金融市場論 Financial Markets 2013年度前期・商学科発展科目 ②貨幣の機能とその変遷 大学院商学研究科 齋藤一朗 貨幣とは何か(1) • 貨幣とは、誰もが、何時でも・何処でも 商品交換の対価として受け取ってくれる 一般的受容性を帯びた財のこと。 • では、なぜある特定の財が一般的受容性 という性質を持つのか? • それは、その財が貨幣であるからだ。 • いわば、貨幣は貨幣だから貨幣なのだ。 貨幣を根拠づけるものはただ貨幣だけで ある。 2 貨幣とは何か(2) • 社会を構成する人々の共通了解/相互信認 が、貨幣システムを支える基盤となる。 →貨幣システムの「連鎖ゲームのルール」 信用経済 貨幣システム 人々の共通了解/相互信認 3 貨幣とは何か(3) • 貨幣システムの「ネットワーク外部性」 →ネットワーク外部性とは、ネットワー ク型サービスにおいて、利用者数が増え れば増えるほど、1利用者の便益が増加す るという現象のこと。 2人よりは3人、3人よりも多数… 4 貨幣の機能(1) • 価値の尺度 • 貨幣は商品の交換価値を客観的に表す尺 度となる。これによって異なる商品の価 値を、同一の貨幣単位において比較ない し計算することができる(計算単位) 。 • 貨幣を価値の尺度として用いると、例え ば、本20冊と牛1頭といった異なる商品間 の価値比較が可能になり、貨幣を媒介と して、商品間の交換比率(価格)を容易 に知ることができる。 5 貨幣の機能(2) • 交換の媒介 • 商品交換において、貨幣を交換の手段と する社会では、価値の尺度でもある貨幣 を介することによって、取引をスムーズ に行うことができる。 • これに対し、貨幣を介さない物々交換の 経済においては、取引が成立する条件と して、相手が自分の欲しいモノを持って いることと同時に、自分が相手の欲しい モノを持っていることが必要となる(欲 求の二重の一致)。 6 貨幣の機能(2続) • n財が存在する物々交換の経済では、人々 はn(n-1)/2個の交換比率を知っていな ければすべての取引は完了しない。 • しかし、貨幣が存在していれば、n-1個の 交換比率を知るだけでよい 。 例えば… コンビニエンス・ストア(平均アイテム数2,800)で買い物をする場合、 物々交換ならば3,918,600個の交換比率を知っていなければならな いが、貨幣を交換手段とする場合には2,800個の価格を知ってい ればよい。 7 貨幣の機能(3) • 価値の保蔵 • 商品を貨幣に交換することで、商品の価 値を保蔵することができる。 • 例えば、商品としての大根1本は腐敗すれ ば、その価値が消滅するが、貨幣に換え ておけば、将来、大根1本を入手すること ができる(=大根1本の価値の保蔵)。 →「販売と購買の時間的分離」 8 貨幣保有の動機 • 取引動機 o 所得の受取と支出の時間的ズレをつなぐため の貨幣保有動機 • 予備的動機 o 不意の支出を要するような偶発的な事象に備 えるための貨幣保有動機 • 投機的動機 o 貨幣以外の金融資産価格が下落するという予 想(思惑)に基づいた貨幣保有動機 9 Hicksの三角形図 価値の尺度 投機的動機 貨幣の機能と保有動機を あわせてみると… 取引動機 価値の保蔵 交換の媒介 予備的動機 10 貨幣形態の変遷 • 物品貨幣 o 自然貨幣:貝殻、石など o 商品貨幣:瑠璃玉、紫水晶、穀物、布帛など • 金属貨幣 o 秤量貨幣:砂金、灰吹銀(丁銀)など o 鋳造貨幣:青銅銭、銅銭、銀貨、金貨など • 紙幣 o 兌換紙幣:本位貨幣と交換ができる紙幣 1931年12月 金兌換券停止(日本) o 不換紙幣:本位貨幣と交換できない紙幣 11 一圓金貨 日本銀行兌換銀券(壱圓札) 一圓銀貨 日本銀行兌換銀券(乙弐百圓札) 12 貨幣の素材適性 • 同質性/均一性(純度) o 価値の尺度 • 分割可能性 o 価値の尺度、交換の媒介 • 携帯性 o 交換の媒介 不換紙幣 • 耐久性 o 価値の保蔵 物品貨幣、金属貨幣、(兌換紙幣) 13 現代の通貨制度(1) • 現代において「貨幣」とは、一般に、中 央銀行(わが国の場合、日本銀行)など が発行する現金通貨のことを指す。 • 「通貨」は、現金通貨に加えて、銀行な どに預けられている要求払い預金(例え ば、普通預金・当座預金)のような流動 性の高い預金通貨や、流動性は相対的に 低いが払い戻しにさほど制約のない定期 性預金などの準通貨を含んだ概念である。 14 現代の通貨制度(2) マネーストック統計の各指標 M1=現金通貨+全預金取扱機関に預けられた預金通貨 現金通貨:日本銀行券発行高+貨幣流通高 預金通貨:要求払預金(当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備)-調査対象金融機関保有 小切手・手形 対象金融機関(全預金取扱機関):M2対象金融機関、ゆうちょ銀行、その他金融機関(全国信 用協同組合連合会、信用組合、労働金庫連合会、労働金庫、信用農業協同組合連合会、農業 協同組合、信用漁業協同組合連合会、漁業協同組合) M2=現金通貨+国内銀行等に預けられた預金 対象金融機関:日本銀行、国内銀行<除くゆうちょ銀行>、外国銀行在日支店、信金中央金庫、 信用金庫、農林中央金庫、商工組合中央金庫 M3=現金通貨+全預金取扱機関に預けられた預金 内訳として、M1の他に、準通貨とCD(譲渡性預金)を作成。 準通貨:定期預金+据置貯金+定期積金+外貨預金 対象金融機関:M1と同じ 広義流動性=M3+金銭の信託+投資信託+金融債+銀行発行普通社債+金融機関発行 CP+国債+外債 15 貨幣の進化(1) 現代の通貨システムのイメージ 経済活動 預金通貨 法定通貨と しての強制 通用力 現金通貨 発券銀行に 対する信認 人々の共通了解/相互信認 いつの時代も経済活動の土台にあるのは、人々の信認 16 貨幣の進化(2) • 預金通貨を活用したキャッシュレス処理 o 振込、自動振替、デビッドカードなど • 電子マネーの登場 o 電子マネーとは、電子技術を使って金銭の授 受を実現するシステムのことで、当該システ ムを運営する企業が発行する私製貨幣(代用 貨幣)の一種である。 o 電子マネーにはいくつかの方法があるが、金 融機関と小売店をオンラインで接続する方法 から、金銭価値を電子化して磁気カードやIC カードなどに収納してオフラインで利用する 方法と、Web上の取引だけで利用する方法が ある。 17 貨幣の進化(3) • わが国における電子マネーの代表例 o プリペイド型 • おサイフケータイ対応 o Edy(ビットワレット株式会社) o Suica(東日本旅客鉄道株式会社) o nanaco(株式会社セブン&アイ・ホールディングス) o WAON(イオンリテール株式会社) など • カード型のみ o Kitaca(北海道旅客鉄道株式会社) など o ポストペイ型 • おサイフケータイ対応 o iD(株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ) o QUICPay(株式会社ジェーシービー) など • カード型のみ o PiTaPa(スルッとKANSAI協議会) など o 仮想マネー型 • BitCash(ビットキャッシュ株式会社) • WebMoney(株式会社ウェブマネー) など 18 貨幣の変遷は、貨幣の機能を勘案しながら、 素材適性を追求してきた歴史としてみるこ とができる。 素材適性を究極にまで突き詰めた今日、貨 幣は私たちの生活に不可欠なものである一 方で、その物理的な存在は、私たちの眼に みえないものになりつつある…。
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