内視鏡看護の奥深さと 楽しさとその醍醐味

特集2 一から教えて! 内視鏡検査・機器・所見・看護
内視鏡看護の奥深さと
楽しさとその醍醐味
∼安楽な内視鏡検査のための看護とリスク管理
記事のポイント
独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
外来内視鏡室
看護師・消化器内視鏡技師
岩本奈緒
(いわもと なお)2000年関西看護専門学校卒業。
国立療養所福井病院を経て,2003年独立行政法
人国立病院機構大阪医療センターに入職。外来内
視鏡室に配属となり,現在に至る。2006年に消化
器内視鏡技師免許を取得し,現在は臨床での実践
のみならず,後輩育成にも力を注いでいる。
セデーションは時に,
「苦痛のない内視鏡」を実現する
一方で,リスクを認識した看護が求められる。
腹部用手圧迫は,他施設との違いを出せる
技術提供であり,看護のやりがいとなる。
背中合わせにあるリスク管理について述べ
内視鏡看護にやりがいを感じる時期は
ていきたいと思います。
人それぞれである。
焦らず,専門性を積み重ねることが,
やりがいや新たなことへの挑戦につながる。 内視鏡室の勤務体制
「苦痛のない内視鏡」に
対応するために
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内視鏡検査室では,医師のほかに,看護
師5人,クラーク1人,洗浄員2人が勤務
しています。看護師5人のうち2人は消化
当院の内視鏡室は,平日の通常外来診療
器内視鏡技師の資格を有しており,専門的
に加えて,休日も含む24時間体制で緊急
な知識や技術を基に,スタッフの教育も実
内視鏡を実施しています(表)。2014年度
践しています。
の内視鏡検査実施件数は7,458件で,緊急
2014年度に洗浄員が1人増え,スコー
内視鏡は197件です。
プなどの機材の洗浄・消毒は,洗浄員が清
近年,内視鏡診療における鎮静(sedation:
潔業務と不潔業務に分かれて対応していま
セデーション)の需要が増加傾向にあり,
す。さらにクラークは,内視鏡室の受付対
日本消化器内視鏡学会と日本麻酔科学会に
応や電話対応を中心に業務を行うなど,職
より,『内視鏡診療における鎮静に関する
種に応じた役割分担をすることにより,看
ガイドライン』も作成されています。当院
護師が内視鏡検査や治療において看護に専
では内視鏡検査を受ける患者に対しては,
念できる体制を整えています。
事前に希望を確認し,希望者にセデーショ
看護師の業務体制は,責任業務担当,検
ンを実施しています。セデーションにはリ
査・治療介助担当,リカバリー室担当,フ
スクもあり,医師が危険と判断した場合は
リー業務担当に分かれています。勤務時間
希望に沿えないこともありますが,セデー
は,早出・遅出勤務を導入することで,検
ションの希望者は年々増加しています(図)
。
査前の準備時間の確保や緊急治療や内視鏡
本稿では,
「苦痛のない内視鏡」という
検査,突発的な事態にも対応できるよう,
患者の強い要望に対応すべく当院で実施し
8時15分から19時15分までの時間帯をカ
ている安楽な内視鏡検査の看護と,安楽と
バーしています。
消化器最新看護 Vol.20 No.2
内視鏡室での看護師の役割
看護師には,内視鏡検査・治療を受ける
過程を考慮して,患者を身体的・精神的・
社会的側面からとらえ,
「安全・安心・安
表 2014年度の内視鏡室における
治療・検査実績(重複例含む)
検査・治療
件数
上部内視鏡
4,482
下部内視鏡
2,577
検査・治療
件数
ERCP,ERBD,
185
ENBD,EST
PEG
30
小腸鏡
24
気管支鏡
94
クリップ止血術
607
う,医師,看護師,多職種が円滑に連携す
上部ESD
86
焼灼
148
るためにコーディネートする役割がありま
下部ESD
32
APC
32
す。そのためには,基礎的な消化器系の解
EMR,EIS,
EVL
36
大腸
ポリペクトミー
EUS-FNA
21
その他
楽・満足」に検査・治療が提供できるよ
剖生理の知識や検査介助の技術のみならず,
531
15
セデーションを含む使用薬剤に関する知
識,機器の取り扱いや管理方法,機器の特
殊性などを十分に理解していることも重要
です。
環境面での工夫
当院では,治療以外の検査でも患者の安
楽や満足を考え,積極的にセデーションを
使用しています。そのため,セデーション
後の観察や回復のためのケアを充実できる
ように,リカバリー室(写真)はゆとりを
持った設計にし,最大10人の収容が可能で,
リクライニングチェアの配置も,安全と安
図 内視鏡診療時の
セデーション実施件数の推移
(件)
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
2009
年度
2010
年度
2011 2012
年度
年度
2013
年度
2014
年度
セデー ■なし 3,111 2,949 2,746 2,884 2,910 2,430
ション ■あり 3,926 4,461 4,936 4,660 5,152 5,028
楽,プライバシーを考慮し工夫しています。
日常業務から考える内視鏡看護
■検査前の看護
検査の予約の時点で,セデーションを希
望する患者へは,検査当日にバイクや自動
車などを自身で運転して来院しないよう指
導しています。さらに,既往歴と抗血栓薬
の服用について確認することと,薬剤の種
類によっては事前に休薬期間を確認し,検
査に臨むよう指導しています。
写真 リカバリー室
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看護師は,患者が安全に検査を受けられ
査前・中・後,退室までの一連の経過を患
るように,また検査前中や後に起こり得る
者記録用紙に記載しており,患者が検査に
偶発症などの早期発見ができるように,前
入る時は患者記録用紙と共に移動します。
日にカルテから内視鏡検査を受ける患者の
このように,患者と患者記録用紙の流れを
情報(薬剤のアレルギー,抗血栓薬服用と
一緒にすることで,検査・処置を行う医
休薬の有無,鎮痙剤の禁忌疾患,呼吸器疾
師,検査・処置介助の看護師やリカバリー
患,基礎疾患,既往歴,手術歴,前処置の
室の看護師が,患者の情報や状態を共有で
状況など)を収集し,患者記録用紙に記載
きるようにしています。
しています。
問診実施後は内視鏡検査室へ患者を案内
■検査当日の看護
し,治療・検査開始前には患者誤認防止を
当院では,下剤の前処置は基本的に自宅
目的として,医師・看護師・患者と共にタ
で済ませてもらいますが,高齢で独居であっ
イムアウトを実施しています。患者にフル
たり,遠方に住んでいるなどの社会的要因,
ネームの氏名と生年月日を言ってもらった
検査に対する不安がかなり強いなどの精神
上で,診察カードを名札代わりに首から掛け
的要因,問診などを介して自宅での適切な
てもらい,患者間違いがないことを確認して
前処置が困難であると看護師が判断した場
います。看護師と医師は検査当日に問診で
合,また,病的要因により前処置薬による
得た情報を共有し,検査を開始しています。
穿孔やイレウスなど,重篤な偶発症のリス
■検査中の看護
クがあると医師が判断した場合は,来院し
検査開始直前は患者の不安が高まるため,
てから実施する方法を取っています。その
看護師は昨晩の睡眠状況を確認したり,リ
ような患者は年間約500人おり,全体の約
ラックスできる声掛けをしたり,患者の希
20%を占めています。
望するBGMを流したりしています。そして,
そして,来院後に前処置を受ける患者が
内視鏡検査時のプライバシーに十分配慮し,
安心して治療や検査を受けられるよう,看
援助しています。
護師が説明・対応しています。その際,高
検査中は,患者の不安を軽減するため,
齢者や理解の不十分な患者にも分かりやす
スコープの挿入具合による嘔吐反射や苦痛
いように,便の性状や色が視覚的に判断で
が起こり得るタイミングに合わせて声掛け
きるスコアシートを用いて排便や全身状態
し,バイタルサインの変動を観察したり,
を頻回に観察し,治療・検査がスムーズに
検査の進行状況を患者に説明したりしてい
実施できるように援助しています。
ます。検査中は検査室が暗室になっており,
看護師は問診時,前日までにカルテから
患者の顔色などが分かりにくい状況にあり
得た情報を患者記録用紙に沿って再確認
ます。そのため,生体監視モニターだけに
し,カルテでは把握できなかった新しい情
頼らず,五感を研ぎ澄ました観察,フィジ
報を収集しています。そして,受付から検
カルアセスメントが重要になります。
消化器最新看護 Vol.20 No.2
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