Copyright © T. Ikeda All Rights Reserved 1 ミクロ経済学 講義資料(1

ミクロ経済学 講義資料(1)
ミクロ経済学とは個々の経済主体(主に消費者、企業、政府)の行動について分析する
学問です。ではまず、消費者の行動について考えていきましょう。
1.消費者行動
(1)効用と無差別曲線
ある二種類の財、X と Y(例えば、チョコとクッキー)を考えます。これらの財はたくさ
ん手に入るほど満足度(
「効用」
)が増加するとしましょう1。
★ここでポイント!:効用とは?
経済学では消費者が財やサービスを消費する事で得られる「満足度」
、あるいは「充実感」
の事を「効用」と呼びます。例えば、「財 X から得られる効用」と言った場合は、「財 X を
消費する事で得られる満足度」という意味です。
これらの財、X と Y から得られる効用の水準を「無差別曲線」として図に表すと・・・
Y
C
B
A
0
X
図 1:無差別曲線
(横軸が X の消費量、縦軸が Y の消費量)
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これを「非飽和の仮定」と呼びます。通常、ある財をたくさんもらいすぎると、邪魔になってしまい、
返って効用は低下すると考えられます。しかしながら、ここではそのような、
「飽和状態」は考えないこと
とします。
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★ここでポイント!:無差別曲線とは?
・等しい効用水準をもたらす消費量の組み合わせを表す曲線。
(例えば、図 1 の曲線 A 上の財の組み合わせは全て同じ効用をもたらします。
)
・右上方に位置する無差別曲線ほど高い効用を表す。
・無差別曲線同士は交わらない。
・原点に対して凸の形状をしている。
図 1 には 3 本だけしか描かれていませんが、無差別曲線は無数に存在します。また、原
点に対して凸の形状をしていることに注意してください(この点に関する詳しい説明は後
の講義で行います)
。
・もし、無差別曲線が交わったら・・・
Y
a
c
B
b
A
X
0
図 2:もし無差別曲線が交わったら・・・
(ありえないケースⅠ)
無差別曲線の定義から、図 2 の点 a、b、c は同じ効用をもたらすハズですね。ところが、
点 b と c をよく見ると、点 c では点 b よりも財 X、Y の両方とも多く消費されることが分か
ります。したがって、この 2 つの点が同じ効用をもたらすことは「非飽和の仮定(脚注 1
参照)
」に矛盾します。以上より、無差別曲線は交わらないことが確認されました。
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また、無差別曲線は以下のような反り返った形状にもなりません。
Y
X
0
図 3:もし無差別曲線が反り返ったら・・・
(ありえないケースⅡ)
図 3 の破線の○で囲んだ部分に注目してください。無差別曲線はこのような形状にはな
りません。なぜでしょうか?一度、皆さん自身で考えてみましょう。
(ヒントは「非飽和の
仮定」です。
)
(2)予算制約線と消費量の決定
これまで、消費者が財を消費した際に得られる効用について勉強してきました。では、
消費者は一体どのように財の消費量を決定するのでしょうか?以下ではこのことを考えて
いきましょう。
消費者は無制限に財の組み合わせを選択することは出来ません。自分の持っているお金、
つまり予算の範囲内で財を購入する必要があります。したがって、
「限られた予算の中でど
のように財を購入すれば、効用を最も大きくする事ができるのか?」それを考える事が必
要になります。
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ある消費者が予算総額 I を財 X と Y の購入に費やすものとしましょう。また、財 X の価
格は PX 、財 Y の価格は PY で表されるとします。え?記号ばかりで、わけが分からないっ
て?そーなんです。経済学を勉強していくと、これからも記号がたくさん出てきます。大
変かもしれませんが、少しずつ慣れていくしかないですね。でも、まだ始めなので、分か
りやすいように、ここでは具体的な数字を当てはめて考えていきましょう。
池田君が 1000 円の予算でチョコとクッキーを買おうとしています。チョコの値段は 200
円、クッキーの値段は 100 円です。さて、チョコとクッキーをどれだけ買えば一番、効用
を高めることができるでしょうか?
・予算制約線
ここで、池田君の「予算制約」は以下の式で表す事が出来ます。
200円 (チョコの数)+100円 (クッキーの数)  1000円
つまり、この式を満たす範囲でチョコとクッキーの購入数を決めなくてはいけません。こ
れを図に表すと以下のようになります。
クッキーの数
10
-2
0
チョコの数
5
図 4:池田君の予算制約線
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図 4 には切片(縦軸との交点)が 10、傾きが-2 の直線のグラフが描かれています。切
片の 10 は、予算の 1000 円でクッキーだけを購入した場合、10 個のクッキーが購入できる
ことを意味しています。逆にチョコだけを購入した場合、5 個のチョコが購入できるので、
横軸との交点は 5 になっています。傾きが-2 になることは、皆さん自身で確認してみて下
さいね。
★ここでポイント!:予算制約とは?
予算制約は図 4 で描かれている「三角形」の内側で表されます。この三角形の内側であ
れば、消費者は財を購入する事ができるのです。三角形の外側にある財の組み合わせは「予
算オーバー」となり、購入する事はできません。
さて、池田君は図 4 の三角形の内側でチョコとクッキーの消費量を決めなければいけな
い事が分かりました。では一体、三角形の内側のどこで消費量を決めるのでしょうか?こ
こで再び登場するのが先に学んだ「無差別曲線」です。
図 1 で描いた無差別曲線を図 4 の予算制約線と合体させます。すると・・・
クッキー
Y
b
C
a
0
A
B
X
図 5:予算制約線と無差別曲線
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チョコ
図 5 を見て下さい。A~C の無差別曲線はどれが一番、高い効用をもたらすでしょうか?
そう。もちろん、一番右上方に位置する C ですね。しかし、C 上の財の組み合わせは予算
をオーバーしてしまうので、選択する事が出来ません。つまり、予算制約を満たす範囲で、
効用が最も高くなるのは予算制約線 Y-X 上のどこかになります。
もう一度、図 5 を見てください。A の無差別曲線上の点 a も予算制約線の上にあります。
しかし、同じく予算制約線上にある点 b はより高い効用をもたらすことが分かります。し
たがって、池田君は点 a の組み合わせよりも点 b の組み合わせを選択します。
★ここでポイント!:消費者の効用最大化問題について
以上の議論より、池田君が効用を最大にする消費量の組み合わせは予算制約線と無差別
曲線が接する点であることが分かります。この点より右上方に位置する組み合わせは予算
オーバーとなり選択する事ができません。他の予算制約内の組み合わせ(例えば、図 5 の
点 a)では、より低い効用をもたらす無差別曲線に対応してしまいます。
晴れて、池田君は点 b で示されるチョコとクッキーを購入し、予算内で一番高い効用を
得る事が出来ました2。最後に、p.4 の始めに述べた、記号の例を図示しておきます。以下
のような図になる事を各自で確認しておきましょう。(宿題にしておきます。
)
Y
I
PY

0
PX
PY
X
I
PX
2
実際に、チョコとクッキーをいくつずつ購入するかは、池田君がどのような無差別曲線を心に抱いてい
るかに依存します。また、ここでは特に断りませんでしたが、チョコとクッキーが「一個、二個・・・」
と数えられるべきであるという事を無視してグラフを描いています。これを「整数問題」と呼びますが、
ここでは扱いません。
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