直腸がんに対する 放射線療法を受ける 患者へのケア

特集2 消化器がんの治療や症状緩和で行われる 放射線療法 up-to-date
直腸がんに対する
放射線療法を受ける
患者へのケア
東京大学医学部附属病院
放射線治療部 がん看護専門看護師 入澤裕子
(いりさわ ゆうこ)2002年聖路加看護大学
大学院修士課程を修了。東京大学医学部附
属病院放射線治療部にてがん看護専門看護
師として勤務している。
記事のPoint
放射線療法は,術前または術後の補助療法として行われることが多い。
直腸がんを治すための「治療全体の流れ」を把握することが必要である。
一連の治療の流れの中での放射線療法の位置づけ(目的)を理解していなければ,
ケアはできない。
放射線療法による急性期有害事象である下痢や粘膜炎,皮膚炎は,必発する症状である。
患者のセルフケアによって苦痛が最小限に抑えられるように,
看護師が個々の患者に合わせた日常生活の指導を具体的に行うことが大切である。
患者のセルフケア能力を引き出すためには,患者自身が,
どのような副作用がいつごろ出現するのかを理解していることが重要である。
直腸がんに行われる
放射線療法の概要
■集学的治療としての位置付け
直腸がんにおける放射線治療は,集学的
■直腸がんの治療
治療の一部を担う位置付けにあります。そ
直腸がん治療の主体は手術ですが,欧米
の役割としては,次の3つがあります。
においては,手術の補助療法として術前化
①切除可能例での術前または術後の補助療
学放射線療法が標準的に行われています。
法としての役割(縮小手術および再発率
日本では,十分なリンパ節郭清により局所
の低減)
再発率が低いことなどを理由に,補助化学
放射線療法は,欧米に比べて積極的には行
われていない現状があります。しかし,近
年日本においても,直腸がんにおける腹腔
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分子標的薬併用の試みがなされています。
②切除不能および局所再発例において,術
前照射により切除を可能にする役割
③同症例において,除痛や延命を目的とす
る役割(緩和的治療)
鏡下手術の普及もあり,不十分となりがち
複数の臨床試験において,術前に放射線
な予防的側方郭清を省略し,術前化学放射
治療を行うことで,局所再発の抑制効果が
線療法を含めた集学的治療を導入する施設
あることが証明されており,また,術前治
が増加しつつあります1)。
療で病巣が縮小することによって,肛門機
併用する化学療法の薬剤に関してはさま
能温存の可能性が高くなることも報告され
ざまな研究が行われ,従来から現在まで幅
ています。さらに,術前の化学放射線療法
広く行われている5-FU系抗がん剤単剤,そ
後は,十分な縮小期間をあけることの重要
れに抗がん剤を加える多剤併用,さらには
性も指摘されています。当院では,術前化
消化器最新看護 Vol.20 No.4
緑:予防リンパ節領域
黄:転移リンパ節
赤:原発巣
2
P. に
カラー写真
掲載
写真1 放射線治療計画
膀胱内に一定量の尿が貯まることで小腸が上に押し上げられ,照射範囲から外れる様子
紫:小腸
緑:膀胱
写真2 小腸への線量を
減らす工夫
2に
P.
Correlation between bladder volume and irradiated dose of small bowel in CT-based
planning of intracavitary brachytherapy for cervical cancer. Yamashita H, Nakagawa カラー写真
掲載
K, Okuma K, Sakumi A, Haga A, Kobayashi R, Ohtomo K. Jpn J Clin Oncol. 2012 Apr; 42
(4): 302-8. doi: 10.1093/jjco/hyr203. Epub 2012 Feb 2.より許可を得て引用
学放射線療法終了後4週間程度あけて,CT,
少させる目的で,専用の固定具(ベリーボー
MRI,PET,下部消化管内視鏡などで再評価
ド)を使用し,腹臥位で行うことが望まし
を行い,6〜8週の時点で手術を行うこと
いと言われています3)。しかし,治療体位
が多いです2)。
の再現性の確保が難しいことから,仰臥位
■放射線治療の方法
で行うこともあります。
放射線治療計画については,3次元放射
仰臥位で行う場合では,小腸への線量を
線治療計画が原則となります。
減らす工夫として,膀胱内に一定の尿を貯
補助放射線療法での標準体積は,原発巣
めて照射することがあります(写真2)
。当
と転移リンパ節に所属リンパ節領域を含め
院では,排尿時間を「治療時間の2時間前」
ます(写真1)
。
に設定し,毎回なるべく同じ条件で治療で
治療体位は,照射される小腸の体積を減
きるように工夫しています。
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写真3 4門照射での線量分布図
2
P. に
カラー写真
掲載
写真3は4門照射の線量分布図を示して
れぞれ放射線が当たることになります(写
真4)
。
直腸がんに対する放射線療法は,原則的
線量分割は,術前照射の場合は,40 〜
には,外来通院で受けられる治療です。放
50Gy /20 〜28回/4〜5.5週,術後照射
射線治療が始まったら,最後まで計画どお
の場合は,50Gy /25 〜28回/5〜5.5週
りに治療を受けることが重要です。看護師
が標準的です。
は,患者が,主体的に治療に参加できるよ
併用する化学療法は,5-FUが標準的で
うに,治療の目的や方法を正しく理解でき
すが,最近では,TS-1やオキサリプラチン
るように支援します。また,下痢症状や皮
などの併用も行われています。当院では,現
膚炎などの急性有害事象については,患者
在,テガフールウラシル(300mg/m /day)
の日常生活に合わせた具体的なセルフケア
+ロイコボリン(75mg/day)を放射線治
方法を提案しながら,患者のセルフケア能
療日と同日に内服してもらっています1)。
力を高めるような介入を行い,治療完遂を
緩和的放射線療法は,骨盤内の腫瘍によ
サポートします。
る痛みや出血,排便障害などの症状を緩和
放射線治療の流れは,①治療医師からの
する目的で行われます。標的体積には症状
説明→②治療準備(固定具の選定,治療計
の原因となっている腫瘍を含めます。線量
画CT)→③照射開始→④照射終了となりま
は,1回1.8 〜2.0Gyで総線量45 〜50Gyで
す。看護師は,治療過程に沿って,適切な
すが,全身状態や症状の程度によっては,
タイミングで介入する必要があります。こ
1回線量を多くして短期間で照射を終了す
こでは,治療の流れに沿った看護介入の具
ることもあります。
体的内容を説明します。
2
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P. に
カラー写真
掲載
放射線療法を受ける
直腸がん患者のケア
います。実際の患者の体には,4方向からそ
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写真4 4方向(赤/青/緑/黄)から
放射線を当てている様子
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