4月号 Vol.2 もくじ 能登の仕事人 Vol.2 輪島塗の塗師屋 大崎庄右エ門

能登に
あつまれ通信
月号
4
Vol.2
今回の仕事人は、江戸時代から輪島塗を製造・販
ぬ し や
売する塗師屋、四代目・大崎庄右エ門さんです。輪
島塗は能登地方だけでなく、日本を代表する洗練
された漆器。ドラマの中でも今後、重要な役割を
果たす輪島塗の世界は、こんなに奥が深いのです。
かつてはこの椀をサンプルとして
客先に持参していた
漆器のプロデューサー・塗師屋が
お客さんの好みを形にする
日本海から吹く風はまだまだ冷たいですが、日差しは
徐々にあたたかくなり、里山里海に春の気配が感じら
れるようになった今日この頃。3 月 30 日(月)から、
ついに『まれ』が放送開始です! 都会から奥能登の
漁村に移住してきた希ちゃん一家の暮らしは、どんな
スタートを切るのでしょうか?
能登の仕事人
vol.2
おお さき
し ょ うえもん
大 崎 庄右エ門さん
輪島市で江戸時代末期から続く塗師屋「大崎
庄右エ門」の四代目。代々「庄右エ門」の名
を継承。塗師屋は、全国各地の顧客のもとへ
足を運び、お客さんから直接、漆器のオーダー
を受けて輪島塗を製造してきた。
うわ ぬり
いう作業を繰り返し、最後に上塗をします。輪島塗ではこの
工程がすべて分業になっていて、塗師屋の家の奥には、木地
塗師屋の仕事は、輪島塗づ
づくり以降の作業を行う作業場があります。最後の上塗は、
くりのプロデューサー。デザ
湿度を管理した土蔵の 2 階で行います。この土蔵は、1993
インから、すべての職人を総
年に起きた能登半島沖地震の際、全壊は免れたものの、大き
括しての製造、販売までをトー
な被害に遭いました。市内にあった多くの土蔵が取り壊され
タルで行っています。かつて
る中、我が家の土蔵は左官のボランティアの協力によって見
の輪島塗は、すべてがファッ
事によみがえり、現在でも塗師屋に欠かせない作業場として
ションで言うところのオートク
使用しています。
チュール。既製品はありませ
塗師屋の家は「住前職後」といって、前部に住まい、奥に
ん。お客さんと塗師屋の間に
仕事場がある特徴的な造り。くぐり戸の玄関を入ると、100m
は深い信頼関係があり、一緒に一つずつ器を作っていたわけ
続く長 い 通り庭 が ありま
です。大崎庄右エ門のお客さんは、東京や大阪、京都の料亭
す。朱合漆を塗った腰板、
や旅館など。日本の最先端の人達が集う場所で使ってもらう
階 段、扉 が、わ ず か な 光
漆器を作ってきたのですから、洗練されたデザインと磨きの
でつや つやと輝 い ていま
かかった職人の技が求められてきました。
す。これは大正時代から一
輪島塗の優れた点は、見た目の美しさだけではなく、丈夫
度も塗り替えられていない
さとなめらかな質感にあります。器は日常生活で使われるも
の ですよ。漆 の 耐 久 性に
の。近年、装飾用としての輪島塗が多く作られるようになり
感心します。
しゅ あい
ましたが、本来は暮らしの道具なのです。
昔ながらの輪島の町家で
守り継がれる漆塗の世界
輪島塗が出来上がるまでには、たくさんの工程があります。
した ぬり
まずは木地という土台作り、それに地の粉を下塗して研ぐと
通り庭にあるかまどは炊事用
ではなく、仕上がった漆器を
ここで蒸して耐久性を調べた
4
月号
の強さが求められます。そして、職人は無口で奥ゆかしい。
Vol.2
塗師屋の職人は、一日中座ってもくもくと同じ作業を続けな
ければならず、無口な中に芯のある、能登の人々の粘り強い
冬の厳しい寒さを乗り越えられる
粘り強い気質が堅牢な漆器を育む
気質が漆器作りに合っていたのでしょう。
塗師屋は日本各地へ行ってお客さんとお話しをするので、
物を売っていました。今はそういうおばあちゃんの姿も少な
話す人に合わせて標準語で話したり、方言で話したり。この
くなりましたが、輪島に来られたら朝市を見てみるといいか
臨機応変さとともに、見知らぬ土地で商売をしていく精神力
もしれません。輪島は海の幸も山の幸もあって、とにかく食
粘り強いといえば自分が小さい頃、輪島名物の朝市のおば
あちゃんたちは、真冬の雪の日も豆火鉢一つを足元に挟んで
材が豊か。その食材で作った料理を自慢の漆器に載せて、お
客 さ ん を お も て な し す る と 喜 ば れ ま す。漆 は 英 語 で
「JAPAN」
。日本を代表する器ですから、若い世代にも今一
度、漆の良さを再確認してもらいたいです。
土蔵で上塗をする職
人。職人さん以外、
立ち入り禁止の部屋
で作業を続ける
食べてみて、能登のお菓子
住宅内に見学可能な「拭き漆のギャラリー」を併設。
訪れる際は事前に電話を。
住所:輪島市鳳至町上町 28 番地 ☎0768-22-0128
輪島に伝わる伝統の菓子・丸柚餅子は、
柚子の豊かな香りとほろ苦い餅がベストマッチ!
柚餅子の原型を今に残す
輪島市
柚餅子の歴史は室町時代、大陸から伝
丸柚餅子
わった柚子を、保存食、携帯食に加工した
のがはじまり。日本各地に「ゆべし」とい
うお菓子は存在するが、その多くが細かく
まるゆべし
上品なべっこう色の丸
柚餅子はしっとりとし
た食感
切った柚子の皮を餅に混ぜて伸ばしたもの
で、柚子を丸々一つ使った輪島の丸柚餅
子は、柚餅子の原型を残したものだと言
われている。
創業100 余年「柚餅子総本家中浦屋」
は、輪島で随一の柚餅子の老舗。秋にな
ると1 年分の柚餅子を作るために3∼4万個
の柚子を一つずつ手作業でくり抜く。その
を丁寧に取り除くのがおいしさの秘密。しょ
う油味の餅を入れて蒸した柚子を半年、自
然乾燥で熟成させると、柚子と餅の良さを
合わせ持つ、上品な菓子が完成する。
そのまま食べるのはもちろん、ドライフ
ルーツのような感覚で、チーズに合わせ
たり、サラダ、ピザなど洋風のアレンジに
も使える。
熟成後、再び蒸しあ
げてつややかな色に
仕上がる
際、光が透けるほど皮が薄くなるまでワタ
光が透けるほど薄くく
り抜かれた柚子
店 名●柚餅子総本家中浦屋
住 所●輪島市河井町わいち 4 部 97 番地
電 話●0768-22-0131
営業時間●8 時∼ 18 時
定休日●元旦