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社会不安者に対するビデオフィードバックと
他者からのフィードバックの併用効果
○金井嘉宏 佐々木晶子 岩永 誠 (広島大学大学院総合科学研究科)
Key words: 社会不安,認知行動療法,認知の歪み VF+FO群は1回目のスピーチを録画したビデオをみた後,聞
き手による評価(実験者が事前に準備した得点)を提示され
た。VF 群は1回目のスピーチを録画したビデオをみた。FO
群は聞き手による評価(実験者が事前に準備した得点)を提
示された。統制群は,他者がスピーチしている様子を録画し
たビデオをみた。介入後,再び大学生活に関する2分間のス
ピーチを行った。
【結果と考察】
認知の歪みに対する介入の効果 生理的反応が他者に気づ
かれるのではないかと考える程度と,生理的反応について他
者から否定的に評価されるのではないかと考える程度のそれ
ぞれについて,群による効果の違いを比較するために,①2
回目のスピーチ前の得点から1回目のスピーチ前の得点を引
いた値,②2回目のスピーチ中の得点から1回目のスピーチ
中の得点を引いた値を算出した。群と時期(スピーチ前,ス
ピーチ中)を要因とする分散分析を行ったところ,いずれの
歪みに関しても同様の結果が得られた(Figure 1)。生理的反
応について他者から否定的に評価されるのではないかと考え
る程度については,群と時期の主効果が有意(群: F (3, 55) =
4.06, p < .05; 時期: F (1, 55) = 16.58, p < .01),交互作用は有意
ではなかった。Tukey 法による多重比較の結果,VF+FO 群は
統制群に比べて得点の減少幅が大きいことが示された。時期
に関しては,スピーチ中の方が得点の減少幅が大きかった。
状態不安に対する介入の効果 スピーチ前とスピーチ中の
不安に関して,群と時期(介入前,介入後)を要因とする分
散分析を行ったところ,時期の主効果は有意であり(スピー
チ前: F (1, 56) = 56.53, p < .01; スピーチ中: F (1, 56) = 24.43, p
< .01),介入を行った後の方が不安が減弱していた。一方,群
の主効果や交互作用は有意でなかった。したがって,ビデオ
フィードバックと他者からのフィードバックの併用は,生理
的反応に対する認知の歪みを修正する点において,各技法を
単独で行うより場合も効果的であるが,状態不安に及ぼす効
果に関しては統制群との間に違いはみられなかった。
(KANAI Yoshihiro, SASAKI Shoko, IWANAGA Makoto)
V F+FO
VF
FO
C ontrol
15
10
Change of FNE score
社会不安者は手や声の震え,発汗といった生理的反応が他
者に気づかれる程度を過大に評価したり(McEwan & Devins,
1983)
,
生理的反応を示すことが他者からの否定的評価に結び
つくのではないかと考えることによって,不安が維持される
ことが示されている(Roth et al., 2001)。生理的反応に対す
る認知の歪みを修正する治療技法としてビデオフィードバッ
クが提案され(e.g., Clark & Wells, 1995),その効果が実証さ
れている(金井,2008)。ビデオフィードバック(VF)は,社
会不安者が振る舞っているところをビデオに録画して患者に
見せ,患者が思っているほど生理的反応は見えないことに気
づかせるのに有効である。V F は,社会不安者が自分のパ
フォーマンスを過小評価してしまう傾向を修正するのに有効
であることは明らかにされているが(e.g., Rapee & Hayman,
1996)
,
不安反応への効果はフィードバックを行わない統制群
と違いがみられないことが示されている。そこで Rapee &
Hayman (1996)や Hirsh & Clark (2007)は,VF に他者からの
フィードバックを追加することを提案している。他者からの
フィードバックは,社会不安者の生理的反応について他者が
否定的な評価をしているわけではないことを伝えることが可
能である。金井(2008)は VF と他者からのフィードバック
を併用することによって,生理的反応に対する認知の歪みだ
けではなく,社会的場面に対する予期不安も減弱することを
明らかにした。しかしながら,金井(2008)では,VF と他者
からのフィードバックを併用した群と,フィードバックを行
わない統制群の比較のみを行っており,得られた群間の違い
は,他者からのフィードバックのみを行ってもみられる可能
性がある。そこで本研究では,VFと他者からのフィードバッ
クを併用した場合と,それぞれを単独で行う場合の効果を比
較することを目的とした。
【方 法】
実験参加者 Social Phobia Scale 日本語版(金井他,2004)
を用いて抽出された社会不安の強い大学生 60 名(男性 16 名,
女性 44 名,平均年齢 19.0 ± 0.82 歳)。実験参加者を次の4群
に無作為に割り付けた: VFと他者からのフィードバックを行
う群(VF+FO 群,15 名),VF のみを行う群(VF 群,15 名),
他者からのフィードバックのみを行う群(FO 群,14 名),
フィードバックを行わない群(統制群,16 名)。
測定指標 (1)Cognition of Bodily Sensations in social
situations scale(金井,2008):7つの生理的反応に対する認
知の歪みを測定する尺度。7つの生理的反応は,赤面する,手
や顔に汗をかく,顔が緊張する,声が震える,手足が震える,
あたまが真っ白になる,心臓がドキドキする,であった。生
理的反応に対する認知は,①生理的反応が他者に気づかれる
のではないかと考える程度(まったく思わない:1∼非常に
強く思う:7),②生理的反応について他者から否定的に思わ
れるのではないかと考える程度(まったく思わない:1∼非
常に強く思う:7)の2側面であった。各側面について7つ
の反応に対する評定値を合計した。
(2)状態不安:0(まっ
たく不安を感じない)∼ 100(非常に強い不安を感じる)。
手続き 大学生活に対する2分間のスピーチを1名の聞き
手の前で行った後,それぞれの群に対する介入を行った。
㸫292㸫
5
0
-5
-10
-15
-20
Before speeches
During speeches
Figure 1. FNE得点の変化. Note. FNE = Fear of negative
evaluation; VF: Video feedback; FO: Feedback from others.