ロジスティクス・ネットワーク 最適化 東京海洋大学 久保 幹雄 1 意思決定レベルによる分類 原材料 長 期 調達物流 ストラテジック 生産 工場内物流 輸送 配送拠点 配送 需要 地点 ロジスティクス・ネットワーク最適化 資源配分最適化 中 期 短 期 タクティカル オペレーショナル 安全在庫配置 在庫方策最適化 生産計画最適化 ロットサイズ最適化 スケジューリング最適化 配送計画最適化 配送計画 2 ロジスティクス・ネットワーク設計 サプライ・チェイン全体を通したストラテジック(戦 略的)な意思決定 例 どこから原材料(もしくは部品)を調達するか,ど の工場のどの生産ラインで生産するか どの地点からどの地点にどのような輸送手段 (モード)で輸送を行うか どこに工場もしくは倉庫を新設するか(もしくは移 転するか,閉鎖するか) 3 ロジスティクス・ネットワーク最適化 ストラテジック(長期)レベルの意思決定 ロジスティクス・ネットワーク全体の最適設計 継続期間が比較的長い調達活動の是非の決定 活動の位置的な情報を決定(生産をどこで行うか,製 品資源のフロー) グローバル・ロジスティクス(関税,関税控除,移 転価格) (為替,需要などの)不確実性 リバース・ロジスティクス 温室化ガス排出量 サプライ・チェイン途絶に 4 対するリスク管理 施設配置問題 ORの古典:1957年のKoopmansの本 “ Three Essays on the State of Economic Science” 供給地点 需要地点 施設配置問題 需要地点の重心!? Weber (1929) ロジスティクス・ネットワーク最適化 ×3 部品 展開図 容量 重量 単価 在庫回転率 積み付け 高さ 品切れ損出 倉庫 顧客群 固 定費用 需要 量 変 動費用 倉庫 ・ 工場への最大距 離 床 面積上下限 輸送料率 輸送時間 地点間距離 原 料供給地点 供給量上下限 供給費用 工場 固定 費用 変動 費用 生産ラ イ ン パラ メ ー タ 固定費用 年間保管比率 稼働時間( 資源) 上下限 保管スペ ース 率 生産変動費用 生産量上下限 生産時間 7 ロジスティクスネットワーク最適化に おける主な意思決定項目 各製品を,どこで(どの工場のどの製造ラインで)どれだ け製造するか? 各製品をどの中継拠点で保管するか? 各製品をどのような輸送手段(モード)で輸送するか? 各顧客の各製品の需要をどの配送センターから運ぶか? 中継拠点をどこに新設(移転,閉鎖)するか? (新製品投入や顧客の需要の変化に対応するために)ど こに工場を新設(移転,閉鎖)するか? どのような製造ラインをどこに新設(移転,閉鎖)するか? 混合整数計画+凹費用 (区分的線形近似)最適化 BOM or Recipie × 安全在庫費用 3 Warehouses Customer Gropus Plant s Suppliers J I Product ion Lines 9 施設配置問題の 混合整数計画定式化 工場の固定費用 工場から顧客への輸送費用 =1 工場開設, =0 それ以外 工場から顧客への輸送量 10 適用例 吸収・合併後のネットワーク再編成 Baxter Healthcare +American Hospital Supply (1985) (今のAllegiance Healthcare) 新製品投入時の意思決定 Pet +Progresso (食品) (1984),NABISCO ロジスティクスにおける戦略的提携 Kodak + Sterling Winthrop +Sanofi グローバルネットワークの再編成 Deital Equipment Corporation (DEC) リサイクリングネットワーク設計(リバース・ロジスティクス) Eastman Kodak Hunt-Wesson Food, Inc. の事例 Geoffrion-Gravesによる最初の適用事例 (1970年) 数百の製品群 14の工場 数十の流通センター(DC)を通して127の 顧客群(ゾーン)へ 年間数百万ドルの費用の削減 Geoffrion-Gravesモデル どのDCを選択(新設,閉鎖,移転)するか?を決めるモデル 最小化 製造費用+輸送費用+DC設置固定費用+ DC稼働費用 条件 すべての顧客ゾーンの需要量は製品ごとに満たされる. 工場の製品ごとの製造量上限 (DCを稼働させた場合の)取り扱い量の上下限 各 顧 客 ゾ ー ン は 1 つ の DC に よ っ て カ バ ー さ れ る . (option) Geoffrion-Gravesモデルの概念図 工場(14) 製品群(数百) 流通センター(DC) の候補地点(数十) 顧客ゾーン(127) Brown-Graves-Honczarenko (NABISCO) モデル 工場内での施設の配置も同時に考慮したモデル(1980年) 最小化 製造費用+輸送費用+ 工場固定費用+ 施設固定費用 条件 すべての顧客ゾーンの需要量は製品ごとに満たされる. (施設を稼働させた場合の)取り扱い量の上下限 各施設はいずれかの工場に割り振られる. 各工場に割り振られる施設数の上下限 NSBISCOモデルの概念図 顧客ゾーン(170) 工場(20) 製品(200) 施設1 (オーブン) (100) 施設2 (包装) (200) CIMPEL (Computer Integrated Modeling and Planning Environment for Logistics) Georgia Institute of Technologyで開発中 (1990年) 最小化 工場設置固定費用 + 工場内製造費用+工場内在庫費用 +DC設置固定費用 + DC内施設費用 + DC内在庫費用 + DC内加工費用 +輸送費用+輸送中の在庫費用 条件 すべての顧客ゾーンの需要量は製品ごとに満たされる 工場の製品ごとの製造量上限 DCでの取り扱い量の上下限 ,在庫量の上下限 DCの種類の選択 運搬車の数の上下限 ,運搬車の重量・容量制約 DCと顧客(ゾーン)への移動距離制約 CIMPELの概念図 多製品,多段階,多チャネルを考慮した統合ロジスティクスツール 在庫費用 複数の輸送モード 製造費用 積み替え費用 DECの事例 DEC(Digital Equipment Corporation)(1995年) Global Supply Chain再編成 どこで何を生産し,どこへ運ぶか どの部品をアウトソーシングするか どのベンダーから調達するか 手法:混合整数計画法 効果:年間1億$の費用削減 Franz Edelman Award (1995) Interfaces 25 (1995) pp. 69-93 GSCM (Global Supply Chain Model)の 概念図 5.0%関税 4.7%関税 7.7%関税 DEC モデルのデータ 各国における顧客位置,需要量,供給者の位置,供給量 各国での労働者の賃金(および供給可能な場所) 国家間の各輸送モード(航空機,トラック,船舶)での輸 送費用(含保険料),輸送時間 税金回避地(tax heavens;Singapore, Puerto Rico, Ireland) 国家間の貿易取り決めおよび数値目標 グローバル部品展開図 関税および控除条件 (グローバル)部品展開図 シンガポール ニューヨーク ドイツ メキシコ マレーシア アイルランド ドイツ コロラド マサチューセッツ 日本 オランダ イギリス コロラド マレーシア アイルランド ドイツ イギリス メキシコ 台湾 カナダ 顧客ゾーン 台湾 スペイン メキシコ イギリス 台湾 カナダ イギリス マサチューセッツ 台湾 カナダ 日本 イタリア サウスカロライナ 関税控除条件 そのまま 再輸出 中国 付加価値のついた ものの再輸入 台湾 ヨーロッパ 付加価値をつけて 再輸出 ブラジル DEC (Digital Equipment Corporation) モデル 最小化 α[製造費用在庫費用+ 輸送費用+製造固定費用 + 工場固定費用 + 施設固定費用-関税控除・免除] + (1-α) [ 製造日数+ 輸送日数 ] 条件 顧客ゾーンの需要量は製品ごとに各期ごとに満たされる. 在庫,輸送,製造のバランス制約 組み立て前,組み立て後の製品数のバランス条件 (工場,施設の)取り扱い量の上下限 製造,在庫,輸送量の上下限 製造ライン(施設)数,工場数の上下限 国家ごとの貿易取り決め条件 関税控除,免除条件 DECの事例(改善前) Ayr Hull Kantana Cororado Galway Clonmel Augusta NewEnglandSites WCVC Cupertino Hudson Phenix Greenville Mexico Shrewsbury springfiled Westfield Franklin PuetroRico Queensterry Saiem Nijimegen Westminster Boston Shenzhen Tokyo India Taiwan Mariboro HongKong Andover Singapore Brazil Sydney =ロジスティクス・センター =チップ&メディア =モジュール =本体 DECの事例(改善後) Ayr Kantana Cororado Augusta England Queensterry Nijimegen WCVC Albuquerque Tokyo Greenville Mexico Taiwan HongKong Singapore Sydney =ロジスティクス・センター =チップ&メディア =モジュール =本体 プロジェクト実施の手順(1) 仮実験 構築したモデルおよび収集したデータの妥当 性を確認するための予備的な実験(意思決定 者の直感との整合性) 小規模最適化 一部の製品,地域,部門のみを対象とする. 全体最適化 すべての変数を意思決定の対象にして最適 化を行う. プロジェクト実施の手順(2) もしこうなったら分析 経営環境の仮想的な変化をWhat if... (もしこうなった ら)型の問いをできるだけ多くすることによってモデル を様々な観点から適用する. もし(最適化によって閉鎖させられる)DCを開設することにし ておいたらどうなるだろう? もしある顧客ゾーンへのサービスを(最適化によって得られ たものと)異なるDCから行ったらどうなるだろう? もしある地点間の輸送費用が交渉によって下げられたらどう なるだろう? もしあるDCのリース費用が交渉によって下げられたらどうな るだろう? プロジェクト実施の手順(3) 感度分析 データを変化させたときの目的関数(総費用) の変化をみるために系統的な実験を行う. 過去のデータを用いた(時系列)感度分析 トレードオフ分析 ロジスティクス・システム全体の評価に必要な 費用以外の要因(主なものではサービスレベ ル)とのトレードオフを調べる. プロジェクト実施の手順(4) 優先順位分析 最適解と現状とのずれを,どのような順番で 実施していくかを分析する. 例:DC (A)の移転,DC (B)の閉鎖,工場の閉鎖が最適 (14億2千万円削減可能)と出たとき 1.DCへの顧客の割り振りの変更 (10億円削減) 2.DC (A) の移転 (3億円削減) 3.工場の閉鎖 (1億円削減) 4.DC (B) の閉鎖(2千万円なので実施しない) ロジスティクス・ネットワーク最適化の例 (施設のネットワークと製品群) 顧客 倉庫 モニタ 完成キット 工場 コンピュータ 完成キット メモリ 完成キット ソフトウェア 完成キット ケーブル スキャナ プリンタ キーボード 31 ロジスティクス・ネットワーク最適化の例 (部品展開図と主要な工程) スキャナ モニタ プリンタ 梱包 コンピュータ 完成キット キーボード 組立 半製品 メモリ 配線 本体 包装 ケーブル ソフトウェア 32 ロジスティクス・ネットワーク最適化の例 (最適化後のネットワークと製品群フロー) 顧客 モニタ 工場 倉庫 完成キット 梱包 コンピュータ 完成キット 組立 メモリ 配線 完成キット 包装 ソフトウェア スキャナ ケーブル プリンタ キーボード 完成キット 33 資源配分最適化 多期間ロジスティクス・ネットワーク設計 長期タクティカルレベルの意思決定,多期間を考慮 継続期間が中程度の調達活動の是非の決定 活動の位置的な情報を決定(生産をどこで行うか,製品資源のフロー) 工場内のMPS(Master Production System)をサプライ・チェイン全体に拡張 需要の季節変動,景気変動の考慮 製品ライフサイクルを考慮した(リバース)ロジスティクス・ネットワーク設計 収益管理(価格も決定変数) 製品の需要量 製品の回収量 再製造品の需要量 34 期(月) 資源配分最適化におけるトレードオフ 資源超過ペナルティ (残業費) 需要量 作り置き在庫費用 生産量上限(資源制約) 期 残業 生産量 生産量一定 在庫 35 なぜ最適解が必要か? 厳密解法 最適解を出す保証があるアルゴリズム ただし,難しい問題(NP-困難問題)の場合には 時間がかかる(もしくは計算が終了しない)ことも ある. Bad News: サプライ・チェインのほとんどの問題 はNP-困難 ヒューリスティクス(近似解法) 最適解の保証がないアルゴリズム ロジスティクス・ネットワーク設計の費用は膨大 (0.1%の削減でも大きい)+比較的解きやすい 36 ->厳密解法を用いる ヒューリスティクスがうまくいなかい例 顧客1 倉庫1 工場1 50,000 3 0 需要量 4 5 顧客2 5 4 需要量 100,000 2 1 工場2 2 倉庫2 ≦60,000 4 顧客3 需要量 50,000 37 最も近い倉庫から補充する方法 顧客1 倉庫1 工場1 50,000 3 0 需要量 4 5 顧客2 5 4 需要量 100,000 2 1 工場2 2 倉庫2 ≦60,000 4 顧客3 需要量 50,000 38 最も近い倉庫から補充する方法 倉庫1 工場1 顧客1 足りない分は 工場1から運ぶ 50,000 2×50,000 顧客2 5×140,000 100,000 工場2 1×100,000 2×60,000 倉庫2 ≦60,000 工場・倉庫間 700,000 120,000 小計 820,000 4×50,000 倉庫・顧客間 100,000 100,000 200,000 小計 400,000 顧客3 50,000 合計 122億円 39 最も安い経路(工場-倉庫-顧客)を選択する方法 顧客1 倉庫1 工場1 50,000 3 0 需要量 4 5 顧客2 5 4 需要量 100,000 2 1 工場2 2 倉庫2 ≦60,000 4 顧客3 需要量 50,000 40 最も安い経路(工場-倉庫-顧客)を選択する方法 顧客1 倉庫1 3×50,000 50,000 工場1 0×100,000 5×40,000 5×50,000 顧客2 100,000 工場2 2×60,000 倉庫2 1×100,000 50,000 ≦60,000 工場・倉庫間 200,000 120,000 小計 320,000 顧客3 倉庫・顧客間 150,000 250,000 100,000 小計 500,000 合計 82億円 41 倉庫2から顧客3への輸送費用が半額のとき 顧客1 倉庫1 3×50,000 50,000 工場1 0×50,000 5×90,000 4万->2万 顧客2 100,000 工場2 2×60,000 ≦60,000 工場・倉庫間 450,000 120,000 小計 570,000 1×100,000 顧客3 倉庫2 2×50,000 倉庫・顧客間 150,000 100,000 100,000 小計 350,000 50,000 増えている! 合計 92億円 42 さらに倉庫2から顧客1への輸送費用を5000円にしたとき 顧客1 倉庫1 2万->0.5万 50,000 工場1 0.5×50,000 顧客2 5×140,000 100,000 工場2 2×60,000 ≦60,000 工場・倉庫間 700,000 120,000 小計 820,000 1×100,000 顧客3 倉庫2 2×50,000 倉庫・顧客間 25,000 100,000 100,000 小計 225,000 50,000 さらに増えている! 合計 104.5億円 43 Excelソルバーによる求解 変化させるセル 輸送費 w1 w2 輸送量 w1 w2 供給|需要量 費用計算用 4 2 3 2 4 1 0 60000 60000 60000 c1 50000 0 50000 50000 c2 90000 10000 100000 100000 0 120000 150000 0 360000 10000 0 5 p1 140000 0 140000 200000 0 0 c3 c2 c1 p2 p1 p2 5 2 c3 0 50000 50000 50000 入量-出量 0 0 0 510000 100000 230000 目的関数 740000 44 Excelソルバーの設定(1) 目的関数のセルを指定 倉庫の入量=出量 工場の供給量上限 需要は必ず満たす 45 Excelソルバーの設定(2) 線形モデル, 非負数を仮定を チェックする! 46 感度レポートの解釈 双対変数の最適値のこと 制約条件 セル $B$8 $C$8 $D$8 $E$8 $F$8 $H$6 $H$7 名前 p1 p2 c1 c2 c3 w1 入量-出量 w2 入量-出量 計算 潜在 制約条件 許容範囲内 許容範囲内 値 価格 右辺 増加 減少 140000 0 200000 1E+30 60000 60000 -1 60000 90000 10000 50000 3 50000 60000 50000 100000 4 100000 60000 90000 50000 5 50000 10000 50000 0 0 0 60000 140000 0 3 0 10000 90000 工場2の生産量上限60000を1単位増やすと総費用が1減る 制約を90000まで増やすか,10000まで減らすと解が変わる 47 例題の最適解 倉庫1 顧客1 3×50,000 50,000 工場1 0×140,000 4×40,000 顧客2 5×50,000 100,000 工場2 2×60,000 倉庫2 1×60,000 50,000 ≦60,000 工場・倉庫間 120,000 小計 120,000 顧客3 倉庫・顧客間 150,000 160,000 250,000 60,000 小計 620,000 48 合計 74億円 在庫の取り扱い 輸送中在庫:輸送時間,輸送量に依存:変 動費用に含める. サイクル在庫:サイクル時間を与えること による近似 作り置き在庫:多期間モデルで考慮 安全在庫:需要のばらつきを表す変動比 率を与えることによって近似 49 輸送中在庫費用 輸送中在庫費用 輸送費用 30日 1日 変動費用に,1日・1品目あたりの在庫費用×輸送日数を加える. 50 サイクル在庫 発注量 需要 在庫 固定 サイクル時間 時間 51 サイクル在庫費用と 輸送頻度のトレードオフ サイクル在庫 大 サイクル在庫 小 3日一度 毎日 サイクル在庫費用=エシェロン在庫費用×サイクル時間/2 52 作り置き在庫と残業のトレードオフ 需要量 生産量上限(資源制約) 期 残業 生産量 生産量一定 在庫 53 安全在庫量の計算 品切れ費用 安全在庫費用 安全在庫量 安全在庫係数 標準偏差 リード時間 需要の分散 変動比率 需要の平均 を導入(品目ごとに同一と仮定) 標準偏差 需要の分散 なので 安全在庫量 安全在庫係数 変動比率リード時間 需要の平均 54 ロジスティクス・ネットワーク最適化 (意思決定支援)システム 点データ 資源データ 品目データ 枝データ 期データ 点・品目データ 枝・資源データ 品目・資源データ 品目対データ 枝・品目・資源データ 枝・品目・資源・期データ パラメータデータ 最適ネットワーク 最適在庫配置 在庫方策 戦略/戦術的 意思決定 ユーザーとの対話 (what if 分析, シナリオ分析) 55 まとめ 施設の立地問題 ロジスティクス・ネットワーク設計問題 ヒューリスティクスの危険性 多期間モデル 複雑な費用の表現法 意思決定支援システム 56
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