現場の声を反映した 変則2交代制の導入

新連載
坂本みよ子
小樽協会病院 看護部長
北海道大学医学部附属助産婦学校卒業
後,国家公務員共済組合連合会斗南病
院,北海道大学病院を経て,1994年に小樽協会病院に副看
護師長として入職。1995年同院看護師長,2009年より現職。
看護師の「働きやすさ=定着」につながる!
現場の声を反映した
変則2交代制の導入
深刻な看護師不足に起因する
看護の質低下への懸念
当院は「患者さまに寄り添い,良質で心の
通った優しい医療」を理念に掲げている。し
本連載では,『看護職の夜勤・交代制勤務
かし,良質な医療と看護を担保するためには
に関するガイドライン』が出る前に試行錯誤
絶対的にマンパワーが必要なのは,誰もが承
を繰り返して勤務体制を変更し,結果的にガ
知のことである。
イドラインに準ずる勤務体制を構築すること
平成18年度診療報酬改定で新設された7対
に成功した当院の取り組みを紹介する。第1
1看護基準は,看護師確保の面において当院
回である今回は,変則2交代制のメリットと
に大きな影響を及ぼし,ここ数年は慢性的に
導入のきっかけを,第2回・第3回では実際
看護師が不足している状況にあった。
にどのように勤務体制を変更し,現場からは
看護師は,病める人々へ提供する看護に自
どういった反応があったのかについて,一般
分なりの理想や信念を持っているものである
病棟およびHCU(ハイケアユニット)の例
が,絶対的なマンパワー不足と限られた時間
を紹介する。
の中では,自分の本来やりたい看護を具現化
小樽協会病院の概要
できないジレンマに直面する。そのことで心
身共に疲弊し,職場を去る選択をした者も少
当院は約200万の人口を抱える大都市,札
なくないことが,退職時調査からも伺われた。
幌から三十数km離れた小樽市の東側に位置
このまま看護師が不足した状態が続くと,
し,大正14年の開設以来急性期病院として
看護の質を確保することが大変難しくなるこ
地域医療を担っている。
とを懸念せざるを得ない状況になっていたが,
240床の許可病床を有し,診療科は外科・
幸いにも当院は設置主体(本部)が運営して
呼吸器外科・整形外科・形成外科・消化器内
いる看護師養成学校があることや,新卒の助
科・呼吸器内科・循環器内科・産科・婦人科・
産師・看護師の入職が一定数あったことから,
小児科・麻酔科である。また,二次医療圏にお
何とか看護の質を維持し,7対1看護基準も
ける地域周産期センターの指定を受けている。
満たしつつ現在に至っている。当院に限らず,
看護単位は外来・手術室のほか,4つの病
多くの看護管理者が看護師不足に悩んでいる
棟とHCUを有し,一般病棟は7対1,HCUは
のが現状ではないかと考える。
4対1の看護基準をとっている。
看護師長の実践! ナースマネジャー Vol.17 No.4
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看護師の働きやすさに着目
介してもらったことであった。それは,当時
看護師定着には2本の柱があると考えてい
まだ発行されていなかった『看護職の夜勤・
る。それは,採用強化と離職防止である。当
交代制勤務に関するガイドライン』で謳って
院看護部では,採用のためのさまざまな取り
いる勤務編成基準をほとんど網羅している勤
組み・工夫を行っているが,一般的な取り組
務シフトであった。「連続した夜勤なし」「1
みの範囲ではないかと感じている。
回の勤務の拘束時間は13時間以内」
「正循環の
一方,離職防止については,看護師の働き
勤務シフト」
。それを聞いた時筆者は「なぜ今
やすさに着目し,定期点滴の薬剤師による
までこれを思いつかなかったのか?」
「私が若
100%ミキシングや看護業務に特化した看護
い時にもそんな勤務をしたかった」と,何か大
クラークの採用など,まだ一般的ではない取
きな光を見つけたような気がしたものだった。
り組みも積極的に取り入れている。さらに,
看護管理者の多くは若かりしころ,夜勤を
2011年から本連載で紹介する “変則2交代”
経験していると考えるが,そのほとんどが3
制を導入しているが,実際に携わっている管
交代勤務であったと推察する。3交代勤務は
理者や看護師の声,院内における調査から看
逆循環が主であることから,サーカディアン
護師の働きやすさ,すなわち定着に効果的で
リズムを調整すること自体が難しく,なかな
あると思われるので報告したい。
か心身をリセットしにくい勤務である。
当院における “変則2交代” 制は,8時30
筆者自身,夜勤を経験した一人ではあるが,
分から16時50分(実労働時間7時間20分)の
今考えると当時はよくやれたと思う。本来人
日勤,13時から21時20分(実労働時間7時
が眠っている時間帯に働くのだから大変なの
間20分)の遅日勤,21時から翌日9時(実労
は当然なのだが,「夜勤は看護師の宿命」と
働時間10時間50分)の夜勤で構成されている。
認識していたので,当時の筆者は何の疑問も
勤務の例を挙げると,1~3日程度の日勤
抱かず,体力に物を言わせて黙々とこなして
の後,遅日勤(1回)
,夜勤(1回)
,明け,
いたように思う。
休みとなっている。奇しくも,当時まだ発行
しかし,当たり前のことだから工夫も改善
されていなかった日本看護協会が勧める『看
も必要ないわけではない。看護師の宿命だか
護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライ
らこそ,夜勤のある勤務についてより真剣に
ン(平成25年初版)
』1) で労働科学の知見か
取り組む必要性を感じていた。また,看護師
ら推奨されている各人の勤務スケジュールと
の応募に関する問い合わせで「2交代制を希
同じく,勤務開始がより遅い時刻となってい
望しているのですが,貴院は2交代ですか?
く正循環の交代周期となっている。
3交代ですか?」という質問が多くなってき
「夜勤は大変なのが当たり前」
からの脱却
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養病棟)での勤務シフト(変則2交代)を紹
ている現実や,2交代制を経験した人の多く
は3交代制での勤務をしたがらないといった
報告などを聞き,当院も勤務シフトを変更し
変則2交代制導入のきっかけは,長年の友
なければ,この先選ばれない病院になるかも
人(看護管理者)から,その友人の施設(療
しれないという不安と,決断を急がなければ
看護師長の実践! ナースマネジャー Vol.17 No.4
という焦燥感があった。一方で,
「16時間の
査でほとんどの看護師からこの勤務体制を正
2交代制は急性期の病院ではあまりにも過
式に導入してほしいという声があり,2013
酷」
「長年慣れてきたシフトを変更するのは
年には本格的な導入に向け当院の設置主体本
大変」など,2交代制への変更を躊躇させる
部の了承を得ることと,組合との協定を締結
意見が多く聞かれていたのも事実だった。
することへ向けて取り組みを進めた。
先述の友人から紹介してもらった勤務体制
◎設置主体本部の理解を得る
について,直感で「いいかも!」と思った筆
当初は当院独自で試験的に “変則2交代”
者だったが,その後少し冷静になりいろいろ
勤務を行っていたが,最終的には設置主体本
調べてみたところ,この “変則2交代” 制で
部の了承を得る必要があり,そのためにはか
あれば,16時間の長時間勤務が避けられる以
なりの時間と労力を費やすことになった。
外にもさまざまな長所があり,少しの改良を加
当該設置主体本部は道内に7つの病院を有
えることで当院でも十分導入できるという考え
するが,“変則2交代” 制をとっている病院は
に至った。そして,“変則2交代” 制の導入に
それまでなかったために,わざわざ変更する
よって看護師が働きやすくなる,すなわち看護
にはそれなりの理由が必要であった。加えて,
師定着への足がかりになり得ると確信すること
“変則2交代” 制は,勤務していた看護師の強
ができ,大きく舵を切ることにしたのである。
い不満や要望から自然発生的に出てきたもの
病院組織の舵を切る
~変則2交代制導入へ
ではなく,管理者の発想からの提案であった
ことからも,変更の目的や意義について十分
な理解を得る必要があった。
◎試験導入
これまで述べてきたとおり,“変則2交代”
具体的な導入方法として最初に取り組んだ
制のメリットはいくつもあるが,本部への理
のは,“変則2交代” 制を導入したいという意
解を得るために最も強調したことは,働く看
思を伝えることであった。看護副部長との話
護師の身体と心に配慮された勤務体制である
し合いの結果,一度に進めるのは非常にエネ
ことと,看護師獲得と定着につながり,病院
ルギーを必要とすること,思わぬ結果になっ
経営にも寄与するということであった。
た場合に後戻りできることから,一部の部署
◎就業時間数と手当て
での試験的な導入を行うことにした。導入部
これまでの交代制勤務の就業時間を変更す
署の選定理由の詳細はここでは割愛するが,
るに当たり,トータルの就業時間数を変更し
その時点での部署の事情や,師長の経験年
ないことが大前提であるため,“変則2交代”
数・リーダーシップ・達成志向性(「本気さ」
制のシフト表を作成・提出し,細部について
の程度)などが主な基準になった。
設置主体本部のアドバイスを受けた。
まず “変則2交代” 制がどのようなものか
また,夜勤自体を,8時間の「準夜」
「深夜」
当該部署の師長に十分説明し,理解してもらっ
から12時間の「夜勤」へと変更することから,
た後は基本的には師長(部署)へ進行を任せ
それまで支払われていた夜勤手当をどうする
た。こうして試験的に行っていた “変則2交
かという問題があったが,当院では新しい「夜
代” 制ではあったが,2回目のアンケート調
勤」へ「準夜」「深夜」のそれぞれの手当の
➡続きは本誌をご覧ください35
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