特集1 《病期別・治療別》肝炎・肝硬変・肝がんの患者へのケア 経皮的ラジオ波 焼灼療法を受ける 肝がん患者の看護 RFAは全身麻酔や開腹手術が不要で 低侵襲な治療であり,肝臓への負担も少なく, 肝がん局所療法の主流となっている。 再発をしても繰り返し施行できる治療法であり, 患者に苦痛の少ない治療体験を 送ってもらえるよう看護を行う必要がある。 合併症の出現時期を考えながら, 異常の早期発見に努めることが大切である。 鳥取大学医学部附属病院 松本和恵 消化器内科病棟 看護師 (まつもと かずえ)1997年鳥取大学医学部附属病院に就職。 手術室,集中治療室,放射線科・呼吸器内科病棟を経験後, 現在の消化器内科病棟配属となる。 干村修子 看護師長 を行っていく必要があります。主治医から 治療説明を受けた後,患者や家族がどのよ うに理解しているのかを十分に確認する必 要があります。理解ができていないと思わ れる内容は,看護師が患者・家族の理解で きる表現で説明しておきましょう。また, RFAは繰り返し行うことが多いため,経験 RFAとは 安心」ではなく,「知っているからこそ不 近年肝がんの局所療法として,広範囲を 安」という気持ちを理解することが大切で 確実に壊死させる経皮的ラジオ波焼灼術 す。前回の治療時に苦痛を体験している患 (Radiofrequency Ablation:RFA) が 9 割 者には,「また痛い思いをするのではない 以上で選択されています。RFAは,基本的 か」「熱が出るのではないか」などの具体 には腫瘍径が3cm以下,腫瘍個数が3個 的な不安があります。前回の対処方法を聞 以下の肝がんに対して適応があります(表 き出し,成功体験ができるよう事前に準備 1) 。方法は,通常2枚の対極板を大腿部に を行っていく必要があります。また,主治 装着後,超音波ガイド下に体表から腫瘍に 医との情報共有も必要となります。 電極針を挿入し高周波(ラジオ波)を流し 抗凝固薬や抗血小板薬を内服している患 て腫瘍を焼灼します(写真1) 。治療効果判 者は,医師の指示どおり休薬できているか 定は画像撮影(当院ではMRI)を行い,治療 を確認します。 前の画像と比較して全周が5mm以上大き そのほか,穿刺の際に呼吸をすると,横 く焼灼されていれば局所根治と判定します。 隔膜の動きにつられて肝臓が動いてしまうた 治療前の看護 ∼入院から治療前日(表2) 32 がある患者に対して,「理解しているから め,腫瘍に対して確実な穿刺をするために 呼吸を止める練習をしてもらうことも大切で す。具体的には,息を吐いたところで約20 ∼ 治療前は,患者が心身共に安定した状態 30秒止める練習をします。治療の同意書の で治療に臨めるように情報収集をし,援助 記載・提出についても確認しておきましょう。 消化器最新看護 Vol.20 No.4 表1 RFA適応 腫瘍因子 ●腫瘍径3cm以下,腫瘍数3個以下 ●門脈,胆管,肝静脈へ浸潤していない ●周辺臓器損傷が避けられる位置に存在する ●穿刺ルートに大血管や胆管がない 肝予備能因子 ●腹水がない,あるいは利尿薬でコントロー ル可能 ●総ビリルビン値が3.0mg/dL未満 写真1 RFA ●血小板が5万/mm3以上 表2 治療前の看護 ●プロトロンビン活性が50%以上 状態把握 治療中の看護 治療室に入室してから治療の開始までは, 患者の準備や治療の準備など,慌ただしい 時間になります。しかし,笑顔で患者を迎 えることや,声をかけながら準備をするこ とで,患者の緊張をほぐすことも重要です。 この時の印象が,術中に患者が看護師に痛 みなどを訴えやすいかどうかに関与してく るので大切に過ごしましょう。 治療室に入室したら,術野に邪魔になら ないよう,心電図の貼付,左上肢に末梢ラ インと血圧計を準備していきます。入室時 のバイタルサイン,SpO2,意識状態を注 意深く観察します。治療時間は,治療対象 の腫瘍の数や大きさにより異なります。 治療中は疼痛,嘔気・嘔吐などが出現しま す。RFA時の疼痛の場所は,主に病変が肝 表面と横隔膜下にある場合に強く認めます。 肝表面にある場合は,熱の影響でその場所が 痛みます。横隔膜にある場合は放散痛とな り,右肩が痛むことが多いです。また,上腹 部に重苦しい痛みを訴える場合も多くありま ●血液検査データ:肝機能,血液凝固機能, 腎機能,腫瘍マーカー,血算など ●抗凝固薬や抗血小板薬内服の有無:休薬す る必要があるため,医師に確認する ●腫瘍部位 ●過去の経皮的肝がん局所治療歴:治療回数, 副作用の程度,何が苦痛であったかなど 患者ケア ●治療当日の点滴・前投薬,当日の食事,服 薬指示などを医師に確認: 前投薬の中に硫酸アトロピンが含まれる場 合は,心疾患,不整脈,緑内障,前立腺肥 大症の既往がないか確認しておく。午前の 処置の場合は朝食の欠食,午後の処置の場 合は昼食の欠食が必要 ●除毛:体毛の濃い患者のみ,必要な部位を 前日に除毛を行い,その後は入浴するよう 促し清潔にしておく ●術前オリエンテーションを行う:治療に対 する不安やストレスを感じていることがあ るため,患者の思いや精神状態を十分に把 握し,理解度に合わせたオリエンテーショ ンを進める。オリエンテーション後も患者 の反応を観察し,不安や疑問について解決 していくようにかかわる必要がある ●呼吸練習,排泄練習:治療後は床上排泄と なるため,場合によっては事前に練習を行 う必要がある ●治療中痛みがあれば我慢しないよう説明: RFAは通電中に腹痛,背部痛,右肩痛が 出ることがあり,これに対しては痛み止め の注射を行うことなどの説明を行う 消化器最新看護 Vol.20 No.4 33 す。疼痛による迷走神経反射が生じやすくな るため,注意して観察を行います(徐脈,血 圧低下,気分不快,冷感,顔面蒼白,生あく び) 。症状出現時には,症状が軽減できるよ う薬剤投与を考慮し,対応をしていきます。 疼痛の閾値は個人によって異なるため, 我慢をしていないかは表情などで確認しま す。また,疼痛による体動や発語による横 隔膜の動きで穿刺針が移動してしまうため, 手を握る,左手を挙げるなどの合図をあら 写真2 治療中は手を握ることで痛みを 訴えてもらう かじめ決めておくとよいでしょう。当院で 師に報告するよう説明します。長時間の床 は検査前に説明を行い,左手を握ってもら 上安静による苦痛の軽減を図るために,枕 うよう合図をあらかじめ決めています(写 を用いて安楽な体位を保持するようにしま 真2) 。術野の確保のために右上肢を挙上 す。飲水・食事は3時間後より許可してい した体位をとりますが,長時間の同一体位 ます。硫酸アトロピンを使用した場合は, による苦痛もあるため,マッサージや手の 口腔内の乾燥が著明になります。その際 位置を変えるなど安楽に努めます。ただし, は,臥床したままで含嗽の介助を行った 穿刺時などには体動を控える必要がありま り,氷を摂取したりと口腔内の不快感を取 す。また,硫酸アトロピンを使用する際は, り除きます。 注射使用後には口が渇きやすくなることを RFAの合併症 説明しておきましょう。 主な合併症 当院では検査・看護手順を用いて誰でも治 ● 療の介助が行えるようにしています(資料) 。 ◆術直後に起こる合併症 治療後の看護 治療後数時間は床上安静になります。当 院では4∼6時間の安静としています。安 静による苦痛がある場合は,我慢せず看護 皮膚・腹壁熱傷:皮膚の近くを治療した際, 体の表面まで火傷が広がることがある (時期:0∼1日)。 対極板部熱傷:対極板貼付部位に生じるこ とがある(時期:0∼1日)。 出血:腹腔内の出血,胸腔内の出血,胆道 可変型の電極 複数個の腫瘍の焼灼の際,今までは電極を変 更していましたが,2015年7月31日より1本で6 からの出血,皮下の血腫が生じることが ある(時期:0∼2日)。 腸管・胆嚢損傷:胆嚢の近くを治療した際 段階に対応できる「可変型」の電極が保険適応 に,胆嚢に孔が開くことがある。また, になりました。院内の在庫軽減にも役立ちます。 治療した部位の近くの胃腸が火傷して孔 34 消化器最新看護 Vol.20 No.4 ➡続きは本誌をご覧ください
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