David Harveyによる新自由主義 Milton Friedman によるマネタリズム 商学部4年 土佐祐太朗 発表目的・概要 小泉政権期における新自由主義政策を卒論で述べるにあたって、 知識の習得を目的とする。 本発表では日本・世界における新古典派経済学、新自由主義の浸 透の事実と客観的評価をもとに日本経済に及ぼす影響を取り上げ る。 日本経済におけるイデオロギー的な矛盾点 アベノミクスの分析 第一の矢・・・大胆な金融緩和(ケインズ的) 第二の矢・・・機動的な財政政策(ケインズ的) 第三の矢・・・民間投資を喚起する成長戦略(新自由主義的) マクロ政策においてはケインズ的な政策であるが ミクロ政策においては新自由主義的要素を含んでいる。 • • • • 市場の自由化・・・(TPP) 規制緩和・・・(電力自由化、運送業、医薬品ネット販売) 構造改革・・・(小泉政権下で行われた改革、供給能力増を図るもの) グローバル化・・・(資本移動の自由化) ケインズの経済政策理論 IS-LM曲線 r IS IS´ LM IS LM LM´ r0 r1 r1 r0 o r Y0 Yf Y o Y0 Yf Y マネタリーベースの推移 3.5 リーマンショック後に増加 3 日本は変化に乏しい… 2.5 2 米 EU 1.5 日本 1 0.5 0 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 出典:「アベノミクスとは何か?」宝島社2013 を参考に作成 アベノミクスにおける金融政策 ・金融市場の操作目標を「無担保コールレート」 (オーバーナイト物)からマネタリーベースへ転換 • 長期国債買い入れ促進 • ETF J-REITの購入拡大 • 2%の物価安定目標を導入 M1:現金通貨+預金通貨 M2:現金通貨+国内銀行預金 M3:M1+準通貨+譲渡性預金 広義流動性:M3+投資信託・債権 フリードマン・マネタリズムの概論 • ケインズ派理論(ニューエコノミックス)の信用の失墜。 (低金利政策の失敗=インフレの発生) • 米のインフレ期(1966~1970)において景気の動向を左右す るのは常に金融政策であった。 • マネタリズムの中心的な考え方は、通貨の数量が長期的に も短期的にも重要である。金利や通貨市場の信用は考慮さ れない。 • 第二次世界大戦後の不況を解決する手段は財政政策であ るという考え方から、実証経済学的根拠から通貨の重要性 を世界が認識するに至った。 フリードマンによるマネタリズム10命題 • ①Ms伸び率と名目国民所得には関係がある。 • ②通貨供給量が国民所得に影響を与えるのは長期的効果。 • ③Ms残高伸び率の変動は平均的に約6~9か月後に名目 国民所得に影響を与える。 • ④Ms残高変動による名目国民所得成長率の変動は物価に は影響しない。(当初) • ⑤Ms残高伸び率と物価上昇率の変動の間には15か月~24 か月のタイムラグが存在する。 フリードマンによるマネタリズム10命題 • ⑥Ms残高の変化が国民所得の変化に与える影響はタイム ラグが存在する。 • ⑦Ms残高の変動・・・短期→実質国民総生産に影響 長期→物価に影響 • ⑧「インフレは常に、どんな場合でも貨幣現象である。」 国民総生産の実質成長率よりも、貨幣供給量の伸び率の方が影響する。 • ⑨財政政策自体はインフレ問題にとって重要ではない。 問題は財政赤字がどう賄われたかである。 • ⑩Ms残高と金利との間には初めと後では正反対に働く。 通貨供給量増加率が大きいほど金利を下落させる傾向がある。 インフレと経済成長の関係の否定 • インフレが経済成長を促進した事例 ①16世紀~17世紀の欧州・・・ スペインの略奪経済に関する考察 ②増税 インフレが経済成長を促進させる場合はインフレが人々によっ て予期されていない間しか働かない。現代では人々がいち早く 情報を入手するので予期されていないインフレを経済政策で実 行するのは不可能。インフレは政府の歳入を図る目的でも誘導 される。 合理的期待仮説に従うケース 長期インフレ 供給曲線 短期インフレ 供給曲線 D’ π π1 π0 π※ 適応的期待仮説 短期 𝜋 𝑒 =𝜋−1 D 合理的期待仮説 長期 𝜋 𝑒 =π o Yf Y0 Y フィリップス曲線 失業率 デフレで高失業率 2%の物価上昇率なら 失業率3~3.5% 3~3.5% 物価上昇率 デフレ 2% インフレ 出典:「スティグリッツマクロ経済学」を参考に作成 フィリップス曲線における 自然失業率仮説 Δ𝑊 𝑊 Δ𝑃 𝑃 u O O π B C A O u u 根拠 • ①と②が人々にインフレと経済成長のつながりがあると誤解 させた。 • 所得の全体に対して現金残高が占める大きさは相対的には 小さいものであり、インフレをもっての増税効果は小さいもの である。 • インフレが予期されていない間は、政府がマネーサプライ残 高増大政策から利益を受けることができるが、人々がインフ レが継続すると期待すると保有実質現金残高を減少させる ので政府の収益が減少していく。 根拠② • 政府の歳入増大が経済成長を促進するという保証はない。 • 政府が投資するインフラなどは生産を促進するものではな い。 • インフレによる政府の金融引き締めは民間設備投資を減少 させ、資本の国外逃亡などをもたらし経済的に非効率な側面 がある。 解決策 • 経済の健全化を図る場合は、リスクプレミアムを除外した名 目金利がほとんどゼロに等しくなる率において物価が下降す るマネーサプライ残高伸び率が最も適正である。 • 政府の収入を拡大するには上記の伸び率よりも高い伸び率 において通貨供給量を増大させればいい。 • 民主主義国家における政府の施策というものは短期的な視 点に立ったものであり、民間企業のように長期的な視野によ るべきである=(ルール)。 k%ルール • マネタリストは、金融政策にタイムラグを指摘し、また、政策 当局に対する目的外圧力が存在するとし、有効性を否定し た。 • 金融政策は長期的な諸目的に適合するように行うべきであ り、短期的には安定的なマネーサプライの伸び率を維持する べきである。 • 不安定な新興国などは短期的な金融政策に頼ることなく、持 続的な政策によるべきである。=一定の量(k%)による通貨 供給。 • アベノミクスによる毎年2~3%のインフレ誘導はフリードマン の見解と一致。ただし、財政政策も平行している点では異な る。 ルールの補足 • 中央銀行が安定かつ穏やかな伸び率においてのみマネー サプライ残高を増大できないようにすることで急激なインフレ による経済的損失を防ごうとする。 • フリードマンは「解放されたインフレ」と「抑圧されたインフレ」 を区別し「抑圧されたインフレ」においての経済的な損失を指 摘している。 • インフレを防ぐ手段としての固定為替相場の導入は成功例 がない。また、金利を人為的に抑圧する手段も同様である。 新自由主義国家の理論 • 個人の自由を保障、強化する社会的諸制度の重視。(私的所有 権、法の支配、自由貿易、市場など) • 法的人格同士の自由交渉、契約義務などの権利は制度的枠内で は保護されなければならない。(=善) • 「上げ潮は船をみな持ち上げる」・・・トリクルダウン • 明確な私的所有権は存在しない・・・コモンズの悲劇を防ぐ。 • グローバル市場を勝ち抜くために国内再編、新たな社会的制度を 追求する。 • 市場での個人の自由は保障されるが、個人の行為と福利には個々 で責任をとる。 • 社会システム上の問題<企業的美徳の欠如、個人的失敗 • 資本移動の自由化が必要。国際競争は、効率や生産性を改善し、 価格を低下させ、結果としてインフレを抑制する。 • 政治的安定を保証する強力な中産階級と結びつき、エリート統治が 好ましいとする。 世界における新自由主義国家形成について ①イラク戦争の本質・・・「自由とは?」 新自由主義政策への誘導・・・ 2003年9月19日 連合国暫定当局(CPA) ・公共企業の民営化 ・イラク産業のすべてを外国企業が所有 ・外国企業の本国への利潤送金の保護 ・イラク銀行の外国の管理 ・内国民待遇の外国企業の解放 ・貿易障壁の撤廃 占領軍(アメリカ)による一方的な主権侵害である。 ※イラクの基幹産業は石油である 世界における新自由主義国家形成について ②1973年のチリ・・・暴力的な「自由」革命 アジェンダ政権に対するクーデター(対社会主義路線) 輸入代替政策の失敗により、新たな戦略的アプローチの必要性。シカゴ学 派であるビジネスエリート集団「月曜会」による新自由主義政策はケインズ 派の引退後に活躍した。 ・公的資産の民営化 ・天然資源の民営化 ・社会保障の民営化 ・自由貿易の促進 ・外国企業の利潤送金の保護 ・輸出指導型の成長戦略 ・・・1980年代の米英の新自由主義政策の前例へ 日本における新自由主義の形成 WWⅡ後の福祉国家体制の階級妥協を日本は行わず、新自由主義の原動力であ る資本蓄積の限界が行われなかった。90年代のグローバル市場の競争で優位性 (開発主義国家体制)を失ったことが新自由主義形成のきっかけであった。 企業支配+労働組合運動、下請け制、自民党による企業優遇政策 (英)サッチャー 中曽根政権 (米)レーガン 「戦後政治の総決算」 細川政権 自民党の一党政権が、国民統合を行い、企業支配の下、労働者の政治的 要求は企業と一体し、労働者階級を制度化する必要がなかった。それによ り、労働者階級の攻撃、階級権力の再確立という契機を含まなかった。 David Harveyによる新自由主義の論点 ①新自由主義は現代資本主義の一時代である。 • 途上国、旧社会主義国における新自由主義採用は「ワシント ン・コンセンサス」ではない。 • 先進国と途上国では新自由主義の採用の原因が異なる。 ②新自由主義のコロラリー • 新自由主義化は階級権力の復興、創設(支配階級の復活) である。 David Harveyによる新自由主義の論点 ③新自由主義の国民(大衆)への同意形成 ④新自由主義を市場原理主義と「実践」という両側面から捉える • 「市場か国家か」 • グローバル企業の競争力の回復のため、既存の政治システ ムの全面的改変、国家権力の介入を認める • 「実践」と「理論」では実践が優先され、一貫したイデオロギー が存在しない ⑤新自由主義国家の成立 • 1970~「理論と実践」 • 金融システム保全のための介入主義、エリート主義 David Harveyによる新自由主義の論点 ⑥新自由主義の「地理的不均衡発展」 • 新自由主義の世界的発展をIMF体制などの主導ではなく、各 国の固有の要因と思惑によって成立した(重層的並立的) ⑧ • 新自由主義は標榜とする資本主義経済発展をもたらさな かった。 • 新自由主義が資本蓄積の寄与度はわずかである。 • 「新自由主義化の主たる実績は、富と収入を生んだことでは なく再分配したことであった」 小泉政権における新自由主義政策 • 「新自由主義の実践はしばしば理論をいとも簡単に歪曲す る」・・・金融機関救済、橋本内閣との違い • 公共部門の民営化・・・巨大な市場を開発 • 地場産業、低効率産業の淘汰 • 多国籍産業本位の産業構造の再編成 • 「実践」のための中央集権化「官邸主導」 大企業(輸出)中心の景気回復→既存社会の不安定化 「格差社会」、「ワーキングプア」などの問題 →新自由主義の矛盾に対する新保守主義の台頭へ 新保守主義の台頭 • 新自由主義によって破壊された個人的な利益(秩序)を回復 し、国家の安全保障を保つために必要な社会的連帯(道徳) 被害妄想的政治システム(アメリカ) を重視する。 ・イスラム過激派 ・中国の脅威 • 秩序の回復にはある程度の強制が必要。(軍事力) • 新保守主義者は、一定の体系的な道徳的価値観を中心に 社会的な同意を得ることにより、支配階級の権力を正当化す る。 アメリカ的道徳価値観 文化ナショナリズム 福音主義 家族の価値 胎児の生命権 VS フェミニズム 同性愛者の権利 積極的差別是正措置 環境主義 反EU政党の台頭(EU議会選挙) http://thepage.jp/detail/20140603-00000020-wordleaf ナショナリズムへの回帰への警鐘 • 新保守主義が過熱するとナショナルな道徳的目標 を取り込み、独自の価値観を強硬な手段で主張す る。 ロシアのプーチン 中国共産党 権威主義的な権力 新保守主義的な権力 • 破滅的な結果を避けるためには、新自由主義の諸 矛盾に対する新保守主義的回答を拒否しなければ ならない。(David Harvey) 新自由主義が疑義される政策 新自由主義を支柱とする「トリクルダウン仮説」 • 法人税減税、富裕層減税、所得収支の黒字化など による利潤や外国からの所得の純受取がデフレの 日本国内に投資されるとは限られない。(企業は内 部留保・対外直接投資を行う) • 設備投資減税はGNIではなくGDPを直接拡大させる 政策であり、法人税減税より有効である。(設備投 資はGDP上の民間企業設備) 減少し続ける公共事業費 公共事業費の推移(補正含む) 単位:兆円 16 14 年々減少傾向 12 10 8 6 4 2 0 出典:日本の財政関係資料H23.9財務省を参考に作成 公共事業(対GDP比)の推移 日本 5.7 6.3 6.1 6.4 6 米 5.6 5.8 5.7 4.8 4.8 5 (%) 5.1 4.9 4.7 4.3 3.7 3.6 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 3.5 3.3 3.2 3 2.8 2.7 2.6 2.6 2.5 2.4 2.4 2.4 2.62.6 2.3 2.4 2.5 2.3 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4 2.5 2.5 出典:日本の財政関係資料H23.9財務省を参考に作成 参考文献 • 新自由主義 その歴史的展開と現在 David Harvey 2007 作品社 • フリードマンの思想 西山千明 1979 東京新聞出版局
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