在庫方策最適化 東京海洋大学 久保 幹雄 1 在庫とは? サプライ・チェインの血液 在庫はサプライ・チェインいたるところに存在 調達地点 ->部品在庫,原料在庫 工場内->仕掛品在庫 倉庫->流通在庫 小売店,自動販売機 ->完成品在庫 押し出し型 引っ張り型 調達 2 在庫の分類と在庫方策最適化 輸送中在庫(ストラテジック) 作り置き在庫(タクティカル) ロットサイズ在庫(タクティカル) サイクル在庫(オペレーショナル) 安全在庫 安全在庫配置(タクティカル) 在庫方策 (オペレーショナル) 3 在庫方策最適化 オペレーショナルレベルの意思決定 日々の運用のための方策のパラメータの 最適化 品切れ費用 安全在庫費用 古典:新聞売り子モデル サイクル在庫費用 発注(生産)固定費用 古典:経済発注量モデル 4 新聞売り子問題の例 コピー用紙の在庫 某研究室ではコピー用紙を適切に管理す ることが義務づけられている.コピー用紙 の消費量は 1日あたり平均 100,標準偏 差 100 の切断正規分布と推定されており, 発注は翌日配送の文房具屋に頼むので 1日のリード時間がかかるものとする.品 切れ費用が 100円,在庫費用が 1円とす るとき,在庫が何枚を切ったとき発注すれ ば良いだろうか? 5 リード時間 小売店が商品を注文したとき,商品が卸売 業者(もしくはメーカー)から到着するまで にかかる時間 リード時間内の(ランダムな)需要をまかな うための在庫->安全在庫 6 平均100,標準偏差100の 切断正規分布の密度関数 確率密度 0.0045 0.004 NORMDIST(x,平均,標準偏差,FALSE) 0.0035 0.003 0.0025 0.002 0.0015 0.001 0.0005 0 0 100 200 300 400 500 600 700 7 需要量 サービスレベルと臨界率 サービスレベル:品切れを起こさない確率 品切れ費用,在庫費用から計算されるパ ラメータ「臨界率」と一致させるのが最適 臨界率 品切れ費用 100 0.99 品切れ費用 在庫費用 100 1 8 サービスレベルと密度関数 確率密度 品切れを起こさない確率=0.99 0.0045 0.004 需要がこの線より左側になる 確率(=面積)が0.99にする! 0.0035 0.003 0.0025 0.002 0.0015 0.001 0.0005 0 0 100 200 333 300 400 500 600 700 9 需要量 576 553 530 507 484 461 438 415 392 369 346 323 300 277 254 231 208 185 162 139 116 93 70 47 24 10 622 599 0.99 1 分布関数の逆関数 Excel の関数 NORMINV(0.99,100,100) を用いる. 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 333 0 サービスレベルと安全在庫係数 安全在庫係数 2.5 NORMINV(サービスレベル,0,1) 2 1.5 1 0.5 0 60 65 70 75 80 85 90 95 100 11 サービスレベル 基在庫レベル 基在庫レベル:在庫ポジションがこれを切ったら 発注する. 在庫ポジション 手持ち在庫 輸送中在庫 バックオーダー 輸送中在庫:発注してまだ到着していない在庫 バックオーダー:お客に待ってもらっている量 基在庫レベル 需要の平均リード時間 安全在 庫係数 標準偏差 リード時間 333=100×1+2.33×100×SQRT(1) 12 経済発注量モデルの例 研究室のビール在庫 某研究室ではビールを冷蔵庫で適切に管 理することが義務づけられている.ビールは 新鮮さが第一だの先生のモットーにより,1 日あたりのビールの劣化は,1本あたり 10 円で,発注は近所のコンビニに出前を頼む ので1回あたり300円かかる.また,研究室 には大酒のみが多いため1日に10本のペー スで消費されるものとする.最適な(研究室 費を無駄にしない)発注方策を考えよ. 13 経済発注量モデル 発注量 需要 在庫 サイクル時間 時間 14 最適経済発注量の公式 発注固定費用=300円/回 需要の平均=10本/日 在庫費用=10円/本・日 2 固定費用 需要量 最適発注量 在庫費用 2 30010 最適発注量 24.5 10 15 経済発注量(Economic Ordering Quantity :EOQ)モデル d (個/日): 1日あたりの品目の需要量 Q (個): 発注量(変数) [生産現場ではロットサイズ] K (円): 発注1回あたりの固定費用 [生産現場では段取り費用 h ( 円/(日・個) ): 品目1個あたり・1日あたりの在庫保 管費用 目的: 無限期間における最適な(発注費用+在庫保管費用を 最小にする)発注方策(いつ,どれだけ発注するのか)を 決める. 条件: 品切れは許さない. 注文した品目はすぐに(リード時間0で)到着する. 初期在庫は 0 とする. 在庫レベル d:傾き=-需要のスピード Q h×面積 サイクル時間 (T 日) = [ ] T 日間の総費用 = 発注費用 +在庫保管費用 = f(Q)= 1日あたりの費用 = 時間 EOQモデル 最小化 f(Q) ∂f(Q)/∂Q = ∂2f(Q)/∂Q2 = f(Q) は [ ] 関数. Q* = f(Q* )= 練習問題 (易) Find the optimal ordering quantities when d =10 items/day K =300 yen h=10 yen/day・item. Check the dimension of the EOQ formula. Q[個] 練習問題 (中) Consider EOQ model in a factory. When the inventory is zero, production of Q items starts at a rate of p (items/day) (p ≧d). The set-up cost is K (yen) and every time production starts at a level p, we incur a cost of α×p (α>0). What is the optimal production rate? バックオーダーを考慮した場合 上で説明した研究室のビール在庫の問 題と同じ場面を考えよう.ただし今回は, ビールが切れたときには隣の研究室から 1本あたり 40円の借り賃を支払い借りてく ることができるものとする.なお,借りてき たビールは後日同じものを買ってきて返却 するものとする.このとき,最適な発注量 は何本になるだろうか? 21 バックオーダーを考慮 臨界率 品切れ費用 40 0.8 品切れ費用 在庫費用 40 10 在庫 1-臨界率=0.2 臨界率=0.8 時間 バックオーダー 22 バックオーダーを考慮した場合 の最適発注量 発注固定費用=300円/回 需要の平均=10本/日 在庫費用=10円/本・日 品切れ費用= 40円/本・日 臨界率=0.8 練習問題(難) この公式を導け. 2 固定費用 需要量 最適発注量 在庫費用 臨界率 2 30010 最適発注量 27 10 0.8 23 鞭効果,牛追い鞭効果 サプライ・チェイン・マネジメントを理解するため の鍵となる概念 使い捨てオムツの代表的メーカーとして知られる P & G 社は, 顧客需要のばらつきだけでは説明 しきれないほど小売店からの注文がばらついて いることに気づいていた. Hewlett-Packard 社では,顧客需要のばらつき を大きく上回る注文のばらつきを経験していた. さらに,その部品の注文のばらつきは,コン ピュータ本体の注文のばらつきを大きく上回って いた 24 発注方策の分類 連続補充方策 常に在庫ポジションをモニタリングする方法 基在庫方策 (Q,R)方策 (s,S)方策 定期発注方策 在庫ポジションを定期的に調べる方法 25 基在庫方策 基在庫レベル=在庫ポジションの目標値 在庫ポジション =実在庫量+輸送中在庫量-バックオーダー量 基在庫方策:在庫ポジションをモニタリングして, 基在庫レベルを切ったら,基在庫レベルになるよ うに発注(もしくは生産)を行う方法 26 基在庫方策 基在庫レベル =在庫ポジション リード時間 時間 27 (Q,R)方策,(s,S)方策 発注(生産)固定費用を考慮した方策 (Q,R)方策:在庫ポジションをモニタリングして, 発注点 R になったら一定量(最適発注量) Q だ け発注 (s,S)方策:在庫ポジションをモニタリングして,s になったら在庫ポジションが S になるように発注 ->一度に大量の需要が発生する場合に有利 ->sを発注点 R に,SをR+Qに設定 28 (Q,R)方策と(s,S)方策 R+Q (s,S) (Q,R) 在庫ポジション 実在庫 R リード時間 時間29 定期発注方策 在庫ポジションを定期的にチェックし,在庫 ポジションが基在庫レベルを切っていたら, 基在庫レベルになるように発注(生産) 発注 月 火 水 木 需要発生 月曜に発注した量が到着(リード時間=1日) 30 多段階モデル 情報分散型管理 各在庫地点ごとに独自に在庫方策を適用 情報中央集権管理 サプライ・チェイン全体で在庫最適化 ->エシェロン在庫 調達 31 エシェロン在庫の概念 エシェロン(梯形)在庫:自分の在庫ポジションの 他に,自分より下流(顧客需要側)のすべての在 庫地点の在庫ポジションを加えたもの 32 エシェロン在庫費用 エシェロン在庫費用= 自分の在庫費用-上流の地点の在庫費用 エシェロン在庫 実在庫 33 直列多段階( 2段階)モデル 3 メーカー 2 卸 h’3 =0 h’2 1 小売店 h’1 第2段階(卸) 2 需要 d 第1段階(小売店) 2 T=2 ノコギリ型にならない! T=1 34 第2段階のエシェロン在庫 エシェロン在庫 2 第2段階(エシェロン在庫) 1 h’2 需要 d h’1 各在庫点からみて下流(需要側) の在庫をすべて含めた在庫 第1段階 2 2 T=2 T=1 35 エシェロン在庫費用 3 メーカー 2 卸 h’3 =0 h’2 第2段階(卸)の のエシェロン在庫費用 h2 = h’2-h’3 = h’2 1 小売店 需要 d h’1 第1段階(小売店) のエシェロン在庫費用 h1 = h’1-h’2 • 下流(需要側)に行くにしたがって在庫費用は増加 (品目に付加価値がつくから) • 外部(メーカー)の在庫費用は0 とする. • エシェロン在庫費用= 各在庫点とそこに供給する上流の在庫点との在庫費用の差 36 通常の在庫費用と エシェロン在庫費用の関係 エシェロン在庫費用(4日分) 第2段階(卸)=2×4× h2 =[ ] 第1段階(小売店)=4 h1 =[ ] 通常の計算法(4日分) 第2段階(卸)=4 h’2 第1段階(小売店)=4 h’1 2 1 T=2 T=1 37 入れ子方策(nested policy) 入れ子方策:ある在庫点が発注を行うなら,かな らずその下流の在庫点も発注を行う. 直列多段階モデルにおいては,入れ子方策の中 に最適方策がある. 2のべき乗方策の下では, 上流のサイクル時間≧下流のサイクル時間 を満たせばよい. 38 入れ子方策でない方策 第2段階(卸) エシェロン在庫 2段階(卸)が発注して いないときに発注 第1段階(小売り) 2 2 0に近づけると在庫減少 39 2段階直列モデルの定式化 2のべき乗・入れ子方策 需要量d,第 i段階の在庫点の発注固定費用Ki, エシェロン在庫保管費用hi,サイクル時間(変数)Ti gi=hi d/2 を導入(記号の簡略化のため) 2のべき乗・入れ子方策 最小化 Σi Ki/Ti + gi Ti 条件 Ti = B 2k kは・・・-2,-1,0,1,2,・・・, i=1,2 Ti ≧ Ti-1 i=2 2のべき乗方策 Ti ≧ 0 i=1,2 入れ子方策 (2のべき乗方策の下) 40 2段階直列モデルの最適解 Lagrange緩和(1) 需要量 10 第 1段階の在庫点の発注固定費用K1=300 エシェロン在庫保管費用h1=5=(10-5), g1=h1 d/2=25 第 2段階の在庫点の発注固定費用K2=100(他のビール と一緒に注文するので安い) エシェロン在庫保管費用h2=5=(5-0), g2=h2 d/2=25 入れ子条件より0以下 2のべき乗・入れ子方策 0以上のLagrange乗数 最小化 条件 i=1,2 Σi Ki/Ti + gi Ti +(-Ti +Ti-1)λ Ti = B 2k kは・・・-2,-1,0,1,2,・・・, Ti ≧ Ti-1 Ti ≧ 0 i=2 i=1,2 41 2段階直列モデルの最適解 Lagrange緩和(2) 2のべき乗・入れ子方策を緩和(外した)式 0以下の項を目的関数に加えて制約を外した ->下界(最適値以下の値)を算出する! 最小化 Σi Ki/Ti + gi Ti +(-Ti +Ti-1)λ i=1,2 条件 Ti ≧ 0 ->2つのEOQモデルに分解 第1段階:最小化 K1/T1 + (g1 +λ) T1 第2段階:最小化 K2/T2 + (g2 -λ) T2 T 1 K1 g1 T 2 K1 g2 42 2段階直列モデルの最適解 Lagrange緩和(3): Excelによるλの推定 B1 =SQRT(300/(50+B1)) λ(Lagrange乗数) 0 2 4 6 8 10 12 12.5 13 14 15 T1 3.464102 3.333333 3.216338 3.110855 3.015113 2.9277 2.847474 2.828427 2.809757 2.773501 2.738613 T2 2 2.085144 2.182179 2.294157 2.425356 2.581989 2.773501 2.828427 2.886751 3.015113 3.162278 =SQRT(500/(100-B1)) 4 Section2-3.xls 3.5 3 2.5 T1 T2 2 1.5 1 0.5 0 0 5 10 15 20 43 1倉庫・多小売店モデル 入れ子方策が悪くなる例 小売店1 発注費用1 需要=2 エシェロン在庫費用=1 倉庫 発注費用 =1 需要=2+ε 小売店2 発注費用 K(大きな数) 需要=ε(小さな数) エシェロン在庫費用=1 エシェロン在庫費用=1 最適方策:小売店1,倉庫が毎日発注,小売店2は約 ->1日あたり K に比例した費用 K / 日に1回発注 入れ子方策1:小売店2を約 K / 日に1回;入れ子方策より倉庫も約 K / 日に1回;小売店1むけの倉庫における在庫費用は, K / に 比例 入れ子方策2:小売店2,倉庫が毎日発注;小売店2の在庫費用 は K に比例 44 例題1(需要のばらつきがない場 合) 部品工場->工場->卸->小売店 需要:平均100 品切れ費用1000 小売店 卸 工場 部品工場 リード時間 在庫保管費 用 エシェロン在庫 保管費用 基在庫 レベル エシェロン基在庫 レベル 1日 40 10 100 100 1日 30 10 100 200 2日 20 10 200 400 3日 10 10 300 700 45 基在庫方策 基在庫レベル (1箱=100) リード時間 (1矢印=1日) 輸送中在庫 (1箱=100) 部品 実在庫 10円×200 エシェロン在庫 10円×400 工場 卸 20円×100 小売 30円×100 40円×0 10円×200 10円×100 10円×0 合計=7000円の在庫費用 46 定期発注方策 基在庫レベル (1箱=100) 輸送中在庫 (1箱=100) 部品 リード時間 (1矢印=1日) 10円×300 工場 卸 小売 20円×200 30円×200 40円×100 合計=17000円の在庫費用 47 まとめ 在庫管理の古典理論 新聞売り子モデル 経済的発注量モデル 基在庫方策 常に在庫をモニタリングして,基在庫レベルを 切ったら発注 固定費用を考慮 (Q,R)方策,(s,S)方策 定期発注方策 決まった時刻に在庫をチェックして,基在庫レベ ルになるように発注 48
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