日本赤十字社 沖縄赤十字病院 1.病院概要 【病院理念】 赤十字の博愛の心が伝わる病院をめざして 【病床数】314 床 一般病床 6 病棟 286 床 特定病床 NICU6 床、GCU8 床 ICU6 床、HCU8 床 【平成 25 年度 4~6 月実績】 病床稼働率:91.8% 1日当たりの平均外来患者数:587.3 人 一般病棟の平均在院日数:15 日 1日当たりの平均在院患者数:275 人 【看護職員状況】平成 25 年 6 月インデックス調査時 看護職員数:350 人 平成 22 年 7 月新築移転、電子カルテ導入 平均年齢:34.6 歳 ICU 開設、HCU 開設(平成 23 年) 平均勤続年数:9 年 2 ヶ月 無菌治療室 8 床、透析治療室 10 床 離職率の推移 平成 23 年度:4.1% 化学療法室 8 床 平成 24 年度:7.5% 7:1入院基本料、 平成 25 年度:5.9% 二次救急告示病院 【労働時間】38 時間 45 分、週休 2 日制 地域医療支援病院(平成 25 年) 2.WLB 推進事業への参加動機 平成 22 年 7 月に新築移転後、電子カルテ導入、ICU・HCU 開設と部署新設に伴う業務負 荷、新卒看護職員増員による中堅看護師の負担増、時間外勤務の常態化による疲弊感があっ た。また、平成 19 年度の 7:1 入院基本料導入時の増員職員が出産年齢となり、産休・育児 休暇者が増加した(H22 年度平均 12 人/月、H23 年度 20 人/月) 。さらに、平成 21 年に短時 間勤務制度が導入され、制度活用者が増加した。労務管理においても、新人は時間外が申請 しにくい風土がある一方で時間外勤務の申請は個人任せ、勤務表の連休付与の偏りなど、労 務管理が適正に行われているとはいえない状況があった。 夜勤・交代制勤務と私生活の両立の難しさは看護職の離職の要因の一つである。現状を再 評価し、安全で質の高い医療提供体制構築に向けて、職員一人ひとりが、やりがいを持って 働ける職場環境を整備していくことが喫緊の課題と考え、ワークショップへ参加した。 3.WLB 取り組み前の課題 平成 23 年度より、仮眠時間の確保を条件とし、特定病床、産婦人科病棟を除く 5 部署で、 夜勤 3 人体制から 4 人体制への変更、仮眠場所の確保などの環境整備後、変則 2 交代勤務(夜 勤拘束 17 時間 20 分)を導入した。また、日々の状況に応じて業務応援できるよう応援体制 を整備した。変則 2 交代への変更により、深夜時間帯の時間外の減少はあったが、時間外勤 29 務の常態化は変わらず、導入当初は確保できていた仮眠時間も確保が困難な部署が出てきた。 また、産休・育児休暇者、時短勤務者の増加は制度活用者以外の職員の負担増、不公平感へ と繋がり、職員の疲弊感は持続した。課題として以下があげられた。 ①新卒職員増加に伴う業務負担、時間外勤務の常態化による疲弊 ②産休・育児休暇者、時短勤務者の増加。制度活用者以外の職員の負担増 ③時間を意識した働き方になっていない。 (お付き合い残業、業務調整が不十分) ④管理者の労務管理に関する知識不足もあり労務管理が十分にできていない 4.WLB 取り組み体制 平成 24 年度初回インデックス調査の結果を踏まえ、安全衛生委員会委員長の副院長、事務 部(部長、総務課、人事係)、検査部技師長、看護部(部長、副部長、師長、係長)を構成メン バーとしたプロジェクトチームを立ち上げた。WLB 推進の方向性が決まるまでの 1 年間は院 内巡視や会議開催などの活動を行い、その後は看護部ワーキンググループを中心として活動。 他部門メンバーへの報告、連絡、相談により WLB 推進への取り組みを継続している。 5.WLB 取り組みの実際 ミッション、ビジョンを以下のように設定し、取り組みを開始した。 【ミッション】 多様な働き方の実現で組織力、生産性の向上を図り「人」を支える医療をめざす 【ビジョン】 活き活きと働き続けられる職場(生産性、継続性の向上をめざす) 「お互いさま」で協力できる職場風土 ライフステージに合わせた働き方、キャリアアップができる職場 1)平成 24 年度(1 年目)の主な取り組み (1)公平な勤務表作成に向けた取り組み:勤務表作成におけるルールの明文化 社会保険労務士による労務管理に関する研修会、ガイドラインの再確認後「勤務表 作成基準」を作成。基準に基づき監査を看護師長間で行った結果、連休の確保、連続 勤務の緩和、夜勤明けの休日確保ができたが、夜勤回数の改善はなかった。 (2)適正な時間管理:時間を意識した働き方の工夫 現状把握の目的で、夜勤時の仮眠・休憩、時間外勤務の実態調査を実施。その結果、 2 交代での仮眠は平均 103 分(設定 120 分)であったが、3 交代では休憩無しが深夜 勤 18%、準夜勤 36%にみられた。時間外は 2 交代 25%、3 交代 40%に発生し、リー ダーに多い傾向があった。業務の抱え込み、突発事項発生時の業務・応援調整、入院 時記録物の整理などの課題が明確になり「適正な時間管理に向けた取り決め事項」を 作成し各部署で取り組みを開始した。また、管理者による時間外勤務の管理に取り組 み、1 人当たり 1.4 時間増加したが(H23 年度 7.7→9.1 時間)、時間外支給額の増加は なかった。新人が時間外勤務を申請しにくい風土が改善された結果と考える。 (3)制度活用者の勤務状況把握 過去 2 年間の育児休暇復帰者 40 人のうちフルタイムで復帰した職員は 16 人、夜勤 実施はその半数であった。面接の結果、 「時短=夜勤なし」のイメージ、経験が浅く業 務が終われない、業務の抱え込み(「先に帰る」と言えない)があった。夜勤可能性の検 30 討、経験の浅い職員の指導、 「先に帰る」と言える風土への改善が課題となった。 2)平成 25 年度(2 年目)の主な取り組み (1)夜勤負担緩和、時短勤務者の活用に向けた取り組み 育児休暇明けの職員に対し、復帰前早期に面談を行い、できる範囲の夜勤実施を推 進した。育児休暇明け職員 15 人中 7 人が夜勤(H24 年度 16 人中 4 人)を実施した。 長時間拘束夜勤の見直しについては、次年度試行に向けて紙上シミュレーションを実 施した。夜勤専従導入も事務部門と協働して検討、実施に向け書類整備を行った。 (2)外来体制の見直し 外来は看護師長 1 人、係長2人でクラーク含め 50 人余の職員を管理しており、職員 へのサポートが困難と考え、一般外来と救急・検査部門に分け、それぞれ看護師長を 配置した。上司との関係性の項目平均 64.9%から 75.3%、大切にされている感 33.3% から 56.5%、業務終了後気兼ねなく帰れる 48.5%から 86.7%と改善した。 (3)適正な時間管理及びリーダーの采配指導:時間外勤務の緩和 各部署で「適正な時間管理に向けた取り決め事項」に沿った時間管理を推進し、定 時の業務調整、応援調整、業務終了時の振り返り等を実施した。その結果、時間外勤 務は 8.5 時間(昨年度 9.1 時間)に削減できた。 (4)看護補助者の活用方法の検討 WLB への取り組みは看護職員の労働実態を病院幹部へ伝える機会となり、看護補助 者が増員され 7 月より 25:1 が実現した。手術室にも新たに看護補助者を配置した。 3)平成 26 年度(3 年目)の主な取り組み (1)長時間拘束(17 時間 20 分)夜勤の見直し:拘束 13 時間以内の夜勤導入 平成 23 年より変則 2 交代を導入し、純粋な休みが取れ生活の質向上の視点から支持 されていた。しかし、夜勤明けの時間外発生、仮眠時間の確保難もあり、帰宅時の交 通事故のリスク、長時間夜勤による夜勤リスクの増大の懸念、日勤の慢性的な時間外 の発生など課題が多かった。昨年度の紙上シミュレーションを参照に変則 3 交代の試 行に向け勤務体制案(図 1)を作成、看護部全体集会で導入の経緯、新体制の説明を行い、 コンセンサスの得られた部署から試行開始し最終的には変則 2 交代の 5 部署全てで導 入した。 (4 病棟が 8 月から 1 病棟が 9 月から)新勤務体制の評価として、導入前と 3 ヵ月後で賛否のアンケート及び「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」を使 用した疲労度調査を実施した。また、時間外勤務の推移を確認した。 拘束13時間夜勤(変則3交代)勤務体制 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 20 21 22 23 従来の日勤は全てそ のまま 従来の勤務時間 8:00~16:45 日勤の基本 A 19 8:55+60分 (拘束9:55) 中日勤 11:35~21:30 夜勤への 引き継ぎ者 ケア の集中する午前中 の対応が課題 スーパー日勤 8:00~20:50 4週間で夜勤が5回以上の時2回発生 夕食時間を家族で過ごせる 夕方の交通ラッシュを避けた設定 *基本パターン:A日勤3 回+夜勤1 回/ 週 図1 ・従来の勤務は残す。 ・夜勤に引き継ぐのは長い日勤で はなく、日勤の拘束時間と同じ 8:00~17:55 8:00~11:35 ・日勤は 18:00 までに終了。 (9:55)で出勤時間を遅くする勤 務(中日勤)とする。 11:50+60分 (拘束12:50) 20:45~9:45 12:00+60分 (拘束13:00) ( 夜勤1回/週 夜勤4 回/4週) ・夜勤出勤時は夕方のラッシュ時 間を避け 20:45 とする。 ・多様な勤務のため 4 週の労働時 間で調整、管理する。 新勤務体制の概要 31 拘束 13 時間夜勤導入の賛否については、 全体平均で、反対が導入後 36%から 25%に 減っている (図 2)。 反対理由としては「ケア 13% 31% 48% 65% 4% 14%17%17% 25% 36% 46%52% 賛 成 が集中する午前中に人数が少ない」 「日勤が長 く負担」「中日勤は忙しい時間帯のため疲れ る」 「日勤、中日勤の時間外が多い」等があっ 導入後 導入前 導入後 導入前 導入後 導入前 導入後 導入前 導入後 導入前 導入後 16 時間夜勤の支持が多い部署は、業務調整等 73% 61% 46%41% 69% 52% 35% 導入前 た。部署間の差がみられ、仮眠が比較的とれ 反 対 96% 87% 86%83%83% の改革が進みにくいと考えられ、反対の意見 に注視して課題を解決しながら進めていく。 導入後の疲労度調査では(図 3)、若干の改 6東 6西 5東 5西 平均 4西 図 2 拘束 13 時間夜勤に対する賛否 善が見られるが 4 点以上が 6 割近い。看護業 務の労働負荷を実感させられる結果となった 試行前 が、1 点以下が 62%と飛躍的に改善された部 3ヶ月後 署は、業務調整、チームミーティングを活用 していた。情報交換し改善を図っていく。12 月より高吸収オムツ導入も開始しており負担 緩和に期待したい。今後は午前中の対応とし て時短勤務者の配置を検討していく。 時間外勤務については、昨年に比べ明らか に減少していた(図 4)が、中日勤(21:30 終了) の時間外発生の影響で、時間外手当(深夜勤手 当含む)は若干の減少のみであった。中日勤の 時間外緩和が今後の課題である。 (2)夜勤専従の導入:平成 26 年 4 月開始 希望者のみ、最長 6 ヶ月(3 ヶ月で評価)、産業 医の面談を条件に導入し 4 人が実施した。 6.WLB 取り組み後の組織の変化 19.2 17.6 21.7 21 27.2 34.4 30.1 2.4 27.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0~1 2~3 4~5 6~7 不明 0~1 低い 2~3 やや高い 4~5 高い 6~7 非常に高い 図 3 疲労度調査 総合判定 2,500.0 2,000.0 (10.2) (10.1) (9.5) 1,500.0 1,000.0 500.0 0.0 (9.5) (8.3) (12.7) (8.8) (8.3) (7.9) (7.4) ( )内は1人当たりの平均時間外 8月 9月 10月 11月 12月 H25年度 1,797.5 1,697.0 1,715.0 1,303.5 2,080.0 H26年度 907.0 1,351.5 1,104.5 1,129.0 1,142.0 図 4 時間外の比較:総時間数・平均時間外 ガイドラインに沿った勤務表作成、適正な時間管理に向けた様々な取り組みの過程で、管 理者間で課題や知識の共有ができ、PDCA サイクルを意識した取り組みができるようになっ た。また、WLB 取り組みは、看護部の活動全体を病院幹部に伝える機会となり、キャリア支 援として長期研修(認定看護師、看護管理者研修など)の受講費用、研修期間の勤務扱いな ど学習環境の整備が実現でき、平成 26 年には認定看護師 2 人が誕生した。平成 27 年度も 2 人取得予定であり看護活動への期待が感じられようになった。 7.WLB 今後の課題 1)拘束 13 時間夜勤の定着:午前中の対応、中日勤の時間外削減(予定外入院の対応検討) 2)経験年数の浅い時期に産休・育児休暇が続く職員の教育・指導体制の検討 3)「看護」と「看護職」を管理できる看護管理者の育成:労務管理能力の向上を図る。 32
© Copyright 2024 ExpyDoc