『青森県史 資料編 近世 南部 八戸藩領』 第二節 第一節 城下商業の形 成と展開 八 戸城下の構造 産業の発達 漁業 第五章 第一 節 鉄産 業 令治 第 二節 岩淵 本 書 は 、 青森 県 史 の近 世 の 資料 編 と して は五 冊目 の刊 行で 、前 回 の 津軽 馬 産・牛産 近世 第三節 資料編 後期津 軽領』から五 年ぶりとな 『青森県史 製塩業 る。東日 本大震災をは さんでの刊行 は、なみ なみならぬご 苦労があった 海上交通 交通の発達 第一 節 かと思 う。ただでさ え、自治体史 の資料編 の刊行が困難 になってきて い る中 で、貴重な史 料の数々を 翻刻し、世 に出してくだ さった関係 者のみ 第一節 民衆と宗教 宗教政策と寺 社領の支配 神社の祭 礼 第二節 第一節 改革後の藩 政 文政改革 宝暦 以後の藩政 後期藩 政の動向 第三節 海防問題 と北方問題 天保陸 奥国南部領絵 図 奥州八戸御城 下絵図 死、綱 吉政権下で側 衆にとりたて られた二 代藩主直政に とくにスポッ ト に、幕府 ・盛岡藩との 関係も含めた 八戸藩の 成立過程、初 代藩主直房の 第一章では、 八戸藩の分 立と初期藩 政の動向が取 り上げられ る。とく 付図 第四 節 第 八章 第三 節 第二節 信 仰と宗教 陸上交 通 八戸 藩領の村落 第七章 第 二節 第六章 第四節 2 な さんに敬意を 表すととも に、心より 感謝したい。 さて、同書 は以下の構成 からなって いる。 八戸藩の成 立 八戸藩の成立 と幕藩関係 第一節 幕藩関係 の展開 第一章 第二 節 第一節 農民支配の展 開と元禄飢 饉 藩政の 展開と地域 社会 第二節 藩財政の構 造 第 二章 第三節 藩政前 期の知行所支 配 地方知行 制下の藩士と 百姓 第 一節 藩政 前期の藩士 開発新田と 検地 第三 章 第二節 藩政中後期の 知行所支配 八戸城下の 構造と城下商 業の展開 1 - 105 - 5 2 第三節 第四章 2 3 のほか、幕府側の史料(「柳営日次記」など)も所載している点が特徴 が当てられ ている。解説 にもあるよ うに、県外 の史料を博捜 し、盛岡藩 にも思 えた。 ない)こ とも考えると 、第四章もし くは第八 章に収録した 方がよいよう あり、第四 章の解説でも 引用されて いる(ただ し史料番号は 付されてい 第三 章は、八戸藩 の構造で重 要である地 方知行制を新 田開発と併 せて であろ う。側衆をつ とめた際の日 記が、御 用商人の西町 屋の文書に 収め られ ているのも興 味深い。藩 政の成立の 項には、初期 の重要な家 臣二人 二八八 は年貢・諸 役や年中行 事、知行主か ら村役人 への振る舞 い(椀飯)な ど、知行所 支配の概要 が把握できる 興味深い史 と りあげてい る。 の概要が示 された史料は 、近刊の『 新編八戸市 史』でも未掲 載であり、 料である 。また、八戸 藩の検地方法 と検見法 を具体的に示 した を とりあげ、 特色を出して いる。ただ し八戸南部 家の系図や幕 府への役 本書でも 藩主の系図が しおりに示さ れるにと どまっている 。第八章の家 は、地 域史のみなら ず、検地の史 料として 貴重である。 二八六 格問題 なども考えれ ば、たとえ既 刊の『寛 政重修諸家譜 』であっても 、 くとし ながら、後期 の史料もかな り含まれ るが、史料的 制約を考えれ ば にかかわ るいわゆる地 方文書が残存 していな いと聞く。前 期に中心をお に関する史 料が収載され ている。南 部藩領や八 戸藩領につい ては、村政 第 二章は、農村 構造や農村 支配の展開 、藩財政や飛 地の志和領 の支配 酒仲間の動向がわかる「永歳目安録 」( 入)と 、城下で大き な財力を誇っ た酒に絞 って、史料を 掲載している 。 業につい ては、民衆の 生活にかかわ る木綿( とくに上方か らの古手の仕 や職種、借 家、一年分の 町触を示し 、町の状況 を示している 。また、商 町 役人の史料が 残存してい ないが、御 用商人の文書 より、個別 町の人口 第四 章は、城下町 八戸の構造 と商業をと りあげる。藩 の町奉行や 町の やむ をえないだろ う。こうした 中で、村 明細帳の代わ りに巡見使へ の報 関 係 で 、「 御 触 状 」( 三〇〇 )は興 味深 い。紙 幅の 告 を掲載して一 次史料から 村の概況を 示すなど、史 料選定の工 夫がうが 藩主 の「家」の歴 史が概観で きる史料も 掲載すべきだ ったのでは ないか。 № 二 九九 )や 、御 用 商人 の覚 書で あ る「 永代 書留 二九六・二 九七)が一部 略された のはやや残念 であった。 第五章は 、農産物以外 の代表的な 物産として 、漁業・製鉄 ・馬・塩の 三八 第六章 では、海上交 通と、陸上・ 河川交通 を扱う。海上 交通は特産品 四)など は第二章に入 れてもよかっ たのでは なかろうか。 もに 収 載 され て い る のが 気 に なっ た 。村 の 人別 と牛 馬の 改め ( 産 品や御用馬と しての馬とと もに、農 業生産にかか わる牛馬の 史料がと ら村では なく個別の家 に直接発給さ れたこと は注目される 。口絵写真で 二四七の志 和代官の 史料を とりあげる。 鉄山経営が御 用商人の 引継ぎの史料 によって示さ れ 伝」( № - 106 - № 初期の ものを全点掲 載されたのも 貴重であ る。藩財政の 史料も断片的 で える。また、 盛岡藩領・ 南部藩領の 農政におい て、年貢関係 証文が藩か № るな ど、いずれの 史料も興味深 かったが 、馬産・牛産 について牧な ど特 № ある が、藩の日記 から抽出した 農村法令 、農政と併せ て掲載するこ とで、 藩 政と村を一体 化して示すこ とに成功 している。 一七 № 業務日誌は飛 地領支配の 史料として 興味深い。た だし、藩士 の統制の史 一 七 六、 № № № 一七 一、 № 一 七一は 武家の 城下 町集 住を考 える上 で重要 な史料 で 料 が本 章 に 入っ て い る のが 気 に なっ た ( 七 )。たとえば № 四一三 )、悪銭の流通状況 の全国流通 に焦点をあて 、広域の流 通の史料が 収録している 。志和領の 飯米 移 出を 統括し た郡山 蔵宿の 業務 日誌( 四 四〇)をはじ め、大豆が味 噌の材料 として、〆粕 が木綿生産 に不 四四三・四 四四) ってしまっ たが、最後に 全体を通し ての所感を 述べたい。 本書の最 大の特徴は、 冒頭の巻の ねらいで述 べられる通り 、藩領域を 重視し 、県域を越え て史料を収載 したこと であろう。た とえば幕府 関係 や、 いわば江戸賄 領ともいえ る飛地の志 和領、廻船関 係の史料の 収載は、 上・河川交 通では、伝馬 制度や参勤 交代のほか 、領内の生産 物移送で塩 の自治体 史や史料集と の棲み分けが 図られて いる。たとえ ば、家臣団の 史料選定に あたっては、 同時進行の 『新編八戸 市史』をはじ め、既存 こ うした方針 によって実現 したと考え られる。 が主要街 道を通らずに 牛で移送され ていたこ となどが紹介 されている。 二九 九・三七七 ・五〇五は 『新編八戸市 史』と異な る年の 冊 を収録し、比 較検討が可 能である。 また、読者は テーマ別の 構成をと めで ある。 項で分 限帳の掲載を 避けたのは、 既に八戸 市が活字化を すすめている た 四八八、 藩と祈祷 る本 書 か ら 論点 を 学 ぶこ と で 、藩 の 日 記類 を編 年体 で編 纂し た既 刊の 四九〇 、博奕宿の 場となって 処罰された例 寺や館神と された神社と の関係、寺 院の仲裁機 能、領外より やって来る 資料 編』もよ り深く読むこ とができるだ 『八戸藩 史料』や『八 戸市史 また 、収録史料の 配列は、藩政 や家臣団 と地方や商業 ・産業をうま く 藩主 を迎えたこと による家格上 昇の運動 をとりあげて いる。文政改 革に 防問題 と北方問題に 焦点をあてる 。改革後 については、 島津家から九 代 に宝暦以 降・文政改革 ・改革後に分 けて史料 を収載し、さ らに幕末の海 第八章は後期 藩政をとり あげている 。飢饉と財 政難に対する 政策を軸 の 対立、製鉄に おける砂鉄選 別や炭薪 生産に伴う森 林伐採が環 境や社会 の大 豆増産に伴う 猪食害の拡大 と飢饉、 第五章の干鰯 猟と沖合の漁 業と の新田 開発停止の要 因に水源涵養 林の伐採 や草刈場の利 用制限、第八 章 史料の活 用も特筆され るであろう。 このほか 、テーマの中 では、第三章 合的にみると いうねらい は十分に実 現している 。藩の御用商 人西町屋の 組 み合わせなが ら配置して おり、冒頭 で述べられて いる藩政と 社会を総 つ いては、第五 章の産業や第 六章の流 通が藩専売と 密接に関係 している 「藩社 会」論や「藩 世界」論が提 唱されて いるが、評者 自身は、江戸 藩 た だ し 、 疑 問 も な い わ け で は な い 。 近 年 、 藩 政 史 研 究 に つ い て は、 に与える影響 など、環境 史への意識 が通底してい るように感 じられた。 たのでは ないだろうか 。 ので、前の章 との関連を 解説で示し ておいた方が 、読み手に は親切だっ 点 で第二章に入 れた方がわ かりやすか ったようにも 思う。 人別 帳は、檀家制 度を示すとい う点では 宗教にもなろ うが、戸口と いう 宗教者、 城下の祭礼、 御用商人であ る京都の 商人の取次に よって山車人 の 日記 № ろう。 № つの 特色となって いる。京都 の本山であ る聖護院に院 号を請けに 行く時 第七章 は、藩の宗教 統制、民衆の 信仰を扱 う。とくに修 験道関係が一 な ど、近年の 流通史研究の 動向を反映 したものと なっている。 また、陸 可欠 なものとして 東海地方に 移出されて いたこと( ( № 形が京 都からもたら されたことな どがとり あげられてい る。なお、宗 門 № 以上、 紙幅と評者の 能力から、個 人的な関 心による駆け 足の紹介とな - 107 - № № での 支出にかかわ る数点の史 料と、口絵 の藩邸絵図一 点に限られ ている 載史料 が、二代藩主 の側衆就任に 伴う屋敷 拝領および財 政における 江戸 と考えて いる。この点 で、他の自治 体史と同 様、本書でも 江戸藩邸の掲 邸を財政以 外の局面でも 組み込んで いくことが 課題として残 されている ー ジに展開す ることを望ん でやまない 。 の公 開講座や教育 現場との連 携など、さ らに青森県史 の活動が次 のステ う。公 文書館の設置 の検討なども 含め、収 集史料の保存 と公開、古 文書 収録しき れなかった豊 かな収集史料 の活用も 検討していた だきたいと思 後、資料編 を基礎とした 通史編の叙 述をすすめ られるであろ うが、ぜひ (いわぶ ち・れいじ 国立歴史民俗 博物館准 教授) (A4判、 七九一頁、青 森県、価格 五八八〇円 、二〇一一年 三月刊) の が気になっ た。 また本巻に 限らないが、 史料それぞ れの解説が 少ない印象を 持った。 各章冒頭 の解説は質の 高いものが多 く、八戸 藩領の概要を 学ぶのにたい へん便 利である。し かし、ほとん ど解説が 付されない史 料もままみら れ る。 自治体史の資 料編では、 一点一点に 解説をつける 方式、章ご とにま と めて解説する 方式、その 両方をとる ものなど、さ まざまな方 法がとら れている。さらに 、『新編八戸市史』や『千葉県史』など、資料編の中 に文書一 点から読み解 くコラムを付 けるケー スもある。せ っかく掲載す るので あれば、もう 少し詳細な解 説があっ た方がよいの ではないだろ う か。 さらに、史料 の保存・活用 という点 では、史料群 の解説も付し てい た だけるとよか ったように 思う。また 口絵や付図が 、本文の解 説では関 連づけられて いない。た とえば、と くに第四章 に関連する付 図の八戸城 下の図、 第五章の製鉄 と口絵の遺跡 発掘の写 真、第六章に 対応した船絵 馬や一 里塚など、読 者に具体的な イメージ を与え、史料 の解読の助け に なる ものが収載さ れていたのに 残念であ った。古文書 をどのように すれ ば 一般市民に関 心をもってい ただける かという点は 、博物館に 勤める評 者自身の課題 でもあり、 言うが易し であることは 承知してい る。しかし 、 読者、と くに研究者以 外の方への配 慮は重要 だろう。 青森県 史の近世の資 料編の刊行は 、あと一 冊を残すのみ となった。今 - 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