非特異性腰痛に対して TENSと温熱療法の同時施行が奏功した一症例

非特異性腰痛に対して TENSと温熱療法の同時施行が奏功した一症例
前田貴哉 1,2,平山優子 1,太田真理子 1,五十嵐林郷 1,吉田英樹 2
1 医療法人整友会弘前記念病院、2 弘前大学大学院保健学研究科
キーワード;非特異性腰痛・TENS・温熱療法
【目的】
非特異性腰痛に対する経皮的電気神経刺激療法(
T
E
N
S
)
や
温熱療法などの物理用法は良い適応であり,臨床でも頻
繁に用いられている.近年,T
E
N
Sと温熱療法を組み合わ
せた治療法が注目されており,非特異性腰痛を有する患
者に対して T
E
N
Sを単独施行した場合と温熱療法と併用
して施行した場合の鎮痛効果を比較することができたの
で報告する.
【方法】
性別:
女性 年齢:
2
7歳 職業:
家事手伝い
疾患名:
右股関節唇損傷
現病歴:
平成 2
1年頃より右股関節痛有り.平成 2
6年 1
月当院初診,M
R
Iにて右股関節唇損傷を認め,同年 3月
に右寛骨臼回転骨切り術施行,翌日より理学療法開始.
同年 7月に退院となるが,その後より特に誘引なく両側
の上後腸骨棘周囲に疼痛出現.画像所見上は特記事項な
く,同年 8月に外来リハビリテーションの処方あり,理
学療法再開となる.
患者に対して以下に述べる 2つの介入を 1週間の間隔を
空けて実施した.
<介入 1
:T
E
N
S単独施行>
患者は腹臥位となり,疼痛部位を挟むように電極を貼付
した後に 1
5分間の T
E
N
Sを施行した.
<介入 2
:T
E
N
S及びホットパック同時施行>
患者は腹臥位となり,疼痛部位を挟むように電極を貼付
した後にホットパックを同部位に設置し,
同時に 1
5分間
のT
E
N
Sを施行した.
T
E
N
Sには T
r
i
o
3
0
0
(
伊藤超短波)
を使用し,刺激パラメー
ターは T
E
N
Sモード,M
O
D
,パルス持続時間は 2
0
0
μs
e
c
,
刺激周波数は 5
0
H
z
,刺激強度は患者が耐えうる最大強度
とした.電極はアルコール綿にて皮膚を清拭し,十分に
乾燥させてから貼付した.ホットパックは H
Y
D
R
O
P
A
C
M
E
L
P
X
1
5
1
(
O
GG
I
K
E
N
)
を槽内温度 8
0度に設定して使用した.
各介入前後における疼痛を V
i
s
u
a
la
n
a
l
o
gs
c
a
l
e
(
以下,
V
A
S
)
,N
u
m
e
r
i
cr
a
t
i
n
gs
c
a
l
e
(
以下,N
R
S
)
を用いて評価,
比較した.また,介入 1及び 2における刺激強度につい
ても比較した.
【倫理的配慮】
本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行われた.対象者の
個人情報の保護には十分留意し,対象者には十分に説明
を行い,同意を得た上で施行した.
【結果】
介入 1において V
A
Sは介入前 6
3㎜,介入後 3
6㎜, N
R
S
は介入前 7
,介入後は 4
,刺激強度は 2
3
m
Aであった.介
入2におけるV
A
Sは介入前7
7㎜,
介入後は1
9㎜,N
R
S
8
,
介入後は 3
,刺激強度は 2
6
m
Aであった.
【考察】
腰痛を有する患者に対してホットパックを併用した場合
と併用しない場合のT
E
N
Sの鎮痛効果をV
A
SとN
R
Sを用い
て比較した.
最近の報告では高強度での T
E
N
Sは低強度の
T
E
N
Sより優れた鎮痛効果があることが報告されており,
本症例でもホットパックを併用した場合は T
E
N
S単独よ
りも高強度の刺激が可能であり,かつ鎮痛効果も大きい
という結果であった.ホットパックの併用条件では刺激
強度をより強くすることができたが,これはホットパッ
クによる皮膚温の上昇に伴って皮膚インピーダンスが低
下した結果,刺激強度をより強くすることができたので
はないかと推察する.また,一般的に T
E
N
Sにおける鎮痛
効果を説明するメカニズムとしてゲートコントロール理
論と内因性疼痛抑制機構が挙げられる.
今回は T
E
N
Sとホ
ットパックの同時施行であることから,ホットパックに
よる温熱刺激により,T
E
N
S自体の電気刺激に対してゲー
トコントロール理論に基づいた疼痛軽減効果が生じたこ
とも推察される.
【まとめ】
・本症例では非特異性腰痛に対して T
E
N
S単独で施行した
場合と,T
E
N
Sとホットパックを併用した場合での鎮痛効
果を比較,検討した.
・T
E
N
S単独で施行した場合と比較して,ホットパックを
併用した場合には刺激強度の増大と鎮痛効果の向上が認
められた.
・今後は更に症例数を増やし,T
E
N
Sにおける鎮痛効果に
関する臨床応用を含めた検証を進めていく.