第3章 統計的推定 (その2) 統計学 2006年度 <修正・補足版> Ⅰ 標本分布 a) 母集団と標本 1) 標本調査の利点 2) 標本調査における誤差 b) 標本平均の標本分布 c) 標本分散の標本分布 Ⅱ 点推定 (その1) a) 点推定 b) 統計量の特性 1) 2) 不偏性 その他の統計量特性 Ⅲ 区間推定 a) 母平均の区間推定 1) 2) 3) 4) 中心極限定理 信頼区間 母分散が既知の場合の区間推定 母分散が未知の場合の区間推定 b) 母比率の区間推定 1) 2) 標本比率の標本分布 母比率の区間推定 c) 標本数の決定 1) 2) 母平均の区間推定における標本数の決定 母比率の区間推定における標本数の決定 (その2) Ⅲ 区間推定 • 点推定で母数θをピタリと推定することは難しい。そのため、 標本統計量tの近くの区間を設定し、その区間内に母数θが 含まれることを推定する。これを区間推定という。 a) 母平均の区間推定 1) 中心極限定理 • x の標本分布について、 E(x ) N n 2 V( x ) N 1 n が成り立っていた。また、母集団の個体数(N)が十分大きいとき、 V( x ) が成り立つ 2 n 次に、標本平均 x の分布がどのような形になるのか考えてみよう。 ⅰ) 母集団の分布が正規分布の場合 母集団が平均μ、分散σ2の正規分布にしたがっているとする。 標本平均 x は n x x xn x 1 2 n x i 1 i n であり、正規分布にしたがう変数の和(をnという定数で割ったもの)と なっている。 したがって、正規分布の再生性†より、 x は正規分布にしたがう。 † 確率変数XとYがそれぞれN(μx,σ2x), N(μy,σ2y) にしたがうとき、その1次結 合α X+βY はN(αμx+βμy,α2σ2x+β2σ2y )にしたがう。これを正規分布の再生性と いう。 ⅱ) 母集団の分布が正規分布ではない場合 母集団の分布が正規分布でない場合でも、標本の個体数 n が大きいと き、次のような定理によって標本平均 x の分布は正規分布となる。 <中心極限定理> 算術平均μ, 分散σ2をもつ母集団からとられた大きさ n の標 本の平均 の分布は、母集団の分布がどのようなもので x あっても、 n が大きくなるとき、正規分布 N(μ, )に近づく。 2 n ※ 以上ⅰ),ⅱ) より、nが大きい時には母集団の分布にかかわらず、標 本平均 x の分布は正規分布となり、標準化された変数 x n の分布は、標準正規分布 N(0, 1) に近づく。 z 2) 信頼区間 標準正規分布にしたがう変数が、-1.96と1.96の間の値をとる確率は 95%である。よって、 z x はnが大きいときには、中心極限定理によ n り標準正規分布にしたがうので、 P(1.96 x 1.96) 0.95 n となる。この式のカッコ内を変形すると 1.96 x 1.96 n となり、標本平均 x は 1.96 n n の区間内に95%の確率で含まれる。 x の分布 標準化 z 1.96 また P(1.96 n μ 1.96 zの分布 x n -1.96 0 1.96 n x 1.96) 0.95 のカッコ内は次のようにも変形できる。 n 1.96 x 1.96 1.96 x 1.96 n n n 1.96 x 1.96 x 1.96 n n x 1.96 n n 1.96 n x 1.96 n と x 1.96 n x 1.96 なことを意味している。 1.96 n x 1.96 × μ 1.96 × x n n x 1.96 × n n は次のよう x を中心に、 x 1.96 という区間を考えると、とりうる標本のうち95% n がこの区間内に母平均μを含む。 • このように母数が含まれると考えられる区間を信頼区間とい い、その区間に母数が入ると信頼できる程度を信頼係数と いう。 • この場合、 ( x 1.96 区間である。 n , x 1.96 n ) はμの信頼係数95%の信頼 3) 母分散が既知の場合の区間推定 (例) 20歳男性の身長を調べるために、100人を標本として選 んだところ、標本平均 x =170であった。σ=8であるとき、母 平均μの95%信頼区間を求めよ。 (解) μの95%信頼区間は ( x 1.96 n , x 1.96 n ) 8 8 ,170 1.96 ) 100 100 (170 1.568,170 1.568) (170 1.96 (169.43,171.57) となる。 4) 母分散が未知の場合の区間推定 母集団(大きさ N) 標本(大きさ n) 信頼区間を求める場合、 z × × × × × × × いる。しかし、母平均の推 × × × が標準正規分布 にしたがうという性質を用 × × x n 標本平均 x 定をおこなう場合に、母分 標本分散 s2 散σ2が分かっているという ことは、あまり多くない。 母平均 μ 母分散 σ2 母分散σ2がわからないとき、代わりに標本分散s2を用いる。 このとき、 t x が自由度n-1のt分布にしたがう。 s / n 1 正規分布とt分布 0.45 0.40 0.35 0.30 normal t1 t5 t10 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 -3.00 -2.00 -1.00 0.00 1.00 2.00 3.00 ※ t分布は標準正規分布を上からつぶしたような、左右対称の形をしている。 自由度が小さいほどつぶれ具合が大きく、自由度が大きいほど標準正規 分布に近くなっている。 ※ 標本分散s2の代わりに標本不偏分散 2 ( x1 x ) 2 ( x2 x ) 2 ( xn x ) 2 ( xi x ) sˆ n 1 n 1 2 を用いれば、 t x が自由度n-1のt分布にしたがう。 sˆ / n <自由度について> 自由度とは、自由に値を取ることのできる個体数のこと である。 この場合は、t統計量の自由度は標本分散 s2 の分子に 含まれる xi のうち、自由に値を取ることのできる個数で n ある。 2 ( x x ) ( x2 x ) ( x n x ) s2 1 n 2 2 2 (x x) i 1 i n なので、x1, …, xn-1 は自由に値をとることができるが、xn は x n i x を満たすように決められ、自由度はn-1となる。 • 母集団の分散が分からないとき、母平均μの95%信頼区 間は、t分布の95%点をt0.95とあらわすと、 ( x t0.95 s s , x t0.95 ) n 1 n 1 となる。 t0.95はt分布表からその値を求める。 x ※ より正確には、母集団の分布が正規分布にしたがうとき、t s / n 1 が自由度n-1のt分布にしたがう。 しかし、母集団の分布が正規分布にしたがわない場合でも、標本の 大きさがある程度大きければ、 t x は近似的に自由度n-1 s / n 1 のt分布にしたがうとみなせる。 また、nが十分大きい場合、t分布は正規分布に近づくので、t x が正規分布にしたがうと考えることもある。 s / n 1 (例) 20歳女性の身長を調べるために、10人を標本として選ん だところ、標本平均 x =160であった。s=9であるとき、母平 均μの95%信頼区間を求めよ。 (解) 自由度10-1=9のt分布のt0.95=2.262なので、 μの95%信 頼区間は s s , x t0.95 ) n 1 n 1 9 9 (160 2.262 , 160 2.262 ) 10 1 10 1 (160 2.262 3, 160 2.262 3) (160 6.79,160 6.79) (153.21,166.79) ( x t0.95 となる。 b) 母比率の区間推定 1) 標本比率の標本分布 母集団(大きさ N) × 標本(大きさ n) × × × × × × × × × × × 母比率 p 標本比率 pˆ まず、標本比率 pˆ の標本 分布を考えよう。 内閣支持率を例にとると、 標本比率 pˆ とは、標本n 人のうちのx人が「内閣を 支持する」と答えた割合 であり、 pˆ x である。 n よって pˆ の標本分布を考えるためには、まずxの標本分布を 考えればよい。 • 標本として選ばれた人の答えは、それぞれ「内閣を支持す る」か「内閣を支持しない」かのいずれである。 また選ばれた人が 「内閣を支持する」人である確率は、母 比率pに等しい。 よって、n人の標本を選ぶことは、AかBかという2つの結果し か起こらない試行 をn回繰り返すこととみなすことができ、 「内閣を支持する」人の人数xは2項分布にしたがう。 • 2項分布の期待値は E(x) = np、分散は V(x) = npq である ので、これを用いて、 pˆ の平均、分散を考えてみると、 x E ( x) np ˆ E ( p) E ( ) p n n n x V ( x) npq pq V ( pˆ ) V ( ) 2 2 n n n n となる。 • また、「内閣を支持する」人を1、「内閣を支持しない」人を0と 表すことを考える。n人の標本の中に「内閣を支持する」人は をx人含まれるので、このようにあらわした場合、 pˆ x n は大 きさnの標本の平均とみなすことができ、中心極限定理が適 用できる。 pq の正規分布にしたがう。 n よって、 pˆ の分布は、平均p、分散 標準化された変数 z pˆ p は標準正規分布にしたがう。 pq n 2) 母比率の区間推定 z pˆ p pq n が標準正規分布にしたがうことから、母比率pの 95%信頼区間は pq pq , pˆ 1.96 ) n n ( pˆ 1.96 となる。 (例) World Baseball Classic 決勝 日本-キューバ戦の視聴率は43.4% であった。この数値は関東地区の約1600万世帯から600世帯をサンプ ルとして選んだ結果である。このデータから、関東地区全世帯の視聴率 の95%信頼区間を求めよう。 (解) pの代わりに pˆ を用いてpの95%信頼区間を計算すると ( pˆ 1.96 (0.434 1.96 pq pq , pˆ 1.96 ) n n 0.434 0.566 0.434 0.566 ,0.434 1.96 ) 600 600 (0.434 0.040,0.434 0.040) (0.394,0.474) となる。 c) 標本数の決定 WBC決勝戦の視聴率を信頼係数95%で区間推定すると、8%もの幅が できる。そのため、1%ぐらいの差で、勝った負けたを考えるのはナンセン スである。 では、視聴率調査の精度を高めるには、推定量の一致性から標本数を 増やすことが考えられる。しかし、標本数を増やすことはコストの増加を 意味している。よって、目標となる精度(どの程度のズレまで許容できる か)を設定し、それに必要な標本数を計算する必要がある。 1) 母平均の推定における標本数の決定 | x | の許容限度を E とする。 の区間推定を信頼係数 95% でおこなうとき、 x の分布について、 | x | 1.96 n が成り立つので、 | x | 1.96 n E となればよい。よって 1.96 n 1.96 E E n 1.96 n E 2 となり、 1.96 n E 2 が必要標本数であることが分かる。 これを求めるために、母標準偏差σが必要となるが、標本数を決定すると いうことは、データ収集をおこなう前のことであり通常はわからない。その ため、過去の経験などからσ2 の推定値を求め、それを利用する。 (例) ある大都市の大学生の1ヶ月平均生活費を1000円以内の誤差で推 定するという問題を考える。ただし、母集団の標準偏差は8000円であっ たと見当がつけられているとする。 (解) 信頼係数を95%とすると、必要標本数は 1.96 8000 2 n (15.68) 245.8624 1000 2 となるので、246人となる。 2) 母比率の推定における標本数の決定 | pˆ p | の許容限度を E とする。 pの区間推定を信頼係数 95% でおこなうとき、 pˆ の分布について、 が成り立つので、 | pˆ p | 1.96 pq n | pˆ p | 1.96 pq E n となればよい。よって 1.96 pq E n 1.96 pq n E 2 1.96 pq n E となり、 2 1.96 n pq E が必要標本数であることが分かる。 これを求めるために、母比率pが必要となる。Pについて何らかの見当が つくなら、その数値を用いるが、pについて何の情報もない場合には p 1 2 1 を用いる。なぜなら、 p q のときに、pqが最大となるからである。 2 (例) 視聴率調査において、1%以内の誤差で推定するために必要な標本 数を求めよ。 (解) 信頼係数を95%とする。また、母比率についてはあらゆる可能性が考 えられるので、 p 1 とすると、必要標本数は 2 2 1 1.96 1 1 2 n (196) 9604 4 0.01 2 2 となるので、9604人となる。
© Copyright 2025 ExpyDoc