日本経済史 第 2 回 古代律令体制の成立 Ⅰ 古代国家の成立とその意義

2015/04/23・24
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
日本経済史
第2回
古代律令体制の成立
Ⅰ 古代国家の成立とその意義
日本の古代:12 世紀中頃まで古代律令体制の存続
中央集権体制の成立:国家形成、経済発展を左右する要因
分権化の基盤のうえに中央集権化:分権化と中央集権化のバランス
中央集権体制の背景:在地勢力の台頭(豪族や有力農民)
在地勢力の成長:中世社会(分権化)への変容(不安定要因)
Ⅱ 国家の生成
クニ:ヤマト政権成立前夜
豪族(首長)に率いられた小国家(クニ)
全国政権の誕生:対外関係(対中国、対朝鮮)と国家意識
ヤマト政権(4~7 世紀初頭)
近畿地方の中央政権:近畿地方の有力豪族の連合体
中央の豪族連合政権による地方豪族の統率:体系的な支配体制の未確立
各地の豪族:土地や人民の支配
地方豪族の思惑:中央政権の力を借りて勢力拡大、新興勢力の出現
ヤマト政権
支配の正当化
おおきみ
大王
有力豪族
かつらぎ
蘇我氏、葛城氏
中国
王朝
有力豪族
大伴氏、物部氏
支配、対抗
支配の正当化、援助
物資や労働力の提供
こおり
後の 評 (郡)
くにのみやつこ
朝鮮半島
豪族
豪族( 国 造 )
対抗
支配
土地
人民
支配
土地
耕作
人民
耕作
1
2015/04/23・24
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
親族組織の強弱:国家の必要性と関係
日本の親族組織:結合の弱さ(分裂)、自律性の弱さ(外的権威への依存)
他のアジアの親族組織:国家の枠を超えた組織、自律的な相互扶助
国家形成:弱い親族組織を基盤
日本
国家
権威
ステータス
中華圏の宗族
親族組織
家族
国家
自律性
依存
親族組織(氏族)
家族
結束
相互扶助
家族
家族
家族
家族
分裂
Ⅲ 古代国家の成立(律令国家体制)
7 世紀初頭から大王支配の強化:地方豪族の成長と対立、地方豪族の一族の分裂
新興勢力:中央勢力と結んで勢力拡大、中央集権化の原動力
中央集権体制の成立:律令体制の導入(律=裁判制度や刑罰、令=行政機構や行政手続)
大化の改新(645 年):中国(唐)の律令体制を導入、体系的な支配体制(役職や法的手続)
皇帝
中国のモデル
中央
科挙による登用
官吏(役人)
派遣
官吏
官吏
官吏
地方
人民
2
2015/04/23・24
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
中央(朝廷)
天皇
日本の律令体制
有力貴族
藤原氏
源氏
左大臣
右大臣
下級官人
任命
下級貴族
工房
地方(国:武蔵国など)
こくが
国衙(国庁舎)
国家による官人へ
の物資の支給
工房(下級官人の仕事場)
土器、鉄、瓦、漆などの生産
国司
評(後に郡)
郡司=豪族(旧国造)
ぐ んじ
郡司
支配
租庸調(税)
評(後に郡)
新勢力
(郡司の一族
など)
官位による正当化
口分田
公民(農民)
いでん
人口や耕地の調査
しきでん
位田、職田
班田収受
(官職を持つ者に
じょうでん
乗 田 (それ以外
与えられた耕地)
の耕地)
律令国家体制成立の要因
官職:公的な役職を利用して自己の立場を強化
地方豪族による支持:中央政権の支援により勢力伸長
既得権益の温存
旧来の豪族の権力掌握(貴族、郡司):科挙(試験制度)は実施されず
じょうでん
有力者の土地所有公認:乗田 、位田と職田、開墾地の私有
かんもつ
税制の改革:人頭税(戸籍による課税)→土地への課税(官物 )、10 世紀には転換
律令国家体制の運営:実態に即して変化、おおむね成功
失敗例:造籍(6 年ごとの戸籍作成)、班田収受(9 世紀まで実施)
成功例:土地への課税、条里制による耕地整備、街道の整備(通信)
影響:中央集権体制の成立
地方と中央との人的、物的な交流
3
2015/04/23・24
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
調などの税収入(布、保存食品):地方から中央へ輸送、都の公設市場での販売(貨幣)
下級官人の生活:現物の支給、市場で必要な貨幣の支給
市場経済(社会的分業)の発展度
す
え
き
地理的分業:特産物の交換(海辺:魚介類の保存食、山麓:須恵器 [陶磁器])
商品流通の未発達:都(平城京、平安京)しか市場は発達せず
工芸品の生産:官庁の工房で生産、市場の欠如
自給的性格の強い社会:低い生活水準、竪穴式住居(床なし)
Ⅳ 古代律令体制の変容(中世への転換)
分権化の動き
国司:10 世紀後半から権限受託、中央集権体制を円滑に運営
徴税強化:中央政権への納入義務、私財の蓄積
下級貴族の国司への任用:任国からの収入
武士の登場(10 世紀頃)
地方有力者(在地新興勢力、中央貴族の土着):農地の開墾と経営(在地領主)
奈良時代の人口:550 万人程度、開墾の余地
在地領主:国司による徴税に対抗、下級官職の確保
在地領主による抵抗、領主間の抗争:武装の必要(武士)
古代から現代に至る日本の人口と耕地面積
年代
ca.750
ca.1150
ca.1280
ca.1450
ca.1600
1721
2005
総人口
(万人)
北海道除く
総耕地面積
(千町)
北海道除く
559
550-630
570-620
960-1,050
1,500-1,700
3,130
12,198
956
977
1,241
1,588
2,251
3,725
注:1 町=1 ヘクタール、1 石=180 リットル。
出 所 : Farris, W.W., Japan’s Medieval Population:
Famine, Fertility, and Warfare in a Transformative Age,
(Honolulu, 2006), pp. 4, 262-63.
4
2015/04/23・24
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
朝廷(中央政府)
権門勢家(有力貴族、皇族)、有力寺社→荘園領主
任命
国司
収入の確保
任命
保護
在庁官人
ざいちょうかんじん
年貢の上納
生活物資の供給
荘園の形成
(上下の結託)
官職の獲得
抵抗
年貢の徴収
武士団(源氏、平氏)
領主
領主(武士)
領主(武士)
領主
対立
所有、開墾
支配
百姓
耕地
百姓(農民)
耕作
所領(荘園)
耕地
荘園の急増(古代末期の院政期:11 世紀以降):私的な所得の源泉となる私領
初期荘園(9~10 世紀頃):開墾地の私有公認、有力寺社などの開墾地(租税免除の特権)
院政期:院(最高権力者)は私的存在(天皇の父や祖父)、私的利益の追求
院政期の荘園急増:中央の有力者から在地領主へ所領寄進の働きかけ
中央の有力者:課税免除の所領、私的な収入(荘園年貢)の増加
地方領主:中央の有力者による所領保護(課税の免除)
5
2015/04/23・24
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
中央
有力貴族
有力寺社
保護
年貢の上納
地方
荘園領主
国司(受領)
課税
所領(荘園)
領主(武士)
領主
紛争(領有権争い)
実質支配
耕地
百姓
耕作
地方から中央への物資輸送(年貢の輸送)
荘園領主:荘園からの現物収入(各種生活物資)
現物輸送(輸送の手間):貨幣(渡来銭)の使用(畿内中心、地方へは 13 世紀頃から普及)
Ⅳ 古代律令体制の特徴
分権的な基盤:国家への依存、中央集権化の背景
地方勢力の伸長(地方豪族、在地領主):中央集権化の加速
地方勢力の台頭:中世には過度の分権化へ
参考文献
最新の研究成果を反映した下記のシリーズが参考となる。
岩波新書のシリーズ日本古代史
石川日出志『農耕社会の成立』、2010 年
吉村武彦『ヤマト王権』岩波新書、2010 年
吉川真司『飛鳥の都』岩波新書、2011 年
坂上康俊『平城京の時代』岩波新書、2011 年
川尻秋生『平安京遷都』岩波新書、2011 年
古瀬奈津子『摂関政治』岩波新書、2011 年
『岩波講座日本歴史』第 1~4 巻(古代の刊行済巻号)、岩波書店、2013~15 年
6