民事訴訟法 基礎研修 (2日目) 関西大学法学部教授 栗田 隆 訴状の記載事項 当事者および法定代理人 自然人 通常、住所と氏名により特定する。 法定代理人は、存在する場合に書く 法人その他の団体 主たる事務所の所在地、団体名により特定する 代表者名を書く 設 例: インターネットのホームページで営業上の秘 密を暴露された。損害賠償の訴えを提起した いが、開設者の住所・氏名がわからない。 この場合に、「2002年12月13日に特定のURL でホームページを開いていた者」という方法 で被告を特定して訴えを提起することは、何 故許されないのか? 当事者(28条以下) 民事訴訟法 民法 当事者能力 権利能力 訴訟能力 訴訟無能力者 行為能力 制限能力者 法定代理人(34条以下) 本人の意思に基づかずに代理権を有する者 実体法上の法定代理人(28条 ) 訴訟法上の法定代理人 特別代理人(35条) 在監者への送達について、監獄の長(102条3 項) 証拠保全における特別代理人(236条) 準法定代理人 本人の能力を補充するために、本人の意思に 基づいて選任される。 法人等の代表者 代表者の資格は、文書により証明されなければ ならない(規則18条・15条)。 任意後見人(任意後見法2条参照) 誰が当事者か (当事者の確定基準) 意思説 行動説 表示説 形式的表示説 実質的表示説 当事者欄のみでなく、請求の趣 旨・原因その他訴状全般の記載をも考慮して、そ れを合理的に解釈して決めるべきである。 規範分類説(折衷説) [54]大阪地方裁判所昭和53年6月20日判決・ 教材判例集91頁 昭和19年設立の 霊柩車による運送会社 昭和38年設立の 葬祭請負会社 商号使用 禁止等の 請求 社名(株式会社公益社 )と 本店の所在地と代表取締役が共通 株式会社 高槻公益 社など [54]大阪地方裁判所昭和53年6月20日判決・ 教材判例集91頁 訴状 訴訟代理人が請求原因欄に「原告は 昭和19年に設立された」と記載した。 第7回口頭弁論 訴状の当事者の表示欄に おける原告会社名の直後に「ただし、葬儀行 為を営業目的とするもの)」との文言を補充し た。 原告の表示を正確にするための一部補充と して許された。 裁判所の意義 国法上の意味での裁判所 裁判官その他の裁判所職員が配置された官署と しての裁判所(4条、100条、383条など) 訴訟法上の意味での裁判所 事件の審理・裁判を行う一人または数人の裁判 官によって構成される裁判機関としての裁判所 (87条や243条 など) 裁判所と管轄 国民の裁判需要に適切に応えるために、最 高裁判所を頂点として、全国に8の高等裁判 所と、50の地方裁判所と、多数の簡易裁判所 が配置されている。 裁判所間での裁判権行使の分担を裁判所の 管轄と言う。 2つの事務分配 同一裁判所に属する裁判官の間での事務分 配 本庁と支部、支部相互間の事務分配 地方裁判所については支部設置規則によって定 められている。本庁・支部間での事件担当の移 転を回付という 法定管轄 1 職分管轄 行使される裁判権の内容・種類を基準にした管 轄 事物管轄 同種の裁判権が行使される事件について、事件 の大小・特質を基準にした管轄 土地管轄 裁判所の所在地を基準にした管轄 法定管轄 2 任意管轄 主として当事者の便宜や公平を図る趣旨で定め られた法定管轄であり、合意管轄(11条)や応訴 管轄(12条)、あるいは遅滞等を避けるための移 送(17条)などが許される。 専属管轄 特定の裁判所にのみ管轄を認める必要が強いた め、合意管轄や応訴管轄、あるいは遅滞等を避 けるための移送(17条)などが許されない(13条・ 20条)。 事物管轄 訴額の算定 訴えで主張する利益によって算定する(8条) 最高裁判所民事局長の「訴訟物の価額の算定基 準」 東京地方裁判所の知的財産権部に係属する知 的財産権法に基づく請求等の訴額の算定方法の 原則的な取扱 併合請求(136条)について、合算主義(9条1項) 附帯請求の不算入(9条2項) [134]最高裁判所平成12年10月13日第2小法 廷決定・教材判例集378頁 合算主義 開発区域の周辺住民207名が林地開発行 為許可処分の取消しを求める訴えを提起した 場合 土地管轄 土地管轄の決定要素は、管轄区域と裁判籍 の2つである。 各裁判所は、その管轄区域内に裁判籍が所 在する事件について管轄権を有する。 裁判籍 土地管轄を定める基準となる、当事者または 訴訟物と密接に関連する地点を裁判籍という。 普通裁判籍 特別裁判籍 普通裁判籍(4条) 「訴えは被告の本拠地に」 自然人 住所、居所、国内の最後の住所(2項)。 法人その他の社団又は財団 法人格の有無を問わず、主たる事務所または 営業所、それがない場合は、代表者その他の 主たる業務担当者の住所(4項)。 特別裁判籍(5条以下) 限定された種類・範囲の事件について認めら れる裁判籍 独立裁判籍(5条・6条) 関連裁判籍(7条等) 競合的広域管轄権(6条) 知的財産訴訟のうち、「特許権、実用新案権、 回路配置利用権又はプログラムの著作物に ついての著作者の権利に関する訴え」につい て、東京地裁 と大阪地裁の管轄を拡張 東京地裁 名古屋高裁管内以東の区域 大阪地裁 大阪高裁管内以西の区域 関連裁判籍 併合請求の裁判籍(7条) 独立参加訴訟の裁判籍(47条) 反訴の裁判籍(146条) 中間確認の訴えの裁判籍(145条) 主観的併合の場合(7条) 複数の者を当事者とする訴え(訴えの主観的 併合)の場合( 38条)には、独立の裁判籍が 認められない者の利益を保護する必要があ る。 この場合には、併合請求の裁判籍の規定は、 共同訴訟人間の関係が密接な場合、すなわ ち、38条第1文の場合にのみ適用される。 合意管轄(11条) 専属管轄以外の管轄については、当事者 の合意によって変更することができる。 専属的合意 特定の裁判所にのみ管轄を認め、すべての又 は他の法定管轄裁判所の管轄を排除する合意 付加的合意 法定管轄裁判所のほかに管轄裁判所を追加す る合意 応訴管轄(12条) 要件 被告の応訴 被告が、第一審裁判所にお いて、管轄違いの抗弁を提出することなく本 案について弁論し、または弁論準備手続に おいて申述したこと(12条)。 法定専属管轄の定めのないこと(13条)。 専属管轄 当事者の意思による変更が認められない管 轄。 職分管轄は、法律で明示されていなくても、 専属管轄である 。 個別的に規定されているものの例: 再審訴訟(340条) 株主総会決議取消の訴え(商法247条2項・88条) 請求異議訴訟(民執法35条 ) 管轄の調査・判断資料 職権調査 管轄権の存在は訴訟要件の一 つである 。但し、任意管轄については、応訴 管轄が生ずる余地がある。 判断資料の収集(14条) 応訴管轄が生ず る余地のある場合には、弁論主義に服させて よいので、14条が適用されるのは、専属管轄 の場合が中心となる。 管轄の標準時(15条) 手続の安定のために、訴え提起の時、すなわ ち裁判所に訴状が提出された時を標準として 決定される(15条・133条1項)。 移送(16条以下) 管轄違いの場合の取扱い (16条) 遅滞等を避けるための移送(17条) 簡易裁判所の裁量移送 (18条) 必要的移送 (19条) 国際裁判管轄 逆推知説 民事訴訟法4条・5条等の土地管轄の規定から国 際裁判管轄の有無を推知するという見解。但し、 それが当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理 念に反する結果となる特段の事情がある場合に は、日本の国際裁判管轄は否定される。 独自説(管轄配分説) 国際民事訴訟法独自の管轄規範を確立すべき であるとする見解。 判例は逆推知説である [58]最高裁判所 昭和56年10月16日 第2小法廷 判決・教材判例集111頁 [87]最高裁判所 平成9年11月11日 第3小法廷 判決・教材判例集177頁 [147]最高裁判所 平成13年6月8日 第2小法廷 判 決・教材判例集409頁 [116]東京地方裁判所 平成12年1月28日 民事第 47部 判決・教材判例集286頁 [58]最高裁判所 昭和56年10月16日 第2小法廷 判決・教材判例集111頁 マレーシア国内で締結された運送契約により 搭乗した航空機がマレーシア国内で墜落した め生じた損害の賠償を求めて、日本に住所を 有する者が提起した訴訟について、国際管轄 が認められた事例 [87]最高裁判所 平成9年11月11日 第 3小法廷 判決・教材判例集177頁 管轄権否定 償の事例 契約違反を理由とする損害賠 X----[預託金返還請求]---→Y (日本の (ドイツ在住 株式会社) の日本人) Xの本店所在地の千葉地裁に訴え提起 [147]最高裁判所 平成13年6月8日 第2 小法廷 判決・教材判例集409頁 管轄権肯定 我が国に住所等を有しない被 告に対して、不法行為に基づく損害賠償請求 訴訟が提起された事例 [116]東京地方裁判所 平成12年1月28 日 民事第47部 判決・教材判例集286頁 管轄権肯定 外国で出版された英語版書籍 の日本語版が日本で出版され、その日本語 版書籍により原告の翻案権が侵害された主 張して謝罪広告等を求める訴えが提起され た場合に、日本の国際裁判管轄権が認めら れた事例。 訴状審査(137条) 補正の促し(規56条) 訴状の補正命令(137条1項) 却下命令(137条2項) 訴状の送達不能の場合 訴状を却下する(138条) 被告の住居所の不明等の場合 但し、この 場合には、原告は裁判所書記官に公示送達 を申し立てることができる(110条1項)。 送達費用の予納がない場合 被告が日本の裁判権に服さない場合 [69]最高裁判所 平成1年11月20日 第 2小法廷 判決・教材判例集135頁 天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の 象徴であることにかんがみ、天皇には民事裁 判権が及ばない。 訴状において天皇を被告とする訴えについて は、その訴状を却下すべきものである。 裁判所と当事者の間の主導権分配 職権進行主義 期日の指定や期日における発言の整理など、手 続の進行は、裁判所が主導権をもつ。 弁論主義 裁判の基礎となる事実と証拠の収集については、 当事者が主導権をもつ。 異議権(責問権) 行為の連鎖としての訴訟手続 当事者の異議権 訴訟上の行為が訴訟手続規定に違反している場 合に、それに異議を述べて是正を求めることがで きる。 異議権喪失 当事者が訴訟手続規定の違反を知り、又は知る ことができた場合において、遅滞なく異議を述べ ない場合には、異議権を失う(90条本文)。 第一回口頭弁論期日までの手続 第一回口頭弁論期日前における参考事項の 聴取(規則61条)-原告側 訴状の送達(138条) 第一回期日の指定と期日への呼出し(139 条) 答弁書の提出期間の指定と告知(162条) 第一回口頭弁論期日前における参考事項の 聴取(規則61条)-被告側 送 達 (98条以下) 送達は、特定の者に訴訟上の書類の内容を 知る機会を与えるために、特定の者に特別の 方式で書類を交付し、または交付を受ける機 会を与える行為である。 書類送付 比較的重要でない書類は、送付という方法 で伝達される。ファクシミリを利用して送信 することもできる(規則47条1項)。 一方の当事者から他方の当事者への直接の書 類送付。これは直送とよばれる(規則47条1項)。 b. 裁判所から当事者への書類送付。規則47条2 項・3項参照 a. 裁判所への書類の提出 当事者から裁判所への書類提出は送付の範 疇に入らないが、訴状や訴え取下書など規則 3条1項所定の書類を除き、ファクシミリを利用 して送信することにより提出することができる。 送達の基本要素 送達実施機関 送達名宛人(受送達者、送達を受けるべき 者) 送達される書類 送達場所 送達方法(書類の受渡し方法) 送達場所 送達は、送達場所の届出がない限り(104条 2項参照)、次の場所でなすのが原則である。 送達名宛人の住所等(住所、居所、営業所また は事務所)(103条1項本文)。 2. 送達名宛人の就業場所(103条2項)。 1. その他の送達場所 送達事務の簡便化・実効性確保のために、 次の場所での送達も許される。 裁判所(100条) 書記官送達 2. 郵便局(105条の出会送達、または106条1項後 段の補充送達) 3. その他の出会場所(105条の出会送達) 1. 送達方法 交付送達の原則 補充送達 差置送達 書留郵便に付する送達(付郵便送達) 公示送達 送達に関する判例 1 [71]大阪高等裁判所 平成4年2月27日 第1 1民事部 判決・教材判例集137頁 [74]東京高等裁判所 平成6年5月30日 民 事17部 判決・教材判例集148頁 送達に関する判例 2 [93]最高裁判所平成10年9月10日第1小法 廷判決・教材判例集189頁 [94]最高裁判所平成10年9月10日第1小法 廷判決・191頁 訴え提起の効果 訴訟係属(142条) 訴状送達の時に生ずる。 原告と裁判所の法律関係 被告と裁判所の法律関係 期間遵守の効果(147条) に生ずる 訴状提出の時 訴状送達の時 訴状提出の時 時効中断の効果(民147条1号・149条) 除斥期間遵守の効果(民724条など) 訴訟係属の発生に伴う効果 裁判所の審理・裁判義務 原則として判決で応答 する。 請求の趣旨・原因の変更は、143条の規制に服す 訴訟告知(53条)や反訴の提起(146条)など、訴訟 係属を前提とした訴訟行為が可能となる 重複訴訟の禁止(142条) 当事者照会をなしうる(163条) 訴訟係属発生前の訴え却下判決 原告の訴えが被告の主張を聴くまでもなく不 適法であることが明白であり、 原告の訴訟活動により適法とすることが全く 期待できないときには、 裁判所は、訴状を被告に送達することなく訴 えを却下することができる(140条により口頭 弁論を経ずに却下する)。 [79]最高裁判所 平成8年5月28日 第3 小法廷判決・教材判例集156頁 通算老齢年金の支給裁定の変更を求める請 求を棄却した第一審判決が上告棄却により 確定した後で、その訴訟の原告が、再審事由 に相当する事実を主張することなく確定判決 無効確認の訴えを提起した事件 重複訴訟の禁止 1. 2. 3. 制度の趣旨 訴訟経済(異別の訴訟手続での重複審理 の無駄の防止) 既判力のある判断の矛盾の防止 二重に訴訟追行することを強いられること になる後訴の被告の不利益の防止(前訴の 原告が後訴の被告となる場合も含める)。 重複訴訟の禁止 要件 主観的要件 当事者が同一であること。当 事者が異なっても、115条により既判力が拡 張される場合には、主観的要件は充足される。 客観的要件 係属中の事件と同一の事件 であること。 後訴の提起態様 係属中の訴訟とは別個 の訴訟手続きで審理される結果をもたらす訴 え(別訴)であること。 異種の訴訟手続で裁判されるべき 場合 複数の請求が密接に関連していても、この場 合には、反訴や訴えの変更が許されないの で、別訴が許される。 例: [20]最高裁判所 昭和39年11月26日 第1小法廷 判決・教材判例集31頁 142条の効果 消極的効果(すでに併合審理されている場合) 弁 論の分離や一部判決は許されない。 積極的効果(併合審理されていない場合) 同一の訴えの繰返しの場合のように訴えの利益 が欠ける場合には、そのことを理由に訴えを却下 する。 その他の場合 判例は却下すべきとするが、弁 論の併合が可能な限り併合して審判すべきであ る。 [70]最高裁判所 平成3年12月17日 第 3小法廷 判決・教材判例集136頁 係属中の別訴において訴訟物となっている債 権を自働債権として他の訴訟において相殺 の抗弁を主張することは許されず、このこと は右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、 両事件が併合審理された場合についても同 様である。 時効中断の範囲 訴訟物をなす権利関係 判決理由中で判断される先決的法律関係 先決的法律関係の時効中断 [18]最高裁判所 昭和38年10月30日 大法 廷 判決・教材判例集27頁 [34]最高裁判所 昭和43年11月13日 大法 廷 判決・教材判例集34頁 [37]最高裁判所 昭和44年11月27日 第1 小法廷 判決・教材判例集55頁 裁判上の催告の理論 訴えが却下あるいは取り下げられたときでも、 催告(民153条)以上に強力な権利主張が あったことには変わりはなく、訴えによる権利 主張は、訴えが取下げあるいは却下されるま では継続的になされており、 より強力な中断措置をとるべき6カ月の期間 (民153条)の起算点は、訴え取下げまたは却 下判決が確定した時とすべきである。 裁判上の催告の理論 ー 判例 拡張肯定事例 [95]最高裁判所平成10年 12月17日第1小法廷判決・教材判例集196 頁 拡張否定事例 [105]最高裁判所 平成11 年11月25日 第1小法廷 判決・教材判例集 229頁
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