Web 2.0 時代のイノベーション - s-nakahara.com index

Web 2.0 時代のイノベーション
不特定多数を巻き込む
ちりも積もれば山となる──ロングテール効果
衆知を集めて良質の知に転化する
衆知か衆愚か
学術情報と大学への影響
(西村吉雄氏資料)
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Web 2.0
 Web 2.0 =「ネット上の不特定多数の人々(や企業)を,
受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と
認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス
開発姿勢」
(梅田望夫,『ウエブ進化論』,ちくま新書,2006年)
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Web 2.0の二つの可能性
• 「ちりも積もれば山となる」をビジネスとして実践
──ロングテール効果
• 衆知を集めて良質の知に転化
──オープンソース活動:LinuxやWikipedia
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ロングテール現象
(菅谷義博,『ロングテールの法則』,東洋経済新報社,2006年)
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ロングテール現象の
ビジネス・モデルへの影響
 不特定多数に依拠するビジネスを開く
少部数の本でもネット書店なら可能性大
クリック数比例の安い広告料金を多数集められる
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衆知を集めて良質の知に転化する
これがウェブ上で可能になってきた
 ウェブ上に膨大な知識が蓄積され,整理され,
共有され,不特定多数の人間の知的交流が
可能になる=Web 2.0
 オープンソース活動──LinuxやWikipedia
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Wikipedia の編集合戦
良い方向に働く力が微妙に勝っている
• 「編集合戦」になると,管理者が書き換えを止める。
論争が決着せず,そのままになる項目もある。
「それでも全体としては百科事典的ないい記事が
増えている。良い方向に働く力が微妙に勝っている」。
3年以上管理者を続けているプログラマーの今泉誠
さん(30)はそう語る。「参加する人が多ければ多い
ほど,よりよくなると感じる」。
• 安田朋起,「ウェブが変える1」,『朝日新聞』朝刊,
2006年7月27日付
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民主主義や市場主義と関係
スロウィッキー,
『「みんなの意見」は案外正しい』,
角川書店,2006年
Democracy on the web works (Google)
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衆知か衆愚か
• 不特定多数はときに愚かで暴力的な集団と化す
• Web 2.0 への批判も激しい
──衆知でなく衆愚,現代の魔女狩り,
グーグル八分(グーグル社の検索結果に自分のサイト
を入れてもらえなくなること)は悪質な差別
• 尭や舜(中国の伝説的名君)が常にいるのなら,
名君にまかせたほうが良い。
けれども生身の名君は必ず乱心する
• ご乱心の殿より衆愚がまし→民主主義
• エリート官僚の計画より市場がまし
→100年をかけた共産主義実験の結果
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市場経済と非営利活動の連携が
ヨコ型分業の問題解決に有効
• 非営利活動は,利潤や投資回収とは違う価値に
よって動き得る。仲間からの尊敬が報酬
• しかし非営利活動も金銭的サポートを必要とする。
営利と非営利の連携が,それぞれの問題解決に
有効
• リナックス:非営利活動が,市場経済側の起業家
精神を刺激し,新産業を開く
• 産学連携:営利事業と非営利活動の連携の一環
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オープンソース活動と
学問研究は似ている
• 成果は原則無償で公開される
• 公開された成果を出発点にして,他者が自身の
活動を進展させる(公開された成果への批判,
改良も含まれる)。その結果は再び公開される
• 活動そのものは原則無報酬
• 仲間(=同僚=peer)からの賞賛・尊敬が報酬
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ピア・レビュー制度の有無が
オープンソース活動と学問研究を分ける
 学問研究にはピア・レビュー制度があり,これが
昇進や研究費獲得などと結びついている
 ピア・レビュー=同じ分野の専門家(同業者)が
論文を評価する
 ピア・レビューは歴史的には意味があった。
王侯貴族や宗教の,学問への影響を排除する
ための制度として機能。
しかし最近は批判が相次ぐ
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同業者だけの評価はブレーキのない車
 医師,法律家,技術者,作家,芸術家,といった
専門的職業の人々は,同業者ではない一般の
生活者に仕事を評価される。
 科学者だけは,科学者共同体内部の同業者だけに
向けて成果を発表し,評価を求めてきた。
それは「ブレーキのない車」に等しい
[村上陽一郎,『科学者とは何か』,新潮社,1994年]
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「社会に開かれた」科学へ
• 「自律した」科学→「社会に開かれた」科学
=「国家や産業のミッションを託された」科学
=社会の誰もが科学技術の利害関係者
• 科学技術について誰が考え決めるのか
科学者・技術者のコミュニティ内
→科学者・技術者と市民の公共的討議のなか
• 「媒介の専門家」の養成が急務
中島秀人,『日本の科学/技術はどこへ行くのか』,岩波書店,2006年
鷲田清一,『日本経済新聞』,2006年2月26日付
小林傳司,『誰が科学技術について考えるのか』,名古屋大学出版会,2004年
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大学というビジネスモデルは
Web 2.0時代に成り立つか
• 「大学というビジネスモデルはもう今までのような形
では成り立たない」(茂木)
• 「大学でイヤイヤ教室に来る学生と付き合っている
時間はない。
大学の講義準備に使うエネルギーがあったら,同じ
エネルギーを使ってウェブに向かってブログを書く。
大学の講義室に来る学生よりはるかに大勢の人が
ブログを見に来る。
そこで多方向にやりとりされる知的活動のほうが
質量ともに,大学の教室での活動より優れている
(梅田)
• 梅田望夫/茂木健一郎著『フューチュリスト宣言』,ちくま新
書,2007年
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実空間と実時間を共有しなければ
ならない知的活動とは何か
• このとき,実空間と実時間を共有しなければ
果たせない知的活動とは何か。
これを徹底的に考え抜き,実世界とウェブ
世界の補完関係を創るのに成功した大学,
こういう大学だけが生き残ることになるだろう
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