期待効用, プロスペクト理論, 行動経済学(1) 確率という未来の道標

2015/4/15
確率という未来の道標
期待効用,
プロスペクト理論,
行動経済学(1)
• 大昔から不確実性,確からしさ,尤もらしさと
いう概念は存在していた
• 語源はラテン語のprobabilis、最初は法廷など
で証拠の強さ、確からしさの度合いの意味を表
していた
o ちなみに日本語の“確率”という訳は20世紀初頭
~期待値からAllaisのパラドクスまで~
• 確率(probability)という数学的な概念になった
のは17世紀あたりから
パッチョリの問題
色々な考え方
• 先に6勝した方が賭け金を全額得るという,というゲーム
を2名でやっているとする
• ある事情で,Aが5勝,Bが3勝したところで中止になって
しまった
• 賭け金はどのように分配したらよいだろう?
• 5勝3敗なのだから、5対3がいい
(パッチョリという人の答え)
• 6対1がいい
(カルダノという人の答え,根拠はよく分からない)
• 確率的に考えて,7対1がいい
(パスカルという人の答え)
A
勝
勝
勝
勝
勝
勝
勝
勝
勝
勝
勝
勝
B
パスカルの答え
• ゲームが続いたと考えて,最終的に2人が勝つ確率がど
の程度になるかを考えよう
• 最終的な決着パターン
パスカルの答え
• Aが最終的に勝つ確率:7
7/8
o Aが次に勝つ=1/2
o Bが次に勝って,その次にAが勝つ= 1/2×1/2=1/4
o Bが2連勝した後,その次にAが勝つ= 1/2×1/2×1/2=1/8
• Bが最終的に勝つ確率:1/8
• Aが最終的に勝利
o Aが次に勝つ
o Bが次に勝って,その次にAが勝つ
o Bが2連勝した後,その次にAが勝つ
o Bが3連勝= 1/2×1/2×1/2=1/8
• 確率の比で考えると7:1なので,賭け金もこの配分にすべし
• Bが最終的に勝利
o Bが3連勝
1
2015/4/15
期待値という考え方
• 確率と確率変数の積の総和をとる
=∑
o 例えば,サイコロの目の期待値は,
1×1/6+2×1/6+3×1/6+4×1/6+5×1/6+6×1/6
=(1+2+3+4+5+6) ×1/6=21/6=3.5
o 偏りのないコインを投げて,表が出たら1000円,裏
が出たら500円貰える賭けの期待値は
1000×1/2+500×1/2=750円
聖ペテルズブルグの
パラドクス
• 偏りのないコインを何回も投げる。もし一度目に表
が出たら、200円もらえる。もし一度目が裏で、二
度目で初めて表が出たら、400円もらえる。もし一
度目も二度目も裏で、三度目で初めて表が出たら、
800円もらえる。つまり、n度目で初めて表が出たと
き、200×2n-1円もらえる。あなたはこのゲームに
対してどのくらいまで参加費を払っていいと思う
か?
ダニエル・ベルヌイ
の答え
• 期待効用という考え方
=∑
o 結果の大きさそのものではなく,その結果から見出
す物事の良さを指標とする,その良さを効用と呼ぶ,
効用に確率を掛けた期待値が期待効用
o 金額の大きさを適切に変換する関数(効用関数)を設定
し,その関数に従って物事を決める
o 例えば,聖ぺテルスブルグのパラドクスも,効用関
数として対数(log (金額))をとると,現実的な答えに
なる
便利であることは確か
• 期待値が高い選択をすべきという議論は
非常に説得的
o 偏りのないコインを投げて,表が出たら2000円貰え,裏
が出たら1000円失うという賭けを,400円払ったら出来
るとする.この賭けには乗った方がいいか?
o 期待値は2000×1/2+(-1000)×1/2=500円
o 期待値で考えれば,乗った方が得になる
しかし・・・・・
答え:∞円払ってもいい
• 1回目で終わる場合:1/2×200=100
• 2回目で終わる場合:1/2×1/2×400=100
• 3回目で終わる場合:1/23×200×23=100
・・・・・・
• ⇒期待値はこのまま無限に足し合わせた値なので,総和
は∞円になる
• この答えは変
対数をとると
• 1回目で終わる場合:1/2×200=100
• 2回目で終わる場合:1/2×1/2×400=100
• 3回目で終わる場合:1/23×200×23=100
・・・・・・
• ⇒期待値はこのまま無限に足し合わせた値なので,総和
は∞円になる
• 期待値だけに従って行動を決めると変なことになる
2
2015/4/15
10
対数をとると
9
• 1回目で終わる場合:1/2×log200=2.7
• 2回目で終わる場合:1/2×1/2×log400=1.5
• 3回目で終わる場合:1/23×log800=0.8
・・・・・・
8
7
6
o 期待値をこのまま無限に足し合わせても有限
5
4
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
ちなみに,対数のグラフ
ここで1つ注意
期待効用理論
• 選択から効用を作るための条件
• 不確実性を含む意思決定の結果から基数的な尺度が構成されるため
には,選択
選択が下の4つの性質を満たさなければならない
選択
o 完備性:好き嫌いをはっきりしなければいけない
o 推移性:堂々巡りになってはいけない
o 独立性:関係ないものを気にしてはいけない
o 連続性:穴があってはいけない
• 効用関数が対数でなければいけない理由はどこにもない,
対数で効用を表現すれば聖ぺテルスブルグのパラドクスを
解決できることがあるというだけである
• ポイントは飽くまで期待値だけで考えると不都合が多いの
で,より一般的な効用関数を考えよう,ということ
=∑
o " ≻ "⇒"
Von Neumannと
Oscar Morgenstern
• 期待効用,あるいは効用関数というものを設定するのが
よいというのがBernouliの答え
• しかし効用関数がどのようなものであるべきかという問
題はその後しばらくほっておかれた
• 20世紀になってVon NeumannとOscar Morgenstern
がゲーム理論を考えるにあたり,効用というものが満た
すべき数学的性質について何の整理も与えられていない
ことに気が付いた
• そこでいくつかの公理からなる期待効用理論を考えた
• その公理は,決定者の選択が期待効用という数に従って
いるときに満たしている条件を特定するものであった
"
Allaisのパラドクスと
Ellsbergのパラドクス
•
•
•
期待効用もうまくいかない
独立性からの逸脱
独立性の公理:期待効用理論の重要な公理の1つ
o P≻Qならば,任意の確率pに対してpP+(1-p)R ≻pQ+(1-p)Rである
o まったく同じものが加わったならば,好みの関係は一緒でなければならない
R
P
R
Q
Q
P
3
2015/4/15
Allaisのパラドクス
Allaisのパラドクス
次の二つのうち,どちらがいい?
① 確率1で1000万
② 確率0.89で1000万,確率0.10で5000万,
確率0.01で0
次の二つのうち,どちらがいい?
① 確率0.11で1000万, 確率0.89で0
② 確率0.10で5000万,確率0.90で0
Allaisこぼればなし
種明かし
• 一般的に最初だと①,2番目だと②が好まれる
• しかし,これは矛盾した選好:
2番目の問題は,1番目の問題から0.89で1000万を引いた
ものに過ぎない
• 1988年ノーベル経済学賞受賞
• とある学会でAllaisのパラドクスを経済学者に仕掛けて
みた
• L. J. Savageはひっかかかった
R
R
Q
• M. Friedman(1976年ノーベル経済学賞受賞)は引っかか
らなかった
• 恐らくSavageが予めチクった
P
P
Q
(W. Poundstone 「プライスレス」より)
Ellsbergのパラドクス
• 赤が当たりの賭けと緑が当たりの賭け,どちらがいいで
すか?
• 赤い玉が30個,黄色い玉と緑の球が合わせて60個入っている
袋があります。この袋から引いた球の色で当たり外れが決ま
る賭けをするとします。
30個
合わせて60個
4
2015/4/15
• 赤か黄色が当たりの賭けと緑か黄色が当たりの賭け,ど
ちらがいいですか?
種明かし
• 言うまでもなく
Ellsbergこぼれ話
• ランド研究所に所属
• ペンタゴン・ペーパーズ事件でも著名
• インドネシア・ベトナムに対するアメリカの方針に関す
る内部文書を暴露、反逆罪で告発される
• その後も平和運動・反核運動を続ける
5