端坐位からの立ち上がり動作における JERK最小モデルを用いた身体

端坐位からの立ち上がり動作における JERK最小モデルを用いた身体重心推定位置の
軌跡の算出に必要な経由点の検討
伊藤
翼 1,対馬 栄輝 1,石田 水里 2
1 弘前大学大学院保健学研究科,2 鳴海病院リハビリテーション部
キーワード;立ち上がり動作・JERK最小モデル・身体重心推定位置
【目的】理学療法では端坐位からの立ち上がり動作(立
ち上がり動作)の練習を行う機会は多いが,獲得が困難
な例も多い.
これには単純な関節運動機能だけではなく,
筋活動のタイミングや適切な筋出力,
つまり運動協調性
に問題があると考える.運動協調性と動きの軌跡の滑ら
かさには相関関係があり,滑らかであれば効率良く動い
ていると判断できる.
滑らかさは加速度の変化量
(つまり
躍度)で測ることができる.
F
l
a
s
hと H
o
g
a
n
(1
9
8
5
)により考案された J
E
R
K最小モ
デル(J
E
R
Kモデル)とは,上肢運動の協調性を測定して
加速度変化量が最小となる軌跡を求める方法である.こ
れを立ち上がり動作における,身体重心推定位置(重心)
軌跡の滑らかさの測定に応用し,動作の効率性を捉えた
い.ところが,その計算のためには動作開始時と終了時
の位置だけではなく経由点も指定しなければならない.
この経由点は不明であるため,どの動作時期が経由点と
してふさわしいか決定することが目的である.
【方法】対象は健常男性 1
0人(平均年齢 2
1
.
8
±3
.
0歳)
とした.対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,実験内容
を説明し,同意を得た.
立ち上がり動作は,被験者を座面の高さを変更できる
ティルトテーブル上に端坐位とさせ,動作開始から終了
まで 2秒間かけて行わせた.開始姿勢は,大腿を床面に
対して平行に,下腿を床面に対して垂直にし,殿部の奥
行きは大腿中点と座面端が一致するようにし,両上肢を
胸の前で組んだ状態とした.立ち上がり動作は 3回ずつ
行わせた.
被験者のボールを蹴る側の下肢と反対側の,上半身重
心(剣状突起の高さの体幹側面)
・下半身重心(大腿部中
上2
/
3点と 1
/
2点間)
・大腿骨外側顆・大転子・肩峰にマ
ーカーを貼った.マーカー貼付側の矢状面から,立ち上
がり動作をデジタルカメラにて撮影した.カメラは床面
に対して水平に,被験者から 2
m離して設置した.背もた
れと座面にはスイッチを設置し,動作開始と離殿の瞬間
を記録した.
撮影した動画より,動作開始から終了までのマーカー
の位置を 1
/
3
0秒ごとに計測した.
その後,
重心の位置
(上
半身重心と下半身重心の中点)も求めた.
次に,J
E
R
Kモデルを用いて,加速度変化量が最小とな
る軌跡を求めた.その際に経由点として,離殿時または
体幹伸展開始時の 1点を経由点とした場合,離殿時と足
関節最大背屈時の 2点を経由点とした場合,の 3条件の
J
E
R
Kモデルを算出した.
実際の重心軌跡とこれらの J
E
R
K
モデルが,どれだけ一致しているかを比較した.
【結果】経由点を離殿時または体幹伸展開始時の 1点に
すると,
実際の重心移動軌跡と J
E
R
Kモデルにおける前後
方向距離の差は大きくなる者が多かった(下図左)
.それ
に対し,経由点を離殿時と足関節最大背屈時の 2点にす
ると前後方向距離の差は小さかった(下図右)
.
【考察】当初,離殿や体幹伸展開始時を基準として 2相
に分けられると考えていたので,経由点は 1点でもよい
と考えていた.しかし今回,S
c
h
e
n
k
m
a
nら(1
9
9
0
)の方
法による相分けを元に経由点を 2点にすることで,1点
にしたときよりも実際の軌跡に近い J
E
R
Kモデルの算出
が可能であった.立ち上がり動作において重心は,前後
の加速度方向が 2回大きく変化する.まず,動作開始時
から重心は前方移動を開始し,離殿前後の時期に加速度
が後方へ変化する.動作終了直前に前方への重心移動を
止めるために加速度を後方へ再度変化させる.従って,
重心の前後方向における加速度方向の大きな変化は動作
開始時を除くと理論的には 2回しか存在しないため,経
由点は 2つでよいと考える.
経由点を 3点以上にした場合,J
E
R
Kモデルは滑らかな
重心移動軌跡の評価として不適切になる.経由点は運動
特徴を表す時点に最小限に留める必要がある(猪狩
ら,
2
0
1
3
).また,立ち上がり時の重心軌跡に比較的似た
U字や C字,S字の軌跡では,経由点を 2つ指定すると運
動軌跡がよく再現される(池上ら,
2
0
0
8
;猪狩ら,
2
0
1
3
)
という報告も存在することから,経由点は 2点が最適と
考える.