内視鏡室での治療当日の看護

・中・後の看護のポイント
実践の経験知が
内視鏡治療前
分かる!
食道がんや胃がんに対するESDの看護
国家公務員共済組合連合会 斗南病院
米陀理絵子
岡山裕子
消化器内科病棟 看護師長
内視鏡室 副看護師長
1991年札幌医科大学衛生短期
大学部看護学科を卒業後,国家
公務員共済組合連合会斗南病院
に入職。2011年より消化器内科
病棟に配属となり現在に至る。
1992年札幌医科大学衛生短期大学部看
護学科を卒業後,国家公務員共済組合連
合会斗南病院に入職。消化器内科病棟を
経験し,2008年より内視鏡室勤務。2011年消化器内視鏡
技師の資格を取得。北海道消化器内視鏡技師会役員。
住吉徹哉 消化器内科 科長
●
チーム医療を進めていく上で必要な,外来・内視鏡室・病棟看護師,
医師,栄養士の情報共有の工夫を知る。
●
内視鏡室での治療前・中・後の看護のポイントを知る。
ESDとは
ESDとは,
「内視鏡的粘膜下層剝離術:Endoscopic Submucosal Dissection」の略語
です。食道,胃,大腸といった消化管の壁は,粘膜層,粘膜下層,筋膜などのいく
つかの層構造からできています。がんは最も表層の粘膜層から発生し,深部に浸潤
するにつれてリンパ節転移のリスクが高くなります。ESDはリンパ節転移のリスク
のない早期がんや腺腫などの前がん病変に対して,内視鏡下に治療用の電気メスを
用いて病巣を切除する治療方法であり,EMR(内視鏡的粘膜切除術)などの従来の
内視鏡治療と比較し,病変の大きさや場所にかかわらず,確実な切除が可能です。
●ESDパンフレットによる統一した説明
ESDを受ける患者には,多職種,複数部門の職員が説明をする場面があります。
当院では,入院前から退院後の生活指導までをまとめた患者用のESDパンフレッ
トを作成しており,外来・病棟・内視鏡室看護師,医師,栄養士が,このパンフ
レットを用いて患者にその都度説明を行うようにしています。パンフレットでは,
写真やイラストを多くし,実際の治療のイメージや流れが理解しやすくなるよう
工夫をしています(資料1)
。
●内視鏡スタッフ間での情報共有
毎週金曜日に,翌週のESD予定患者を対象に,安全かつ円滑にESDを行うこと
を目的として,ESDに携わっている医師,内視鏡室看護師,臨床工学技士をメン
バーとした術前カンファレンスを行っています。患者の既往歴,併存症や抗血栓
薬などの内服薬の有無および休薬,また,ESDの際に必要な処置具や注意点,予
定時間などについて確認を行います。カンファレンスの内容は,病棟看護師とも
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ESDパンフレットの作成
以前,当院でESD施行後の患者に術後の不安調査を行ったところ,病気や合併症に対する不安より
も,治療後の生活習慣に対する不安が強いという結果が得られました。その結果を踏まえ,パンフレッ
トの内容は退院後の生活に重点を置いたものとなっています。
情報の共有ができるように,電子カルテに
して『抗血栓薬服用者に対する消化器内視
記録しています(資料2)
。
鏡診療ガイドライン』に準じていますが,
ESD前の看護
処方医に問い合わせ,確認を行うこともあ
ります。
●外来での看護
●入院日(処置前日)の看護
パンフレットを用い,患者用クリニカル
患者は原則としてESD前日に入院となり
パス(資料3)に沿って内服薬などの入院
ます。入院後,病棟看護師は前述の術前カ
前の注意事項や,入院後の治療前後の流れ
ンファレンスの記録を基に情報を収集する
について説明を行います。内服薬について
と共に,再度,問診にて心血管系疾患や糖
は,特に抗血栓薬(抗血小板薬,抗凝固薬)
尿病などの併存症の有無および内服薬の確
を服用している場合,担当医師に休薬の可
認を行います。インスリンや血糖降下薬,
否について確認を行い,その旨を患者に説
免疫抑制剤などの薬剤を使用している患者
明します。休薬の可否については,原則と
においては,絶飲食期間中の対応について
資料1 患者用のESDパンフレット
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消化器最新看護 Vol.21 No.2
担当医に確認するほか,ペースメーカー埋
め込み患者では,ESD中の設定の確認も必
要になります。
パンフレットと患者用クリニカルパスを
用いて治療前後の流れを説明しますが,こ
の際,患者および家族の病気や治療に対す
る理解,不安についても把握するように努
めています。
●術前訪問
ESD前日に内視鏡室の担当看護師が病棟
を訪問し,患者面談と病棟看護師への申し
送りをします。患者面談では,治療につい
ての説明のほか,コミュニケーションを多
く取ることで,患者の不安軽減を図るよう
心掛けています(資料4)
。
内視鏡室での治療当日の看護
●治療前の患者の準備・看護
患者が内視鏡室に入室した後は,前日面
談を行った担当看護師がリラックスできる
ように声をかけながら,準備を行います。
長時間の同一体位による褥瘡予防のために
弾性マットを使用するほか,足の間には枕
資料2 胃ESD術前カンファレンス
記録用紙
患者ID
名前
術者
部位
大きさ
予定切除時間
既往
内服薬
抗凝固剤継続
継続
休薬
ヘパリン置換
セカンドルック 有
無
結紮スネア
要
不要
ネオベール
要
不要
使用スコープ
デバイス
局注針
オーバー
チューブ
ズーム(GIF-H290Z)
ウォータージェット(GIF-Q260J)
マルチべンディング
(GIF-2TQ260M)他
ITナイフ
デュアルナイフ
フラッシュナイフ 他
インパクトフロー 25G 4mm鈍針 他
要
不要
リークカッター 要
不要
キャップ
黒キャップ アタッチメント 他
浸水法
する
しない
局注液
通常
他
糸付きクリップ 要
不要
当日決まる
ケナコルト
(狭窄予防)
要
予定開始時間
頃( 例中
術者指定
通常検査
有
不要
例目)
(指定 ・ 他Dr.) 無
特記事項
やタオルを挟みます。術中には,セデー
ションなどにより循環・呼吸動態に変動を
のため,術中は,全身状態の把握のため生
来すこともあり,心電図,血圧,酸素飽和
体監視モニターで心電図,脈拍数,酸素飽
度のモニターを行います。対極板は腹部の
和度を測定するほか,患者の状態をよく観
観察の邪魔にならないように腰背部に貼り
察しながらケアを行います。
ます。肺血栓塞栓症予防のための弾性ス
セデーション
トッキングが正しく着用できているかにつ
ESDでは,通常検査よりも長い時間を要
いても確認します。
することが多く,患者の処置時の苦痛を緩
●治療中のケア
和すると同時に,嘔吐反射や体動を抑え,
術中は異常の早期発見と偶発症予防を念
安全かつ安定した状況下で処置を行うため
頭に置いたケアを行うことが大切です。そ
に, 通 常 検 査 で 行 わ れ る 意 識 下 鎮 静 法
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入院まで
/
治療前日
特別制限はあり
ません
胃薬(ネキシウム)は
月 日より
内服をしてください
説明
その他
清潔
安静度
点滴
食事
内服薬
抗血小板,抗凝
固薬を内服中の
方は事前に中止
します
◆入院時,内服
薬は胃薬も含
めすべて持参
してください
/
手術前
〔 〕
◆常用薬は起床時に以下の
薬のみ内服してください
胃チューブが留置される 出血がなければ,朝
胃管チューブ抜去
場合があります。
(術後出血確認などのため) します
禁煙
(術後1カ月間)
手術当日から2週間は胃薬(タケキャブ)
が処方されますので内服してください
※タケキャブ内服中はネキシウムの内服は
一時中止になります
*治療内容について(主治医から)
*術前訪問(内視鏡室看護師 前日午後)
術中の疑問・不安などお尋ねください
シャワー:可
制限なし
日中のみ
(1,000mL)
∼
/
◆抗血小板,抗凝固薬
は術後7日目から再
開です
タケキャブ内服終了
後,ネキシウム内服再
開です。
◆退院日
病理結果・治療によっ
て延期となることがあ
ります。
退院日は主治医とご相
談ください。
/
術後7日目以降
退院後の生活につ
いて(病棟看護師か
ら術後4日目)
退 院 後 の 食 事 に つ 病理結果について
いて(栄養士から術 (主治医から)
後4日目以降)
術後6日目以降
入浴は術後
5日目から
可能です
1日ずつ普通の食事に近づき
ます
5分粥⇒7分粥⇒全粥⇒米飯
/
術後3日目∼術後6日目
*上記スケジュールはあくまでも予定ですので,治療状況によっては変更になることがあります。ご了承ください。
上記スケジュールにつき説明を受けご理解いただけましたら,
ご署名をお願いいたします。
平成 年 月 日 ご署名
◆治療後,腹痛や発熱などの症状が出ることがあります
何か症状がありましたらすぐに看護師にお知らせください
入浴・シャワー:
不可
入浴・シャワーを
済ませましょう
状況に応じて尿道カテーテ
ルを留置
治療後はトイレ洗面歩行
のみ
◆術後初回のトイレは看
護師が付き添います
栄養の点滴
24時間持続投与します
(1,500mL)
/
術後2日目
(診断名 )
採 血 結 果 で 水 分 の 治療食開始
み許可
3分粥
〔水 分:水・お 茶・
スポーツ
ドリンク〕
◆飲水の許可がされ
ます
常用薬は再開でき
ます
看護師にご確認く
ださい
採血(朝)
切除後の確認内視鏡
がある場合には,車
いすで行きます
/
術後1日目
制限なし
点滴開始
1.止血剤
2.栄養点滴
昼・夕食:なし
水分:不可
/
手術後
看護師
ネキシウムカプセルは2週間一時中止
タケキャブ 2週間内服開始
内視鏡室で治療を行います
( : )
主治医
食べ物:治療前日の夕食 朝食:なし
まで
◆起床時にコップ1杯の水
水分:当日の朝まで可
かお茶を飲んでください
水分〔水・お茶・
スポーツドリンク〕
外来で検査します
(入院してからの方もいます)
採血・検尿
検査/治療
胸腹部レントゲン
心電図
出血時間
月 日
経過
お名前 様
資料3 内視鏡的粘膜下層剝離術《胃》入院治療計画書
資料4 患者用のESDパンフレット:
治療についての説明
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患者の苦痛により血圧が上昇することも
あり,セデーションの状態について確認
を行うことも必要です。
②血圧低下および徐脈を認めた際は,過送
気などによる迷走神経反射の影響を考
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え,内視鏡を一時抜去するなど処置を中
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い場合は,アトロピン硫酸塩(アトロピ
ン)の投与を行います。
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断することも必要です。なお,改善がな
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③そのほか,血圧低下を認めた際は,鎮静
剤の副作用や出血性ショックが原因のこ
ともあり,心電図異常,頻脈,チアノー
ゼ・冷汗の有無,呼吸状態をよく観察
し,状況に応じた対応を行うことが大切
です。
呼吸状態
術中に酸素飽和度の低下を認めた場合,
(conscious sedation)よりも深い鎮静(deep
原因の多くは,過鎮静と口腔内分泌物の誤
sedation)が必要となります。したがって,
嚥です。酸素飽和度の低下に応じた酸素投
セデーションに使用される薬剤については,
与を行うほか,誤嚥を防ぐために適宜,口
副作用や半減期など使用する薬剤の特徴を
腔内の分泌物を吸引することが大切です。
熟知すべきです。当院では,主にジアゼパ
なお,吸引の際には,術者の手技の妨げに
ム(セルシン)
,ミダゾラム(ドルミカム)
ならないようコミュニケーションを取りな
およびペンタゾシン(ソセゴン)を用いた
がら行うことにも注意しています。
セデーションを行っています。処置中は,
穿孔が起こった場合
患者に呼びかけるなど,十分な鎮静下にあ
機器の進歩および技術の向上に伴い,
るかどうかの確認を適宜行い,必要に応じ
ESDの穿孔の頻度は低下しつつあるもの
て,鎮静剤の追加投与を行います。
の,いまだに気をつけなければならない偶
循環動態
発症の一つです。胃ESDの穿孔時には,穿
①血圧の上昇は術中出血のリスクを高める
孔部から腹腔内への空気の漏出により気腹
可 能 性 が あ る た め, 収 縮 期 血 圧 が
を生じ,さらには腹腔内圧の上昇から循環
160mmHgを超える場合には降圧剤であ
障害や呼吸障害を招くことがあります(腹
るニカルピジン塩酸塩(ペルジピン)を
部コンパートメント症候群)。そのため,
投与します。なお,鎮静が不十分だと,
血圧の低下や酸素飽和度の低下を認めるこ
➡続きは本誌をご覧ください
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