民事訴訟法 基礎研修 (3日目) 関西大学法学部教授 栗田 隆 口頭主義 意義 審理の際の当事者および裁判所の訴訟行 為(特に、弁論と証拠調べ)は口頭で行なわれるべ きであるとの建て前。 長所 陳述が迅速に行なわれ、趣旨をその場で確 認し、無用な陳述を省くことができ、争点の発見が 容易であり、また、裁判所が事案について新鮮な印 象を持つことができる。 短所 陳述・聴取に脱落が生じやすく、複雑な事 実を正確に表現することが困難である。また、審理 の過程を再審査可能にするために記録の保存が必 要となり、記録作成の負担がかかる。 書面による補 充が必要である。 必要的口頭弁論と任意的口頭弁論 訴え=必要的口頭弁論=判決 その他の事項=任意的口頭弁論・審尋=決 定・命令 必要的口頭弁論の概念は、口頭弁論に提出 されなかった資料(事実と証拠)を裁判の基 礎にしてはならないとの趣旨を含む。 期 日 訴訟の審理のためには、当事者その他の利 害関係人と裁判官が会合して、訴訟行為をす ることが必要である。 そのために定められた日時を期日という 様々な期日 口頭弁論の期日 口頭弁論は法廷で行われ、原 則として公開されることが必要である(憲82条)。 弁論準備手続の期日 憲法82条の対審には該当 せず、公開は限定的である(169条2項)。 その他の期日 対審・判決の言渡しに該当しない 事項を目的とする期日は、非公開で行われる。 進行協議期日(規95条) 和解期日 参考人等の審尋期日(187条2項) 期日の指定 期日は、裁判長が指定する(93条1項) 期日を指定しない旨の決定は、審理を継続し ない旨の判断を含むので、裁判所がする。 期日の変更は、裁判所の決定によりする(テ キスト56頁) 期日の変更・延期・続行 期日の変更 期日の到来前に期日指定を 取り消して、新たな期日を指定すること。 期日の延期 期日を開いた上で、予定され た訴訟行為をすることなく期日を閉じて、新た な期日を指定すること。 期日の続行 予定された訴訟行為をしてそ の期日を閉じ、新たな期日を指定すること。 期日変更の要件(93条) 弁論準備手続の期日・弁論準備手続を経て いない口頭弁論期日 最初の期日 顕著な事由(3項本文)または当 事者の合意(3項但書) その後の期日 顕著な事由(3項本文) 弁論準備手続を経た口頭弁論期日 えない事由(4項) やむを 期日の呼出し(94条) 呼出状の送達 事件に出頭した者に対する告知 その他相当の方法(簡易な呼出) 口頭弁論 公開の原則 審理は、憲法82条では「対審」と呼ばれ、公 開法廷で行うことが要求されている。 公開の法廷で審理を円滑に行うために、法廷 における裁判所と当事者との交流は、口頭で なされるのが原則である。 口頭で行われるべき審理全体を指して、広義 の口頭弁論という。 裁判の公開と表現の自由 [66]最高裁判所平成1年3月8日大法廷判決・ 教材判例集126頁 法廷で傍聴人がメモを取ることは、その見聞 する裁判を認識、記憶するためにされるもの である限り、憲法21条1項の精神に照らし尊 重に値し、故なく妨げられてはならない。 多義的な「口頭弁論」 狭義の口頭弁論=弁論。 例:159条1項 広義の口頭弁論=審理 (弁論+証拠調 べ )。 例: 153条 最広義の口頭弁論=審理+その結果であ る判決の言渡し。 例:312条2項5号 攻撃と防御 攻撃 原告の判決申立て=請求の趣旨に 示された判決の申立て 防御 被告の判決申立て。訴え却下・請求 棄却の申立て(答弁書の記載事項である) 攻撃方法と防御方法 各当事者が自己の攻撃または防御を根拠付ける ためになす一切の裁判資料提出行為を攻撃方法 または防御方法の提出という 。 法律上の主張および事実上の主張 相手方の主張に対する応答 証拠の申出(180条) その他 相手方の攻撃・防御方法に対する却 下の申立て(157条)。 相手方に対する質問。 準備書面(161条以下・規則79条以 下) 意義 当事者が口頭弁論において陳述しよ うとする事項を記載して裁判所に提出すると ともに相手方に送付する書面である。 機能 審理の効率化 当事者の陳述の迅速化 相手方・裁判所の理解の迅速化 相手方に応答の迅速化 準備書面の記載事項(161条2項) 自己の攻撃・防御方法(1号) 相手方の請求(攻撃)に対する陳述(防御) (2号前段) 相手方の攻撃防御方法に対する陳述(2号後 段)。 記載上の注意事項(規則79条) 請求を理由づける事実、抗弁事実又は再抗弁事実 についての主張とこれらに関連する事実についての 主張とを区別して記載する。 (2項) 相手方主張事実を否認する場合には、その理由を 記載しなければならない(「理由付否認」ないし「積 極否認」。(3項) 事実についての主張を記載する場合には、証拠も 記載する(4項) 分別記載の例 分別記載の方法にも様々なものがある。一つ の例として、青色LED 訴訟の訴状を見ておこ う。 訴状の「請求の原因」の中で、 「1.請求の法的主張」の後で、 「2.背景事情」 が書かれている。 答弁書(規則80条) 被告の提出する最初の準備書面を答弁書という。 次の事項を記載する。 相手方の請求に対する陳述(防御) 相手方の攻撃方法に対する陳述 自己の防御方法 証拠(以上、1項) 重要な証拠文書の写しの添付(2項) 被告又はその代理人の郵便番号および電話番 号・ファクシミリの番号(3項) 準備書面の提出(規則83条) 準備書面は、相手方が準備をなすのに必要 な期間をおいて、裁判所に提出する(規則79 条)。 裁判長は、準備書面等の提出期間を定める ことができる(162条)。 ファクシミリを利用することができる(規則3 条) 相手方への送付 作成当事者が相手方に直送をする(規則83 条・47条)。 ファクシミリを利用することができる(規則3 条・47条1項) 。 相手方の受領書(規則83条) 法161条3 項・159条3項との関係で重要。 準備書面記載の効果 相手方が在廷しない場合でも、送付が確認され た準備書面に記載されている事実は主張できる (161条3項の反面解釈)。 相手方は、その事実を争うことができないのが通 常であり、その場合には、審理の迅速化のため に、自白が擬制される(159条3項・1項)。公示送 達の場合は、擬制されない。 準備書面不記載の効果 相手方が在廷しない場合 送付が確認された 準備書面に記載されていない事実は、主張でき ない(161条3項)。 相手方が在廷する場合 送付が確認された準 備書面に記載されていない事実も主張することも できる。 当事者照会(163条・規則84条) 当事者は、主張又は立証を準備するために必要 な事項について、裁判所を介さずに、直接相手方 に照会することができる。 例えば、医療過誤訴訟において証人となるべき 者を特定するために、原告が被告たる医療法人 に原告の手術に立ち会った看護婦の住所・氏名 を照会する 当事者照会の要件と方式 (163条・規則84条) 訴訟係属中であること 訴訟係属後であれ ば、第1回口頭弁論期日前でもなしうる 書面で照会すること ファクシミリでもよい(規 則47条1項) 主張・立証の準備に必要な事項についての照会 であること (規則84条2項5号) 回答期間を定めること 163条各号所定の照会でないこと 争点および証拠の整理手続 当事者の主張を争いのない部分と争いのあ る部分とに整理する。 争いのある事実について証拠調べの予定を 立てる。 争点を減少させ、取り調べる証拠を限定して、 審理期間を短縮する。 争点整理の材料 当事者の主張(多くは準備書面に記載されて いる) 証拠文書または証拠として申し出る予定の文 書の写し 可能な場合に、鑑定 証人・当事者の尋問は、争点整理後にするの が原則であり、争点整理の材料にならない。 争点整理の完了とその効果 要証事実の確認 その後の証拠調べにより証明 すべき事実が何であるかを裁判所は当事者との間 で確認する(165条・170条6項・177条) 説明義務 争点整理手続終了後に攻撃防御の方 法を提出した当事者は、相手方の求めのあるとき は、各整理手続終了前に提出することができなかっ た理由を説明しなければならない(167条・174条・ 178条)。 準備的口頭弁論(164条以下) 口頭弁論の一種であり、公開の法廷で行う。 準備的口頭弁論 備段階 本質的口頭弁論 争点と証拠の整理を行う準 人証調べを中心とした段階 弁論準備手続(168条以下) 争点と証拠の整理を行う対席・限定公開の手 続である。従って 当事者の意見を聴いて開始される(168条) 当事者双方の申立があるときには、取り消さなけ ればならない(172条但書き) 実施主体 裁判所 受命裁判官 170条 171条 書面による準備手続(175条以下) 当事者が裁判所から離れた地に住んでいる とき、病気等により裁判所に出頭することが 困難であるとき、その他裁判所が相当認める ときに、当事者の出頭なしに、準備書面の提 出等によって争点および証拠の整理をする 手続である 。 経験豊富な裁判官が実施する必要がある (176条 1項) 。 進行協議期日(規則95条以下) 審理を充実させることを目的として 裁判所と当事者双方が訴訟の進行に関し必 要な事項について協議するために開かれる 口頭弁論外の期日である。 進行協議期日の特徴 口頭弁論の期日ではない 非公開でよい 裁判所外で行うことができる(規97条)。建築紛争 などにおいて現地でこの期日を開くことは、事実 関係の把握のために有益であり、争点の整理 (無用な主張の撤回)につながる 進行協議期日において得られた資料(見分結果) は、そのままでは訴訟資料とはならない。 両当事者に立会の機会を与えなければならない。 進行協議期日ですることができる こと 訴訟進行に関し必要な事項についての協議 口頭弁論における証拠調べと争点との関係の確 認。 専門技術的事項について共通認識をもつために、 関係者(例えば、当事者の従業員)から技術的事 項について説明を受けること。 訴訟進行に関する当事者の意見の聴取 訴えの取下げおよび請求の放棄・認諾 最初の期日 裁判長による事件の呼上げ 原告の訴状陳述 被告の答弁 その他の弁論 次回期日の打ち合わせ 裁判長による期日終了の宣言 訴状の陳述 最初の口頭弁論期日では、口頭主義の要請 から、原告が訴状に基づいて、どのような判 決を求めるかを陳述する。 申立て 裁判所または裁判官に一定の行為を要求す ること。 申立てについては、次の評価がなされる。 不適法(許されない) 却下 適法(許される) 理由なし 理由あり 棄却 申立通りの裁判・行為をする 主 張 申立を基礎づける(理由づける)ために自分 の考えを述べる行為。 法律上の主張 具体的な権利関係の主張 法の解釈・適用上の意見の陳述 事実上の主張 具体的な事実の主張 相手方の主張に対する態度表明 主張の評価 不適法 却下(例:157条)=申立の理由あ るいは他の主張の理由として顧慮(斟酌)しな いこと。 適法 申立あるいは他の主張の理由として 顧慮(斟酌)する。 当事者の主張する事実 主要事実(直接事実) 「法規の適用の直接の原 因となる事実」 or 「法律効果を生じさせる要件に該 当する具体的な事実」 間接事実 直接事実または他の間接事実を推認 するのに役立つ事実。推認に際しては、種々の法則 (論理法則や経験的法則)が用いられる。 補助事実 証拠能力や証拠の信用性に影響を与 える事実 その他(事情) 直接事実と間接事実 直接事実====要件---→法的効果 ↑ (該当) 法規範 (推認) | 間接事実 ↑ (推認) | 間接事実 抽象的要件の具体化 抽象的要件は、個々の事案に応じて具体化 することが必要となる。 しばしば問題となるのは、債務不履行や不法 行為を理由とする損害賠償請求訴訟におい て、被告は何をなすべきであったかという形 で論じられる注意義務である。 抽象的要件の具体化の事例 最高裁判所 平成13年6月8日 第2小法廷 判決 重い外傷の治療を行う医師が講じた細菌感染症 に対する予防措置についての注意義務違反を否 定した原審の認定判断に違法があるとされた事 例。 主要事実の例(テキスト66頁) 原告の請求を理由付ける事実 第1に 甲野と乙野三郎との間の消費貸借契約の成立 乙野次郎は乙野三郎に代理権を与えていた 乙野三郎は乙野次郎の代理人として契約した (顕名主義) 第2に表見代理成立の事実 訴訟法律行為 訴訟法上の法律効果の発生を目的とする意 思表示 単独行為 例:訴えの取下げ(261条1項)、 訴えの取下げに対する同意(262条2項)。 訴訟上の合意(訴訟契約) 例:管轄の合意 (11条)、期日変更の合意(93条3項)。 訴訟法律行為の評価 有効 当事者の効果意思を訴訟法が承認 し、その意思通りの法律効果の発生を認める。 無効 当事者が欲した法律効果が発生しな い 訴訟資料と証拠資料 訴訟資料 証拠資料 当事者の弁論から得られる資料 証拠調べにより得られる資料 主要事実に関しては、証拠資料でもって訴訟 資料に代えることはできない。 被告の応答 相手方の請求に対する陳述 通常は、「請 求を棄却する、との判決を求める」。必要不 可欠のものではない。 原告の事実主張に対する応答 自白、否認、不知、沈黙 抗弁事実等の陳述 証拠の申し出 沈黙と不知(159条) 沈黙 自ら出頭しながら沈黙している場合 自白の擬 制(1項) 欠席の場合(3項) 通常の呼出しがなされた場合 自白の擬制 (肯定的争点決定) 公示送達の場合 自白の擬制なし(否定的 争点決定) 不知 争ったものと推定される(2項) 弁論主義 狭義 事実と証拠の収集を当事者の権限と 責任とし、裁判所自らは収集しない建て前を 弁論主義という。逆に裁判所の責任とする建 て前を職権探知主義という。 広義 処分主義を含めた意味で弁論主義 の語が使われたことがかつてあった。 弁論主義の根拠と限界 根拠 本質説 訴訟の対象となっている私法上の法律 関係については当事者自治の原則が妥当してい ることの訴訟法上の反映。 手段説 多元説 限界 人事訴訟のように、私的自治にゆだねるの が適当でない領域ないし事項。職権探知主義。 弁論主義の具体的内容 主張の必要性 主張責任 自白の拘束力 裁判所に対する拘束力 当事者に対する拘束力(自白の撤回の制限) 職権証拠調べの禁止 例外が多い 主張共通・証拠共通の原則 弁論主義は、裁判の基礎資料(事実と証拠) の収集に関する当事者と裁判所の間の役割 分担であり、当事者間の役割分担ではない。 従って、裁判所は、ある当事者の提出した事 実あるいは証拠をその者に不利に、相手方 に有利に斟酌することもできる。 主張共通の例 X 宅地明渡請求 Yの所有の意思を 否定するために Yの占有は使用貸借 に基づくものである と主張した Y 時効の抗弁 Yの援用がない [25]最高裁判所 昭和41年9月8日 第1 小法廷 判決・教材判例集38頁 原告の所有権に基づく宅地明渡請求に対して被告 が取得時効の抗弁を主張し、 これに対して原告が使用貸借を主張し、 裁判所が原告の主張に基づいて使用貸借の事実を 確定した場合には、 原告の右主張事実を被告が自己の利益に援用しな かったとしても、裁判所は原告の請求の当否を判断 するにあたってこの事実を斟酌すべきである。 当事者が事実を語り、 裁判所が法を語る 裁判所は当事者の主張する法律構成には拘 束されない。 最高裁判所 平成14年9月12日 第 1小法廷 判決 債務の弁済がない場合に不動産を債権者に移 転する旨の契約につき, 原告が仮登記担保契約であると主張し, 被告が代物弁済であると主張した場合に, 上告審が譲渡担保契約であると認定した事例。 (裁判官藤井正雄の反対意見あり) 東京高等裁判所 平成14年9月6日 第1 3民事部 判決 被告が賠償すべき損害額の算定について、 ある項目の金額を控除すべきであることを明 示的に主張していない場合でも、 その基礎となる事実関係自体は、主張上も証 拠上も明らかに提出されている以上、 裁判所がその項目を控除することに妨げは ないとされた事例。 裁判所の釈明権・発問権(149条) 事件の内容をなす事実関係や法律関係を明 らかにするため、当事者に対し事実上・法律 上の事項について質問を発し、立証をうなが す裁判所の権限を釈明権という 裁判所が当事者に釈明させる権利であり、釈 明するのは当事者である。 消極的釈明と積極的釈明 消極的釈明 当事者の申立て・主張が不明 瞭であったり矛盾している場合に、その不明 を正すための釈明。テキスト74ページの例。 積極的釈明 事案の適正な解決に必要な 申立てや主張が欠ける場合に、裁判所がこ れを示唆・指摘する釈明。訴訟物の変更の示 唆もありうる。 期日外釈明(149条 、規則63条2 項) あらかじめ提出された準備書面を期日前に 読みながら気づいた事項について、直ぐに釈 明させる。 当事者公開の原則に反しないように、一定の 場合に、相手方にも通知し(149条4項)、長所 に記録する(規則63条2項) 。 釈明権に関する判例(1) [5]最高裁判所 昭和31年12月28日 第2小法 廷 判決・教材判例集8頁 時効を援用する趣旨の陳述がなかった場合に、 裁判所が時効取得の有無を判断しなかったのは 不当ではなく、その陳述をしなかったことの責任 を裁判所に転嫁し、釈明権不行使の違法をもっ て非難することは許されない。 釈明権に関する判例(2) X 所有権等確認請求 自分が建て たから単独 所有だ Yら 亡父が建てたもので あり遺産に属するか ら共有だ 裁判所は、被告の 主張を認めた 釈明権に関する判例(2) [85]最高裁判所 平成9年7月17日 第1 小法廷 判決・教材判例集171頁 裁判所が被告の主張を正当と認める場合に は、原告が被告主張事実を自己の利益に援 用しなかったとしても、裁判所は、適切に釈明 権を行使するなどした上でこの事実を斟酌し、 請求の一部を認容すべきであるかどうかにつ いて審理判断すべきである。 求問権(149条3項) 相手方の主張が不明瞭の場合に、それ を明瞭にするための裁判長の発問を求 める当事者の権利を求問権という。 相手方の主張がすでに明瞭であると裁 判長が判断すれば、発問はなされず、 求問(発問申立て)は却下される。 釈明処分(151条) 裁判所が訴訟関係を明瞭にするためになす 処分。 釈明処分により得られた資料は、争点整理に 用いることができる。 しかし、当事者間に争いのある事実について 証拠として用いることはできない。但し、弁論 の全趣旨の一部にはなりうる。 主張責任と証明責任 証明責任は、要件事実の存否不明のため、法規が 適用されないことから生ずる不利益である。弁論主 義か職権探知主義かに関わりなしに作用する。 主張責任は、要件事実が主張されなかったために 法規が適用されないことから生ずる不利益であり、 弁論主義の下で問題となる。 したがって、証明責任の方が一般的ルールであり、 主張責任の分配は証明責任の分配の法則に従う。 証明責任の分配法則-法律要件分 類説 法規はその要件事実の存在が証明されたと きにのみ適用されることを前提に法規範を定 めると、立法者は、法規範の構成を通して証 明責任を分配することができる。私法法規は、 この考えを前提にして作られている(規範説)。 法規範の構成方法 Xという権利について 権利根拠規定(拠権規定) A→Xの発生 権利障害規定(障権規定) B→Xの不発生 権利 根拠規定に続いて、「但し・・・の場合はこの限りでな い」という形で規定されることが多い 権利消滅規定(滅権規定) C→Xの消滅(同時履行 の抗弁権による権利行使阻止なども含まれる) 法律上の推定 法律要件を通して証明責任を分配するという 表現方法だけでは表現手段が少なすぎるの で、法律上の推定という方法も用いられてい る。 事実推定 権利推定 暫定真実 事実推定 これは、ある事実から他の事実(主要事実)を推定 するものである。 推定原因事実 ↓ 被推定事実=主要事実(の1つ) ↓ 法律効果 権利推定 これは、ある事実から権利関係を直接推定する ものである。 推定原因事実(占有 ) ↓(民法188条) 権利関係(占有本権 ) 暫定真実 ある推定規定における推定原因事実と被推定事実 が他の規定(要件と効果を定める規定=効果規定) において同時に要件されている場合には、 効果規定の要件事実の一つとして推定原因事実の 証明が必要であり、その証明がなされると被推定事 実が推定され、その事実(主要事実)の不存在の証 明責任を相手方に負わせることになる。 暫定真実の例 民186条1項(効果規定は、民162条・189条など) 占有が推定原因事実で、その占有が所有の意思を もって善意、平穏かつ公然になされていることが被 推定事実である。 暫定真実を用いずに162条を表現すると次のように なる:「20年間他人の者を占有したる者は、その所 有権を取得する。但し、所有の意思をもって平穏か つ公然に占有したのではない場合は、この限りでな い」。 契約に基づく権利の証明責任の分 配 [144]最高裁判所 平成13年4月20日 第 2小法廷 判決・教材判例集394頁 保険約款中に,被保険者の故意等によって生じ た傷害に対しては保険金を支払わない旨の定め は,保険金が支払われない場合を確認的注意的 に規定したものにとどまり,被保険者の故意等に よって生じた傷害であることの主張立証責任を保 険者に負わせたものではないと解すべきであると された事例。 証明責任規定の解釈 証明責任の分配が規定の文言形式からは明 瞭ではない場合には、それを明確にするため の作業がなされる。 規定の文言からストレートに得られる結果が 不当である場合には、解釈による修正がなさ れる場合がある。 最高裁判所 昭和43年2月16日 第2小 法廷 判決 準消費貸借契約の目的となっている旧債務 の存否については、その不存在を理由に準 消費貸借契約の効力を争う者がその事実の 立証責任を負う。 個別事件における証明責任の転換 証明責任は、法規により一般的に定められて いるものであり、裁判官が個別事件ごとに定 めるものではない。 しかし、民事事件では、信義則や権利乱用禁 止法理により一般原則から離れることが認め られており、このことは証明責任の分配にも 妥当する。 大阪高等裁判所平成13年9月28日第11 民事部判決 債務の分割弁済の途中で新たな借り入れがなされ たが、貸金業者が本来備え置くべき帳簿を提出しな いことにより借換前の貸付残高を特定できない場合 に、 その不利益を債務者に負担させるべきではないとし て, 借換時に債務者が実際に受領した金額についての み消費貸借契約が成立したものと解するのが相当 であるとされた事例。 不文法規の証明責任の分配事例 大阪地方裁判所 平成11年5月27日 第21 民事部 判決 均等成立要件のうち、非本質性、置換可能性、 置換容易性については均等を主張する者が証明 責任を負い、 製品・方法の容易推考性と意識的除外について は成立を否定する者が証明責任を負う。 証明責任による裁判 東京地方裁判所平成12年2月29日民事第46 部判決 複製権侵害により原告が受けた損害額の推定のた めに被告が得た利益額を算定するに際して、 被告が販売価格から控除すべき販売費、一般管理 費等を概括的に主張しながら、費目ごとの金額をあ げて控除すべき理由を明らかにせず、また、被告ら が提出した証拠を総合しても、これらの費用の具体 的な内容が不明である場合に、 それらが控除すべき費用と認められなかった事例。
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