2015/05/29 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 日本経済史 第8回 殖産興業と工業化 殖産興業:1870~80 年代の明治政府の産業振興政策 当時の日本:西欧諸国へのキャッチアップ、工業化の著しい遅れ 国家の役割:社会的安定(近世)から経済発展の促進へ 銑鉄と粗鋼の生産量の推移 日本 銑鉄生産量 粗鋼生産量 15年(1882) 25年(1892) 35年(1902) 45年(1912) 5 15 40 238 2 2 47 330 単位:千トン 各国粗鋼生産量 イギリス ドイツ アメリカ 1,316 * 733 * 1,267* 3,636** 2,232** 4,346** 4,988 7,781 15,186 6,905 17,302 31,751 ロシア 296* 378 ** 2,183 4,442 注:*は 1880 年の値、**は 1890 年の値である。 出所:飯田・大橋・黒岩編『現代日本産業発達史Ⅳ 鉄鋼』交詢社、1969 年、付録Ⅰ・Ⅱ。 各国紡績業の紡錘数(スピンドル)の推移 単位:千錘 1877-82 1907-08 1930 日本 イギリス ドイツ アメリカ ロシア 8 1,540 7,045 44,207 52,818 55,207 4,700 9,192 11,070 10,600 23,200 34,031 4,400 7,562 7,624 注:紡錘(スピンドル)の数は、紡績業において生産能力を示す指標となる。従 って、紡錘数の多い国ほど、それだけ大きな生産能力を有していた。 出所:Saxonhouse, G. and Wright, G., “Technological Evolution in Cotton Spinning, 1878-1933”, in Farnie, D. A. and Jeremy, D. J. (eds.), The Fiber that Changed the World: The Cotton Industry in International Perspective, 1600-1990S, (Oxford & New York, 2004). Ⅰ 近代工業の特徴 工業化:近代経済成長(経済発展)のエンジン 近代工業の特徴:規模の経済性(大規模化)、先進技術の利用(機械化) 近世の非農業生産:手工業(職人)、家内工業(小規模) 政府の役割:工業化の基盤整備、近代工業の創設、資金や人材の確保 a 規模の経済 単位コストの低下:生産性向上(効率化) 素材、エネルギー:紡績(綿糸生産)、鉄鋼、発電、鉄道(大量輸送) b 先進技術(機械化) 大規模生産:機械化によって可能 紡績工場、製鉄所、発電所、鉄道 1 2015/05/29 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama Ⅱ 軍需産業 産業の未発達:機械や原材料の輸入、技術者の育成 政府の役割:すべての過程に関与(計画、人材養成、投資、生産プラント設立) しゅうせいかん 幕府や各藩:兵器製造、人材育成 (薩摩藩の 集成館 、長崎海軍伝習所) こうしょう 新政府による接収と再編:海軍 工廠 (造船所)、陸軍工廠(火器製造)、火薬製造所 政府 資金、人材 外貨 西欧列強 機械、原料(鉄鋼など) 軍需工場 外国人技術者(お雇い外国人) 原材料生産から加工組立まで 各省の歳出額 単位;万円、% 陸軍省 工部省 海軍省 内務省 文部省 大蔵省 以下省略 696 463 283 237 173 163 (30.0) (20.0) (12.2) (10.2) (7.5) (7.0) 注;対象は明治8年7月から 翌9年6月までの期間の 歳出額の合計 出所;石塚裕道『日本資本主 義成立史研究』吉川弘 文館、1973年、表1-2-3 を加工。 Ⅲ 非軍需産業 近代産業の創設:近世に存在しなかった工業部門(大規模工場、鉄道) 大規模化、機械化:生産性の飛躍的増大 制約条件:資金や人材(技術者)の供給 政府:近代産業の創設、工業化の基盤整備 国家予算の投入:プラントの建設、外資導入の見送り(⇔外資による工場建設) 人材育成:教育機関(高等教育、技術者育成)、お雇い外国人(技術者・教育者) 1. 綿糸紡績業(棉花から綿糸を生産) 伝統的な製造法:手作業、低い生産性 工場制や機械化:生産性の著しい向上 2 2015/05/29 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 綿製品の輸入抑制:国内生産による輸入代替、外貨支出の低減 政府による二千錘紡績設立:政府直営、機械の貸与、技術者の派遣 政府 技術者 イギリス 資金 資産家 資金 紡績機械 輸入 官営工場 民間工場 年賦払下 紡績機械 紡績機械 2. 鉄道 高速大量輸送:経済と軍事の必要性、物資や兵員の輸送 群馬県産生糸の横浜への輸送:荷車と川舟と鉄道→鉄道による直送、経費と時間の半減 民間資本の活用(日本鉄道):政府による建設と運営、民間(華族)の出資 政府 配当保証 資金、人材 イギリス 輸入 明治 5 年 新橋~横浜 明治 7 年 大阪~神戸 明治 10 年 大阪~京都 招聘 華族 御雇外国人 (技術者) 資金 官営鉄道 民営鉄道 (日本鉄道) 車両、設備 車両、設備 東海道線 運営の委託 東北線、高崎 線 明治 16 年 上野~熊谷 明治 17 年 熊谷~高崎 他の官営工場 造船所(長崎造船所など):艦船の保守作業 製糸工場(生糸:富岡製糸所):大規模化の失敗(技術選択の失敗:低収益)→教訓 鉱山(高島炭鉱、三池炭鉱など):高収益(先進技術による採掘量増大) Ⅳ 殖産興業の終結 政府主導の限界:財政逼迫、鉱山を除き低収益 官業払下げ:1880 年代から民営化、一部の軍需産業と官営鉄道を除く 明治 17 年(1884)まで:多額の資金払込を条件、払下げの頓挫 明治 21 年(1888)まで:事業継続の重視、払下げ価格の引き下げ 3 2015/05/29 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 明治 21 年以降:優良鉱山などの払下げ、払下げ価格の引き上げ 財閥の形成(巨大ファミリービジネス):三井(三井家)や三菱(岩崎家)による事業継承 低廉な価格での払下げ:国家による事実上の助成 官業時代の人材育成:財閥へ継承、事業継続に寄与 政府の役割:工業化の基盤整備の必要性、人材育成(技術者、専門家の養成) 外国人技術者の雇用:日本政府の組織運営、外国人は技術指導や教育のみ 日本人技術者による代替:帝国大学(工部大学校)、西欧諸国への留学 お雇い外国人総数:明治 7~8 年ピーク(530 名程度)、明治 13 年には半減 高等教育機関の拡充:技術者や専門家の供給 Ⅴ 評価 制約条件:外資排除、国内の資本や人材に依存(⇔近年の新興国の外資導入) 個別の失敗と大局的な成功:工業化の基盤整備、経験の蓄積、人材の供給 工業化の流れ:民間主導の工業化へ 参考文献(刊行の古いものも含めて有益な文献をあげておく) 石井寛治・原朗・武田晴人編『日本経済史 1 幕末維新期』東京大学出版会、2000 年。 海野福寿『技術の社会史 3 西欧技術の移入と明治社会』有斐閣、1982 年。 飯田賢一『技術の社会史 4 重工業化の展開と矛盾』有斐閣、1982 年。 梅渓昇『お雇い外国人』日本経済新聞社、1965 年。 粕谷誠『ものづくり日本経営史―江戸時代から現代まで』名古屋大学出版会、2012 年。 小林正彬『日本の工業化と官業払下げ』東洋経済新報社、1977 年。 4
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