2015/06/19 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 日本経済史 第 11 回 戦前の経済発展と社会構造 経済と社会:相互作用の存在、経済の社会に与えた影響を検討 経済発展と社会的動向:生活水準の上昇、不安定化要因 経済的格差:社会構造の問題、所得や資産の著しい格差 Ⅰ 経済発展と生活水準 農業人口の比重の高さ:小農社会の下での工業化 農業部門:非農業部門への労働供給、家制度と労働供給(非跡継ぎ成員) 就業人口の推移 就業者総数 1906 1920 1950 1960 1980 2000 25,061 27,261 36,025 44,042 55,811 62,978 農林水産業 鉱工業 16,158(64.5) 14,672(53.8) 17,478(48.5) 14,389(32.7) 6,102(10.9) 3,173 (5.0) 3,729(14.9) 5,598(20.5) 7,838(21.8) 12,804(29.1) 18,737(33.6) 18,571(29.5) 単位;千人、% 商業・サービス・ 運輸・通信・公務 3,618(14.4) 6,464(23.7) 10,671(29.6) 16,841(38.2) 30,911(55.4) 40,485(64.3) 注;就業者数はいずれも男女を合計した値。 括弧内は就業者総数に対する比率をパーセントで示した値。 出所;1906年については安藤良雄『近代日本経済史要覧 第2版』 東京大学出版会、1979年、6頁。 それ以外については三和良一・原朗編『近現代日本経済史要覧』 東京大学出版会、2007年、7頁。 中央政府・地方政府(県・郡) 旧藩閥勢力 政治家、官僚 村落 帝国議会 首長(市長、町長) 地方議会 協調と対立 有力農民 支配層 都市の富裕層 (商工業者) (地主) 経済的格差 投資 (株式購入) 小作料(借地料) 収入 (投資収益) 利害の対立 零細農民 (小作) 零細農民 (小作) 長男(跡継ぎ) 農業生産力の 上昇→家計所 得の増大 二三男・娘 工場 跡継ぎ以外の成員(二三男 二三男 分家 娘 他家 1 賃金 や娘)を労働者として雇用 2015/06/19 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 経済発展と生活水準 農業生産力の上昇:小農の家計所得の増加、農業部門の生活水準の上昇 非農業部門への労働供給の制約:非農業部門での人手不足、工場などの賃金上昇 戦前日本の水稲 1 反あたり収量と繭生産量の推移 100000000 水稲 1 反あたり収量(石:左目盛) 1 反=10 アール、1 石=180 リットル 2 80000000 60000000 1.5 40000000 繭生産量(貫:右目盛) 1 貫=3.75 キログラム 1 20000000 0 1887 1892 1897 1902 1907 1912 1917 1922 1927 1932 注:対象は 47 府県の値(植民地は含まない)。 出所:『改訂日本農業基礎統計』農政調査委員会編、1977 年。 先進地域の実質賃金(大阪府堺市女性家事使用人:7 ヵ年移動平均) 600 550 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 1893 1895 1897 1899 1901 1903 1905 1907 1909 1911 1913 1915 1917 1919 1921 1923 1925 1927 1929 1931 1933 1935 注:1895 年の値を 100 とした指数。 出所:荻山正浩「小農社会における経済発展と実質賃金―戦前日本の大阪府と秋田県の事 例を中心に(1893-1936)」『千葉大学経済研究』第 25 巻第 4 号、2011 年 3 月。 2 2015/06/19 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 後進地域の実質賃金(秋田市女性家事使用人:7 ヵ年移動平均) 300 250 200 150 100 50 1893 1895 1897 1899 1901 1903 1905 1907 1909 1911 1913 1915 1917 1919 1921 1923 1925 1927 1929 1931 1933 1935 注:1895 年の値を 100 とした指数。 出所:荻山「小農社会における経済発展と実質賃金」。 II 戦前の経済的格差 経済的格差:所得や資産の大きな格差、村落の社会構造(耕地所有の偏り) 全耕地の約 45%:小作地(借地)、高率小作料(表作[米]収穫量の 5~6 割) 明治12年大阪府南郡八田村の状況 単位:戸 2町5反以上 2町以上~2町5反未満 1町5反以上~2町未満 1町以上~1町5反未満 5反以上~1町未満 5反未満 無所有 計 1* 1 3 2 4 11 21 43 注:各戸が八田村村内に所有する耕地の面積 1町=10反=1ヘクタール *塚元家、3町8.79反 出所:荻山正浩「農業日雇をめぐる社会的 諸関係」『社会経済史学』第66巻2号、 2000年。 地主と小作(借地農) 所得格差:生活様式やライフコースの違い 生活水準:下層は米、麦、芋の混食(地域差)、上層ほど米の比率は上昇 経済発展と所得水準:全階層で所得増加、階層間格差は拡大 地主:1 戸あたり所得(消費)は実質で約 35%増加(1890~1908 年) 小作:所得の伸びは約 16% 3 2015/06/19 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama III 明治期の社会状況 階層間対立の潜在化:社会的安定、近世の遺産 伝統的支配体制:下層は上層に依存、教育水準の格差(リテラシー[読み書き能力]) 上層の義務:行政事務(徴税)、教育(学校の建設や運営)、凶作時の扶助 支配層 人材の供給 政府 地主、資産家の 利害を優先 大学、高等学校 有力農民 (地主) 依存 村の行政を担当(戸長) 高水準の教育 経済的負担 能力の欠如 (教育水準) 零細農民 (小作) 教育体制の整備:初等教育(小学校)の義務化 就学率の上昇:質の高い労働力(工業化の基盤)、教育水準の向上 明治期における就学率の推移 単位:% 1890(明 治 23) 1895(明 治 28) 1900(明 治 33) 1905(明 治 38) 1910(明 治 43) 男 女 65.1 76.7 90.6 97.7 98.8 31.1 43.9 71.7 93.3 97.4 出所;『学制百年史』文部省、1972年、 321頁。 IV 両大戦間期の社会状況 下層の動向:生活水準の上昇、教育水準の向上、社会的上昇の可能性 階層間対立の顕在化:争議の時代 実質的平等の要求:経済格差、法的権利 小作農や労働者:経営者や地主への要求(小作料減額、賃上げ、地位向上) 政治的関与の本格化:普通選挙の実施[1927]、無産政党の登場 4 2015/06/19 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 既成政党 普通選挙 (男子のみ) 援助 (政友会、民政党) 弾圧から容認へ (共産党は弾圧) 支配層 政府 帝国議会 中学校 高等学校 大学 援助 保護 保護 資産家、実業家 三井、三菱(岩崎家)、住友 投資 収益 無産政党 投資 地主 経営者 収益 小作争議 尋常小学校、 高等小学校 小作料引下げ 村政への参加 労働争議 企業 農村 労働農民党、 社会民衆党、 日本共産党など 待遇改善 差別の撤廃 被支配層 小作 二三男、娘 労働者 (職工) a 地主小作関係 小作争議:小作農と地主の対立、日本農民組合の結成 地主:地主組合の結成、小作農の要求の拒絶、小作地の取り上げ 政府:地主小作間の調停 争議の成果:要求との乖離 小作料:引上げ阻止、負担率(小作料/収量)は若干低下(1910-14:57.9%、1925-29:49.4%) 小作地の残存:小作地の比率は変わらず、耕地の約半分 地主の抵抗:既存の支配体制維持 5 2015/06/19 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 小作争議、小作地比率、小作料比率 1910 1911 1912 1913 1914 1915 1916 1917 1918 1919 1920 1921 1922 1923 1924 1925 1926 1927 1928 1929 小作争議件数 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. 85 256 326 403 1,680 1,578 1,917 1,532 2,206 2,751 2,052 1,866 2,434 単位:件、人、%、石 争議参加 耕地面積に占める 水稲1反あたりの 1反あたりの 小作人数 小作地の比率 収穫高の全国平均 小作米の全国平均 1.6 1.012 n.a. 45.6 1.8 1910-14年 1.008 1910-14年 n.a. 45.4 1.008 平均1.008 1.7 平均1.74 n.a. 45.4 0.999 1.7 n.a. 45.5 1.014 1.9 n.a. 45.5 1.9 1.010 n.a. 45.8 0.96 1915-19年 1.9 1915-19年 n.a. 45.9 0.965 平均0.979 1.8 平均1.88 n.a. 46.2 0.977 1.8 n.a. 46.1 0.982 2.0 n.a. 46.0 2.0 0.988 3,465 46.3 1.8 1920-24年 0.983 1920-24年 145,898 46.3 2.0 平均1.9 0.969 平均0.967 125,750 46.4 1.8 0.949 134,503 46.5 0.944 1.9 110,920 46.3 1.9 0.961 134,646 46.2 0.945 1925-29年 1.8 1925-29年 151,061 46.1 2.0 平均1.9 0.962 平均0.939 91,336 46.1 1.9 0.916 75,136 46.2 1.9 0.913 81,998 48 出所: 小作争議件数、争議参加小作人数 農政調査委員会編『改訂 日本農業基礎統計』農林統計協会、1977年、69頁、B-b-4表。 耕地面積に占める小作地比率 同上、66頁、B-b-1表に記載された耕地面積と小作地面積から算出。 水稲1反あたりの収穫高の全国平均 同上、194頁、F-a-1表。 1反あたりの小作米の全国平均 梅村又次他『長期経済統計9 農林業』東洋経済新報社、1966年、97頁、表7-2。 b 労使関係 政府による弾圧(治安警察法):明治末から労働組合結成 労働者の姿勢:離職(逃亡)から雇主との対抗へ、労働争議の多発 政府の姿勢:組合結成の容認へ転換 労働者の二極化:大戦景気後の成長率鈍化、両大戦間期(1920~30 年代) 重工業大経営の労働者:経営側の厚遇(熟練労働の確保)、争議の抑制 中小経営の労働者:労賃の抑制、労働条件の低下 争議の成果:大経営と中小経営との格差 中小経営の労働者:所得水準の実質的な低下 6 2015/06/19 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama 労働争議の発生状況 単位:件、人 同盟罷業(ストライキ) 件数 参加人数 1910 1911 1912 1913 1914 1915 1916 1917 1918 1919 1920 1921 1922 1923 1924 1925 1926 1927 1928 1929 10 22 49 47 50 64 108 398 417 497 282 246 250 270 295 270 469 346 332 494 2,934 2,100 5,736 5,242 7,904 7,852 8,413 57,309 66,457 63,137 36,371 58,225 41,503 36,259 48,940 32,472 63,644 43,669 36,872 60,084 出所: 『日本労働運動史料』第10巻、 労働運動史料刊行委員会、1959年、 440-1頁、表Ⅳ-17。 大規模経営と中小経営の賃金の推移(実質額) (円) 3 大経営男子労働者日給(円:1925 年価格) 2.5 2 中小経営男子労働者日給(円:1925 年価格) 1.5 1 1922 1923 1924 1925 1926 1927 1928 1929 注:大規模経営については、全国の従業員数 40~50 人以上の民営 工場の労働者を、中小経営に関しては、東京市機械工業の従業員数 5 人未満の工場の労働者を対象。いずれも消費者物価指数でデフレ ートして 1925 年価格で表示。 出所:『日本労働運動史料』第 10 巻、労働運動史料刊行委員会、 1959 年、表 IV-15;西成田豊「労働力編成と労資関係」1920 年代 史研究会編『1920 年代の日本資本主義』東京大学出版会、1983 年、表 5-10;大川一司ほか『長期経済統計 8 物価』東洋経済新 報社、1967 年、表 1。 7 2015/06/19 荻山正浩 講義資料ダウンロード http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama V 評価と意義 経済発展による社会変化:工業化の進展、不安定要因の増大 小作農や労働者:希望と現実の乖離、社会変革への期待 問題の積み残し:戦前には未解決、戦時体制の到来、戦後改革と高度成長 参考文献 石井寛治・原朗・武田晴人編『日本経済史 2 産業革命期』東京大学出版会、2000 年。 石井寛治・原朗・武田晴人編『日本経済史 3 両大戦間期』東京大学出版会、2002 年。 西川俊作・山本有造編『日本経済史 5 産業化の時代 下』岩波書店、1990 年。 中村隆英・尾高煌之助編『日本経済史 6 二重構造』岩波書店、1989 年。 8
© Copyright 2024 ExpyDoc