2015/05/14・15 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 日本経済史 第5回 近世の経済発展 近世(江戸時代)[1603~1867]:社会的安定、経済発展の基盤 近代経済成長とは異なる特徴:人口の増大から停滞へ、1 人あたり生産量の緩やかな増加 近代の経済発展(明治以降) :工業化(非農業部門の発展)、国際貿易 近世経済の発展の原動力:農業生産と国内交易、本格的な工業化を欠いた発展 Ⅰ 身分制度 支配層(武士)と被支配層(生産者:百姓、町人)との区分:近代との差異 被支配層内の移動:百姓から町人へ、経済活動に必要な条件 都市居住者(商工業者)の補填:都市の劣悪な衛生環境、高い死亡率(人口の自然減) 武士 身分移動の制限 下級武士 養子縁組 生産者 身分間の移動 (労働力の供給) 町人 百姓 百姓 百姓 商人・職人 百姓の二三男 →商家の奉公人 職人の徒弟 Ⅱ 近世的な経済発展の特徴 a農業生産 幕末:人口の約 4 分の 3 は百姓(農民) 小農による農業生産:小規模な家族経営の農家 農業生産力の増大:人口の増加 1 都市環境 人口集積のデメリット →高死亡率 2015/05/14・15 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 古代から中世にかけての人口 年代 総人口 (万人) ca.750 ca.1150 ca.1280 ca.1450 559 550-630 570-620 960-1,050 出所:Farris, W.W., Japan’s Medieval Population: Famine, Fertility, and Warfare in a Transformative Age, (Honolulu, 2006), pp. 4, 262-63. 人口、耕地、石高の推計 年代 a 人口 (万人) ca. 1600 *1,500-1,700 3,130 ca. 1700 3,065 ca. 1800 3,228 ca. 1850 b 耕地面積 (万町) c 実収石高 (万石) 207 284 303 317 1,973 3,063 3,765 4,116 c/a 1人あたり石高 (石/人) 1.16-1.32 0.97 1.22 1.27 注:1)推計方法については出所を参照。 2)実収石高は、米穀の生産量に加えて、他の農業生産物の生産額を石高に換算し た値を含んだものである。ただし、実収石高の値はかなり過少と考えられる。 出所:速水融・宮本又郎「概説―17-18 世紀」速水融・宮本又郎編『日本経済史 1 経済社会の成立 17-18 世紀』岩波書店、1988 年、44 ページ。ただし、*の値だ けは、Farris, W. W., Japan’s Medieval Population: Famine, Fertility, and Warfare in a Transformative Age, (Honolulu, 2006), pp. 165-71 による。 17 世紀の新田開発:幕府や大名による大規模な土木工事 中世:谷間の小規模な耕地、湧水や小河川を水源 治水技術の向上:氾濫域の大河川下流域の開拓、干拓地の拡大 利根川の治水(付け替え)、八代湾沿岸の干拓 小農の優位性 農業生産力の上昇:小農世帯の所得増加に直結 農業労働者(産業革命期のイギリス、インド) :生活水準の向上に反映されず 日本の伝統的農業:規模の経済性なし、小規模な家族農業に最適 家族による入念な耕作(施肥、除草):農業生産力の上昇 新たな検地は困難:農業生産力の上昇によって小農の所得増大 2 2015/05/14・15 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 小農による農業生産 領主(大名) 恣意的な年貢の増 徴、過重な課役の禁 止 農業労働者による農業生産 (産業革命期イギリス) 一定量の年貢 百姓 農場主 妻 子供 賃下げ 賃金 労働 家族労働力 失業 収穫物の増大 努力 農業労働者 農業労働者 零細な耕地 穀物価格の高騰 →困窮 マーケット 単位面積あたり の農業生産 小農の手取り分 収穫量 年貢徴収分 時間 人口の増大:有力百姓の分家(世帯数の増加) 、新田開発による村落の創設 村請制(連帯責任)による年貢負担:年貢負担者の増加、村落成員や大名の利益 社会構造の均等化:中堅クラスの百姓の台頭 17 世紀中葉以降 戦国時代から近世初期(17 世紀) 戦国大名 大名 1 石=180 リットル 耕作者の増大 村 家来 村高(例:230 石) 年貢 家来 年貢の増徴の可能性 むらだか 村請(村民の連帯責任) 年貢 有力百姓 収穫物 百姓 保護 凶作時の扶助 年貢不足分の補助 有力百姓 負担の軽減 年貢の割当 百姓 3 百姓 分家 年貢負担者へ (二三男の独立) 絶家 2015/05/14・15 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 旧来の村落 百姓 有力百姓 百姓 新田 百姓 b国内交易 大名 領国 年貢米 大名及び家臣 年貢米 資金、物資 大坂 江戸 蔵屋敷 大名及び家臣の居住 資金、物資(酒、醤油、油) 幕藩体制:商業活動が不可欠(江戸や城下町:農村部から物資調達) 幕府による貨幣発行(金、銀、銭):商業活動の支援 商人による資金や物資の全国的な流通 全国的な展開:三井、近江商人 商業活動の大規模化:暖簾わけ(支店開設)、共同事業(複数の出資者) 商家 出資 他の商家 主家(出資と所有) 勤続動機 番頭(専門経営者) 暖簾わけ(同一屋号) 昇進 奉公人(従業員) リクルート 農村 4 2015/05/14・15 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 地域的な商人のネットワーク 沿岸航路:菱垣廻船、樽廻船(江戸‐大坂)、北前船(蝦夷地[北海道]‐大坂) 両替商:金融サービス(送金、為替、預金)、信用の創造には限界 (明治以降の銀行:信用の創造、預金を元手に大規模な融資) 資金、物資 大名 A 大名B 領国 領国 商人 商人 商人 商人 大坂 江戸 小農による市場向生産:商品作物の生産、農村工業の発展 地域市場の展開(領国内の城下町、町場、農村) 近畿地方の農村:綿花(衣料)や菜種(油)、綿糸や綿布の生産 にしん か す 蝦夷地(北海道)からの魚肥(鰊 粕 ):近畿地方の農業生産力の上昇 藩領 村落 魚肥(鰊粕) 農業生産の発展 小農(百姓) 商品作物の生産 副業として家内工業 物資、貨幣 物資、貨幣 物資、貨幣 城下町 町場 物資、貨幣 蝦夷地 大都市 江戸、大坂 他領 5 2015/05/14・15 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 参考文献 刊行の古いものもあるが有益な概説書をあげておく。 (シリーズの刊行順序) 速水融・宮本又郎編『日本経済史 1 経済社会の成立 17-18 世紀』岩波書店、1988 年。 新保博・斎藤修編『日本経済史 2 近代成長の胎動』岩波書店、1989 年。 葉山禎作編『日本の近世4 生産の技術』中央公論社、1992 年。 林玲子編『日本の近世 5 商人の活動』中央公論社、1992 年。 丸山雍成編『日本の近世 6 交通と情報』中央公論社、1992 年。 塚本学編『日本の近世 8 村の生活文化』中央公論社、1992 年。 宮本又郎・粕谷誠編『講座日本経営史 1 経営史・江戸の経験 1600~1882』ミネルヴァ書 房、2009 年。 水本邦彦『シリーズ日本近世史 2 村 百姓たちの近世』岩波新書、2015 年 高埜俊彦『シリーズ日本近世史 3 天下泰平の時代』岩波書店、2015 年 6
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