1年『少年の日の思い出』

実践のまとめ(第1学年
国語科)
三条市立第二中学校
1
教諭
大野
貴章
研究テーマ
既習事項を生かしながら文章の読解に取り組み、
自分の考えを表現する生徒の育成
~物語文の読解と主題に迫る学習活動を通して~
2
研究テーマについて
(1) テーマ設定の理由
意欲的に学習に取り組む生徒が多い。授業では、いつも活発な意見が出される。しかし、
1学期最初の文学教材である『遠い山脈(東京書籍)』では、急に教室がいつもの活気を失
った。文学教材では何をどう読めばいいのか分からないと言うのである。挙手の数も減った。
そこで、以下のように考えた。
①
「生徒に物語を読むための【視点】を教えたい。」
生徒は読むための【視点】や観点を知らないのでないかと考えた。だから、【視点】
を示したり、感得させたりする。そうすることで、生徒は読み方を学び、文学的文章の
読解に意欲的に取り組むのではないかと考えた。
②
「物語の主題を読み取れるようにしたい。」
生徒は文章の順序にしたがって、漠然と読んでいるように思われる。しかし、大切な
のは、ただ単に読み進めるのではなく、物語には筆者の思いが詰め込まれており、それ
を読み取ることや考えることである。それを解き明かす手がかりとなるのが、心情を読
み取ったり、表現の効果を考えたりすることであると考える。そういった学習を通して、
主題に迫ることが可能になるのではないかと考えた。
しかし、今回の学習をその場限りで終わってはいけないとも考えた。生徒が【視点】を身
につけ、それを今後も続いていく『走れメロス』や『故郷』、さらには今後の人生において
生しかしていけるようにしたいとも強く考えた。したがって、既習事項=【視点】を活用し
た読解の学習を積み重ねながら、それを定着させたいと考えている。
そして、物語の主題に関する、自分の考えを本文から得られる根拠を踏まえながら表現す
ることを最終目標として、授業を進めていきたい。
(2) 研究テーマに迫るために
物語を読むために重要視したいのが「登場人物の心情を読み取る」と「山場を読み取る」、
「山場(クライマックス)を読み取ることで、その文章の主題を読み取る」ことである。そ
の3点の指導に重点を置きながら、「主題について自分の考えを表現する」という最終目標
を目指したい。心情を読み取っていくことが土台となって山場(クライマックス)を読解し、
主題を読み取ることができるのだと考える。
以下に学習のおおまかな流れを示す。
-1-
①登場人物の心情の読み取り
↓
②山場の読み取り
↓
③主題に迫る
↓
④自分の考えを表現する(最終目標)
上記の流れをふまえて、登場人物の心情を読み取るために、以下の手立てを行う。
①
既習事項の確認をする
1学期に学んだ読み方の【視点】を確認し、学習の方向付けを行い、見通しをもた
せる。
②
スキルカードの活用をする
物語を読むための【視点】を視覚的にする。例えば、「色」「時間帯」「心情の直接的
表現」「情景描写」「起承転結」「視点」「表現技法」「オノマトペ」「文末」などである。
そ こ か ら具 体 的に 登場 人物 の心 情を 読み 解い てい く。 しか し 、その 視点 は 少しず つ 薄
ら い だ り、 つ い忘 れて しま うこ とも ある 。そ こで 、こ れら が 書かれ てい る カード を 用
意 し 、 手元 に 置き 、視 覚的 にし てお くこ とで 、生 徒が 心情 を 読み取 って い く際の 手 助
けとなるようにしたい。
③
教科書以外の短編小説を用いる
教 科書 の 教材 だけ では 十分 と言 えな い。 単元 の中 に多 くて 2編 で ある。 そこ で、 教
科書 以外 の短 編 小説を い くつか 用いて、【視点 】の定 着を図る 。また、「で きた」と い
う感覚を学習意欲にもつなげられるようにしたい。
また、主題を読み取るために、以下の手立てを行う。
①
山場(クライマックス)の検討
山 場 (ク ラ イマ ック ス) とは その 物語 の主 人公 の心 情が 最 も大き く変 容 する部 分 で
あ る 。 そこ が 文章 の主 題と なる こと が多 い。 既習 事項 (= 物 語読解 の視 点 )を生 か し
な が ら 、登 場 人物 の心 情を 読み 取っ てい く。 そし て、 大き な 変容を する 場 面を読 み 取
る 。 そ こか ら 主題 (= 筆者 が読 み手 に最 も伝 えた いこ と) に 迫り、 自分 の 考えが も て
るようにしたい。また、クライマックスの検討を最後に行うのではなく、最初に行う。
曖 昧 な もの で 良い こと とし 、最 後に 討論 で確 定さ せる 。目 的 意識を もた せ 、本文 を 読
み取っていく上での意欲付けとするためである。
②
ワークシートの工夫
ワークシートに、「本文の表現・視点・そこから読み取れる心情」を書き込む。そし
て、一目で本文の登場人物の心情の変化が確認できるようにしたい。また、クライマッ
クスを確定するときに、本文から根拠を求めることを基本とするが、その時に、ワーク
シートを利用して、自分の考えの根拠を取り上げやすくなるようにしたい。
さらに、最終目標である自分の考えを深め、表現するために、以下の手立てを行う。
①
他者との意見交流の場を設ける
-2-
「自分の考えとの共通点や相違点を整理すること(学習指導要領解説)」で、より考え
の深まりが期待できると考える。
②
自分の考えを文章で表現する
※最終目標
文 章 で表 現 する こと で、 自分 の考 えを まと め、 表現 力が 高 まるこ とを ね らいた い 。
討論やクライマックスに対する自分の考えを表現する。
自分 の 考 えを ま とめ 、表 現す ると いう 最終 目標 のた めに 、全 て の学習 活動 が 関連し 、 連
動して最終目標に生徒が近づいていけるように、上記の手立てを常に単元の中で意識して、
学習に取り組みたい。
(3) 研究テーマに関わる評価
①読解のためのスキルを用いて登場人物の心情を読み取ることができる
【ノート・ワークシート・観察】
②文章の山場(クライマックス)を根拠を明らかにして指摘することができる。
【ノート・ワークシート・観察】
③山場を理解し、自分の考えを表現することができる。
【ノート・ワークシート・観察】
④物語の読解に関する小テストを行う。
3
単元と指導計画
(1) 題材名
『少年の日の思い出』
(2) 単元の目標
物語読解のための【視点】を生かし、登場人物の心情を読み取りながら、主題に迫り、自
分の考えを文章に表現するすることができる。
(3) 単元の評価規準
関心・意欲・態度
話すこと・聞くこと
書くこと
読むこと
・ 物 語 文 読 解 の ス ・ グ ル ー プ で の 意 見 ・ 物 語 の 主 題 に つ い て ・物語文読解のスキルを
キ ル を 用 い て 、 意 交 換 で 、 話 し 合 い の 自分なりの考えを持ち、用いて、登場人物の心情
欲 的 に 登 場 人 物 の 話 題 や 方 向 を と ら え 段 落 の 役 割 を 考 え て 、 を読み取り、語句の意味
心 情 を 読 み 取 ろ う て 、 的 確 に 話 し 、 相 文 章 を 構 成 す る こ と が を的確にとらえながら、
としている。
手 の 発 言 を 注 意 し て できる。(イ)
内容を理解することがで
聞 い て 自 分 の 考 え を ・ 自 分 の 考 え を 根 拠 を きる。(ア・ウ)
ま と め る こ と が で き 明 確 に し て 書 く こ と が ・文章に表れているもの
る。(オ)
できる。(ウ)
の見方や考え方(主題)
を読み取り、自分の考え
を広げる。(オ)
・物語文読解のスキルを
用いて、山場を指摘する
ことができる。
-3-
(4) 単元の指導計画と評価計画(全11時間、本時7/11)
次
学習内容
学習活動
主な評価規準と方法
(時数)
第1次 物語読解のスキルを ①1学期の題材を用いて、物語 【 関 】 既 習 事 項 を 生 か し た 今
( 1 ) 確認しよう。
読解の【視点】を確認する。
①視点カードを作成する。
後の学習活動の見通し
を持つことができたか。
【読】物語読解のスキルを確
認できたか。
第 2 次 短編小説で、スキル ②・③教師の用意した短編小説 【 読 】 短 編 小 説 の 登 場 人 物 の
( 2 ) を使ってみよう。
(10分程度で読めるもの)
心情や山場を読解のス
を読解の【視点】を使って読
キルを使って、読み取
解しながら、登場人物の心情
れたか。
と山場を読み取る。
第3次 本文を音読しよう。 ④本文を音読する。
(1)
【関】意欲的に本文を音読す
ることができたか。
第 4 次 本文の場面分けをし ⑤本文を場面分けする。
(1) よう。
【読】本文を場面分けするこ
とができたか。
登場人物の確認をし ⑤登場人物を確認し、人間関係 【 読 】 登 場 人 物 を 確 認 し 、 人
よう。
を把握する。
間関係を把握できた
か。
第5次 山場を探そう。
⑥山場を検討し、発表し合う。 【 読 ・ 話 聞 】 山 場 を 検 討 し 、
(1)
※クライマックスの部分は確定
しない。
自分なりの考えを持っ
て、発表することがで
きたか。
第 6 次 登場人物の心情を表 ⑦・⑧・⑨・⑩物語読解のスキ 【 読 】 物 語 読 解 の ス キ ル を 用
(4) す 表 現 を 読 み 取 ろ
う。
ルを用いて、登場人物の心情
いて、登場人物の心情
を読み取り、その効果につい
を読み取り、その効果
て、緻密な読解を進める。グ
について理解すること
ループ活動を通して、堂々と
ができたか。
自分の考えを発表したり、他 【 関 】 意 欲 的 に 話 し 合 い に 参
者の考えを聞いたりしなが
加できたか。
ら、自分の考えを深めたり、 【 話 聞 】 根 拠 を 明 ら か に し な
広げたりする。
がら、自分の考えを述
べることができたか。
-4-
第 7 次 物語の主題を考えよ ⑪ワークシートを読み返し、物 【 読 】 物 語 の 主 題 を 考 え 、 自
(1) う。
語の主題に関する部分を取捨
分なりの考えをもつこ
選択する。
とができたか。
⑪クライマックスの部分を確定
する。
⑪物語の主題を考え、自分なり
の考えをもつ。
主題について自分の ⑪自分の考えを文章で表現す
考えを文章で表現し
る。
ら、自分の考えを書く
よう。
4
【書】根拠を明らかにしなが
ことができたか。
単元(題材)と生徒
(1) 単元について
この作品は、情景描写や気持ちを表す表現が豊富である。
ちょうの収集に熱中する主人公の心情。様々な記述からその心情を読み取ることができる。
また、友人のちょうを盗んでしまう場面。欲望で自分を見失っていく心理描写も物語に引き
込まれていくようである。しかし、我に返り、ちょうを盗んだことに罪悪感を感じる。その
瞬間のギャップも心情を読み取ることを念頭に置いて読み進めると、理解しやすい。
しかしながら、何よりも読者が引きつけられ、色々と考えさせられるのが、最後のちょう
をつぶしてしまう場面である。自分との決別なのかそれとも罪を悔い改めようとする気持
ちなのか、単純に自分に罰を与えようとしているのか。どれともいえない。考えは様々であ
ろう。しかし、多感な少年期を迎えている中学生が共感を持って読み進めることが可能な教
材である。
また、登場人物の心情を【視点】を用いて読み進めるために、分かりやすい記述が多くあ
る。【視点】を用いて読み進めることで、生徒が苦手という文学的文章の読解を進め、自分
なりの考えを持ち、「読めた」とか「読める」という実感をもてる生徒も多くなると思う。
それを今後の学習の意欲にもつなげていきたい。
第1次では既習事項の確認をする。その際、1学期のスキルをより明確に確認するために、
視点カードを作成し、活用する。スキルをより意識しながら読み進められるようにしたい。
第2次では、教科書以外の短編小説を用い、他の文章でもスキルを用いることとができる
ことを実感できるようにしたい。
第3次から第6次までは、『少年の日の思い出』本文に入る。音読などで学習の準備をし
ながら、だいたいのあらすじを確認できるようにしたい。また、その際に心情を表す記述を
意識しながら音読ができるようにもしたい。まず、山場の検討をする。先に行うことで、物
語の全体像をつかむことができる。また、無意識に【視点】を用いながら読み進めることに
もなる。しかし、確定はしない。確定しないことで、その後の本文の読み取りの意欲につな
げる。そして、【視点】を用いて、場面ごとに具体的に登場人物の心情を読み取る。
第7次は、まとめの段階に入る。主題に関して、自分で考えをまとめ発表するとともに、
文章で書き表す活動を取り入れる。
-5-
(2) 生徒の実態
4月の NRT では、学年全体では51.2。3組は51.1である。全国平均を上回って
いるが、中領域で見ると、「文学的文章を読むこと」においては、全国比89と落ち込みが
見られる。他クラスでも同様の傾向が見られる。物語文の読み方(視点)を学ぶことで伸び
代は十分にあると考える。実際に1学期半ばに扱った『遠い山脈』
『さんちき』に入る前に、
アンケートを行ったところ。ほとんどの生徒が物語文に対しての苦手意識を持っていた。
1学期の物語教材では、
「物語読解の【視点】の活用」を徹底的に行った。また、山場(ク
ライマックス)の検討も行い、登場人物の心情の変化を読み取ることができたと実感した生
徒も多かった。
「できた」とか「できる」という気持ちを大切にし、意欲を持続させながら、授業を進め
ていきたい。
5
本時の展開
(1) ねらい
物語文読解の【視点】を用いて、登場人物の心情を読み取り、語句の意味を的確にとらえ
ながら、内容を理解することができる。
(2) 展開の構想
前時までに、クライマックスの検討をしている。しかし、クライマックスの確定までは行
っていない。クライマックスに対する自分の考えをもったところで、それを裏付けたり、修
正したりするために、本文の内容を読み取っていくという学習が始まる。意欲付けがどれほ
ど行われているか未知数であるが、教科書教材とは別の文章で、生徒は物語読解スキルを確
認したり、同じようにクライマックスの検討から、本文の読み取りを行ったりする活動を行
っている。
本時では、そのスキルを実際に教科書教材に活用し、登場人物の心情を読み取りながら、
クライマックスに対する自分の考えをまとめていく授業と位置付けたい。具体的には、登場
人物の心情を表す表現を読み取った上で、その心情がどのようなものなのか。矢印で言うと、
上向きなのか、下向きなのか。また、なぜそのように言えるのか。そして、そのように読み
取った【視点】は何なのか。これらのことをワークシート等を用いてまとめていく。個人的
な読みに陥ったり、また、不完全のまま学習活動が終わらないように、全体で考えを共有し、
補足や修正ができうようにしていきたい。
(3) 展開
時間
学習活動
教師のはたらきかけ
(分)
5
□評価
○支援
・留意点
予想される生徒の反応
学習内容の確認
導入
○支援の必要な生徒を指名して、
をする。
今日は1・2場面で、登場人物
振り返りをさせるなどして、学
の心情を読み取ります。これま
習への参加を促す。
での学習の積み重ねです。頑張
りましょう。
・前の場面の振り返りなどを行
い、学習の見通しをもたせられ
るようにする。
-6-
10 1 ・ 2 場 面 の 音
読をする。
指示1
□意欲的に音読できたか。
(観察)
1・2場面の音読をします。
・追い読み、交代読みなど生徒が
飽きないように、音読の仕方を
工夫する。
20 1 ・ 2 場 面 の 登
場人物の心情を
発問1
指示2
□登場人物の心情を表す気持ちを
登場人物の心情を読み取りま
読み取る。
す。登場人物の心情を読み取れ
(個人)
る記述はどこですか?登場人物
の心情を表す記述を探し教科書
読み取り、教科書に線を引けた
か。(観察)
○机間指導。要支援生徒の支援。
補助発問。
に線を引きなさい。
・教科書に線が引けない生徒は、
視点を先に伝え、読解の手掛か
りとする。
・学習の遅れがちな生徒には1つ
でもいいからと声をかけ、授業
への参加を促す。場合によって
は、教科書のだいたいの場所な
ども個別に示していく。
・視点カードを参考にするように
する。
・これまでの既習事項を生かしな
がら、読解の視点を使って読み
取っていけるようにする。
・直接的表現は分かるが、言動や
情景描写などのその他の視点を
読み取れない生徒には、机間指
導で個別に指導する。
発問2
指示3
□線を引いた場所と読解の視点が
今、みんなが書きこんだ表現
は、どの読解視点になりますか?
ワークシートに書き込みましょ
う。また誰の心情になりますか?
登場人物をきちんと確認しなが
ら書きましょう。
・読解の視点カードを用いて、ど
れかを選択し、ワークシートに
書きこむ。
・書き込めない生徒は個別に指導
する。
-7-
対応しているか。
(ワークシート・観察)
○机間指導。要支援生徒の支援。
補助発問。
発問3
□心情を書き表すことができる。
線を引いた部分から、どのよ
うな心情が読み取れますか。
(線を引いた場所の登場人物は
どんな気持ちですか?)
書きましょう。
(ワークシート・観察)
○机間指導。要支援生徒の支援。
補助発問。
・全体を通して、発問が重ならな
いように、段階的に進める。
・登場人物はどのような気持ちか、・要支援生徒の適切な支援。
ずばり一言でいいから書いてみ
ようなど、自分なりに書き込め
るように声かけをする。
・書き終わった生徒からワークシ
ートを前に持ってこさせ、板書
させる。
10
登場人物の心情
指示4
□自分の考えとは違うものを確認
を読み取る。自
登場人物の心情を表す記述を
分の考えとの修
板書しました。ワークシートに
正や補足をする。 書 か れ て い な い も の が あ れ ば 、
(全体)
書き足します。修正したい部分
があれば、赤で直しましょう。
し、補足としてワークシートに
書き込んでいる。
(ワークシート・観察)
○机間指導。要支援生徒の支援。
補助発問。
・話し合いで、答えをよりよいも
のにしていく活動ではなく、発
表し合うことで、補足や修正を
していくことを主眼とする。
・発表できない生徒には、一つで
も い い し 、「 同 じ で 」 か ら 始 め
て、同じ内容でもよいことにす
る。最低一つは発表させる。
5
本時の学習のま
とめをする。
指示5
□本時の学習内容を振り返り、確
ワークシートに今日の授業の
振り返りと自己評価を書き込み
ましょう。
認することができたか。
(観察・ワークシート)
□自分の学習について、的確に自
己評価をすることができたか。
(観察・ワークシート)
○机間指導。要支援生徒の支援。
補助発問。
(4) 評価
・
意欲的に活動に取り組んでいる。
・
読解のスキルを活用し、読解の登場人物の心情を読み取っている。
-8-
・
発表会を通して、自分の意見をきちんと言える。また、必要に応じ、修正などを加え
ている。
6
実践の振り返り
(1) 単元を通した生徒の様子
「 登場 人 物 の心 情 を 読み 取 る」「山 場 を読 み 取 る」「山 場 ( クラ イ マッ ク ス )を 読み 取 る
ことで、その文章の主題を読み取る」この3点の指導に重点をおきながら、「主題について
自分の考えを表現する(目標)」が単元のおおまかな流れと目標である。
☆クライマックスを確定し、主題を考え文章で表現する。
そのために
自分の考えをもつ。
そのために
正確な読解をし、クライマックス・主題を確定するための根拠を求める。
そのために
読解のための方法を明確にし、自分の中できちんと整理する。
常に最終目標を意識するようにした。生徒にも意識付けをしながら行った。
以下に、第1次から第7次の順に、それぞれ生徒の様子を述べる。
①
第1次→物語読解の視点を確認する。
読解の視点の確認は1学期に学習した文学教材で行った。1
学期はノートに書いただけで済ませていた。今回の題材で「視
点カード」として整理し、確認することができた。(資料1)。
また、重ねて1学期の文学教材と同様に読解することを指導し
た。どのように授業を進めていくのかという見通しを持つこと
ができた。
②
第2次→短編小説で、視点を使った読解を実践する。
資料1
第1次をうけて、視点を利用した読解を定着させる。また、成功体験を積ませ、意欲
付けを行う。多くの生徒が達成できたと考える。しかし、「言動」や情景描写などが多
く、「視点」に偏りがあったことが反省である。だが、生徒は「視点カード」を利用し
て、意欲的に取り組むことができた。教科書の脇に置いて、「いつでも見ることができ
る」「全員が確認した同じ視点で読み進むことができる」「視覚化されて利用しやすい」
といった研究テーマに迫るための手立てが有効に働いたと感じた。
③
第3次→教材の音読をする。
読解をしていく上で、重要な学習活動と位置付けている。生徒にとっては長編と感じ
られる文章である。変化のある音読で最後まで読み通すことができた。
-9-
④
第4次→場面分けをする。
「場面分けの視点(時間の変化・場所の変化・新たな登場人物の登場・心情の変化な
ど)」を用いて行った。この視点も既習事項である。視点を確認しながら、全体を場面
分けした。
『少年の日の思い出』は、これらの視点で場面分けをすることが容易である。
場面分けの視点(観点)をはっきりさせることで、意欲的に取り組むことができた。
⑤
第5次→クライマックスの検討を行う。
ノートに自分の考えを書き、発表し合った。しかし、ここではクライマックスを確定
しなかった。なぜなら、本文を読み進めながら、クライマックスを考えさせることを意
欲に つ な げて い こ うと 考 え たか ら で ある 。「 さ て、 ど こ だろ う。「 読解 の 視点 」を 使 い
ながら本文を読み進めて、最後に確定しよう。」という働きかけで、授業を終えた。ほ
ぼ全ての生徒が、自分の力で、自分なりのクライマックスの場所を決めた。
⑥
第6次→登場人物の心情を表す表現を読み取り、心情を考える。
「読解の視点」を用いて、場面ごとに読み進めた。【音読→線を引く→ワークシート
記入(資料2)→板書(資料3)→補足(ワークシートへ記入)→教師による解説】と
いったパターンが構造化されており、生徒がスムーズに学習することができた。
資料2①
資料2②
欄外には、教
師の解説などが
メモされてい
る。一人6枚程
度の枚数になっ
た。
全体的に生徒は「視点カード」を有効に活用しながら、意欲的に取り組んでいた。心
情を表す表現を本文から書き抜き、「視点カード」を用いて、どの視点になるのかを書
き込んでいた。この作業を通して、自分の考え方を明確にし、物語読解の方法の定着を
図ることができた。普段、学習に意欲の向かない生徒も学習に取り組む姿が見られた。
しかし、表現から読み取れる心情については、それぞれに違う感じ方が見受けられる
こともある。また、明らかに誤読と思われるものもない訳ではない。生徒は、考えを修
正する時間の中で、それを確認したり、修正したり、書き加えたりする。しかし、きち
ん と そ れ を 見 取 り 、 十 分 に 検 討 す る 時 間 を 設 け る こ と が 資料3(板書の例)
できなかった。取り上げて検討をする時間を設けるべき
であった。たくさん考えを引き出したり、授業を先に進
めたりすることに力を注いでしまった。また視点カード
の「言動」の項目が含む内容が広すぎた。もう少し細分
化したり、視点を増やすなどしていきたい。
前時の学習を生かして、学習を進めることができた。ま
た、1パターンなので、途中で集中力が続かない生徒も見
受けられた。授業終了後、ワークシートを点検すると、決
して全ての生徒が修正や補足ができた訳ではないことも分
かった。特に取り上げる必要もないものもある。
- 10 -
とりあえず、方法を身に付けることを主眼に置いていたが、例え
ば発問を一つしておいて、必要な心情だけを読解し、検討していく
ような、全体を見渡しながら広く見ていくことも必要ではないかと
感じた。
⑦
第7次→クライマックスを確定し、主題を考える。
主題に関して、自分で考えをまとめ発表するとともに、文章で書
き表す活動を取り入れた。生徒はクライマックスを「登場人物(主
人 公 ) の 気 持 ちが 大き く 変 化す る 部分 」 と し てと ら え てい た 。 そ
し て 、 ク ラ イ マッ クス は 「 物語 の 主題 」 と 理 解も し て いた 。 こ れ
は 、 1 学 期 に 行っ た文 学 教 材や 今 回の 研 究 の 中の 第 2 次で 行 っ た
拡大されたものに書
い た後 、 黒 板に 貼 る。
黒 板に 解 説 を記 入 した
短 編 小 説 の 中 でも 確認 し た 。物 語 には 作 者 の 意図 や メ ッセ ー ジ が
り する 。 生 徒は そ れを
あ る 。 そ れ こ そが 主題 で あ り、 ク ライ マ ッ ク スに 主 題 があ る こ と
写す。他の意見も写す。
が多い。(※授業者の考え)
しかし、『少年の日の思い出』は「登場人物(主人公)の気持ちが大きく変化する部
分」とすると、生徒は主人公がチョウを盗んだところや盗んだことの罪に気づいたとこ
ろをクライマックスととらえ、主題を「盗みはいけない」とか「好きなことに没頭する
だけではいけない」と考えてしまうと予測していた。
そうなったとしても私としては、最後の場面をクライマックスとして生徒にとらえさ
せたいと考えた。
「一度起きたことはもう償いのできないもの」であることを悟った主人公を理解させ
る。そして、そのような自分から脱却するための行為として「チョウを一つ一つ取り出
し、指で粉々に押しつぶし」てしまう。その行為は、取り返しのつかないことをした自
分との決別でもある。わざわざ宝物であるチョウを手で、しかも一つ一つ潰したという
記述に気づかせ、全体の流れもふまえて、クライマックスとして、生徒に理解させたか
った。
実際には全体の6割くらいが、盗みを犯した場面か罪に気づく場面をクライマックス
とし、3割くらいが最後の場面に設定し、他は少数派の場所とした。これらの状況を最
初に確認してから討論に入った。まずは少数派の意見が淘汰された。全体を通して、大
きな心情の変化とは言えない意見が多かったからである。
クライマックス確定直前の討論の様子を以下に示す。ただし、一部を抽出している。
[最後の場面派○][盗みを働く場面派△][教師◇]
◇では、どちらかに決めよう。どこからでも意見をどうぞ。
△登場人物の気持ちが大きく変化する部分がクライマックスなら盗んだ場面のテンシ
ョンがかなり上がっている。※同様の意見多数
△盗んだ場面はもちろんだけど、罪に気づいたときの「僕」の落ち込み方は相当なの
が分かる。
○もう償いができないことを主人公は「初めて」知ったとある。チョウ集めに熱中し
ていて気づかなかった自分の行き過ぎた行動にようやく気づいた。
◇ワークシートやせっかく視点カードなどを使って読み進めたんだから、ワークシー
トとかよく見直して根拠にしよう。
△クライマックスは気持ちの浮き沈みが一番大きいあたりのはずだ。
△「大きな満足感」を盗んだところで感じている。
○「初めて」とあるが、そこで初めて気づいてチョウを潰す訳だし、あれだけ熱中し
- 11 -
ていたチョウを潰すなんて、かなりだと思う。
◇細かい記述にも目を向けてみよう。
○「宝物」と自分で言っているし、それを潰すんだから・・・。
△「胸をどきどきさせた」し、ここは擬人法も使われている。
○大切にしていたチョウを「一つ一つ」つぶしている。捨てるだけでも良かったので
は?
○つぶすってことは・・・。
○何もかもなくしてしまう。チョウは主人公にとって、そんなに簡単につぶすことが
できるようなものなのか?
◇クライマックスは大きな気持ちの浮き沈みもあるけど、もっとずしんとくるような
重みが伝わるところとも言える。その場だけでなく、全体を通してずしんとくるような
ところ。みんなひっくるめているような。そこに集約される。そして、筆者の伝えたい
ことでもあり、読み手に伝えたいとも言える。主人公は「一つ一つ」大切なチョウを跡
形もなくつぶす行為は、これまでの自分を省みて、反省もあるだろうし、罪を悔い改め
ている行為でもあるだろうし、こうすることによって、これまでの自分から決別しよう
とする行為ではないか。
納得できなかった生徒がいたことも否定できない。しかし、生徒が自分で読み解いて
きた本文の表現や視点をワークシート等を用いて考え、整理し、本文に根拠を求めなが
ら、クライマックスの確定に臨んでいた姿が大きな成果だったと考える。
文章で表現する学習では、自分なりの言葉でまとめていた。討論して、ある程度解答
が得られた状態だったので、内容としては、だいたい同じ文章になった。しかし、根拠
とクライマックスがうまく対応していないものがあった。きちんと理解がされていない
ものと考える。また、構成がきちんとしていなかったりしているものもあった。書くこ
との指導も必要であると感じた。
以下は、自分の考えを表現した学習の例である。よくできているものを取り上げた。
半数ほどの生徒が同等の文章を書くことができた。
クライマックスは、「わたし」がチョウを粉々につぶしてしまう部分である。
熱情的な収集家だった「わたし」が、そのチョウをつぶしてしまうのだから、かなりの
覚悟が必要だったと思う。だから、そこがクライマックスだと思う。
こ の 物 語 の 主 題 は 、 書 い て あ る と お り、「一 度 起 こっ た こ とは つ ぐな い が で きな い 」 こ
とだ。
私も自分の行動に責任を持ち、生活していきたいと思った。
私はクライマックスは最後のチョウをつぶすところだと思う。
そ こ は 、「 一 つ 一 つ 」 丁 寧 に 、 し か も 「 粉々 に 」 して し ま うと こ ろが 、 細 か く書 い て あ
ると思うからだ。あれだけ大切なチョウをそんなにするんだから、そうとう自分のしたこ
とを後悔しているのだと思う。もうこれまでのチョウ集めに熱情的だった自分をやめて、
盗 み を 犯 し て し ま っ た こ と を 償 う た め に やっ た ん だと 思 う 。 その 後 も、「 わ た し」 は 大 人
になるまでチョウ集めのことは触れていなかったことも理由だ。
後悔はできない。しててもしょうがないから、次のことを見つける。でも、後悔をする
ようなことをしないようにしたいと思った。
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(2)
研究テーマについての考察
研究テーマは、
既習事項を生かしながら文章の読解に取り組み、自分の考えを表現する生徒の育成
である。単元の終了後に以下のアンケートをとった。
質問内容
肯定的回答
否定的回答
1学期に学習したことを今回の学習を通して確認するこ
とができたか。
96%
4%
② 「視点カード」は、心情を読み取るときに有効だったか。
92%
8%
③
自分なりに、心情を様々な視点から読み進めることがで
きたと思うか。
92%
8%
④
クライマックスについて自分の考えを持つことができた
か。
84%
16%
⑤
自分の考えを討論で述べることができたか。
16%
84%
⑥
クライマックスの場所を理解し、主題を読み取ることが
できたか。
83%
17%
⑦
主題について自分の考えを書くことができたか。
72%
28%
⑧
物語の読み方が前よりできるようになったと感じたか。
90%
10%
⑨
物語の学習をまたしたいと思うか。
64%
36%
①
上記のアンケート結果と研究テーマに迫る手立てを通して、検証を進める。
【既習事項の確認をする】
【スキルカードの活用をする】
【教科書以外の短編小説を用いる】
既習事項を生かすには、まず定着させることが肝要である。そのために確認を行い、十
分な基礎的な学習を積み重ねることができた。そして、具体的に教材の学習に入ったとき
に多くの生徒がその方法を生かし、視点カードと照らし合わせながら学習に取り組む様子
が見られた。中には、自分なりの視点を考え出し、書き込む生徒もいた。ワークシートに
は、平均して50個以上の心情を表す記述がまとめられていた。
心情を読み取るにあたり、テーマに迫るための手立てを用いて、生徒が頭の中で無意識
にしていたであろうことを視覚化および明確化することができたのではないかと考える。
どのように考えるのか、またどのように自分は考えていたのかということをまずは感じる
ことが大切なのだろうと思った。その思考の過程を理解したり、気づいたりすることで、
読解力は身に付いていくのだろうと考える。
- 13 -
【山場(クライマックス)の検討】
【主題について自分の考えを表現する】
クライマックスは主題に直結することが多い。また、主題は作者が読者に物語を通して
伝えたいことである。主題(伝えたいこと)があるから物語が生まれる(※授業者の考え)
ことを考えると、クライマックスを読み取ることが必要不可欠であると考える。主題を考
えることこそ、今後多くの文学的文章に触れていく生徒にとって、必要であり、その方法
を身に付けることができるようにしてあげたかった。
討論の中で生徒はワークシートを利用しながら、本文に根拠を求めて自分の意見を発言
していた。また、自分の考えをもっていた。そして、クライマックスの検討の中で、生徒
は主題を理解していった。そして、クライマックスを検討していくことが、主題に迫るも
のであることを多くの生徒が理解してくれたと感じている。
また、考えを表現することに関しても、討論の中で子どもたちがワークシートを利用し
ながら自分の意見を発言していた。きちんとまとめられていたからこそ、本文を根拠にし
て発言できたのでないかと考えられる。結果的に、討論である程度まとめられたことを文
章で表現したことになった。しかし、書く内容に道筋が付けられていたとしても、ふだん
文章で表現することを苦手としている生徒も記述できたことを考えると、物語の読解を苦
手としていた生徒も少しではあるが苦手意識が小さくなったようだ。もちろん依然として、
苦手意識をもっていたり、表現活動に取り組めない生徒もいた。
全体として、おおむね研究テーマは達成できたと感じる。また、手立てもある程度有効
に働いたと感じる。最終目標をしっかりと教師が意識しながら、授業をしていくこと。常
に念頭に置きながら進めていくことが大切だと感じた。生徒に対する意識付けや意欲付け
も必要だと感じた。そのための単元の構成の工夫も練らなければならない。そして、具体
的な方法を生徒に最初に示したり、それに気付くような授業の工夫も必要だ。それこそが
生徒の本物の力になる。
(3)
今後の課題
まず、登場人物の心情を読み解いていく学習である。生徒の見取りが不十分であった。
授業後にワークシートなどを集めて見直すことはできたが、その場で確認しながら生徒の
到達度を見極め、授業を進めるべきであった。時間との葛藤もあることは間違いない。し
かし、授業後のアンケートで否定的な回答をしたり、表現活動ができなかたったりしてい
る生徒のことを考えると、一時間の授業の中で見取りを確実に行っていけば、もう少し違
う結果になったのではないかとも考えられる。また、本文の読解の学習ではパターンが決
まりすぎていて、集中力の持続が困難な生徒には辛い時間だったかもしれない。
最終目標である表現する学習である。半数ほどの生徒が、教師が意図したとおり、「ク
ライマックスの場所→理由→主題」の構成で書くことができた。しかし、「根拠と考えが
対応していない」「文書の内容自体は基準を満たしていても、文のつながりが不十分だっ
たり、内容がまとまっていなかったりしている。」ものがあった。理解が不十分なのか。
また、表現する力自体を磨いていかなければならないのか。いずれにしても、反省点を生
かしながら、今後も同様の授業を進め、生徒がつまずいている部分を探ったり、改善した
りしていきたい。
次に 、「 全 く自 分 の力 で 考 え を書 け な い生 徒 が 5人 ほ ど いた 。」 こと で あ る。 最 終 的 に
は、支援することで書くことはできたが、自分の力である程度は書くことができるように
させてあげたい。このような生徒はやはりワークシートの完成が不完全であった。前述に
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もあるように、きちんと途中で見取りを行い、支援や激励をしていくべきであったと思う。
また、基礎的な書くことの指導も行っていかなければならないことを痛感した。
以上の課題をもちながら、今後も研修を進めていきたい。
今回、多くのことを学ぶことができた。しかし、この研究で終わるのではなく、むしろ
これからが大切だと考える。今回の研究はあくまでも文学的な文章を読解するための基礎
的な力をつけるものと位置づけたい。生徒が進級後に今回の学習をどれだけ生かしてくれ
るのか。それこそが最も大切なことである。そして、その後も生かしていってくれたとき
にこの研究は完結するのだろうと思う。
自分を振り返る良い機会となる研究であった。また、信念を持ってそれを貫き通すこと
が大切だと改めて感じた。信念とは授業に命を吹き込むものであると思う。今後も自分を
磨いていきたい。
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