技術者が見たあの頃(と今) 34 清掃工場余熱利用推進化調査(その2) JFEエンジニアリング株式会社 小林 正自郎 今回は前回に引き続き、清掃工場余熱利用推進化調査(その2)として、同調査の後 半に行なわれたごみ発電の高効率化を取り上げてみる。20 年前に行なわれた調査での 見通しどおり高効率化は進展しただろうか。 1 調査の背景、主旨 28 回の本稿でも紹介したが、我が国における本格的なごみ発電が昭和 40 年に大阪市 の旧西淀工場で始められ、東京都でも昭和 44 年の練馬(石神井)清掃工場、世田谷清 掃工場から始められたが、当初は電力会社送電網への逆送が認められず、場内の電力消 費量に見合う規模の発電をしたに過ぎなかった。 その後、オイルショックを契機として省エネルギーや余熱利用への関心が高まり、国 の後押しもあり、昭和50年4月から逆送、昭和51年4月から電力会社への売電が可能にな った。 平成元年頃には、ごみ発電が安定した電力源として実績を積み、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)においてもごみ発電の高効率化へ向けた取り組 みが行なわれるようになった。 このため、清掃工場余熱利用推進化調査でも高効率発電が主なテーマの一つとされた。 同調査では、平成元年度の東京 23 区内の全清掃工場年平均発電端効率は 6.2%、最 も高い旧江東清掃工場でさえ 11.4%で当時の火力発電所の 3 割程度であるとした。 当時最も新しい工場では、大田清掃工場(平成 2 年竣工)、目黒清掃工場(平成 3 年 竣工)で、タービン入口蒸気 300℃30ata(ata:絶対圧力) 、タービン排気圧力 0.25ata (1ata の大気圧より低い)が採用され、それでも基準ごみ 2400kcal/kg を用いて発電 端効率は 13%程度であり、 更に高効率化が図れないかというのが調査の主旨であった。 2 容易でない発電効率の向上 ごみ発電は、蒸気でタービン発電機を回して発電する汽力発電の一つで、燃料として 石炭や石油の代わりにごみを用いる。 ごみ発電の燃料となるごみは、燃料としては質が悪い。水分が多く低カロリーで、形 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 26(’14)年 10 月 第 71 号 1 ※無断転載禁止 状も雑多で地域、季節、天候などで性状も変わり、また、種々雑多なものや重金属類な ど有害物質も含まれている。石炭や重油と比べ、燃やすのにより多くの空気を必要とし、 高度な公害防止設備も必要となり、排ガスとともに持ち出される熱エネルギーや稼働に 要する電力などのエネルギー消費量も多い。 また、発電効率の向上には、蒸気タービン主蒸気高温・高圧化とタービン排気圧力の 低圧化が必要だが、前者では、ごみの焼却に伴い発生する塩化水素などの酸性ガスやア ルカリ塩による蒸気過熱器の金属腐食、後者では、立地や権利の関係から海水や河川水 を用いた水冷による出口蒸気の冷却ができず、発電効率向上の障害になっていた。 3 高効率発電に係る調査の概要 ここでは、平成 6 年 3 月にまとめられた清掃工場余熱利用推進化調査(その 4)※1 で提案された発電効率改善策を紹介する。図1は、基準となる現状ケースで、ダイオキ シン類対策をも考慮しバグフィルタを用いた乾式の排ガス処理を採用した清掃工場を 想定した。 図1 現状ケースの清掃工場の設備構成と排ガス温度(参考資料※1より) まず、汽力発電では次のエネルギー変換の各段階で効率向上策が考えられる。 ○焼却炉(ボイラ)で燃料の持つ化学エネルギーを水蒸気が持つ熱エネルギーへの変換。 ○蒸気タービンで蒸気の持つ熱エネルギーを機械エネルギーへの変換。 ○発電機で機械エネルギーから電力への変換。 図2に検討した改善策を示す。ア、イ は焼却炉(ボイラ)、ウ~オは蒸気ター ビンでの改善策で、元々変換効率が高 く改善の余地が少ない発電機での改善 策はなかった。 ア.ボイラ効率の改善 まず、燃焼空気比の低減化がある。 可能な限り最少の空気量でごみを燃や し熱エネルギーとして回収することで 図2 発電効率改善策(参考資料※1より) 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 26(’14)年 10 月 第 71 号 2 ※無断転載禁止 ある。空気比は、空気過剰係数とも呼ばれ燃料組成から求めた理論上必要な空気量に対 して余分に使用した空気量の過剰率を表す。小さいほど余分な空気とともに持ち去られ る熱エネルギーが減り効率が向上する。調査では、ごみの完全燃焼や高温腐食の防止面 から一定の限界があるとして改善策は上げられなかった。よって、空気比は 1.9 と固定 して検討された。 ちなみに、現在 23 区で最も規模の大きい平成 10 年竣工の新江東清掃工場(施設規模 1800t/day)の空気比 1.7 前後から見ても下がらないとしていたようである。 つぎに、排ガス温度の低減化がある。ボイラを出た排ガスはダイオキシン類の再合成 を抑止するため急冷しているが、図3のように、エコノマイザ(排ガスでボイラ給水を 加熱し熱回収)出口温度を 240℃から 200℃に下げエコノマイザでの熱回収量を増やし、 また、水噴霧減温塔の代え熱回収ボイラを設置しさらに熱回収する改善策である。) 図3 排ガス温度の低減化によるボイラ効率の改善(参考資料※1より) イ.排ガス処理の乾式化と高効率脱硝後の排熱回収 まず、排ガス処理の乾式化がある。杉並清掃工場以降、東京都は原則として、排ガス 処理に酸性ガス除去性能が高い洗煙設備による湿式を採用してきた。湿式では、バグフ ィルタ出口で 145℃の排ガス温度が、洗煙設備出口では 55℃程度まで低化するので、触 媒脱硝設備の性能確保や白煙防止用に、後段の蒸気式再加熱器で 210℃まで再加熱して いる。乾式処理では、145℃から 210℃までの再加熱で済み、蒸気使用量を節約できる。 次に高効率脱硝後の排熱回収がある。脱硝触媒が高温での除去効率が高いのを活用し て、より複雑なシステムを組むことで高価格の触媒の長寿命化と熱回効率向上を図るも のだが、システムが複雑になるのでここでは省略する。 ウ.発電サイクルの効率改善策 まず、主蒸気の高温・高圧化がある。当時 NEDO(新エネルギー・産業技術開発機構) は 550℃100ata の高効率燃焼炉の実用化へ向けた技術開発を進めていたが、本調査では、 ドイツでは主流が主蒸気 450℃から 400~430℃に移ってきていることや米国の状況か らみて主蒸気を 380~430℃、45~60ata を目指すこととされた。 次に、タービン排気真空度の改善がある。下水や海水の活用ができれば 0.05ata 程度 まで下げられるが、できない場合には、0.15~0.25ata が限度であるとされた。 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 26(’14)年 10 月 第 71 号 3 ※無断転載禁止 さらに、再生サイクル化がある。この方式はタービン内部の膨張途中で蒸気の一部を 抜き出し(抽気)、ボイラの給水加熱や空気余熱に使うことで効率改善を図るもので東 京 23 区では平成 7 年 12 月竣工の有明工場から採用されている。火力発電所では 8 段程 度のものもあるが、タービン入口と出口の圧力差が小さい清掃工場では、2~3 段程度 とされた。 その他、再熱サイクルや化石燃料を用いたガスタービンとの複合発電なども検討され た。 これらは、システムが複雑になるとして今後の検討課題とされた。 図4は、段階的効率改善見通しで、 施設規模 1200t/day で基準ごみ 2400kcal/kg を焼却して、現状ケー スの 15%から段階的に効率化を進 め将来的に発電効率 25%を超える 見通しとされた。 処理規模が小さく、基準ごみカロ リーが低いほど発電端効率は下が る。 図4 段階的効率改善見通し (参考資料※1より) 白煙防止の省略なども提案され、再熱サイクルやガスタービンとの複合化はシステム 構成が複雑で小規模なごみ発電に効率や採算的に採用できるかなどとともに、調査会社 の担当者と激論を交わしたことを覚えている。それらについては、将来的な検討課題と した。 4 その後の経緯と現状 この提案の具現化は、ウの主蒸気の高温・高圧化から進められた。東京都はプラント 9 社と材料 1 社のメーカとともに足立清掃工場に試験設備を設置し、ボイラ過熱器の耐 腐食材料の開発を行なった。都清掃研究所の占部武生氏(後に龍谷大学教授に就任)が 開発された過熱器材料QSX5は、火力発電設備材料として承認を受け、都の主蒸気 400℃40ata 発電の先駆けとなった平成 13 年竣工の中央清掃工場に採用された。 次に、アのボイラ効率改善の空気の低減である。調査では空気比 1.9 程度が限界とさ れていたが、近年、高い公害防止性能と低熱しゃく減量(燃え残りが少ない)を確保し た上で空気比 1.3 を下回る焼却炉も出てきている。空気比 2.0 前後の焼却炉を知る筆者 としては、性能の著しい向上に驚いている。この効果は大きく、他の改善策をも合わせ 施設規模 300t/day の清掃工場でも発電端効率 25%が視野に入ってきているようである。 アの排ガス温度の低減化では、エコノマイザ出口温度の低減や水噴霧減温塔の廃止な 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 26(’14)年 10 月 第 71 号 4 ※無断転載禁止 ど、イの乾式の排ガス処理では、厳しい排ガス自己規制値を設定している施設を除きほ とんどの施設で採用、ウの再生サイクルでは、2 段抽気の例も見られるようになってき ている。 電力事情や燃料価格の高騰などにより、ごみ発電の高効率化へ向けた取り組みが一層 求められるようになってきているので、更なる進展を期待したい。 参考資料: ※1:「清掃工場余熱利用推進化調査報告書」(その4)平成 6 年 3 月東京都清掃局 これまでの記事のバックナンバーはこちらから 38 号 1.稲村 光郎「良いごみ、悪いごみ」 (筆者プロフィール付き) 39 号 2.小林正自郎「物質収支」 (筆者プロフィール付き) 40 号 3.稲村 光郎「性能発注」 41 号 4.小林正自郎「空気比の変遷」 42 号 5.稲村 光郎「清掃工場の公害小史」 43 号 6.小林正自郎「ごみ性状分析」 44 号 7.稲村 光郎「焼却能力の有無」 45 号 8.小林正自郎「清掃工場での外部保温煙突の誕生」 46 号 9.稲村 光郎「煙突のデザイン」 47 号 10.小林正自郎「電気設備あれこれ」 48 号 11.稲村 光郎「完全燃焼と火炉負荷」 49 号 12.小林正自郎「化学薬品」 50 号 13.稲村 光郎「排ガスの拡散シミュレーション」 51 号 14.小林正自郎「化学薬品(その2) 」 52 号 15.稲村 光郎「ごみ発電 -大阪市・旧西淀工場のこと-」 53 号 16.小林正自郎「ごみ埋立地発生ガスの利用」 54 号 17.稲村 光郎「測定数値」 55 号 18.小林正自郎「電気設備あれこれ(その2)」 56 号 19.稲村 光郎「自動化のはじまり」 57 号 20.小林正自郎「排水処理(その1) 」 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 26(’14)年 10 月 第 71 号 5 ※無断転載禁止 58 号 21.稲村 光郎「笹子トンネル事故報告書を読んで」 59 号 22.小林正自郎「排水処理(その2)-排水処理への液体キレートの活用-」 60 号 23.稲村 光郎「水槽の話」 61 号 24.小林正自郎「ごみ焼却熱の利用(その1)」 62 号 25.稲村 光郎「東京都におけるごみ性状の推移」 63 号 26.小林正自郎「ごみ焼却熱の利用(その2)」 64 号 27.稲村 光郎「清掃工場の集じん器」 65 号 28.小林正自郎「ごみ焼却熱の利用(その3)」 66 号 29.稲村 光郎「とかく単位は難しい」 67 号 30.小林正自郎「焼却処理能力」 68 号 31.稲村 光郎「見学者への対応、雑感」 69 号 32.小林正自郎「清掃工場余熱利用推進化調査(その1) 」 70 号 33.稲村 光郎「ノウハウを考える」 一般社団法人廃棄物処理施設技術管理協会メールマガジン 平成 26(’14)年 10 月 第 71 号 6 ※無断転載禁止
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