中頭病院

社会医療法人敬愛会
中頭病院
1. 病院の概要
【開院】昭和 57 年 4 月
【病床数】336 床(一般)
【標榜診療科】29 診療科
【1 日平均患者数】・・・入院 336 名
外来 388 名
【看護単位】・・・13 看護単位
【看護職員数】・・・462 名
(平成 26 年 10 月現在)
【入院基本料】・・・7 対 1
【病床稼働率】・・・100%
【平均年齢】・・・32 歳
【平均在院日数】・・・11.0 日
・急性期看護補助体制加算(25 対 1)
【職員数】・・・合計 1045 名
(平成 26 年度上半期平均)
・地域医療支援病院
・臨床研修病院
・救急告示病院
・DPC 対象病院
・看護職員夜間配置加算
中頭 3 年ザウルス
2.WLB 推進事業の参加動機
看護職の離職理由で多いのが「忙しくて超過勤務が多いため、子育てしながら継続するの
が難しい」、患者情報を得るため早めの出勤が慣例化しており、保育園を利用している職員か
ら「勤務開始時間に間に合わせるのが必死で、情報収集を行なう時間がなく、他スタッフへ
迷惑をかけている。
」である。当院就職者の 9 割は新卒者で、一般病棟の平均年齢は 32 才で
ある。既婚者が約 4 割で、大多数が 3 才未満の子供がおり、毎月 50 名前後の産休・育児休暇
者がいる。子育て中の多くのスタッフが、
仕事と育児の両立は厳しい職場と認識している。
また、「入院患者の受け入れや予定外の退院も多
く、その業務に追われ、やりたい看護ができな
い」という意見も多い。 看護部の目標管理の
重要成功要因の一つに、超過勤務時間の削減、
有給休暇取得率のアップを掲げ、TQM 活動などを
WLB 推進体
制が不十分
有休休暇の取
得率が低い
WLB 支援に関
する誤解
子育てしながら継
続するのが難しい
忙しすぎて、やりた
い看護ができない
通して毎年取り組んでいるが、一時的な改善は見
られても、期待する成果には繋がっていない。
現 状
また、就業規則や育児支援制度などに関する認識が低い
事、ワーク・ライフ・バランス(以下 WLB)に関して、
WLB は仕事の時間を減らし生活時間を増やすためのものであり、子育て支援が中心で組織や
未婚者にとってのメリットは無いと誤解している状況もあった。今回、急性期看護の中でや
りがい感を見いだし、継続して働き続ける職場環境を整える事を目的に、ワークショップに
5
参加した。看護部だけではなく、病院全体として WLB に取り組む必要があり、その趣旨を
三役会議(院長・事務長・看護部長)で了解を得、参加の確認と院内全体で取り組むことに
した。
3.WLB 取り組み前の課題
1)WLB に対する誤解
2)WLB について検討する場がない
3)育児支援制度に関して利用者がほとんど無い
WLB の対策は職
員ニーズにマッチして
いるのか?
WLB の取組は職員
の満足度を上げてい
るのか?
4)多様な勤務形態が整備されていない
5)勤務時間内に看護記録の入力ができない
6)職員のモチベーションが 70%と低い
と 6 項目の課題が抽出された
平均在院時間(後残
業)に影響を与えて
いる要因はなにか?
他の病院の改善の
アイデアを取り入れる
4.WLB 取り組み体制
1)WLB の推進体制整備
2)就業規則の周知と、多様な勤務体制の導入
3)
「勤務前超過勤務」時間の短縮
4)
「勤務後超過勤務」時間の短縮
5)勤務時間内で記録ができる
6)モチベーションアップ
7)その他
と 7 項目を掲げ取り組んだ。
Nakagami
WLB
5.WLB 取り組みの実際
1) WLB の推進体制整備に関して
WLB 事業について早急に周知する必要があるため、三役会議、師長会、管理者会議、
看護部の各委員会、各部署会議など、いろいろな委員会の時間を活用して説明会を行な
った。未就学児の子供がいる職員へは、数回に分けて説明会を開催した。すぐに取り組
めること、調整が必要なことを明確にし、審議の場を当初は三役会議でおこなっていた
が、現在は労働安全衛生委員会で検討する事になっている。
2)就業規則の周知と、多様な勤務体制の導入
就業規則は院内ホームページに記載されているが、内容が分かりにくく、必要時に直接人
事課に確認した方が良いとの声も聞かれ、十分活用されていない現状があった。
院内ホームページ委員会と人事課と連携し、内容や表示の検討を行なった。同時に、問い
合わせの多い内容に関しては、Q&A コーナーが設置され活用しやすくなっている。師長会で
労働基準法に関する勉強会を行なうことで、師長が必要な職員に対しての声かけが多くなり、
制度の利用者が増え、退職するのではなく雇用の継続に繋がっている。
WLB 推進事業へ取り組む以前は、育児短期間勤務者 0 名に対し、現在では 20 名以上おり、
当初は日勤勤務だけの入院支援室だけで対応していたが、外来・病棟・手術室と拡大できた。
短時間勤務者の勤務開始時間や短時間勤務の期間、夜勤免除期間も個々に応じて対応できる
ようになった。その要因として、短時間勤務者に対し、各部署の特徴をふまえた業務内容が
検討され実施している事や他職員の理解と協力により、時間内に勤務が終了していることが
あげられる。また、当初、多種多様な勤務時間の設定は、人事管理が複雑になるとの不安の
声も聞かれ着手できなかったが、病院全体で WLB 推進事業について協議する場が設定され
6
たことから、理解が得られ対応できるようになったと思われる。育児期間勤務者だけではな
く、夜勤専従看護師も増え、あらゆる雇用形態者の多様な勤務形態が拡大し実施できるよう
になってきたことは大きな成果といえる。また、パパ・ママ育休プラスの利用者が 0 名だっ
たが、この数年で毎年 5~6 名が利用している。
3)
「勤務前超過勤務」時間の短縮
前超過勤務の殆どが、受持ち患者の情報収集である。部署によっては、申し送りが教育の場
になり、新任者にとっては、ストレスの場にさえなっていた。各部署の時間毎、役割毎の業務
の抽出、情報収集方法、勤務スタート後に情報収集時間を設定した場合の予想される課題等に
ついて現状把握を行なった。対策として、勤務スタート後に情報収集時間を設定し、本来の情
報収集目的と方法について説明会、テンプレートの修正を行なった。また、各部署個々の職員
の打刻リストを 1 週間毎に提出し個別指導を実施した。結果全部署が目標達成し継続できてい
る。勤務スタート時間から患者の情報収集や薬剤の準備など行っているが、業務への支障は発
生していない。しかし、夜勤勤務の前残業に関しては個人差があり課題が残っている。
4)「勤務後超過勤務」時間の短縮
日勤リーダー又は師長が 15 時の時点で、
H23
10.00
H24
H25
残りの業務内容を確認し、残業者の指示をす
る。16 時から 18 時の業務の見直しとして、
5.00
医師の指示確認方法の検討、看護補助者の活
用と傾斜配置、他部署との業務分担調整、会
0.00
A B
議の運営方法、併設するクリニックから入院
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
図1 部署別残時間(1人当たり月平均)
依頼が 18 時前後に多いため、その対応とし
ての一部機能別、入院支援室の活用見直し、転床基準の見直しを行なった。しかし、一時的に
改善がみられたが部署によって、目標達成にバラツキが発生している。要因は、対策が継続し
て取り組まれていないことや日々の入退院患者数のバラツキや入院患者の重症度・介護度が影
響している。看護補助者との業務分担や入院支援業務の人材確保ができず継続できなかったこ
ともあり業務内容や業務量、看護職員の傾斜配置も含めて検討していく予定である。
(図 1)
5)勤務時間内で記録ができる
看護記録の即入力の徹底、各部署でテンプレートの普及と活用、サマリー様式見直しにより、
年々改善傾向は見られているが、部署によってバラツキがある。引き続き実施入力方法や急性
期病院における看護記録・評価のあり方、転
院時サマリーについて検討していきたい。
6)モチベーションアップ
看護職としてのキャリア支援やフイッシ
H23
50.0%
は高い。有休休暇取得率も以前より高くな
0.0%
度調査結果はあまり改善が見られない。部
H25
100.0%
ュ研修・活動は継続して実施しており評価
っているが、看護のやりがい感や職員満足
H24
150.0%
A B C D E
F
G
H
I
J
K
L M
図2 部署別有休取得率
署によって目標達成率のバラツキもあり引き続き対応していきたい。師長会にて、各部署の取
り組み状況を報告する機会を設け、各部署の取り組み方法を共有していることも効果に繋がっ
ていると思う。
7
7)その他
業務の見直しとして、院内オムツの統一、PHSナースコールの導入によって、業務の
効率化を図ることができた。患者の使用しているオムツが患者の状態に応じたオムツでな
いことやサイズが合わない、家族への補充の連絡が負担になっていることなどから、院内
使用オムツを統一することで、オムツ交換による患者の睡眠妨害や皮膚トラブルの現状、
患者の ADL・排泄状態に応じたオムツの使用ができている。スタッフのオムツ管理の負担
も軽減した。
以前のナースコールは、ナース・ステーションまたは、各部屋の入り口でしか対応できな
かったため、同部屋に居てもナースコールに気づかない事や数名のスタッフが同時に対応
するなど動線に無駄があった。PHSナースコール導入によりスタッフの動線の改善やナ
ースコールに早く対応できるようになり病棟の静寂が確保できた。
6.WLB 取り組み後の組織の変化
働きやすい職場は、職員の仕事へのモチベーションや生産性がアップし、職員の定着も
期待でき、その結果、看護の質の向上に繋がると言われている。今回、WLB 事業に参加す
ることで、業務の効率化のための見直しやスタッフ個々の面談が、育児支援や介護に関す
る悩み・相談など、これまで以上に詳細に実施されるようになってきた。多様な属性の職
員が働きやすい環境づくりの働き方やまだまだ職種間にバラツキはあるが、病院全体で取
り組む風土になってきている事は大きな成果である。看護師の離職率は、年々減少傾向に
あり、目標の 10%前後を推移している。
7.WLB 今後の課題
WLB 推進事業に参加して最も改善したと思われることは、管理者も含めた職員の WLB
に対する認識の変化と組織での取り組み
ができたことである。人材の定着、看護の
質向上に繋がり成果は大きい。インデック
ス調査結果の見方からアクションプラン
提言・改善案の種類 フレックス,
3, 3%
その他,
46, 42%
の立て方などについての指導、他施設との
情報交換は効果的であった。昨年の職員満
足度調査の中で、働きやすい職場への提言
や改善案として、
「超過勤務」
「処遇に関す
る事」
「年休」に関する多くの意見がある。
福利厚生,
6, 6%
年休, 11,
10%
残業/時
間外, 22,
20%
業
務
量,
7,
6%
給与/手
当, 14,
13%
それらの改善に努めると共に、夜勤勤務が
16 時間の状況であり、夜勤・交代制勤務に関するガイドラインを基に検討していきたい。
渥美(2008 年)は、
「WLB は、ダラダラ残業を撲滅し、過労バリバリ社員の負荷を軽減
し、ヌクヌク社員の生産性を向上させ、結果としてイキイキ社員(仕事も生活も重視する
社員)を増大させるといった変化をもたらすことになる。WLB のワクチンの即効性は低
く、中長期的に従業員体質や企業体質を強靱にする『漢方薬』であり、しつこく服用し続
けることが重要である。
」と述べている。
今後も継続して、労働条件・労働環境の改善に努め、看護の質向上に努めていきたい。
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