ロジスティクス工学 第2章 経済発注量モデル サプライ・チェインの設計と管理 pp. 49-52, 3.2.1節 経済的ロットサイズ・モデル 東京商船大学 久保 幹雄 経済発注量(Economic Ordering Quantity :EOQ)モデル • d (個/日): 1日あたりの品目の需要量 • Q (個): 発注量(変数) [生産現場ではロットサイズ] • K (円): 発注1回あたりの固定費用 [生産現場では段取り費用 • h ( 円/(日・個) ): 品目1個あたり・1日あたりの在庫保管 費用 目的: 無限期間における最適な(発注費用+在庫保管費用を 最小にする)発注方策(いつ,どれだけ発注するのか)を 決める. 条件: 品切れは許さない. 注文した品目はすぐに(リード時間0で)到着する. 初期在庫は 0 とする. 例:研究室のビール在庫 • K研究室ではビールを冷蔵庫で適切に管理する ことが義務づけられている.ビールは新鮮さが第 一だの先生のモットーにより,1日あたりのビー ルの劣化は,1本あたり 10円で,発注は近所の コンビニに出前を頼むので1回あたり300円か かる.また,研究室には大酒のみが多いため1 日に10本のペースで消費されるものとする.最 適な(研究室費を無駄にしない)発注方策を考え よ. 在庫レベル d:傾き=-需要のスピード Q h×面積 サイクル時間 (T 日) = [ ] T 日間の総費用 = 発注費用 +在庫保管費用 = f(Q)= 1日あたりの費用 = 時間 EOQモデル • 最小化 f(Q) – ∂f(Q)/∂Q = – ∂2f(Q)/∂Q2 = – f(Q) は [ ] 関数. • Q* = • f(Q* )= 練習問題 2-1 (易) • Find the optimal ordering quantities when d =10 items/day K =300 yen h=10 yen/day・item. • Check the dimension of the EOQ formula. Q[個] 練習問題 2-2 (中) • Consider EOQ model in a factory. When the inventory is zero, production of Q items starts at a rate of p (items/day) (p ≧d). The set-up cost is K (yen) and every time production starts at a level p, we incur a cost of α×p (α>0). • What is the optimal production rate? 練習問題 2-3(難) • Consider EOQ model at a warehouse. When an order of size Q is placed, the items are delivered by trucks of capacity q; thus the number of trucks used to deliver Q is Q / q . The set-up cost is a linear function of the number of trucks used; K0 Q / q K (yen) . • What is the optimal ordering quantities? 感度分析 (「サプライ・チェインの設計と解析」p.52 表3-1) • 最適な発注量が整数でないかもしれない. 最適からずれたら,どれくらい費用が増え るのだろう?->感度分析 • ビールの在庫の例 はずれ率 Q T 発注費用 在庫保管費用 費用 費用の増加 0.5 0.8 0.9 12.25 19.6 22.05 1.225 1.96 2.205 244.898 153.0612 136.0544 61.25 98 110.25 306.148 251.0612 246.3044 1.249844 1.024953 1.005534 1 1.1 1.2 1.5 2 24.5 26.95 29.4 36.75 49 2.45 2.695 2.94 3.675 4.9 122.449 111.3173 102.0408 81.63265 61.22449 122.5 134.75 147 183.75 245 244.949 246.0673 249.0408 265.3827 306.2245 1 1.004565 1.016705 1.08342 1.250156 Table3-1.xls 感度分析の図 費用の増加 350 300 1.4 250 1.2 1 発注費用 在庫保管費用 0.8 費用 0.6 200 150 100 0.4 50 0.2 0 0 0 10 20 30 40 50 60 0 0.5 1 1.5 2 最適値の20%増しのの発注量でも,費用は(たった)1.6% しか増えない! -> EOQモデルの解は頑強(robust)である! 2.5 2のべき乗方策(Power-of-two Policy) • サイクル時間が1.732日や1.4142日は実用的 か? • たとえば,タバコの配送では,配送周期を1週間, 2週間,1ヶ月(4週間)に一度に限定している. 2のべき乗方策 基準となる時間間隔 B (Basicの頭文字)を与え, kを整数(・・・-2,-1,0,1,2,・・・)としたとき,サイクル 時間をB 2k に限定して発注を行う. 2のべき乗方策(定式化) • 発注固定費用K,在庫保管費用h,需要量d • g=h d/2 を導入(記号の簡略化のため) • (発注量Qでなく)サイクル時間 Tを変数とする! 2のべき乗方策 最小化 f(T)= K/T + g T 条件 T = B 2k kは・・・-2,-1,0,1,2,・・・ T≧0 2のべき乗方策の最悪の場合の保証(悪くても6%以下) (式変形については,「ロジスティクス工学」pp.34-35参照) • 2のべき乗であることを外した(緩和した)問題の 最適サイクル時間と最適値;EOQ公式より K T f (T * ) 2 Kg g • 2のべき乗に限定したときのサイクル時間 * f ( B2k 1 ) f ( B2k ) f ( B2k 1 ) を満たす Tˆ 2 B k • 式変形すると: f (Tˆ ) 1 1 ( 2 ) 1.06 * f (T ) 2 2 直列多段階( 2段階)モデル 3 メーカー 2 卸 h’3 =0 h’2 1 小売店 h’1 第2段階(卸) 2 第1段階(小売店) 2 T=2 需要 d ノコギリ型にならない! T=1 エシェロン在庫 第2段階のエシェロン在庫 2 第2段階(エシェロン在庫) 1 h’2 需要 d h’1 各在庫点からみて下流(需要側) の在庫をすべて含めた在庫 第1段階 2 2 T=2 T=1 エシェロン在庫費用 3 メーカー 2 卸 h’3 =0 h’2 第2段階(卸)の のエシェロン在庫費用 h2 = h’2-h’3 = h’2 1 小売店 需要 d h’1 第1段階(小売店) のエシェロン在庫費用 h1 = h’1-h’2 • 下流(需要側)に行くにしたがって在庫費用は増加 (品目に付加価値がつくから) • 外部(メーカー)の在庫費用は0 とする. • エシェロン在庫費用= 各在庫点とそこに供給する上流の在庫点との在庫費用の差 通常の在庫費用と エシェロン在庫費用の関係 エシェロン在庫費用(4日分) 第2段階(卸)=2×4× h2 =[ ] 第1段階(小売店)=4 h1 =[ 通常の計算法(4日分) 第2段階(卸)=4 h’2 第1段階(小売店)=4 h’1 2 1 T=2 T=1 ] 練習問題2-4 • • • 以下のサプライ・チェインに対して,通常の定義 による在庫費用がエシェロン在庫費用と一致す ることを確認せよ. 3段階のサプライ・チェイン 3 2 1 メーカー サイクル時間=4 卸 サイクル時間=2 小売店 サイクル時間=1 1倉庫・多小売店モデル 小売店1 サイクル時間=1,需要=1 倉庫 サイクル時間=4,需要=3 小売店2 サイクル時間=2,需要=2 入れ子方策(nested policy) • 入れ子方策:ある在庫点が発注を行うなら,かな らずその下流の在庫点も発注を行う. • 直列多段階モデルにおいては,入れ子方策の中 に最適方策がある. • 2のべき乗方策の下では, 上流のサイクル時間≧下流のサイクル時間 を満たせばよい. 入れ子方策でない方策 第2段階(卸) エシェロン在庫 2段階(卸)が発注して いないときに発注 第1段階(小売り) 2 2 0に近づけると在庫減少 2段階直列モデルの定式化 2のべき乗・入れ子方策 • 需要量d,第 i段階の在庫点の発注固定費用Ki, エシェロン在庫保管費用hi,サイクル時間(変数)Ti • gi=hi d/2 を導入(記号の簡略化のため) 2のべき乗・入れ子方策 最小化 Σi Ki/Ti + gi Ti 条件 Ti = B 2k kは・・・-2,-1,0,1,2,・・・, i=1,2 Ti ≧ Ti-1 i=2 i=1,2 2のべき乗方策 Ti ≧ 0 入れ子方策 (2のべき乗方策の下) 2段階直列モデルの最適解 Lagrange緩和(1) • 需要量 10 • 第 1段階の在庫点の発注固定費用K1=300 • エシェロン在庫保管費用h1=5=(10-5), g1=h1 d/2=25 • 第 2段階の在庫点の発注固定費用K2=100(他のビールと 一緒に注文するので安い) • エシェロン在庫保管費用h2=5=(5-0), g2=h2 d/2=25 入れ子条件より0以下 • 2のべき乗・入れ子方策 0以上のLagrange乗数 最小化 Σi Ki/Ti + gi Ti +(-Ti +Ti-1)λ Ti = B 2k kは・・・-2,-1,0,1,2,・・・, i=1,2 条件 Ti ≧ Ti-1 i=2 Ti ≧ 0 i=1,2 2段階直列モデルの最適解 Lagrange緩和(2) • 2のべき乗・入れ子方策を緩和(外した)式 • 0以下の項を目的関数に加えて制約を外した ->下界(最適値以下の値)を算出する! 最小化 Σi Ki/Ti + gi Ti +(-Ti +Ti-1)λ i=1,2 条件 Ti ≧ 0 ->2つのEOQモデルに分解 第1段階:最小化 K1/T1 + (g1 +λ) T1 第2段階:最小化 K2/T2 + (g2 -λ) T2 T 1 K1 g1 T 2 K1 g2 2段階直列モデルの最適解 Lagrange緩和(3): Excelによるλの推定 B1 =SQRT(300/(50+B1)) λ(Lagrange乗数) 0 2 4 6 8 10 12 12.5 13 14 15 T1 3.464102 3.333333 3.216338 3.110855 3.015113 2.9277 2.847474 2.828427 2.809757 2.773501 2.738613 T2 2 2.085144 2.182179 2.294157 2.425356 2.581989 2.773501 2.828427 2.886751 3.015113 3.162278 =SQRT(500/(100-B1)) 4 Section2-3.xls 3.5 3 2.5 T1 T2 2 1.5 1 0.5 0 0 5 10 15 20 1倉庫・多小売店モデル 入れ子方策が悪くなる例 小売店1 発注費用1 需要=2 エシェロン在庫費用=1 倉庫 発注費用 =1 需要=2+ε 小売店2 発注費用 K(大きな数) 需要=ε(小さな数) エシェロン在庫費用=1 エシェロン在庫費用=1 最適方策:小売店1,倉庫が毎日発注,小売店2は約 ->1日あたり K に比例した費用 K / 日に1回発注 入れ子方策1:小売店2を約 K / 日に1回;入れ子方策より倉庫も約 K / 日に1回;小売店1むけの倉庫における在庫費用は, K / に 比例 入れ子方策2:小売店2,倉庫が毎日発注;小売店2の在庫費用 は K に比例
© Copyright 2024 ExpyDoc