ゲームソフトの 法的保護 同一性保持権と頒布権 関西大学 栗田 隆 目 次 1. コンピュータゲームソフトは独自の著作物類 型となるか? 2. パラメータの変更による同一性保持権の侵 害 3. 頒布権 T. Kurita 2 対象とするコンピュータゲームソフト 一定のシナリオに基づき、 プレイヤーの選択をコンピュータが一定のルール にしたがって評価し、 その評価結果に基づいて次の段階に進行する ゲームで、 そのシナリオとルールについて創作性が強いもの。 これをシナリオ型ゲームソフトと呼ぶことにする。 T. Kurita 3 検討対象の例示 対象となるもの 1. シミュレーションゲームソフト、 2. ロールプレイングゲームソフト 代表例は、「ときめきメモリアル」 次のようなものは対象外 1. 囲碁 2. 将棋 T. Kurita 4 コンピュータゲームソフトは独自の著作物 類型となるか 否定する先例 1. 東京高判平成11年3月18日判時1684号11 2頁 肯定する先例 1. 東京地判平成6年1月31日判例時報1496号 111頁 2. 最高裁判所 平成13年2月13日 第3小法廷判 決(平成11年(受)第955号) T. Kurita 5 関係する規定 第 2 条1 項1 号 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、 学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。 第10 条(著作物の例示) 1 項 この法律にいう著作物を例示すると、 おおむね次のとおりである。 1 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物 2 音楽の著作物 3 舞踊又は無言劇の著作物 4 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物 5 建築の著作物 6 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図 形の著作物 7 映画の著作物 8 写真の著作物 9 プログラムの著作物 T. Kurita 6 東京高判平成11年3月18日判時1684 号112頁(『三國志 III 』事件) 「著作権法にゲームの著作物そのものを定 義づける規定はないので、本件著作物につ き、ゲームの著作物であるとして著作権侵 害行為の有無を判断することはできない」 T. Kurita 7 東京地判平成6年1月31日判例時報14 96号111頁 「パックマン」のアーケード機が市場から姿を消し たのを寂しく思ったあるプログラマーが、ゲーム要 素のすべてを記憶から呼び起こし、 「chomp」の 名称の類似のゲームを制作した。 このゲームソフトは、映画の著作物の要件を満た している。 「chomp」は、 「パックマン」と多くの点で共通性が あるから後者の複製物であり、完全には同一では ないから同一性保持権を侵害している。 T. Kurita 8 最高裁判所 平成13年2月13日 第3小法廷 判決(平成11年(受)第955号) ゲームソフト「ときめきメモリアル」の「影像 は,思想又は感情を創作的に表現したもの であって,文芸,学術,美術又は音楽の範 囲に属するものとして,著作権法2条1項1号 にいう著作物ということができる」 T. Kurita 9 ゲームソフトの構成要素 シナリオ(登場人物、特性値、分岐等の ルールを含む) 画像、音楽 プログラム これらは、いずれもゲームソフトの作成に必要な要素であるが、 ゲームソフトそれ自体ではなく、プログラムの実行によりプレイ ヤーの入力応じて出力(表示・演奏)される文字・影像・音楽な どの全体がゲームソフトの著作物である。 T. Kurita 10 プログラム自体がゲームソフトとなるわけでは ない プログラムが異なっていてもプレイヤーに呈 示される影像等が同じであれば、ゲームソ フトとしては同じである。 前掲・東京地判平成6年1月31日判例時報 1496号111頁参照。 T. Kurita 11 シナリオ自体がゲームソフトになるわけではな い プレイヤーとの相互作用はゲームソフトの 本質的な部分であり、これはプログラムによ り実現される。 プログラムは、ゲームソフトの他の要素を結 合してゲームを実現するものである。 T. Kurita 12 シナリオの著作者とプログラムの著作者が異な る場合の考え方 映画の台本の場合と同様に、シナリオはゲームソ フトの内容を本質的に規定するものであるが、同 一のシナリオに基づいて独自の画像、音楽、プロ グラムを用いて独自のゲームソフトを作ることも可 能である。 同じシナリオを用いて制作するから類似のゲーム ソフトとなるが、シナリオの創作性はゲームソフト の創作性には含まれず、同一のシナリオに基づい て、その翻案として作成されたゲームソフトが類似 していても、シナリオの同一性に起因する類似性 は、ゲームソフトの複製権や同一性保持権の侵害 にはならないと考えるべきである。 T. Kurita 13 ゲームのシナリオの同一性保持権 ゲームのシナリオの通りにゲームソフトを制 作しなかった場合には、シナリオの同一性 保持権の侵害が成立することがある。 大阪地方裁判所平成13年8月30日第21民 事部判決(平成12年(ワ)第10231号) T. Kurita 14 パラメータの変更による同一性保持権の侵害 侵害の成立が肯定された事例(ときめきメモリアル ) 大阪地方裁判所 平成9年11月27日 判決(平成 8年(ワ)第12221号)・判例タイムズ965号253 頁 ・第1審 大阪高等裁判所 平成11年4月27日 第8民事部 判決(平成9年(ネ)第3587号)・判例時報1700号 129頁・第2審 最高裁判所 平成13年2月13日 第3小法廷 判決 (平成11年(受)第955号)・上告審 T. Kurita 15 最高裁判所 平成13年2月13日 第3小法廷 判決 本件ゲームソフトの影像は、著作権法2条1項1号にいう著作物にあた る。 パラメータにより主人公の人物像が表現され,その変化に応じてス トーリーが展開される性質のゲームソフトにおいて,著作者が予定しな いパラメータを設定することができるメモリーカードを使用することは, ゲームソフトの著作者の有する同一性保持権の侵害にあたる。 ゲームソフトのパラメータの改変のみを目的とするメモリーカードを購 入した者は、現実にこれを使用したものと推認することができる 専らゲームソフトのパラメータの改変のみを目的とするメモリーカード を輸入・販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者は,他人の使 用によるゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして, 不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 T. Kurita 16 続 侵害の成立が否定された事例(三國志 III ) 東京地判平成7年7月14日判時1538号2 03頁・第一審 東京高判平成11年3月18日判時1684 号112頁・控訴審 T. Kurita 17 東京地判平成7年7月14日 判時1538号20 3頁 原告がこのゲームソフトをプログラムの著作物であると主 張したことに応じて、裁判所も、これをプログラムの著作物 ととらえた上で、 「本件著作物のプログラムを実行してプレイした結果展開 されるストーリーは、指令を組み合わせたものとしてのプロ グラムの著作物ということはできないし、データもプログラ ムの著作物ではない」との理由で、登場人物の能力値設 定ファイルに著作者の予定しない能力値を書き込むことを もって、「著作物の同一性を侵害する改変行為であるとい うことはできない」との理由で、 請求を棄却した。 T. Kurita 18 プロテクトの強弱 同一性保持権の侵害が否定された東京地 裁事件では、成立が肯定された大阪地裁事 件よりもデータの改変が容易であったようで あり、これが結論に影響を与えたように思え る。 プロテクトの弱い場合まで、同一性保持権 で保護する必要はないであろう。 T. Kurita 19 次の者は、侵害者となるか? 1. 2. 3. 4. 5. 6. 著作者の予定しないパラメータを格納したメモリーカードを 使用する者がいることを予期してこれを流通に置いた者 そのメモリカードを使用して、個人的にゲームを実行した 者 そのメモリカードを使用して、公衆の面前でゲームを実行 した者 メモリカードのデータの改変プログラムを公衆に配布した 者 メモリカードのデータの改変方法を説明した文書を公衆に 配布した者 そのようなメモリカードを個人的に使用する目的で作成し、 それを友人が使用することを予期して友人に渡した者 T. Kurita 20 頒布権 中古ゲームソフトを業者が公衆から買い入れて公 衆に販売することは、映画の著作物の著作権者 に認められた頒布権に服するか。 1. シナリオ型ゲームソフトは、映画の著作物に該当する か 2. シナリオ型ゲームソフトには頒布権が認められるか。 3. シナリオ型ゲームソフトの頒布権は、消尽の原則に服 するか T. Kurita 21 頒布権肯定例 大阪地方裁判所平成11年10月7日第21民 事部判決(平成10年(ワ)第6979号、平成 10年(ワ)第9774号)・判例時報1699号48 頁 本件ゲームソフトは、映画の著作物に該当 する。 映画の著作物に関する限りは、著作権法の 規定上、第一譲渡で消尽しない頒布権が認 められている。 T. Kurita 22 頒布権否定例 1 東京地方裁判所 平成11年5月27日 民事 第46部 判決(平成10年(ワ)第22568 号)・判例時報1679号3頁 著作権法は、劇場用映画の特徴を備えた 著作物を、「映画の著作物」として想定して いる。 本件ゲームソフトは、映画の著作物に該当 しない。 T. Kurita 23 頒布権否定例 2 東京高等裁判所 平成13年3月27日 第6 民事部 判決(平成11年(ネ)第3355号)・ 前掲東京地裁判決の控訴審判決 本件ゲームソフトは、映画の著作物に該当 する しかし、その複製物は、著作権法26条1項 の映画の著作物の「複製物」に該当しない。 T. Kurita 24 頒布権否定例 3 大阪高等裁判所 平成13年3月29日 第8 民事部 判決(平成11年(ネ)第3484号) 前掲大阪地裁判決の控訴審判決 本件ゲームソフトは、頒布権のある映画の 著作物に該当する。 しかし、最終ユーザーに譲渡された後は、 譲渡に係る頒布権は消尽している。 T. Kurita 25 大阪地裁判決を支持すべきである。 ゲームソフトが製作されなければ、その複 製物の中古販売はありえない。しかし、中古 販売がなくても、ゲームソフトは製作される。 ゲームソフトの創作に多額の資金が必要で あることを考慮すれば、著作者に中古ソフト (複製物)の流通をコントロールする権利 (頒布権)を与え、資金回収の道を多様化す るほうがよい。 T. Kurita 26 補 遺 最高裁判所 平成14年4月25日 第1小法 廷 判決(平成13年(受)第952号) 中古ゲームソフトの販売業者に対する差止 請求権を否定した。 法律構成は、前述の大阪高裁判決の論理 を採用。 T. Kurita 27
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