犯
「罪を行い終つてから間がない」
(過去形)
準現行犯
・追呼,贓物等の所持,犯罪の顕著な証
跡,誰何逃走
「罪を犯したことを疑うに足りる充分
な理由がある場合」(過去形)
・急速を要し、裁判官の逮捕状を求めるこ
とができないとき
∧
∧
緊急逮捕
逮捕後留置の時間的制限
逮捕(司法警察職員)
48hrs
逮捕(検察官・検察事務官)
検察官送致
72hrs
48hrs
24hrs
勾留請求/公判請求
勾留請求/公判請求
職権勾留(§280②)
勾留の要件
1.手続的要件
○検察官の請求
○時間的制限の遵守
2.実体的要件
○勾留の理由
(§207①⇒§60①)
・相当な理由
住居不定
・
罪証隠滅のおそれ
逃亡のおそれ
○勾留の必要性(及び相当性)
(§207①⇒§87①)
逮捕前置主義
○法律上の根拠
§207①「前3条の規定による請求を受けた
裁判官は・・・権限を有する。」
○実質的理由
二重の司法審査→要件具備・存続の確認
esp.逮捕時の審査・・・迅速性,一方的手続
それを欠く場合も(現行犯逮捕)
逮捕手続の違法を理由とした勾留請求却下事例
①現行犯逮捕や緊急逮捕について逮捕の実質的要件が欠け
ていた場合
②緊急逮捕後直ちに逮捕状請求をしなかった場合
③逮捕状請求にあたって,「前に逮捕状の発付があったという
事実」の提示(刑訴法199条3項,刑訴規則142条1項8号)を
しなかった場合,
逮捕状請求資料の内容に重大な虚偽の疑いがあった場合
④逮捕状に裁判官の押印がなく,発付したと認められない場合,
被疑者の特定が不十分であった場合
⑤逮捕に先行する任意同行が実質上の逮捕に当たり,
(i)その時点では(緊急)逮捕の実質的要件を欠いていたと
認められる場合,
(ii)その要件は備わっていたものの,
その時点から計算すると勾留請求に関する法定の時間
的制限を超過している場合
⇒時間的制限内の場合は勾留可
事件単位説と人単位説(1)
被疑事実との関係
人単位
事件単位
逮捕・勾留A 逮捕・勾留B
a事実
b事実
c事実
逮捕・勾留B
a事実
b事実
c事実
事件単位説と人単位説(2)
身柄拘束期間
事件単位
逮捕拘留A
a事実
逮捕拘留B
b事実
人単位
逮捕拘留A
a事実を理由とする
b事実にも効果及ぶ
(b事実を理由
に延長可)
参考文献
①長沼範良ほか『演習刑事訴訟法』68頁以下〔大澤
裕〕
②同72頁以下〔佐藤隆之〕
③同80頁以下〔佐藤隆之〕
および,以上に引用の参考文献