経済変動論II 2006年度前期 第10回 5 フォード主義的成長体制

経済変動論II
2006年度前期
第10回
5
フォード主義的成長体制
の内的諸問題と構造変化
清水 耕一
www.e.okayama-u.ac.jp/~kshimizu/
5.1
フォード主義的賃労働関係の問題点
 フォード主義的好循環:実質賃金の上昇⇒「大量=大衆消費
(consommation de masse)に依拠した内包的蓄積体制」、かつ完全雇
用経済
内的諸問題:潜在的問題
 完全雇用経済⇒インフレーション
 産業予備軍効果の消滅=不況期にも賃金上昇⇒インフレ加速
 産業予備軍効果とは競争的資本主義の時代に観察された現象で、
失業者の存在が賃上げ抑制、さらには賃金の引下げを引き起こす
こと。
 フィリップス曲線による説明
 分配関係の安定性⇒大規模な投資が困難
 これは金融システムのあり方とも関係
 自己資本によるファイナンス:キャッシュフローの大きさや、株価
(エキティ・ファイナンスの場合)に依存
 他人資本によるファイナンス:メインバンクの戦略に依存
フィリップス曲線による説明
高度成長期
競争的資本主義
 労働側の交渉力の上昇
 雇用調整の不在⇒労働者は同じ企業で働き続ける⇒交渉力の上昇
 労働者の要求:賃金上昇から労働条件・地位の向上へ
 1960年代末からの反テーラー主義運動、とくにOSの反乱
 OS(ouvriers spécialisés) は職能資格(CAP)を持たない最底辺
労働者で、一生OSに留まり、しかも賃金は最低賃金(SMIC)。
OSは地位の向上を要求してしばしば「山猫スト」を行い、そ
のために生産がマヒした(特に自動車産業で)。
 CAPを持つ一般労働者も、一般には職長(現場管理者)につ
くことは無く(フランスが学歴社会)、一生労働者のまま。
現場管理者と労働者との関係が対立的であった。こうして、
一般労働者も労働条件の改善を要求するようになる。
 1970年代に入ると、OSを廃止して、一般労働者に格付けするとと
もに、彼らの職能養成のために企業内教育が開始される。また、
スウェーデンのボルボにおける「労働の人間化」の影響から、
様々な実験(半自律的作業班など)を試み始める。
 間接賃金の増加⇒社会関連予算の肥大化⇒財政赤字
 構造的危機は、需要面からではなく、生産面から生じる。
⇒生産性の停滞
5.2
大量生産方式の終焉
 所得水準の上昇⇒消費需要の多様化⇒多品種小量生産⇒コスト上昇
 耐久消費財:装備市場から買替市場へ
 ロジスティック曲線による普及率の説明
Kは環境収容力で、x ≦ K。rは初期における普及率
 x 
dx
 rx1 
 K 
dt
 装備市場:標準化された商品の普及⇒大量生産・大量販売
 買替市場:市場の成長はストップし、企業はゼロ・サム・ゲームを戦う
⇒製品の差別化と高品質化⇒多品種小量生産
 「範囲の経済」は可能か?


Cx1, x 2   Cx1  Cx 2 
 が成り立つとき「範囲の経済」が存在する⇒技術的に困難あり
 結果として製品の多様化は製造コストの上昇を引き起こした⇒生産のフ
レキシビリティの要求
1
買替市場
装備市場
0
t
 経済の国際化⇒国内産業の空洞化
 国内需要(停滞)≦生産能力⇒輸出増加⇒国際的な競争の激化
 国際競争力の高い国⇒輸出主導型成長(ドイツ、日本)
 国際競争力の低い国⇒貿易収支の悪化と国内産業の衰退(イギリ
ス、米国)⇒結果として貿易摩擦の激化
 フランスはEC内の貿易の自由化後、EC内多国籍企業と価格競争
力を求める自国企業による生産の海外移転によって産業の空洞化
が始まる。
 国内投資が停滞し、対外投資が増加
 雇用が減少し、失業が増加し始める。
 他方で、企業は価格競争力を高めるために、労働市場のフレキシ
ブル化を要求し始める。
 賃金抑制=生産性上昇率や物価上昇率への賃金のインデク
セーションを緩和
 「解雇の自由」の要求
 不安定雇用の拡大(パートタイマー、派遣労働者)
 結果として、消費需要の停滞、貧富の格差の拡大
 企業活動のグローバル化と国民経済
 企業が利益を追求して事業をグローバルに展開するようになるの
は、合理的、しかし
 グロ−バル化する企業と国家の利害は必ずしも一致しない
 ECの成立後、フランスは産業部門毎にEC内競争に打ち勝つことので
きる「国民的チャンピオン」の育成政策をとった⇒結果は、産業の
空洞化⇒失業増加
 繊維産業の例:フランス企業は東南アジア等低賃金地域に生産を移
転し、製品を逆輸入。
 経済が国際化したとき、ケインジアンの経済政策は効力を失う
 企業が対外投資を進めるとき、政府が景気刺激策をとっても、(国
内)投資需要は増加しない⇒加速度原理は働かない
 逆輸入の増加=限界輸入性向の上昇=乗数効果の低下
 さらに固定相場制から変動相場制への移行(ブレトンウッズ体制の
崩壊、1973年)が、一国中心のケインジアン総需要管理政策を困難
にした。