経済変動論II 2006年度前期 3 第3回 フォード主義的成長体制を可能にした 制度的諸形態 3.1 蓄積競争形態 清水 耕一 www.e.okayama-u.ac.jp/~kshimizu/ 3.1 蓄積・競争形態 (1)企業形態と投資資金 株式会社の一般化(19世紀は個人企業が一般的) 所有と経営の分離(バーリー、ミーンズ『近代株式会社と私有財産』1932) コーポレートガバナンス問題:誰が経営者をコントロールするのか アメリカ型:株主が経営者をコントロール 独・日型:メイン・バンクがモニター(メインバンク制) 資金調達(資本市場と金融システムの発展を前提) 自己資本:資本市場において新株を発行(アメリカ型) 他人資本:銀行借入あるいは社債発行(独・日型) 「大企業による計画化」(ガルブレイス) 会計・経済計算の利用 投資の加速度償却による回収 例:100万円の機械を10年で償却⇒年10万円(=100÷10)。 これを5年で償却⇒年20万円(=100÷5) キャッシュ・フロー(減価償却費+内部留保)の計画的利用 投資(I)の決定:加速度原理、利子率(i )と利潤期待( πe) I = I(Y、i、πe) dI 0 dY dI 0 di dI 0 e d 3.1 蓄積・競争形態 (1)企業形態と投資資金(続) 資本蓄積(投資)の進展(指数:1959年=100) ⇒生産能力の拡張と生産システムの革新 3.1 蓄積・競争形態 (2)価格決定様式の変化 19世紀:競争的な価格決定 dp 0 dE P= F(E) E=超過需要=D–S 好況期:プラスの超過需要(E)の発生⇒物価(P)の上昇 不況期:マイナスの超過需要の発生⇒物価の低下、および価格戦争 競争的資本主義に典型的な景気変動: 好況期のインフレーション、不況期のデフレーション 20世紀:寡占企業による価格管理が支配的になる フルコスト原理(1930年代のオックスフォード調査によって明らかに) 価格(P)=費用(C)×マークアップ(1+m) C=製品1単位当たり製造費、m=マージン率 マークアップが一定の場合 dp 1 m 0 dc よって、製品1単位当たりの製造費の上昇は自動的に価格に転化され、価 格が上昇する。 高度成長期においては原材料価格の上昇や賃金の上昇によってCが上昇し、 価格の上昇傾向が現われた(クリーピング・インフレーション) 3.1 蓄積・競争形態 (2)価格決定様式の変化(続) スタグフレーションの発生(供給ショックによる) Stagnation+Inflation = Stanflation (不況期のインフレーション) 価 格 S' S A pA p1 E1 E0 p0 D Y1 Y0 総需要・総供給量 3.1 蓄積・競争形態 (2)価格決定様式の変化(続) 第1次石油ショック時のスタグフレーション 第4次中東戦争勃発によってOPECが原油価格を4倍に値上げ 石油輸入国では石油供給量の減少と価格の高騰 日本ではパニック(トイレット・ペーパー事件)と便乗値上げで 「狂乱物価」 注意 すべての企業がフルコスト原理を採用しているわけではない またマークアップ率も企業によって異なる(USスティールは83% の操業度の下で8%の利潤率を目標としていたと言われている)。 フルコスト原理は製造企業の価格決定方式であり、流通業者の決 定する価格ではない(流通業者は市況に応じて価格を変動させ る)。 その他の価格戦略(独占禁止法の下での違法行為) プライス・リーダーシップ制(Big 3 の例が有名) 闇カルテルや「談合」 3.1 蓄積・競争形態 (3)景気変動に対する調整 19世紀型競争資本主義では価格調整が一般的 不況期には価格の切り下げによって販売量を維持しようとする ⇒価格戦争(価格の引き下げ競争)⇒デフレ・スパイラル 雇用の下方調整とともに賃金の切り下げ⇒コスト削減 第2次世界大戦後は数量調整が一般的 価格は管理価格のために下方硬直的(不況期には利潤を防衛するために マークアップを引き上げることによって、価格が上昇するこもある) 賃金も下方硬直的(次節で説明)、ただし生産量を下方調整するために アメリカ企業は不況期に工場閉鎖とレイ・オフ 日本企業は残業時間の短縮⇒一時帰休(一時的失業)⇒パートタイマー等不安 定雇用者の解雇⇒レイ・オフ(希望退職、早期退職を優先)という順で下方調 整 独・仏の企業には解雇に対する規制があることから日本企業に近い雇用調整が 行われる。 フォード主義的景気変動の特徴 好況期のクリーピング・インフレーション、不況期のスタグフレーション もはやデフレーションは起こらない
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