【小学校体育科】 福島市立庭坂小学校 教諭 菅野 裕 はじめに 平成25年4月,教師生活20年目を迎えた。 前任校は研究校であったため,自分自身を見つめる余裕などなく,ただひたすら目の前にある仕事を片付 けるだけの忙しい生活を送っていた。本校に異動してきてから,少し余裕ができたせいか,本当にこのまま でよいのだろうか,という漠然とした不安に駆られる日が,日に日に多くなっていた。本校勤務4年目とな り,学校にも慣れてきたせいもあった。 漠然とした不安とは,これまでは何とかやってこれたが,「将来教師としてやっていけるのだろうか」と いうものだった。その不安は,大きく4つあった。 まずは「子どもの変化」についていけるか,ということである。十年一昔と言われるが,子どもへの対処 が年々難しくなっているように感じる。今までのやり方が通用しないわけではないが,しっくりこないこと が多くなってきた。適切な指導をどうすればよいのか学ぶ必要があった。 次は, 「ミドルリーダーの役割」である。若手ではないと思っていたが,ベテランでもないと思っていた。 でも気付けば,教師人生の半分を過ぎているのである。学校の組織の中で,どう学校の運営に携わればよい のか考えていく必要があった。 そして「専門性の確立」である。専門教科である「体育」の研究をさらに深めたいと考えたためである。 他教科では,組織だった研究,ご指導いただける機会など数多く経験したが,「体育」では,個人的に研究 を進めてきたものの,そういった経験がなく,機会をとらえて研修を深めたいと思っていた。 最後は,「教師としての熱意」である。テクニック,技が身に付き,効率的に進めることができるように なってくると,さらに「楽」を求めている自分に気が付いていた。いわゆる「易きに流れる」ようになり, 「我武者羅」に前に進もうとする意欲が少なくなっていた。もちろん年齢を重ね,「無茶苦茶」なことはで きないが,「試行錯誤」を必要以上に避けているのではないか,そういった思いがあった。 そんな不安の中,「ふくしま教師塾」への参加を勧めてくれる先生方がいて,自分を変える機会に巡り会 えたことを感謝し,入塾を決意した。2年間を「教員生活のリニューアル」の年と考えたのである。リニュ ーアルのための「始めの一歩」を踏みだし,塾での研修をスタートすることとなった。 ふくしま教師塾での研修経過 <授業力向上を中心に> 1 自分を見つめる ~ 自己課題確認チェックシートによる教師としての自己分析 ~ 自己課題(教師力)分析 1年目(5月) 自己課題(授業力)分析 1年目(5月) 学習の基盤 授業力 5.0 4.0 5.0 4.0 2.7 3.0 知識・理解 2.0 2.8 2.7 1.0 2.7 関心・意欲・態 度 0.0 チームで対応する力 3.0 学級経営力 3.0 2.0 1.0 0.0 技能 2.7 3.0 新課題に対応する力 2.4 2.7 3.0 生徒指導力 2.7 思考・判断・表 現 コミュニケーション力 授業力向上について 子どもの興味関心を十分に生かし切れていないこと,教師主導による授業の進め方が課題となっていた。 子どもの意見や考えに柔軟に対応できる授業を展開できるようにしていかなければならなかった。また,習 得と活用のバランスに欠けた授業がなされていることも課題となっていた。「習得・活用・探究」のバラン スを常に考え,子どもたちに応用力等も身に付けさせていくことも必要であった。そのため,下記の2点に ついて,自己課題とした。 ○ 子どもたちの思いや願いを十分に生かせる場を設定するとともに,子どもたちの意見や考えに柔軟 に対応する授業を実践していく。 ○ 「習得・活用・探究」の学習を充実させるため,子どもたちの実態をよくとらえた上で,授業の展 開の仕方について工夫・改善をしていく。 - 25 - 教師力向上について 子どもたち同士,教師と子どもたちの結びつきはよくなってきていたが,個別指導の時間の確保,子ども たち同士のリレーションづくりも引き続き行っていくことが課題となっていた。校務運営上に関しては,授 業研究の段取りや研究物のまとめ方等,計画性に乏しい部分があったこと,組織を生かす手だてに欠けてい たことがあった。計画性,組織を生かす手立てを明確にもち,研修の場や機会を設定していくことが必要と なっていた。本校の現職教育として,共感的に聞き,理解するといった学習集団作りを進めていくこと,相 手に分かりやすく話す,相手の意図をつかみながら聞く,双方向性のある話し合いを日常的に実践していく ことが課題になっていた。項目に応じて,自己課題を下記の通りにした。 授業力 子どもたちの実態に的確に合わせた授業の実践 「習得・活用・探究」の学習の充実 学級経営力 子どもたちが安心して活動し,居場所のある学級づくり 生徒指導力 子どもたちの「自己存在感」をもつための環境づくり コミュニケーション力 子どもとのコミュニケーション力の向上 チームで対応する力 組織を生かした現職教育の推進 新課題に対応する力 言語活動の充実に向けた取組み 2 よりよい自分を求める ~ 研修の計画を立てる ~ 総合研修テーマ よりよい学級・学習集団を目指し,目の前の子どもたちに寄り添って指導していくことで,互いにつ ながりながら共に学び合うことのできる子どもたちを育てる。 上記のテーマを解決するためにおおよその見通しをもった。考慮した点は下記の4点である。 ○ 習得学習と活用学習のバランス ○ 自分の能力に適した課題とその解決方法 ○ 言語活動の充実 ○ 学び合い 授業実践を進めるに当たっては下記の視点をもつこととした。その際,本校の研究主題の解決を合わせて 行っていくこととした。( 内は本校の研究内容 ) 視点1 視点2 視点3 視点4 3 基礎・基本の習得学習と自発的な活用・探究のバランスのとれた学習過程 適切な自分のめあてのもたせ方の工夫 自己内対話の充実 技能のポイントの明確化と課題解決の場の提示の仕方の工夫 児童間対話の工夫 子どもたち同士のかかわりを重視した学習形態の工夫 児童間対話の工夫 自分を変える ~ 一つ一つの実践の積み重ねを通して ~ 視点1については,授業実践の中で,それぞれの運動の特性に十分に触れさせたいため,単元の構成を工 夫した。基礎・基本の習得学習と自発的な活用・探究学習のバランスのとれた学習過程を展開したいと考え た。例示した下の表は,マット運動(第6回目の授業実践)の単元の指導計画である。 10 20 30 40 第1次 1 オリエンテーション ◯学習の進 め方 ◯実態把握 ◯めあて設 定 第2次 2 ③ 4 5 6 基礎学習(感覚づくり) ・かえる逆立ち ・腰上げ足たたき ・転がり抱え込み ・手押し車 ・ゆりかご ・ブリッジ 基本学習(めあて1) ・跳び箱での前転 ◯開脚後転・開脚後転・ 側方倒立回転の習熟 基本学習1 基本学習2 基本学習3 学習 ◯開脚後転 ◯開脚前転 ◯側方倒立 発展学習(めあて2) の習得学習 の習得学習 回転の習得 ◯できそうな技への挑戦 学習 学習 第3次 7 発表会 ◯学習の 成果の 発表 ◯学習の まとめ 45 視点2,視点3,視点4については,次ページの通りである。 授業テーマに迫るための手立てと実際 手だて → 二重線 - 26 - ※アンダーラインについては下記の通り 成果 → 実線 課題 → 波線 授業力向上 授業実践1 平成25年6月 ティーボール(ベースボール型) 授業テーマ タスクゲームでの練習を通し,チーム内で守備について考える場を設定し,メインゲームにつ なげることで,よりよい守備の動きを身に付けていく授業 ◇ 授業テーマに迫るための手だてと実際 ◯手だて ◎成果 ●課題 (1) 自己内対話の充実【手だて1】 :個々のめあてのもたせ方の工夫 ◯ 学習資料を使いながら,チームでの課題と合わせて,学習カードに具体的にめあてを記入させる ことで,明確な課題意識をもって活動させるようにした。 ◎ 前時のチームの反省を基に,事前にめあてを設定しておくことで,チームでも個人でも明確な課 題意識をもって練習に臨む姿がみられた。チームでの練習においても,個人ごとの課題を解決しよ うとする姿がみられ,チーム内で互いにその解決に向けてアドバイスする姿もみられた。 学習課 題の確認の際も,板書にてチームごとの課題と練習方法を確認した後,個人ごとに自分のめあても 合わせて確認する機会をとった。その後の練習に取り組む姿を見ると,気をつけて投げる,捕る動 きをし,意欲的に取り組んでいたところからも,適切に課題をもたせることができたようである。 ● チームに合わせる形をとったが,中には違った課題をもつ子どももおり,個別に対処していく必 要はあった。 (2) 児童間対話の充実【手だて2】 :技能のポイントの焦点化と課題解決の場の仕方の工夫 ◯ タスクゲームにおいて,話合いと練習,ゲームの時間を確保し,守備について絞り込んで取り組 めるようにすることで,守備の動きについて進んで学習に取り組めるようにした。 ◯ タスクゲームでは,ワンベースティーボールを取り上げた。(チーム内で一人が打者となり,残り の子どもたちが守備につく。)決められた時間内に数多く回すにはどうすればよいのかという視点を 与えることで,守備の動きのポイントを考えさせた。 ◎ 単元の始めのうち,ボールを捕ると,アウトサークルにそのまま走って向かう姿が数多くみられた。 単元が進むにつれ,走っていては時間がかかるから,アウトサークルにボールを持っていない人が先 に走り,ボールを投げればアウトにできることに気付き,送球するよさを理解することができた。 ◎ ボールを捕るのを怖がって必要以上に後ろに構えてしまう姿もみられた。ボールをできるだけ前で 捕れば,その分早くアウトにすることができることにも気付き,捕球の慣れに合わせて,守備の位置 も少しずつ打者よりになっていった。 ◎ メインゲームでは,どの塁のアウトサークルに入るか判断に迷い,結果的に相手チームに進塁させ る場面が多くみられた。そこでタスクゲームの練習の際には,早めに送球する,アウトサークルに入 るといったことが意識化されていった。 ◎ 守備について絞って練習,話合いをさせたことにより,よりよいチームの守りの動きを追求しよう とする姿が多くみられた。 ● 進塁の位置を見極め,先を読んでアウトにするといったことは,メインゲーム内でしか実際にでき なかった。また,今回は守備に焦点を置いたことで,打つ動きに課題が多く残った。守備の大事な点 である「中継」,「カバー」に気づかせるところまでいかなかった。こういった点にも配慮された場づ くりがあるとよかったように思う。 (3) 児童間対話の充実【手だて3】 :子ども同士のかかわりを重視した学習形態の工夫 ◯ チームでの取組みを基本として,学習を進めることにより, 目的意識をもって同じグループ内の学び合いや励まし合いが意 欲的にできるようにした。 ◎ 今回は,生活班を基に,3チームを編成した。ソフトボール のスポ少に所属している児童は2名いたが,特に調整等はしな かった。ボール運動が好きなリーダー性を発揮できる子どもを 中心となって活動が進んでいった。 ◎ 練習,話合いの時間を確保し,子どもたちなりに解決方法を 見い出せるような機会を与えたことで,互いに声を掛け合い, 協力して取り組んでいく姿が数多くみられた。また,ボール運 動が得意な子どもが中心となって課題解決のための練習に取り組むといった工夫する姿もみられた。 そんな中,得意でない子どもも次第に積極的にボールに触ろうとしていた。授業の終末においては必 ず反省の話合いの時間をとったことから,次時への学習内容,学習意欲のつながりがみられた。 - 27 - 授業力向上 授業実践2 平成25年10月 ハードル走(陸上運動) 授業テーマ 自分の課題を適切にもち,互いに教え合って,技のポイントをより意識することで,楽しみながら意 欲的にハードル走に取り組み,確かな技能の定着を目指す授業 ◇ 授業テーマに迫るための手だてと実際 ◯手だて ◎成果 ●課題 (1) 自己内対話の充実【手だて1】 :適切な自分のめあてのもたせ方の工夫 ◯ 40m走の記録を基に,ノモグラムを活用して,各自の能力にあった「目標記録」を設定し,実際 の記録と「目標記録」との差を基に得点を付けその得点を伸ばすという方法をとっていくことで,適 正に自分の能力を見つめて学習に取り組むことができるようにした。 目標記録=40m走の記録+0.3×(ハードル走の台数4台) ◎ 目に見えた目標ではなく,計算で出された目標であったことから当初戸惑う姿がみられたが,活動 が進むにつれ目標記録に向かって取り組む楽しさを感じ,意欲的に取り組む姿がみられるようになっ てきた。目標記録の達成に向けきちんと取り組み,そのための記録向上に向け,課題を見出し解決に 向けて練習しようとする姿も見ることができた。 ● 目に見えた目標ではなかったため,対友達という目に見える目標をもちたいという子どもも数名み られた。自分自身にというより対他人といった競争原理に動機付けを求めることに対し,手だてをも っていなかったため,そういった子どもたちに合う場も必要であったかもしれない。だが,今後こう いった自分自身を見つめていく場,達成型の場も多く設定していかなければならない。 (2) 児童間対話の充実【手だて2】 :技能のポイントの明確化と課題解決の場の仕方の工夫 ◯ 技能のポイントを明確化し,課題が解決できるような練習の場を示すことで,場づくりなど見通し をもって各自が進んで学習に取り組むことができるようにした。 ◎ 見合うポイントとして,6点を中心として自分の動きに気を付け,友達の動きもきちんと見ていく ようにした。2時目にハードル走の技能のポイントを見い出し,全員で共有する時間を設けていたこ ともあって,ポイントを意識しながら練習に取り組む姿がみられた。また資料を使って友達の動きを よく見てアドバイスする姿も見られ,資料を使いよりよい動きを求めようとする意識の高まりもみら れた。 ● ポイントが文章になっていたことから,自分の動きを確認するときも友達の動きを指摘してあげる 時にもすぐさま言葉に表現することができずに,課題点や修正方法について動作を用いて時間がかか って説明している様子がみられた。資料において細かなところまで書かれていたこともあり,6つの 重要なポイント以外にも視点がいきがちで,重点的に練習する様子もみられた。キーワード化する, ポイントの絞り込みを資料の中にも明確化するなどして,スムーズに伝えられるようにしておくこと が大切であった。まだ2時目に課題解決の方法についても説明したが,主立った用具の準備をしなか ったことや口頭だけの確認になったことから,地面に踏み切り位置や着地位置を記す方法がよくみら れた程度で,課題解決に向けて有効な方法がきちんととられていない面があった。 (3) 児童間対話の充実【手だて3】 :子ども同士のかかわりを重視した学習形態の工夫 ◯ 生活班で一緒に学習し,グループでの競争型の学習を取り入れ ることにより,練習の成果を試技に生かそうとする意欲付けを図 るとともに,同じグループ内の励まし合い,教え合いができるよ うにした。 ◎ 普段から生活班を各教科でも取り入れて活動していることもあ り,スムーズに学習を進めていた。互いに教え合い友達が速くな ると,自分たちのグループの得点がアップしていくことも友達に きちんと教える意欲にもつながっていたようで,「◯◯さんのおか げで速くなったし,△班に勝つことができた」と個人の成果と班 の成果に喜ぶ姿がみられた。 ● 能力を均等にせず,班員も個に応じて編成していなかったこともあり,得点が伸び悩む班があった。 練習とは違い,競争となると少しがっかりした表情を見せることがあった。 - 28 - 授業力向上 授業実践3 平成25年12月 跳び箱運動(器械運動) 授業テーマ 自分の課題を適切にもち,互いに教え合って,技のポイントをより意識することで,楽しみな がら意欲的に跳び箱運動に取り組み,確かな技能の定着を目指す授業 ◇ 授業テーマに迫るための手だてと実際 ◯手だて ◎成果 ●課題 (1) 自己内対話の充実【手だて1】 :適切な自分のめあてのもたせ方の工夫 ◯ デジタルカメラをグループに1台ずつ配備し,動画を使って撮影することで,運動をする本人に自 分の動きを確認させ,課題を明確にさせるように。また動画や学習資料を基に,自分の感覚を話すな ど言葉にさせることで,より技のポイントを意識させた。 ◎ 各自それぞれのめあてに向かって取り組む姿がみられた。デジタルカメラの動画を基に,自分たち の動きを確かめることができ,「なるほど」「こうなっていたのか」などの声を聞くことができた。 ● デジタルカメラを初めて使用した単元であったため,物珍しさからひたすら撮影に終始したり,使 用方法を習得していなかったためにきちんと撮影できなかったりと,効率よく効果的に使用できない 面がみられた。また,デジタルカメラも資料も全く使用しないで,ずっと練習している子どもたちも みられた。そのため,自分の動画をみることはできたが,課題点を見出すところまで至らない様子が みられた。 (2) 児童間対話の充実【手だて2】 :技能のポイントの明確化と課題解決の場の仕方の工夫 ◯ ポイントを絞って教え合いができる学習資料を準備したり,課題解決できるような練習の場を示し たりすることによって,見通しをもって互いに協力しながら進んで学習に取り組むことができるよう にした。 ◎ これまでの単元において,ポイントを押さえると上手になる ことを実感してきたせいか,ポイントを意識して練習に励んで いた。また,課題解決の場を提示し,初歩の段階の子どもたち においては実際に場を作成してあげたせいか,自分の課題解決 に向けて懸命に練習する姿もみられた。 ● 技のポイントを意識はしていたが,何度も同じ動作を繰り返 せば自然と身についてくると考えている子どもも少なくはなっ てきたものの依然として多いため,学習資料などは一切見ない で黙々と練習している姿もみられた。「できた」基準を示してい なかったため,何となく「で きた」で満足してしまい,質の高い動きを求めることができなかった。 上位の子どもたちには,次の 課題である「首はねおき」に意識が行ってしまい,動きそのものをよく 把握していないため,危ない 様子もみられた。新たな課題を与えてポイントを教えておくと共に,場 や補助の仕方を事前に指導す べきであった。 (3) 児童間対話の充実【手だて3】 :子ども同士のかかわりを重視した学習形態の工夫 ◯ 身長順で4~5人のグループを編成し,同一の跳び方に取り組み,学習を進めることにより,目的 的意識をもって同じグループ内の学び合いや励まし合いが意欲的にできるようにした。 ◎ グループで練習する,教え合うといった共同で学習する意識は5年当初に比べ向上してきた。今回 も教え合うことによって上手になっていく様子がみられた。安全面においても約束事を互いに口に出 して伝え合い,台上前転の動きにおいてもそれぞれの個々の様子を伝え,改善に向け話し合う姿もみ られた。グループとしての機能は働いていたようである。 ● 自分たちで教え合うという意識は高まってきたものの,相変わらず,順番待ちの形で自然に並んで しまう様子もみられた。そのため,必ず見合い,アドバイスするという学習の約束が忘れてしまう場 面もみられ,次々に台上前転をしてしまう子どもたちもいた。先にも述べたが,上位の子どもたちの 課題の提示が十分でなかったために,能力ごとにグループの中がバラバラになってしまうところもあ った。グループ内でも対人関係が左右しているところもあり,人間関係を考慮しながら課題別グルー プを編成する必要も考えられた。グループでの教え合いもそうであるが,課題別コースで能力に合わ せて活動する方法も考えられた。 - 29 - 授業力向上 授業実践4 平成26年6月 鉄棒運動(器械運動) 授業テーマ 自分の能力に応じた課題をもち,技のポイントを互いに教え合ってより意識させながら,楽し く鉄棒運動に取り組み,技能の向上を目指す授業 ◇ 授業テーマに迫るための手だてと実際 ◯手だて ◎成果 ●課題 (1) 自己内対話の充実【手だて1】 :適切な自分のめあてのもたせ方の工夫 ◯ デジタルカメラをグループに1台ずつ配備し,動画を使って撮影することで,運動をする本人に自 分の動きを確認させ,めあてをより具体的にもてるようにした。また動画や学習資料を基に,自分の 言葉で相手に伝えたり,自分の感覚を表現したりすることで,より技のポイントや自分のめあてにつ いて意識させた。 ◎ 実際の練習において,デジタルカメラを使用し,友達と一緒になって確認する姿が随所にみられた。 小さい画面を見ながら,自分の動きを確認し,新たな視点をもち練習に励む姿がみられた。 ● デジタルカメラの使用については,個々にその操作レベルが違う。そのため,きちんと操作できる スキル面での習熟も必要となった。また,技のポイントは意識されても見えづらい撮影であったり, 視聴とまではいかなかったことが多かった。画面が小さいことも互いに映像を共有する難しさがあっ た。 (2) 児童間対話の充実【手だて2】 :技のポイントの明確化と課題解決の場の仕方の工夫 ◯ 技のポイントを絞り込み,教師の提示資料と学習カードに明記 することにより,実際の動きを図説と言葉で連動させ,技のポイ ントを示すことで互いに見合うポイントを明確にした。また,ス モールステップや課題に合った練習の場を示すことで解決方法を 明らかにし,協力して課題解決に向かわせ見通しをもって互いに 協力しながら意欲的に学習に取り組むことができるようにした。 ◎ 絞り込んだこと,キーワード化によって,それぞれの伝え合い がスムーズに行われた様子がみられた。見る視点を一つに絞り込 んで,「◯◯を見てね」「◯◯は~なっていたよ」の声が多く聞か れた。また練習の場を示したことで,自分たちで工夫しながら場づくりする姿もみられた。逆上がり を練習するグループでは,それぞれの段階によって,小マットを重ねる枚数を適切に変えたり,跳び 箱や踏み切り板,ロイター板の使用を使い分けたりし,自分たちの課題解決に向けて,協力し合って 練習する姿が多くみられた。 ● 言葉の意味のとらえ方に,子ども同士の中でも,教師と子どもの間にも,ちょっとしたズレが感じ られることがあった。子どもたちの言語能力にも差があり,子どもたちの話合いや教師からの直接指 導により改善することが少なくなかった。 (3) 児童間対話の充実【手だて3】 :子ども同士のかかわりを重視した学習形態の工夫 ◯ 課題別グループで,学習を進めることにより,同系統の種目に互いに見合うことができる。そのこ とで,互いに見合うポイントを限定することができ,散漫せず集中して,効果的,効率的に教え合う ことができるようにした。目的意識をもって同じグループ内の学び合いや励まし合いが活発に意欲的 に行われるようにした。 ◎ 同種目を課題となる技として取り組んでいるので,「◯◯は~するといい」と実際に見せて説明し たりする姿が多くみられた。教えた後,できるようになると,自分ができたかのように喜ぶ姿もみら れ,活発な教え合いになっていた。また,自分の周りの友達がで きるようになっていくのを見て,自分もできるようになりたいと 他者認識の基,練習に熱心に励む様子もみられた。教師が指導に 入っても「◯◯さんは,~をがんばっていて,~までできるよう になった」という言葉も聞かれ,学び合いの中にも高まりも感じ 取れた。 ● 今回は学び合いを意識し,意欲的に取り組むグループが多かっ たが,目的達成がされた子ども,達成までのステップが大きい子 どもに対しては直接指導に入ることがあった。 - 30 - 授業力向上 授業実践5 平成26年9月 走り高跳び(陸上運動) 授業テーマ 自分の能力に応じた課題をもち,グループで活動することを通して,技のポイントを互いに教 え合ってより意識させながら,楽しく走り高跳びに取り組み,技能の向上を目指す授業 ◇ 授業テーマに迫るための手だてと実際 ◯手だて ◎成果 ●課題 (1) 自己内対話の充実【手だて1】 :適切な自分のめあてのもたせ方の工夫 ◯ 身長と50m走の記録を基に,ノモグラムを活用して,各自の能力にあった「目標記録」を設定し て練習に取り組ませるようにした。自分の実際の記録と「目標記録」との差を基に得点をつけその得 点を伸ばすという方法をとっていくことで、適正に自分の能力を見つめて,技能における自分の課題 を解決していったり,そのための方法を選択したり,目標記録達成のために努力したりと,主体的に 学習に取り組むことができるようにした。 目標記録=身長÷2 - 50m走のタイム×10 + 115 ◎ 目標記録に向かってがんばろうと意欲的に取り組む姿が多くみられた。一律の達成に向けた基準で なく,各個人ごとにあったものなので,それぞれがきちんと達成しようとする気持ちが芽生え,記録 向上に向け,練習に励んでいた。 ● 目標記録をすでに達成した子ども,目標記録が合っていない子どもも何人か見受けられた。その都 度修正を加えたりしてきて解決してきた。個々に合わせて,目標記録を見直す手だても必要になり, 授業内でも授業外でも,チェックしていく必要があった。 (2) 児童間対話の充実【手だて2】 :技能のポイントの明確化と課題解決の場の仕方の工夫 ◯ 技能のポイントを明確化し、課題が解決できるような練習 の場を示すことで、場づくりなど見通しをもって各自が進ん で学習に取り組むことができるようにした。 ◎ 今回も絞り込んだこと,キーワード化によって,それぞれ の伝え合いがスムーズに行われた様子がみられた。また,解 決方法も板書や学習資料に明確に示していたので,自然に練 習に取り組んでいた。踏み切り板や目印を中央から持ち出し, 個々の課題解決に向けてグループ全員で取り組むことができ た。 ◎ 資料を基にポイントをしっかりとらえて,教え合う姿がみ られた。資料を指し示しながら,「~が~なっているから, ~した方がよい」とアドバイスする姿が多くみられた。それ とともに,技能のポイントを意識して練習に取り組むこともできた。アニメーションであることもポ イントのわかりやすさにもつながっていたようである。 ● 課題となるポイントが違っている子どもが何人かみられ,グループ内で課題の修正している頼もし い姿もあったが,個々に担任から指導も加えることがあった。場の設定においても,衝突などの危険 もあったことから,指導面,安全面に配慮していく必要があった。 ● ポイントが意識し,解決方法を適切�
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