日本経済史 I・II(日本経済史) 第 1 回 経済発展を考える I 経済発展と

2015/04/16・17
荻山正浩
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日本経済史 I・II(日本経済史)
第1回
経済発展を考える
I 経済発展と豊かさ
講義の目的:日本の経験を通して経済発展について考察すること
経済発展の意義、経済発展に必要な条件
経済発展:1 人あたり所得の顕著な増加
生産と消費の変化(財・サービス):1 人あたり生産量と消費量の増加
世界の所得格差
驚くべき格差:先進国、新興国、発展途上国
各国の 1 人あたり GDP(2013 年:US ドル)
0
20000
40000
60000
80000
Switzerland
Sweden
United States
Germany
Japan
United Kingdom
Korea
China
Indonesia
India
Senegal
Cambodia
Myanmar
Sierra Leone
Mali
Ethiopia
経済的豊かさの意義:選択肢の拡大
収入の増加:欲しい物を入手、福祉あるいは環境への関心
途上国
先進国
余暇(環境保護)
成人
余暇(環境保護)
子供
成人
子供
病院
死亡
稼得活動
稼得活動
1
就学(学校)
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途上国と先進国:所得水準と生活水準の著しい格差
1 人あたり GDP(US ド
ル) 2013 年
1 歳未満乳児
死亡率(‰)
女性の中等教育就学
率(%) 2007 年
2007 年
USA
52,839
7
88
日本
39,321
3
99
韓国
23,838
4
93
中国
6,569
19
n.a.
カンボジア
1,015
70
28
エチオピア
533
75
19
資料
IMF
Unicef
Unicef
II 経済発展と豊かさ
経済発展の学問的定義=近代経済成長(クズネッツ)
a. 人口の持続的な増大(クズネッツ以後の発見:やがて少子化により人口減少)
b. 1 人あたり生産量の持続的な増加
明治以降の日本の人口と 1 人あたり実質 GDP(GNP)
140000
5000
120000
100000
人口(左軸)
80000
500
60000
40000
1 人あたり実質 GDP(右軸:対数目盛)
20000
50
0
1885
1895
1905
1915
1925
1935
1946
2
1955
1965
1975
1985
1995
2005
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明治以降の経済発展
戦後の高度成長期:経済成長の加速
工業製品の生産量
乗用車
1950
1955
1960
1965
1970
1975
1.6
20.3
165.1
696.2
3,178.7
4,567.9
トラック
(4輪)
26.5
43.9
308.7
1,160.1
2,063.9
2,337.6
単位;千台、千トン
テレビ 電気冷蔵庫
5
31
908
2,313
2,631
3,473
137
3,578
4,190
12,488
10,625
塩化
ビニール
樹脂
粗鋼
4,839
9,408
22,138
41,161
93,322
102,313
1.0
32.4
258.1
483.0
1,161.5
1,125.4
綿糸
238.3
418.5
564.0
566.6
526.2
460.5
出所;安藤良雄『近代日本経済史要覧 第2版』東京大学出版会、1979年、13頁、15表。
主要生産財の生産量
単位:千トン、億キロワット時
石炭
1900
1910
1920
1930
1940
7,429
15,681
29,245
31,376
56,312
鉄鋼
セメント
1.1
252
811
2,289
6,856
1,203
3,200
4,405
硫安
3.5
80
266
1,109
苛性ソーダ 発電量
4.1
39
407
6.2
46.7
157.7
345.7
綿糸
生糸
122
182
299
458
415
7
12
22
43
43
出所:安藤良雄『近代日本経済史要覧 第2版』東京大学出版会、1979年、12-3頁、表13、
表15にもとづき作成。
III 経済発展と社会構造の変化
なぜ経済発展が進行するのか:鍵を握るのは社会体制の変化
消費:人間の根強い消費意欲
生産:消費意欲を充足する生産が必要、生産なしに消費はできず
分配:不平等はあるにせよ生産の増大とともに消費の増加(歴史的経緯)
経済発展:生産性(productivity)の向上=生産効率をいかに上昇させるか
生産性=アウトプット/インプットの比率
労働生産性(アウトプット/労働投入量)の上昇:経済的な豊かさの実現
インプット
生産単位(企業・世帯)
社会的分業と生産性向上:社会体制の変化
経済発展以前:自給自足をベース
多くは農家:衣食住に必要な物資の自給
自給できない財・サービスのみを購入:紺屋(染物屋)、陶磁器など
3
アウトプット
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村
町
衣類の染色
農家
農家
紺屋
農家
自給自足
社会的分業と市場経済:企業や個人は特定の財・サービスの生産に特化
生産物の交換:貨幣を仲介として財・サービスの交換→市場経済の発展
グローバリゼーション:国境を超えた市場経済の発展(国際分業)
インドネシア
オーストラリア
日本
天然ガス
鉄鉱石
製鉄所
部品メーカー
発電所
自動車ディーラー
電力
中国
部品製造
自動車メーカー
自動車
賃金
私たち
フィリピン
スーパー
アメリカ
小麦
バナナ
経済発展:市場経済の発展
農業部門(自給部門)の比重低下:第一次産業人口の減少
近年の農林業の就業人口比:3.5%(2013 年)
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1 就業人口の推移
就業者総数
1906
1920
1956
1962
1968
1974
25,061
26,966
39,863
42,855
49,006
51,341
農林水産業
単位;千人、%
商業・サービス・
運輸・通信・公務
鉱工業
16,158(64.5)
14,442(53.6)
16,731(42.0)
12,927(30.2)
10,842(22.1)
7,315(14.2)
3,729(14.9)
5,576(20.7)
9,512(23.9)
13,305(31.0)
16,430(33.5)
18,411(35.9)
3,618(14.4)
6,424(23.8)
13,301(33.4)
16,284(38.0)
21,393(43.7)
25,264(49.2)
注;就業者数はいずれも男女を合計した値。
括弧内は就業者総数に対する比率をパーセントで示した値。
出所;1906、1920年については安藤良雄『近代日本経済史要覧 第2版』
東京大学出版会、1979年、6頁。
それ以外については『昭和国勢総覧(上)』東洋経済新報社、1980年、
65頁、2-33表。
2 就業人口の推移
1872
1890
1900
単位:千人、%
就業者総数
農林業
非農林業
21,371
23,042
24,378
15,525(72.6)
15,637(67.9)
15,853(65.0)
5,846(27.4)
7,405(32.1)
8,525(35.0)
注;表示方法については「1 就業人口の推移」と同じ。
出所;安藤良雄『近代日本経済史要覧 第2版』
東京大学出版会、1979年、6頁。
農業生産力の上昇:水稲 1 反(約 10 アール)あたり収量の推移
農業人口の減少:少数の人々が他の多くの人々の食料を供給
工業化の恩恵:化学肥料の投下(人工的な窒素固定)、機械や農薬の使用
市場との関係:市場へ農産物を売却、市場から投入財を購入
日本の水稲反収の推移
単位:石
750年頃
1200年頃
1550年頃
1700年頃
1900年
1950年
2000年
0.67
1.08
1.00
1.28
1.5
2.2
3.45
注:1 石=180 リットル
出所:嵐嘉一『近世稲作技術史』
農山漁村文化協会、1975 年、
84 ページ;
『改訂日本農業基礎
統計』農林統計協会、1977 年。
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化学肥料
化学工業
農薬
農家
収穫量の増大
トラクター
機械工業
コンバイン
IV 経済発展のメカニズム
生産性上昇の要因:社会的分業(市場経済)との関係
A
専門化
a-1 地理的特化
農業:気候や土壌に左右、各地域の気候に適した作物を栽培
熱帯産物:バナナ、ゴム、コーヒー
鉱物資源:資源の偏在
資源の埋蔵状況:採掘コストの違いに反映
a-2 職業の専門化
職業分化:能力や関心の個人差
教育や訓練:長期の教育、訓練、経験の必要性
専門職:職人(大工、左官)、法律家(弁護士、裁判官)
組織の専門業務:業務の専門化
組織としての経験の蓄積:生産効率の上昇に必須
B
集積の効果
b-1 都市化(集住)
:非農業部門の発展、土地の制約から解放
設備の効率的利用:インフラ(鉄道、バス、水道、郵便)のコスト低下
b-2 産地の形成:情報伝達や輸送のコスト低下
斬新なアイデア:シリコンバレー、技術者同士の切磋琢磨
C 規模の経済(スケールメリット)
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専門化:大規模生産が可能
生産規模と適正技術:自転車の小型発電機、火力発電所の大型タービン
発電所、製鉄所:大規模化による単位コストの劇的低下
単位コスト
生産規模
D 技術革新
技術革新:アウトプット/インプットの比率のさらなる向上
新しい生産方法:研究開発、先進国からの技術導入
専門化:専門知識(教育)、経験の蓄積(個人や企業の専門化)
光源:白熱灯→蛍光灯→LED(使用エネルギーの減少)
自動車:ガソリンエンジン→ハイブリッド(減速時のエネルギーの回収)
単位コスト
旧技術
新技術
生産規模
V 経済発展の必要条件:国家体制と経済発展
社会的分業(市場経済)
:無条件に進展せず、経済発展に顕著な格差
国家(政府)の機能(三権を含めた機能)
:経済発展の成否を左右
途上国:政府は機能不全、中東やアフリカの現状
政府の役割
1.治安や防衛
治安悪化、戦争:経済活動を阻害
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政府
取締、処罰
外国
防衛
攻撃
危害
犯罪者
企業・個人
2.経済活動の安定化
市場経済の前提:売り手と買い手の信頼関係
政府:法の整備や法の執行、市場での売買を支える役割
法制度
政府
処罰
商品
企業 A
企業 B
代金未納
3.経済発展の基盤整備
教育:初等教育(基礎学力)
、高等教育(研究開発、マネージメント)
インフラ:ライフライン(電気、ガス、上下水道)
、交通(道路、鉄道、空港、港湾)
政府
財政負担
教育機関
インフラ
便益
人材
企業
4.経済政策
産業政策:競争力の弱い産業を保護・育成
金融政策:金融システムの安定、通貨・為替の調整
社会保障:雇用対策、年金や医療
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医療・介護機関
サービス
助成
年金、各種保険
労働者
政府
(国民) 財政・金融政策
保護
補助金
関税
競争
企業
金融システム
海外企業
強すぎる政府の矛盾
政府の強力な統制:経済発展を阻害、社会主義の失敗
過度の課税:企業活動の衰退、人々の消費意欲の減退
過度の規制:企業活動の制約、生産性向上の障害
経済活動の自由:経済発展の原動力
企業:利潤追求、ビジネスチャンスの追求(売上増)、コスト削減
新産業の創成:新商品の誕生(クラウドサービスなど)
、社会的分業の進展
研究開発:コスト削減による利潤増加、生産性の向上
過度の自由:野放図な企業活動、経済発展を阻害
社会的秩序の崩壊:品質の低下、安全性の欠如、法令違反
経済発展の必要条件:分権化と中央集権化のバランス
分権的体制:個人や企業の自由な活動
中央集権体制:政府による統制
VI 講義計画:2 つのテーマ
1 番目のテーマ:古代~近世(江戸時代)までの講義の目的
日本では、分権化と中央集権化のバランスのとれた社会体制がどのように成立したのか。
1. 古代(~平安時代)
分権的基盤の存在:中央集権化への流れ
古代律令国家の形成:中央集権体制の成立
2.中世(鎌倉時代~戦国時代)
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古代律令体制の崩壊:社会秩序の不安定化
中世社会:分権化による戦乱の時代へ
3. 近世(江戸時代)
幕藩体制によって再度中央集権化:中世の分権的基盤を継承
分権的要素を残した中央集権化:経済発展の基盤
2 番目のテーマ:近代以降(明治期以降)の講義の目的
日本では、なぜ近代に至って経済発展が加速したのか、その経済発展はどのような特徴を
持っていたのか。
4. 近代以降の経済発展
西欧列強からの圧力:西欧型国家体制の導入、鎖国から開国へ
企業活動の活発化:利潤追求の公認
工業化:農業社会から工業社会への変化
5. 国家間競争と経済発展
開国:国際情勢による影響
国家間の競合:2 度の世界大戦、戦時経済と経済統制
世界大戦の経験:国際協調の重要性、国際的な競争と協調
参考文献
日本語で読める文献をあげておきます。経済発展をどう理論化するかは経済史の大問題で
あり、それを体系的に論じたテキストはありません。しかし、クズネッツ、ノースとトー
マスの著作は、刊行は古いものの一読に足る重要な意義を持っています。またワイルの著
作も、近年のデータを豊富に使用し、各国の経済成長の軌跡を考察するうえで興味深い内
容となっています。
クズネッツ,S. (塩野谷祐一訳)『近代経済成長の分析』東洋経済新報社,1968 年。
ノース, D. C. & トーマス, R. P.(速水融・穐本洋哉訳)『西欧世界の勃興』増補版 ミネルヴ
ァ書房,1994 年。
安場保吉『経済成長論』筑摩書房、1980 年。
ワイル、N. D.(早見弘・早見均訳)『経済成長』第 2 版、ピアソン桐原、2010 年。
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