内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)の 治療前・中・後の看護のポイント

特集1 今の看護にプラス! エキスパートが教える 検査・術後・入院患者に使える観察・アセスメント・ケア
消化器内視鏡技師 が教える
内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)の
治療前・中・後の看護のポイント
市立堺病院
ERCPは,内視鏡検査・治療の中でも
偶発症の多い処置である。
病棟と内視鏡それぞれの視点からの
看護を知り,それぞれの看護を行う際や
継続看護に活かそう。
近年,内視鏡を用いた検査・治療が多く
なっている。外科的治療に比べ身体的侵襲
が少なく,高齢者などのハイリスクの患者
消化器病センター 能美智子 (のうみ ともこ)看護専門学校を卒業後,市立堺病院に入職。8年
間内視鏡室に勤務。2007年消化器内視鏡技師免許取得。2012年
に消化器病センターに勤務し現在に至る。
山田真起子 放射線科 (やまだ まきこ)看護専門学校卒業後,消化器
内科病棟・小児科病棟での経験を経て,市立
堺病院に入職。2007年消化器内視鏡技師免許
取得。現在,放射線科・内視鏡室に勤務しながら,
院内ICTチームの一員としても活動中。
にも施行可能となる。また,在院日数の短
る。なお,ERCPとは,内視鏡を用いて十二
縮などの利点により検査・治療の主流とな
指腸乳頭からカニューレを挿入し膵胆管を
りつつある。
造影する方法であり,膵管・胆管・胆嚢・
しかし,内視鏡検査・治療での偶発症の
乳頭部疾患などが適応となる。
件数は少なくなく,かかわる医療スタッフ
病棟での検査・治療前の看護
が熟知しておく必要がある。今回内視鏡検
検査・治療前の目標は,不安を緩和し,
査・治療の中でも偶発症の発症リスクの高
安全・安楽に検査を受けることができるよ
い内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)の
うに準備を進めることである。
治療前・中・後の看護について,病棟看護
流れ・手順と看護のポイント
師と内視鏡看護師のそれぞれの視点からの
看護のポイントと継続看護について紹介す
患者の把握
・インフォームド・コンセント
・理解度
・既往歴の把握(胃切除術の有無〈写真1〉
,
頸椎症や腰痛,下肢の人工関節など)
後方斜視鏡
ダブルバルーン内視鏡
一般的に用いられる
胃切除後(BⅠ再建)
胃切除後
(胃全摘,BⅡ再建)
胃切除術の既往のある患者では,再建法により
使用する内視鏡の機種を選択することがある。
写真1 胃切除術の既往患者における
内視鏡機種の選択
・内服薬 ・身体ADL状況
・ペースメーカー留置の有無
・歯のぐらつき,義歯の有無
・口腔内の清潔の有無(口腔内が不潔だと検
査・治療後の誤嚥性肺炎の可能性がある)
・アルコール嗜好の有無(アルコール多飲
消化器最新看護 Vol.19 No.1
37
資料 放射線科で使用している
申し送りチェック表
病棟との申し送りチェック表
検査室: 年 月 日
患者名: 年齢 性別 ルート確認:挿入日( )
滴下:良・不良
検査・治療前(病棟からの申し送り)
□検査・治療の目的( )
■
者では鎮静が得られにくい)
〈看護のポイント〉
一般的な検査・治療や手術を受ける患者
の看護と同様だが,以下のポイントは把握
しておくとよい。
・EST(乳頭切開術)施行予定時は高周
□問診票・承諾書の確認 有 ・ 無
■
波電流を使用するため,ペースメーカー
□アレルギーの有無 有 ・ 無( )
■
の埋め込みや体内金属の留置がないか確
□感染症の有無 有 ・ 無( )
■
□身体障害 有 ・ 無
■
視覚障害・聴覚障害・言語障害
その他( )
□既往歴 有 ・ 無( )
■
□内服薬 有 ・ 無( )
■
□出棟時のバイタルサイン
■
BP / P SpO2 %
■点滴の有無 有 ・ 無
□
点滴内容( )
□前投薬実施の有無 有 ・ 無
■
前投薬内容( )
□検査終了後の連絡先
■
病棟( )
PHS( )
備考欄
認しておく。
・ESTなどの観血的処置を行う場合があ
るので,抗凝固薬・抗血小板薬の休止確
認を行う。
※抗凝固薬・抗血小板薬の内服について:
従来の日本消化器内視鏡学会のガイドラ
インは,血栓症発症リスクよりも,抗血
栓薬の休薬による消化器内視鏡後の出血
予防を重視したものであった。しかし,
抗血栓薬を持続することによる消化管出
血だけでなく,抗血栓薬の休薬による血
栓塞栓症の誘発にも配慮して,2012年
新たにガイドラインを作成した。
ルート確保の位置
左 側 臥 位 に て 検 査・ 治 療 を 行 う の で,
MRCP(磁気共鳴
胆道膵管造影)とは?
ルート確保は右上肢とする。
内視鏡室の看護
内視鏡室での目標は,不安を緩和し,安
ERCP前に非 侵襲 性の検 査としてよく行われ,
全・安楽に検査を受けることができるよう
結石や腫瘍などの診断に有用である。
に努めることである。
検査3時間前から絶飲食で,検査直前にMRI用
流れ・手順と看護のポイント
経口消化管造影剤をコップ1杯ほど経口投与する。
無臭でほとんど味がしない。
抗生剤(テトラサイクリン系・ニューキノロン系・
受け入れの準備
①情報収集を行い,患者の把握をする
セブジニン系)を内服している時は,効果を減弱
「申し送りチェック表」
(資料)に基づき,
させる恐れがあるため,造影剤投与後3時間は内
電子カルテより情報収集を行う。
服禁である。また服用後は軟便になることがある。
検査・治療の目的と経緯,同意書の有
38
消化器最新看護 Vol.19 No.1
表1 使用薬品一例
無,薬品アレルギー,既往歴,内服,身体
消泡薬:ガスコン
障害など
咽頭麻酔薬:4%キシロカイン
鎮痙薬:ブスコパン,グルカゴン
〈看護のポイント〉
検査・治療に伴うリスク評価を行う。
・鎮痙薬として使用するブスコパンは,緑
鎮静薬:ドルミカム,ホリゾン
鎮痛薬:塩酸ペチジン,フェンタニル
内障,前立腺肥大,重篤な心疾患,麻痺
蛋白分解酵素阻害薬:ミラクリッド,フ
サン,FOY
性イレウス,出血性大腸炎の症状を悪化
抗菌薬:スルペラゾンなど
させる恐れがあるため,それぞれの既往
造影剤:60%ウログラフィン
の確認を行う。ブスコパンが禁忌の場合
拮抗薬:塩酸ナロキソン,フルマゼニル
は,グルカゴンを使用するため糖尿病な
※Vater乳頭の括約筋を弛緩するため,内視鏡挿入
前にニトロールスプレーを舌下することがある。
どの有無を確認しておく。
・抗凝固薬,抗血小板薬の内服の有無を再
・内視鏡装置や処置台,監視モニターなど
の配置の工夫を行い,患者の観察と業務
確認する。
・ペースメーカー植え込みや体内金属の有
が遂行しやすいスペースづくりに努める。
・検査・処置が長時間に及ぶ場合があるた
無を再確認する。
め,患者の苦痛を軽減できるよう検査台
②検査室の準備
内視鏡と周辺機器・光源台,処置具など
※
,
の使用物品,前処置や使用薬剤 (表1)
検査台,監視モニター,酸素吸入装置,救
急カート
※インダシン坐薬には炎症による腫れや痛みを軽
減する作用がある。ERCP後,インダシン坐薬
を使用すると急性膵炎の予防になるとの報告が
ある。
〈看護のポイント〉
に体圧分散マット(写真2)の準備を行う。
患者受け入れ
①患者確認と病棟看護師から申し送りを受
ける。
ミンクリア散布液
胃蠕動運動の抑制薬としてミンクリア内用散
患者が安全・安楽に,かつ円滑に検査・
布液0.8%が使用される場合がある。飴やガム
治療が行えるように環境を整える。
などの食品にも広く使用されている安全性の高
・内視鏡の作業点検を行う。緊急疾患を受
け入れる場所でもあるため,日頃からの
内視鏡や周辺機器の点検やメンテナンス
が重要である。
・救急カートの点検,薬品や物品の管理と
補充を徹底する。特殊な物品を使用する
いメントールが主成分で,このメントールが胃の
平滑筋を弛緩させ,蠕動運動を抑制するとして
以前からペパーミントオイルとして使用していた
施設もある。ミンクリア内用散布液0.8%は注
射型に一包化されているため内視鏡の鉗子口か
ら直接胃内へ散布することができ,注射の必要
がなく副作用の面でも優れている。最近では胃
場合は事前に医師とコンタクトを取って
内の検査だけではなくESD(内視鏡的粘膜下
準備しておく。
層剥離術)などの治療時にも使用されている。
消化器最新看護 Vol.19 No.1
39
とカルテや検査受付表で患者確認を行う。
・担当看護師の自己紹介を行い,オリエン
テーションを通して,質問事項や不安の
訴えを傾聴し,丁寧に分かりやすい言葉
写真2 体圧分散マット
で説明を行う。
・出棟時バイタルサインや症状の把握を行
う。
・病棟から留置された静脈ルートの刺入部
や滴下,点滴の内容を確認する。
・キ シロカインによるアナフィラキシー
ショック症状の出現に注意して,患者か
写真3 ERCPの体位
②前処置(消泡薬の内服と咽頭麻酔の実施)
消泡薬:重曹1g,プロナーゼNS0.5g,
ガスコン6mL,水50mL
咽頭麻酔:4%キシロカイン2mLを咽頭
ら目をそらさず観察を行う。
③体位を整える。
〈看護のポイント〉
安楽の保持のため体位の工夫を行う。
ERCPでは十二指腸乳頭部へのアプローチ
のため,左下半腹臥位となる(写真3)。
の奥へためられるよう頸部後屈姿勢で3
患者の状況に配慮しながら内視鏡を挿入し
分保持する(誤嚥に注意)
やすく,かつ呼吸しやすく,誤嚥しない体
〈看護のポイント〉
位をとらせる。
患者誤認を防ぐ。同意の確認を行う。不
④監視モニターの装着
安の軽減に努める。
BP,HR,SpO2,RRが 監 視 で き る モ ニ
・患者に口頭でフルネームと生年月日を名
ターを装着する。
乗ってもらい,施行医と共にネームバンド
スタンダードプリコーション(CDCガイドライン)の概念によ
り,すべての患者に使用した内視鏡は,使用ごとに高水準消毒
を行う。また処置具などの医療器材は直接粘膜組織内に挿入さ
れるため,それぞれに応じた洗浄と滅菌が必要である(スポル
ディングの分類)
。
安全な内視鏡検査と治療の提供のためには,
『内視鏡の洗浄・
消毒に関するガイドライン』に沿った感染防止に努め,各施設
独自の方法をマニュアル化することが重要である。
40
消化器最新看護 Vol.19 No.1
内視鏡洗浄用シンクの壁に
掲示したマニュアル
内視鏡室での感染管理
表2 検査室で起こり得る偶発症
〈看護のポイント〉
経時的なバイタルサインの把握,合併症
の早期発見・対処を行う。
・血圧は2.5分~5分ごとに測定する。基
本的に点滴と反対側の上肢で測定する。
シャントや麻痺,腋窩リンパ節郭清の既
往がある場合は,下肢で測定する。心電
図モニターは撮影の妨げにならないよう
出血(EST後出血・マロリーワイス症
候群)
穿孔 アナフィラキシーショック
バスケット嵌頓
蛋白分解酵素阻害薬の血管外濾出
など
膵酵素阻害薬は組織障害性が高く,血管
外濾出により壊死を起こす危険性がある
ため,投与時は滴下や刺入部の状態を十
分観察する!
装着する。
※点滴は,左上肢が下になるため右手留置
表3 ERCPで行う診断と治療
が望ましい。
・検査室で起こり得る偶発症(表2)につ
胆膵管生検
診断
いて理解し,バイタルサインの変動だけ
胆膵管IDUS(管腔内超音波検査)
経口胆膵管鏡
ではなく患者の表情や体動にも注意して
乳頭切開術
観察を行う。
膵管口切開術
・鎮痛薬・鎮静薬による呼吸抑制や血圧低
下に注意して観察を行う。呼吸抑制など重
胆膵管細胞診
乳頭切除術
治療
胆膵管砕石術
篤な症状が発症した場合は検査を中断し,
胆道ドレナージ術(内瘻・外瘻処置)
拮抗薬の投与など速やかに対処を行う。
膵管ドレナージ術(内瘻・外瘻処置)
※呼吸抑制に備えて経鼻カニューレやバッ
グバルブマスクがすぐに使用できるよう
に準備をしておく。
検査・治療
①内視鏡(後方斜視鏡)を挿入する。
膵嚢胞ドレナージ術
田村君英編:技師&ナースのための消化器内視鏡ガイド―
検査・治療・看護,P.137,学研メディカル秀潤社,
2010.より引用,一部改編
滑な検査・治療が行えるよう介助する。
・内視鏡の挿入はある程度の鎮静が図れた
②カテーテルを乳頭開口部へ挿入する。
ことを確認して行うが,ERCPで使用す
③胆管・膵管造影を撮影する。
る内視鏡は通常の内視鏡より太くさらに
④必要な検査と治療(表3)を行う。
苦痛を伴うため,挿入時は患者の急な体
⑤検査と治療が済んだら,内視鏡を抜去す
動がないようタッチングを行いながらそ
る。
ばで寄り添う。また唾液を誤嚥しないよ
※過量の造影剤注入による胆管内圧,膵管
うに,口腔内に貯留した唾液は嚥下せ
内圧上昇によって起こる腹痛や血圧低
ず,口腔外へ流し出すよう説明を行う。
下・冷汗などの症状出現に注意する。
〈看護のポイント〉
施行中の患者の全身状態を把握する。円
・検査・治療中は医師の指示に応じて体位
変換(左下半腹臥位→完全腹臥位など)
(写真4)の介助を行う。
消化器最新看護 Vol.19 No.1
41
内の物を全部吐き出してもらい,誤嚥し
ないよう促す。自己にて吐き出せない場
合は,口腔内の吸引を行う。
病棟看護師への申し送り
次の事項を申し送った後,患者は退室と
写真4 検査中の体位変換
なる。
表4 ERCP後の偶発症
急性膵炎 急性胆管炎
消化管出血 消化管穿孔 ・検査・治療の流れと施行内容
・使用薬剤 ・鎮静薬使用の時間と量
肺炎
・拮抗薬使用の有無と覚醒状態
・バイタルサインの経過
・体動による転落や皮膚損傷に注意して観
・施行中の患者の状況や残存症状
察を行い,検査・治療の妨げになる場合
・持続点滴の滴下と刺入部の状態
は抑制帯の使用や,X線防護衣を着用し
・続きの点滴や安静度の指示
て透視室内に入り,直接そばで患者の体
を支えて動かないよう説明を行う。
・患者観察と共に検査・治療の流れを把握
〈看護のポイント〉
・バ イタルサインと覚醒状態や意識レベ
ル,腹痛や嘔気などの症状の観察を行
して,次に施行される手技を予測しなが
い,患者にねぎらいの言葉をかける。
らスムーズに進められるよう処置具など
・検査中のイベントや,継続する看護のポ
の物品の準備と介助を行う。
・検査・治療が終了したことを告げ,口腔
イントについて病棟看護師へ引き継ぐ。
病棟での検査・治療後の看護
検査・治療後の目標は,異常の早期発見
二酸化炭素送気
通常,内視鏡検査を施行する時には,空気
を送気して消化管の管腔を広げて観察を行う。
検査が長時間になると,腹部膨満などの症状
が顕著に出現して患者の苦痛が大きくなり,検
ができることや,検査・治療による苦痛が
軽減できることである。
流れ・手順と看護のポイント
帰室後の観察
①意識レベル,バイタルサイン
査後もなかなか空気が抜けず,苦しい思いをす
②嘔気・嘔吐の有無
る患者も見られる。
③腹部症状(腹痛・腹部膨満感・腹壁状態
この時,空気に比べて極めて体内吸収性に
優れている「二酸化炭素」の送気を行うことで,
検査中・検査後の患者の腹部膨満による苦痛
の軽減が期待される。また,穿孔時には腹腔
など)
④背部症状(疼痛・違和感)
〈看護のポイント〉
内に漏れたガスが速やかに吸収され,重篤な
ERCPは偶発症(表4)の非常に多い処
後腹膜気腫・皮下気腫などの偶発症を避ける
置である。検査の翌日までは状態の変化に
ことが期待される。
注意しなければならない。特に偶発症が起
42
消化器最新看護 Vol.19 No.1
こりやすい理由として,長時間の検査・治
療,鎮静剤の使用,乳頭括約筋切開(EST),
を前屈すると腹痛が軽減することがある。
・筋性防御が見られた場合,穿孔や重症膵
狭窄部位や結石のある胆管の操作などが挙
炎を発症している可能性がある。検査・
げられる。
治療後,数時間で症状が現れる。
したがって,検査・治療に関する内容を
知ることが必要である。
※穿孔には,内視鏡挿入に伴う消化管穿孔
(十二指腸が多い),ESTに伴う乳頭部の
・意識レベル,バイタルサイン,全身状態
穿孔,処置具による胆管穿孔がある。後
の観察は重要で,特に鎮静の副作用とし
二者はENBDと絶食,抗菌薬などの保存
て呼吸・循環の変動,覚醒遅延などを十
的治療で回復することが多い。内視鏡に
分に観察する。長時間検査・治療を行っ
よる穿孔の場合は,原則的に手術が必要
ていた場合,同一体位による皮膚の損傷
である。
や疼痛の有無がないか確認する。
・腹痛時には腹部状態の観察を行い,疼痛
部位・程度を把握し,バイタルサインな
どを医師へ報告する。
※鎮痛剤は要注意!!…疼痛が出現した時,
・腹痛,背部痛は胆道内圧上昇によって起
こる可能性がある。
・高齢者では痛みが分かりにくいことがあ
るので,全身状態の観察と併せて検査
データなどに注意が必要である。
むやみに鎮痛剤を使用すると診断が遅れ
・急性胆管炎では,悪寒戦慄を伴う発熱・
る恐れがある。医師に報告後,鎮痛剤を
黄疸・右上腹痛が見られることがある。
使用することが望ましい。鎮痛剤を使用
・急性胆管炎・急性膵炎の予防のため,抗
し効果が見られても,再度疼痛が出現し
菌薬やタンパク分解酵素阻害薬の投与を
た時には,偶発症が起こっている可能性
行うことがある。
が高い。患者の訴えや腹部状態・バイタ
・出 血 は 切 開 中 に 起 こ る こ と が 多 い が,
ルサインなど,注意深く観察することが必
EST後1週間ぐらいまでは出血の可能
要である。また,血清アミラーゼ値は膵炎
性がある。吐下血はもちろんのこと,頻
の重症度とは相関しないことがある。
脈や血圧低下などがあれば,EST後の
・検査・治療後,鼾様呼吸や嘔気が見られ
る場合は舌根沈下,誤嚥を防ぐため側臥
位にする。
出血の可能性もある。
・ESTでの穿孔は後腹膜腔穿孔。初めは
腹膜に炎症が及びにくく自覚症状が軽度
・内視鏡挿入時に強い嘔吐反射が起きた場
合や,腫瘍の影響により消化管の位置関
係が大きく異なる場合などに腸管を損傷
することがある。
・急性膵炎では,心窩部痛・左上腹部~背部
に疼痛が出現することが多い。また,身体
インダシン坐薬
インダシン坐薬には炎症による腫れや痛み
を軽減する作用がある。ERCP後,インダシ
ン坐薬を使用すると急性膵炎の予防になると
の報告がある。
消化器最新看護 Vol.19 No.1
43
胆汁を飲む治療(胆汁還元)
胆汁還元とは,経鼻胆管ドレナージ(ENBD)ま
たは経皮経肝的胆管ドレナージ(PTBD・PTCD)
から排出された胆汁を飲用するか,胃管チューブ
を十二指腸まで挿入し投与することです。胆汁還
・飲水,食事の開始指示は医師に確認する。
・当院では,翌日の採血評価で食事開始で
きるか決定する。
排便状況の確認
〈看護のポイント〉
元の適応は胆管癌や膵頭部癌などの術前患者で
治療部から出血している場合があるので,
す。胆汁還元することによって黄疸軽減の促進,
下血がないか便の性状を確認。排便の色を
血液凝固機能の改善,肝機能改善,栄養吸収改
善,脱水予防,腸肝循環の維持,術後の残肝再生
の促進などに効果があると考えられています。
見るよう指導し腹部症状の観察も十分行う。
まとめ
飲みづらい胆汁を飲みやすくするコツを紹介しま
ERCPは合併症の非常に多い処置です。
す。一般的な飲み方は冷やした胆汁をキューッと
常に何かが起こり得るという認識を忘れな
飲んで氷水で口直し。口直しのお勧めは,柑橘系
(レモンのハチミツ漬け,キンカン,ミカンなど)
,
黒飴,チョコレートキャラメル,おかきなどです。
胆汁に混ぜて飲むのは,ハチミツ,ガムシロップ
やレモン汁,コーラ,インスタントコーヒーがよい
と言われています。
で腹膜刺激症状もないため,発見が遅れ
る場合がある。
・鎮静による誤嚥性肺炎が起こる可能性が
ある。
・採血の結果が出るまで絶飲食であること
を説明する。
3時間後の採血評価
炎症反応(白血球,CRP)
,膵酵素(アミ
ラーゼ,リパーゼなど),胆肝酵素(AST,
ALTなど)
,貧血(ヘモグロビン,RBCなど)
の値を採血で測定する。
〈看護のポイント〉
・検査,治療終了後すぐに採血してもアミ
ラーゼ値の上昇は見られず,2~3時間
後に変化が見られる場合があることか
ら,約3時間後に採血をする。
・3時間後の採血で飲水可の指示あり。
44
消化器最新看護 Vol.19 No.1
いようにしましょう!
引用・参考文献
1)田村君英編:技師&ナースのための消化器内
視鏡ガイド―検査・治療・看護,学研メディカ
ル秀潤社,2010.
2)医療情報科学研究所編:病気がみえる Vol.1
消化器,P.246,250,252,261 ∼262,メディッ
クメディア,2010.
3)日本消化器内視鏡学会:抗血栓薬服用者に対
する消化器内視鏡診療ガイドライン,日本消化器
内視鏡学会雑誌,Vol.54,No.7,P.1,2012.
4)瀬戸泰之編:保存版 消化器の手術以外の治
療と検査,消化器外科NURSING,2012秋季増刊,
P.52 ∼67,2012.
5)最新消化器内視鏡治療のすべて,消化器内視
鏡,Vol.25,No.9,2013.
6)田中雅夫監修,清水周次編:内視鏡―検査・
治療・ケアがよくわかる本,P.105 ∼116,照
林社,2004.
7)田中雅夫:処置&治療別に早わかり! どう
見る? どう動く? 消化器外科ベッドサイド処
置&ケア,P.26 ∼29,34 ∼40,メディカ出版,
2012.
8)猪又克子他監修,北里大学病院看護部著:ケ
アに活かす 消化器系検査・処置マニュアル,
P.56 ∼63,学研メディカル秀潤社,2013.
9)竜田正晴他監修,湯浅淑子他編:手に取るよ
う に 流 れ が つ か め る! 消 化 器 内 視 鏡 看 護,
P.243 ∼256,金芳堂,2011.
10)田村君英:こんなときどうする? 内視鏡室
Q&A,中山書店,2008.
11)消化器内視鏡編集委員会:鎮静をマスターす
る,消化器内視鏡,Vol.25,No.4,2013.
12)見開きでズバリ解説! チャートマップで看
護がみえる手術以外の治療と検査,消化器外科
NURSING,Vol.19,No.1,P.38 ∼41,メディ
カ出版,2014.