産業組織論 I 第 2 講:ミクロ経済学の復習 その1 ∼消費者理論∼ 三浦慎太郎 2015 年 4 月 14 日・20 日 神奈川大学 1 概要 ⃝ 消費者理論. 1. 需要と供給. ➢ そもそも需要量・供給量とは?どのように導出するのか? 2. 消費者理論 ➢ どの程度消費するのが消費者にとって最適なのか? ➜ 予算制約. ➜ 選好. ➜ 無差別曲線. ➜ 需要関数と需要曲線. 2 1. 需要と供給 3 需要と供給 ⃝ 価格理論とは?(復習) ➢ を通じた財の配分方法 ( ) の分析. ➢ 参加者は市場で決定された価格に従って行動する. ➜ における の仮定. ⃝ 新たな疑問が二つ: ➢ Q1「市場価格はどのようにして決まるのか?」 ➢ Q2「市場メカニズムはどのような帰結をもたらすのか?」 「それは社会的に望ましい結果であるのか?」 4 ⃝ 新たな疑問が二つ: ➢ Q.1「市場価格はどのようにして決まるのか?」 ➜ と によって決まる! ➢ Q.2「市場メカニズムはどのような帰結をもたらすのか?」 「それは社会的に望ましい結果であるのか?」 ➜ 一般的に市場メカニズムは問題なく機能する. ➜ 帰結は の意味で社会的に望ましい! ⃝ 需要と供給はシンプルかつパワフルな概念である. ➢ 1970 年ノーベル経済学賞受賞者 ポール・サミュエルソン 『オウムでさえも博学な経済学者に仕立てることができる.彼 が覚えなければならないのは「需要」と「供給」という二つの 言葉だけである. 』 ⃝ Q.「そもそも需要と供給とは何か?」 5 2. 消費者理論 6 消費者理論 ⃝ の意思決定問題を考える. ➢ 「どれぐらい財を消費するべきか」を決める. ⃝ 目標: 以下の二点について明確にする。 Q1 「 とは何か?」 ➢ 需要関数とは “価格”と “需要量”の関係性を表す関数. ➢ 言い換えれば “消費行動の計画書”である. ➢ 即ち「価格が∼円の時∼だけ購入すべし」を表す. Q2 「需要関数 (曲線) はどのようにして求めるのか?」 ➢ の下での消費者の に基づく の結論. 7 ⃝ . ➢ 購入することの出来る財は限度がある. ➢ 「合計金額は予算の額を超えないようにしましょう!」 例. 飲み会の買い出し. ➢ ➢ ➢ ➢ ビール(x 本)とウーロン茶(y 本)を予算 3000 円で購入. ビールの価格: 1 本あたり 200 円. ウーロン茶の価格: 1 本あたり 100 円. 購入可能なビールとウーロン茶の本数は以下の式を満たす. ➜ と呼称: (1) 8 ⃝ 図を使ってあらわすと… y 30 0 15 x ➢ 予算制約 (1) は斜線部で表わされる. 9 ⃝ 図を使ってあらわすと… y 30 0 200x + 100y = 3000 15 x ➢ 直線上の点は 消費計画である. ➜ (例)ビール 10 本、ウーロン茶 10 本を購入. 10 ⃝ 図を使ってあらわすと… y 30 200 10 + 100 5 = 2500 < 3000 0 ➢ 逆に直線の内側の点は 10 15 x 消費計画である. 11 ⃝ 予算制約とは を表す. y 30 0 ➢ 15 x から選択しなければいけない. 12 ⃝ . ➢ 個人は財の消費計画に対して好みを持つ. ➜ “ビ:10 本・ウ:10 本”は “ビ:5 本・ウ:20 本”より好き. ➢ のことを経済学では選好と呼称. ➢ 選好はどのように表現するのか? 例. ➢ ➢ ➢ 飲み会の買い出し. (x, y) = (ビールの本数, ウーロン茶の本数). 財の消費計画のことを経済学では と呼称. 選好は、「 」で表わされる。 ➜ (10, 10) と (15, 0) ならば (10, 10) の方が悪くない. ➜ (10, 10) と (5, 5) ならば (10, 10) の方が強く好き. ➜ (10, 10) と (7, 14) は同じくらい望ましい. ➢ (注) 三つ以上の消費ベクトルを同時に比べていない! 13 ⃝ 選好 (続き). ➢ 消費者の選好は “ ”の記号で表現される. ➜ (10, 10) と (15, 0) ならば (10, 10) の方が悪くない. ➱ . ➱ “≿”は を意味する. ➜ (10, 10) と (5, 5) ならば (10, 10) の方が強く好き. ➱ . ➱ “≻”は を意味する. ➜ (10, 10) と (7, 14) は同じくらい望ましい. ➱ . ➱ “∼”は を意味する. ➢ 不等号 “≥”のイメージ. 14 ⃝ 選好 (続き). ➢ 一般に選好はどのようなものでも良い! ➜ ただし議論は複雑になってしまう…. ➜ 単純化のため以降はもっともらしい性質を満たすと仮定. 1. 財は少ないよりも多い方が良い. 2. 財の組み合わせは偏りの少ない方が良い. 3. 選好関係にはある種の “つじつま”がある. 15 ⃝ ここまでのまとめ. ➢ 消費者は与えられた条件の下で各財の最適な消費量を決める. ➢ 与えられた条件とは以下の二点. 1. 選択可能な範囲を定めた 2. 消費者の好みを表わす . . ➢ 予算制約内において,消費者が自身の選好に基づき各財の最 も好ましい消費量を選択する. ➜ 選択された “最適な”消費量を と呼称. ➢ 具体的に予算制約内のどの点が最適となるのか? ➜ の概念を導入する. 16 ⃝ 無差別曲線. ➢ . 例. 飲み会の買い出し. ➢ 消費ベクトル (10, 10) に対する無差別曲線とは? ➜ 考えうる全ての消費ベクトルを (10, 10) と ≿ の下で比較. ➜ 比較した消費ベクトルは以下の 3 パターンに分類される. 1. (10, 10) よりも 消費ベクトル. 2. (10, 10) よりも 消費ベクトル. 3. (10, 10) と 消費ベクトル. ➜ の消費ベクトルが (10, 10) に対する無差別曲 線である. 17 ⃝ 無差別曲線 (続き). ➢ 仮定: 選好が単調性・凸性・合理性を満たす. ➜ 無差別曲線の概形は以下のようになる. y 0 x ➜ いくつかの重要な特徴を持つ. 18 ⃝ 無差別曲線 (続き). 特徴: ➢ y . 右上の消費ベクトルほどビール・ ウーロン茶の双方をより多く消費 している. ➢ より望ましい消費ベクトル! ➜ より. (10; 10) 0 x ➢ 斜線部に属する消費ベクトルは (10, 10) よりも ! 19 ⃝ 無差別曲線 (続き). 特徴: 右上の無差別曲線ほどより好ましい. ➢ 逆に右下の消費ベクトルほど ビール・ウーロン茶の双方をより 少なく消費している. y ➢ より望ましくない消費ベクトル! ➜ より. (10; 10) 0 x ➢ 斜 線 部 に 属 す る 消 費 ベ ク ト ル は (10, 10) よ り も 20 ⃝ 無差別曲線 (続き). 特徴: 右上の無差別曲線ほどより好ましい. ➢ (10, 10) を通る無差別曲線を境 界線として, y ➜ 上にいくと (10, 10) より厳密 に好ましく, ➜ 下にいくと (10, 10) より厳密 に悪い. (10; 10) 0 x ➢ その他の特徴については奥野ミクロを参照. 21 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線. ➢ とは所与の予算制約と選好の下での ➜ 単なる消費量や “需要した”量ではない! . ➢ 最適な消費量を求めることは, ということである! ➢ よって予算制約や選好が変化すると需要量も当然変化する. ➢ 各価格における財の需要量を表わしたものが ➜ 即ち “価格”と “需要量”の関係を表す関数. ➜ 需要関数のグラフが である. である. 22 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線 (続き). 例. 飲み会の買い出し. y 30 0 15 x ➢ 斜線部の点を通る無差別曲線で最も右上に来るものを選択. 23 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線 (続き). 例. 飲み会の買い出し. y A 30 0 ➢ 最適消費点は A である. ➜ ! ➜ そもそも A は x 15 ! 24 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線 (続き). 例. 飲み会の買い出し. y 30 B 0 ➢ 最適消費点は B である. ➜ ! ➜ 予算制約内であるが, 15 x ! 25 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線 (続き). 例. 飲み会の買い出し. y 30 C 0 C 0 15 x ➢ 最適消費点は C である. ➜ !予算は使いきっているが, がある. ➜ C′ は 消費ベクトル! 26 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線 (続き). 例. 飲み会の買い出し. y 30 D 0 15 x ➢ 最適消費点は D である. ➜ !D は予算線と無差別曲線の . ➜ これ以上右上に動かすと予算制約からはみ出す. 27 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線 (続き). ➢ 仮に D = (8, 14) とすると以下のようにまとめられる: 「選好 ≿ を有する消費者の,ビールの価格が 200 円・ウーロン 茶の価格が 100 円・予算が 3000 円の時のビールの需要量は 8 本で,ウーロン茶の需要量は 14 本である. 」 ➢ ビールやウーロン茶の需要量は,ビール・ウーロン茶の価格と 予算という “インプット”が与えられた際に “消費者の最適化” という操作によって導かれた “アウトプット”と言える. ➢ 即ち需要量とはこれらの関数と言える! ! ➜ “ ”は “ ”と “ ”によって決まる. ➜ 需要関数はその関係性を描写する. 28 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線 (続き). ➢ 需要曲線とは である. ➢ ウーロン茶の価格・予算を ,ビールの価格 を変化 させてその時のビールの需要量を求める. ➜ 各ビール価格の下でのビールの需要量を表わすものが .各価格の下でどれだけ欲するかを表わす. ビール価格 p 0 x ビールの消費量 29 ⃝ 需要量・需要関数・需要曲線 (続き). ➢ ビールの需要曲線は, を表す. ➜ 下図は については無言. ビール価格 p 0 x ビールの消費量 ➢ “自然な”設定の下では需要曲線は の曲線となる. ➜ 財の価格が上昇するとその財の需要量は減少する. 30 ⃝ 消費者理論の意義 ➢ 端的には, 「消費者は予算内で最も欲しいものを購入する」. ➢ 当たり前.複雑な概念・議論は不必要? ⃝ 例: 老人医療費補助制度の政策評価(神取ミクロ p.27-35) ➢ 70 歳以上の医療費自己負担額は実費の 1 割. ➢ 残りは政府(税金)によって負担されている. ➢ この政策を消費者理論を用いて評価してみる: ➜ 医療消費が第 1 財(消費量を x で表す). ➜ その他の財の消費が第 2 財(消費量を y で表す). ➜ 第 1 財の価格を 5000 円,第 2 財の価格を 1000 円と仮定. ❒ 制度下での実質的な医療価格は 500 円. ➜ 老人の予算を 150000 円と仮定. 31 y 150 y 0 x 300 x ⃝ 例: 老人医療費補助制度の政策評価(続き) ➢ 制度下での予算制約式: ➢ 最適消費点 (x∗, y ∗) は予算制約を等号で満たす: ➜ . 32 y 新しい予算制約線 y 0 x x ⃝ 例: 老人医療費補助制度の政策評価(続き) ➢ 医療費補助制度を止め,代わりに年金増額の新制度を実施. ➜ 増額分は (x∗, y ∗) の消費が可能な水準.(4500x∗) ➜ 新予算制約式: 33 y y 0 x x ⃝ 例: 老人医療費補助制度の政策評価(続き) ➢ 新制度の下での最適消費点: (x∗∗, y ∗∗). ➢ ➜ 元の無差別曲線の右上に新しい無差別曲線. ➜ 補助金制度は上記の意味でムダ(非効率性)を伴う! 34 ⃝ 例: 老人医療費補助制度の政策評価(続き) ➢ この結果を解釈すると: 1. 医療補助を止め,補助金分だけ年金を増やすと, 2. 老人は以前と同じ分だけ通院することは可能だが, 3. 通院を減らせば高額の医療費を節約可能なので, 4. 老人は通院を減らす方を選択する. 5. 「以前と同じことが出来るのに,そうしない方を選ぶ」の だから,老人の満足度は以前より改善しているはずである. ➢ モデルの導いた結論は日常の言葉で解釈可能である. ➜ モデルを使わずにこの結論を一発で思いつくことは困難. ➜ モデル化の意義と威力. 35 まとめ ⃝ 与えられた予算と価格( )の下で,消費者は自身の好 み( ) に基づいて最も好ましい消費量を選択する. ⃝ 選択された ⃝ 各財の需要量は が である. の関数である. ⃝ ある財の需要曲線は ,その財の価格 のみが変化した際にその財の需要量がどう変化するかを表わす. ➢ 言い換えると、 「ある財の価格のみが変化した場合の当該財の 最適消費量の計画書」である. 36 練習 問 個人にとって第 1 財と第 2 財の区別はなく,両者の消費量の合計 のみが満足度を決めるような選好を持っているとする.例えば以 下のような選好関係が成立する. (5, 10) ≻ (6, 8) ≻ (7, 6) ∼ (6, 7) ≻ (8, 4). このような選好(完全代替的選好と呼称)を示す無差別曲線の概 形を示せ.また第 1 財の価格を 100 円・第 2 財の価格を 50 円・予 算を 1000 円とした場合,第 1 財・第 2 財の需要量をそれぞれ計算 せよ. 37
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