2015/05/15・21 荻山正浩 日本経済史 第 6 回 近世の経済発展の限界

2015/05/15・21
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
日本経済史
第6回
近世の経済発展の限界
Ⅰ近世の経済発展の特徴(近代経済成長との相違点)
近代経済成長
1. 1 人あたりの生産物の顕著なかつ持続的な増加
2. 人口の増加(やがて少子化によって減少)
近世日本の経済発展
1. 1 人あたり生産物の緩やかな増加
2. 人口の増大から停滞へ(意図的な増加の抑制)
差異の要因:産業構造の違い、農業社会(近世)から工業社会(近代)へ
農業:社会的分業に歯止め、緩やかな生産性の上昇
工業:社会的分業(市場経済の発展)の加速、飛躍的な生産性向上(規模の経済、技術革新)
Ⅱ 制度的要因
非農業部門の成長による経済発展(工業化):近代以降に西欧から輸入された発想
イギリス、オランダ:国際貿易と都市化による経済成長、非農業部門の発展
離農の歯止め:村民の連帯責任による年貢納入(村請制)
離農の影響:他の村民の年貢負担の増大、耕作放棄の抑制
現物納入(米納):農業への従事を前提
大名
年貢
政府
年貢の割り当て
納税は個人責任
租税:金納
市民
百姓
市民
行動の自由
(職業選択の自由)
百姓
百姓
農業生産力の上昇
耕地の拡大
耕作放棄を抑制
都市
非農業活動
副業、出稼
Ⅲ 利潤追求に対する姿勢
利潤追求の肯定:営業の自由(経済活動の自由)、西欧から世界へ伝播
近世の幕藩体制:社会的安定を目的として成立、商工業の振興を阻害
きえんれい
商工業に対する政策:御用金賦課、棄捐令 (武士に対する債務放棄)、物価引下げの命令
1
2015/05/15・21
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
大名
抵抗
幕府
幕命による物価対策
米価低落→買米
物価高騰→物価引下げ
御用金などの徴収
三大改革
(享保、寛政、天保)
→倹約(消費の抑制)
棄捐令
商人
(寛政の改革)
損失
商人
損失
専売制:各藩による商工業からの利潤取得
薩摩藩の砂糖、徳島藩の藍[染料原料]:百姓や商人の利益を大名が取得
貨幣改鋳や藩札発行:幕府や大名による貨幣発行、有力な収入源(インフレ)
1730 年の久留米藩:藩札の価値は銀の 10 分の 1 へ下落
幕府貨幣方収入の改鋳納金:1730 年の 1.3%から 1844 年の 33.3%へ
幕府
特産物
紙、砂糖、塩
貨幣改鋳
貴金属含有量の低下
全国市場
大名
市中
専売制
藩札による支払
商人
百姓
副業による
特産物の生産
近世の社会体制:資本投下に対する制約
工業化:巨額の投資(工場や鉄道の建設)、企業家のリスク
営業の自由、政府の産業振興:工業部門への投資を促進
近代以降(明治以降):政府による政策的支援、株式会社制度、銀行による信用創造
2
2015/05/15・21
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
不特定多数からの出資
限定された出資者
同郷商人
株主
親族
商家(近江商人)
株主
株式会社
預金者
商人
預入れ、引き出し
銀行
信用の創造
預金
貸出金
融資
両替商
企業
イギリスの産業革命:営業の自由、市場での競争、企業家の技術革新を促進
生産性向上:動力の使用、労働節約的技術の使用(国際的に高賃金)
蒸気機関:豊富で安価な石炭、炭鉱での排水、工場でも動力を使用
産業革命:工業化の開始、金融システムや輸送機関の発達、社会的分業の加速
Ⅳ 分権的体制
幕府や各藩:独立性の強い地方政権、約 250 の藩
領内の収入に依存:財政的疲弊、御用金の賦課、藩札発行
財政的逼迫
大名
藩札
正貨(金、銀)
年貢増徴の限界
商人・職人
百姓
江戸、大阪
三貨制度:中央集権化の不徹底
りょう
ぶ
しゅ
金(計数貨幣):1両 =4分 =16朱 、東日本
もんめ
銀(秤量貨幣):1匁 =10 分、西日本
もん
かんもん
銭(計数貨幣):1文 、1貫 文 =1,000 文、小額貨幣、全国的に幅広く使用
相場(変動):金 1 両=銀 60 匁=銭 4 貫文(江戸前期)→6 貫文(江戸後期)
藩札:三貨をベースに各藩で発行(藩札価値の地域差)
3
2015/05/15・21
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
Ⅴ 資源の制約
17・18 世紀イギリス:資源の制約から解放、産業革命を達成
国際貿易:世界中の豊富な資源と安価な労働力を活用
営業の自由:国内の豊富で安価な石炭(地下資源)を活用
動力革命:石炭から得られる膨大なエネルギー、蒸気機関の動力を利用
工業化:生産規模の拡大、機械の使用、生産性の向上
石炭(地下資源) イギリス
工場
蒸気機関
生産性向上:コスト低減
→安価な工業製品(綿糸、鉄鋼)
工業製品の輸出
茶、綿布の再輸出
アメリカ植民地
余剰人口
中国
タバコ
茶
入植者、年季奉公人
カリブ海植民地
奴隷(労働力)
インド
アフリカ西岸
砂糖
綿布(キャリコ)
奴隷
日本の近世の経済発展
鎖国体制:国内の資源で自給自足、利用可能な資源に制約
経済活動に対する制約:地下資源の多用に歯止め
近世の資源利用:北海道の漁業資源(魚肥):近畿地方の農業生産の発展(北前船)
西欧からの技術導入:国内資源の活用(石炭、水力発電)、蒸気機関や電力の利用
近世的経済発展
国内
輸出入
物資
農業生産の限界
蝦夷地
魚肥
食料
輸入
人口の抑制
人為的抑制(間引、堕胎)
晩婚化による出生の抑制
4
2015/05/15・21
荻山正浩
講義資料ダウンロード
http://www.le.chiba-u.ac.jp/~ogiyama
近代以降の経済発展
英領インド
原綿
中国(満州)
綿布
化学肥料
大豆粕(肥料) 農業生産力の上昇
非農業部門
の成長
(工業化)
食料増産
アジア諸国
機械
技術
所得
台湾
砂糖
(サトウキビ)
人口増加
イギリス
所得増大(消費水準の向上)
ドイツ
Ⅵ 近世日本の評価
二面的な評価:ポジティブな側面とネガティブな側面
2 世紀以上の平和:中世的な騒乱に歯止め、明治以降の対外戦争
経済発展の限界:近代経済成長に対する制約、生活水準の向上には限界
近代経済成長:生活水準の向上、経済的な豊かさの実現
トレードオフ:資源の大量消費による環境問題、国家間の競合から大規模な戦争
将来への展望:近世への後戻りは不可能、経済発展による問題の解決
経済発展による解決:国際協調による持続的成長、技術開発による省資源化
参考文献
刊行の古いものも含まれるが有益な概説書として
新保博・斎藤修編『日本経済史 2 近代成長の胎動』岩波書店、1989 年。
葉山禎作編『日本の近世 4 生産の技術』中央公論社、1992 年。
林玲子編『日本の近世 5 商人の活動』中央公論社、1992 年。
丸山雍成編『日本の近世 6 交通と情報』中央公論社、1992 年。
塚本学編『日本の近世 8 村の生活文化』中央公論社、1992 年。
宮本又郎・粕谷誠編『講座日本経営史 1 経営史・江戸の経験 1600~1882』ミネルヴァ
書房、2009 年。
水本邦彦『シリーズ日本近世史 2 村 百姓たちの近世』岩波新書、2015 年。
吉田伸之『シリーズ日本近世史 3 都市 江戸に生きる』岩波書店、2015 年。
5