15 年度「比較経済史」第 17 回講義 Resume 資本主義の変質と覇権の交代-独占資本主義の登場とアメリカの台頭 2015/06/06 (はじめに) 資本主義は、オーソドックスにいうと、16 世紀大航海時代に始まる「商業資本」の時代、19 世紀初頭~ 末葉の「産業資本」の時代、そして 19 世紀末からの「金融資本」の時代とでも区分できようか。「商業資 本」の時代はスペイン・ポルトガルそれにオランダが、「産業資本」の時代はイギリスがリードした。「金 融資本」の時代はアメリカとドイツがリードし、特に第1次世界大戦後のアメリカの金融力は群を抜くも のであった。 「金融資本」の時代は、少数の大企業による独占の時代でもある。膨大な生産力は需要を上回り、この頃 から経済の推進力は供給サイドから需要サイドにシフトする。「消費者資本主義」・「高度大衆消費社会」 の始まりでもあった。 Ⅰ.独占資本主義(大企業の時代)への移行-アメリカの場合 1,19 世紀末のアメリカ社会 1)、プロテスタンティズムの終焉と「社会進化論」の登場-節約から浪費へ マーク・トウエィン(Mark Twain)[1835 ー 1910]と金ぴか時代(Gilded Age) ウィリアム・グラハム・サムナー(William Graham Sumner)[1840-1910]と社会進化論 2)、移民の増加と多民族・多文化国家の成立 旧移民から新移民へ、そして自由移民時代の終焉 2,19 世紀末のアメリカの 1)、南北戦争における「北部」資本主義の勝利-「アメリカ型資本主義」の完成 2)、独占への移行を促進した要因 (1)鉄道網の整備(2)保護関税{1861 年モリル関税・90 年マッキンレー関税・97 年ディングレー関税)(3) 国法銀行法(4)ホームステッド法(5)金本位制 etc., 3)、移行への開始⇒アメリカの独占は生産性向上による「競争原理」・ドイツは競争を排除した「協調原 理」 (1)1873 年恐慌:独占への移行開始{J.クック商会の倒産、モルガン型投資銀行の台頭)} (2)1893 年恐慌:独占確立へのテコ入れ→企業合併の第1波⇒産業資本はウオール街を中心とする金融資 本の下に組み込まれて行く (3)1900 年金本位制制定・1901 年 US スチール成立・1913 年連邦準備銀行制成立⇒独占資本主義への移 行完了 4)、移行の方法 (1)73 年恐慌後の株式会社制度の発展と「プール方式」の発展 (2)80 年代「トラスト方式」 82 年スタンダード石油トラスト正式調印 (3)90 年シャーマン反トラスト法成立後「持株会社方式」 5)、金融寡頭制の成立⇒アメリカの場合は大企業の内部留保金により、次第に銀行離れして行く傾向にあ った。逆にドイツは益々依存を強めた。 金融資本の支配:モルガン、ロックフェラー、クーンローブ、メロン、ヂュポンの一族が支配する企業を「5 大財閥」という(これにシカゴ財閥、クリーブランド財閥、ボストン財閥を加えたものを「8大財閥」と いっている)。これらの財閥はそれぞれ銀行グループを中心に多くに企業を配下に置いた。例えば、モル ガン財閥はファーストナショナル銀行、バンカー・トラストを中心に、13 の事業会社、12 の公益事業、6 つの鉄道、5 つの銀行を支配し合計 302 億 1,000 万ドルの資産を形成していた。ロックフェラー財閥はナ ショナルシティ銀行を、メロン財閥はメロン・ナショナル銀行を中心に多数の産業部門・企業を直接間接 に支配した。リー・ビギンズ商会、キダー・ピボディ商会、クーン・ローブ商会などの金融機関も財閥と同様 な行動を取った。 6)、大企業の時代 (1)カーネギー鉄鋼所、ペンシルバニア鉄道、スタンダード石油、デュポン社他 (2)需要を上回る生産力(大量生産の時代) (3)マーケッティングの登場(大量販売の時代) 3,商品の輸出から資本の輸出へ 1)、商品輸出 アメリカ経済は基本的に広大な国内市場の拡大によって発展してきたが、それでも外国市場の持つ意味は 大きい。 1900 年の輸出品目中、農産物・農産物加工品 612(百万㌦) {全輸出品目中 62.90 %}、工業製品は 361(百 万㌦){全輸出品目中 37.10 %}で、前者では原綿、小麦・小麦粉、食肉加工品、後者では石油製品、鉄 鋼製品、銅製品、機械が主なものである。 1920 年には、前者が 2,796(百万㌦) {全輸出品目中 47.74 %}、後者が 3,056(百万㌦) {全輸出品目中 52.26 %}と、輸出額において工業製品が農産物のそれを上回る。 2)、資本輸出 投資が国内市場を一巡すると資本が国外に向かい始める→レーニンのいう「帝国主義」の時代の幕開け。 但しアメリカは国内に未開発地域(南部と西部)を持っていたのでヨーロッパ諸国に比べて海外投資は遅 れた *①独占企業の内部留保金②一般投資家の資金が投資銀行・保険会社に集められ海外投資に向けられた。 特徴:(1)海外への鉱工業分野への投資は独占企業。(2)鉄道・公益事業への投資は投資銀行が中心になっ て行なった。(3)アメリカの場合資本輸出は直接投資(企業の海外進出)という型を取った。他方イギリ スは間接投資(証券投資)によった。 【海外進出に関する年表略】 1898 年:米西戦争によりフリピン、プエルトリコ、グアム領有、ハワイ併合⇒{資本輸出開始}同年キューバ -1- は独立/1899 年:国務長官ヘィ・中国に「門戸開放」要求→オープン・ドア・ポリシー/1909 年:太平洋諸島 に進出サモア諸島を英独と分割支配;タフトの「ドル外交」本格化 (1)キューバ:アメリカの資本輸出は、まずラテンアメリカから開始された。保護領とされたキューバと は、1903 年互恵通商条約を締結し、商品輸出と並んで経済再建の名目で資本輸出が行なわれた(1914 年 までに2億$)。 (2)メキシコ:メキシコは、ディアス大統領(1877 ~ 1911)の長期独裁政権の下で、外資の積極的導入政 策が行なわれ、アメリカは 1908 年までに 4 億 1 千万ドルを投資した。主なものは、鉱山開発であり、そ の他にも鉄道(この場合も直接投資が多い)、石油などに投資された。【1917 革命憲法制定】外国人は地 下資源、土地、水の所有が不可。オブレゴン政権のアメリカとの妥協→事実上憲法改正前のアメリカの利 権を容認 (3)カナダ:メキシコに反ヤンキー感情が高まるに連れて、投資はカナダに向かった。カナダ向け輸出品 の筆頭は「鉄鋼製品」であり輸入品は「鉱産物、木材」であった。キューバ同様に互恵通商条約を締結し ようとしたが、カナダの反対にあい挫折。市場価値を認め、紙パ、アルミ、農機具などの企業が直接進出 し、このため直接投資が上回った。 Ⅱ.世界経済における覇権の交代への歩みーイギリスの衰退とドイツ及びアメリカの台頭 1、イギリスの衰退 「大不況」期(1873~1896 年)は鉄鋼業(銑鉄から鋼鉄へ)と電気化学など新しい産業を中核とした「第2 次産業革命」の時代であるが、ひと事でいえばそれに乗り遅れた。それと、1869 年アメリカ大陸横断鉄 道&スエズ運河、高速クリッパー船大西洋就航等「交通革命」によってイギリスの農業が衰退し、地主は 土地を手放し国内よりは海外投資に向かった。 *イギリス経済が衰退していった諸原因 1).産業革命以来の産業構造 鉄鋼業を中心に経済が展開する 19 世紀末において、独占的大企業を中心とした一貫生産=混合企業(コ ンビネーション)による大量生産→生産費の切下げに失敗 2).熟練工個人の経験と工夫を中心とした技術開発=発明がアメリカ、ドイツ、フランスなどの大学・技 術専門学校などを拠点とした開発におくれを取った。 3).企業経営が同族経営によって支配されており、専門的知識をもった経営者が育たなかった。また、株 式会社制度の普及が遅れ、投資銀行や証券市場との係わりも弱かった。そのため、企業が巨額の資金を調 達することが出来ず、重化学工業の時代に乗遅れた。 4).大学などの高等教育機関が地主、資本家などの一部の上層階級に独占され、教養を中心とした教育が 行なわれたため、科学・技術の研究がなをざりになった。 5).1860 年代世界の貿易は自由貿易に向かったが、その後 80 年代以降アメリカ、ドイツ、フランスなどは 保護貿易に向かった。そのなかでイギリスはなをも自由貿易体制を維持し続け、このことが国内における 独占的大企業の成立を遅らせ、産業が衰退して行った。 6).資本家が国内の産業に投資するよりは外国の株式・債券に投資する道を選んだため、国内産業が衰退 →ジェントルマン資本主義 7)、その他 2、ドイツの繁栄-「ドイツ型資本主義」とは何か? 1)、ドイツにおける資本主義の歩み-概説 (1)ドイツの後進性 ①神聖ローマ帝国(962)は 30 年戦争(1618-1648)とウエストファリア条約(1648))によって数百の主権領域 に分裂、②プロシア王国成立(1711)とオーストリア帝国成立(1804)による2大有力邦、③プロシア農民解 放(1811)、④プロシア関税同盟(1828)、⑤ドイツ関税同盟(1834)、⑤ドイツ帝国成立(1871)と、国民国家 の形成が遅れたことが、資本主義成立に関してイギリス・フランスに遅れを取ったことである。[最近の 研究ではこうした分裂・後進性こそがドイツ発展の契機と成ったという説もある]] (2)二つの地帯構造 ・東エルベ・プロシアの、1807 ~ 15 年の「シュタイン・ハイデルベルグの改革」により農奴制(グーツヘ ルシャフト)は解放され“ユンカー制(貴族の大農経営)”へ移行する。(→「上からの」・「プロシア型」 による農業の資本主義化!) この改革は農民に不利な不徹底なものであったが、同時にギルドの解体と「営 業の自由」は確保された。→封建制遺制が後まで近代化を妨げた。 ・西エルベ・特にラインなど南西ドイツ、シュレージエン、ザクセンなど中部ドイツでは自由な農民の土 地所有が追認され、実質上の「農民解放」が行われた。→“独立自営農民”の成立 (3)ドイツ産業革命の特徴:後進国工業化二つの道“プロシア型”の典型 ①国家の経済への積極的介入 ②産業と銀行の癒着→独占体の形成(カルテル方式) [産業] ・石炭、銑鉄、鉄鋼(各分野でシンジケート形成 ・電気:ジーメンス・ハルケ、エー・ゲーの2大銀行 ・染料化学:ヘヒスト、カッセラ、カレ、バイアー、BASF、アグファ等 [金融] 1870 年に設立されたドイツ銀行を中心に 90 年代「ベルリン6大銀行」⇒ドイツの場合は銀行が企業を支 配統治した ③鉄鋼業・鉄道業と軍事産業の跛行的産業構造 ④資本(ユンカー地主)の前近代的性格(戦前の日本と極似) ⑤中産的生産者層を欠落させたままででの産業革命 (4)ドイツの工業化が革命的だった原因 ①国家と銀行の産業への積極的介入が後発国として様々な特権と巨額の資本を可能にした②他のヨーロッ パ諸国、アメリカに比べて天然資源や土地の肥沃度、さらには気候的に劣るドイツがこれらを克服する手 段としたのが技術と教育であった。 ベルリン工科大学(ベルリン建築アカデミー/ベルリン工科学校) 王立シャルロッテンブルク工科大学 -2- 2) 、「ドイツ型資本主義」 研究史を整理しなが纏めれば(HP の用語解説及び Blog 参照のこと!) (1)資本主義成立の2つの道-「上からの道」・下からの道」では前者 (2)レーニンの農業における資本主義への移行-「プロシア型」・ 「アメリカ型」では前者 (3)後進国工業化における2二つの道-「プロシア型」・ 「アメリカ型」では前者 (4)国民経済の諸類型(系譜論)-「国民経済跛行型=プロシア型」と 「国民経済内部成長型-アメリカ型」では前者 要するにこれらに「民主主義の欠如」を加えたものが「ドイツ型資本主義」である。 この概念が後に「ライン型資本主義」への発展して行く。 3,アメリカの繁栄 (次回 18 回講義テーマ) 4、世界経済のおけるアメリカの存在感(プレゼンス)の増大 アメリカは、 1890 年代には鉄鋼生産額のみならず、工業生産額全体においてイギリスを凌駕し、1900 年には世界の工業生産額の 30 %(イギリスは 19.5%)を占めるが、先に述べた如く労働力、資本におい てヨーロッパに依存しており、借金国=債務国であった。 なお、19 世紀末から 20 世紀初頭にかけて、イギリスは工業生産額においてアメリカ、続いてドイツに追 抜かれるが、世界経済に占めるイギリスの役割を過小評価してはならない。世界貿易において、1900 年 の工業製品部門で繊維 46.6%、機械 44.0%、金属・化学 29.7%、その他工業部門で 18.8%と、圧倒的なシ ェアーを占めていた(アメリカでは国内市場が吸収)。しかし、貿易収支全体においては 19 世紀末から赤 字に転じていた。なおかつイギリスが世界経済に君臨できたのは、19 世紀初頭以来の世界各国に対する 資本輸出(アメリカ対する投資が圧倒的に多い:1870 年で 27%)にともなう利子・配当収入と貿易にか かわる運賃、保健、手数料収入で貿易赤字を埋めたのみならず、経常収支全体を黒字にしていた。こうし た、金融・貿易におけるイギリスの優越がイギリスを世界の金融機構の中心(シティー)にし、貿易決済 (ポンド決済)の中心にしていた。 アメリカがイギリスに劣っていたのはまさにこうした金融面であった。アメリカは 19 世紀末から積 極的に資本輸出に乗り出ししていたが、第一次世界大戦を契機に資本の輸入国から輸出国に変わり(債務 国から債権国)、世界経済におけるイギリスの地位に完全に追い付いた。 第一次世界大戦がヨーロッパ諸国(特にイギリス)の経済を弱体化させ、アメリカは逆にこの戦争を契機 に経済発展を加速させたのである。軍需から民需へ⇒アメリカ的生産方式の確立!。 1920 年代の世界経済はアメリカ経済の繁栄とアメリカの資本によって支えられており、19 世紀のイギリ スに代わって世界経済の中軸国となる(アメリカの繁栄に支えられた「相対的安定期」)。 1929 年の「大恐慌」は 20 年代の危うい世界経済のバランスを崩壊させ、1930 年代は世界的な大不況期と なり、各国経済は次第に内向きになっていった。 特に世界の金融市場におけるアメリカの撤退は世界的な資金環流に支障を来し、特に資本主義的な経済基 盤の脆弱なドイツと日本を植民地争奪戦に駆り立てることとなった。 -3-
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