宮城県北部における最近のダイズ害虫被害の発生と特徴 誌名 北日本病害虫研究会報 ISSN 0368623X 著者 小野, 亨 巻/号 60号 掲載ページ p. 186-188 発行年月 2009年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat 北日本病虫研報 6 0:1 8 6 1 8 8( 2 0 0 9 ) An n .R e p t .P l a n tPro . tNorth]apan 宮城県北部における最近のダイズ害虫被害の発生と特徴 小野亨* RecentOccurrenceo fSoybeanSeedI n s e c tP e s t si nNorthernAreao fMiyagiP r e f e c t u r e TohruONO* 従来,宮城県におけるダイズの主要子実害虫は,吸実性カメムシ類,ダイズ サヤタマパエ,マメシンクイガとされてきた.近年の栽培環境の変化の中で, 改めて子実害虫による被害の実態を宮城県北部で調査したところ,フタスジヒ メハムシとマメシンクイガによる被害が多く その他の害虫被害は少ないこと が分かった.また,フタスジヒメハムシによる被害は,ダイズの作付初年目か ら多く,マメシンクイガによる被害は,ダイズの作付 4年目以降に多いことが 明らかになった. Keyw o r d s :Leguminivorag l y c i n i v o r e l l a, Medythian i g r 吋i l i n e a t a , s o y b e a n,s o y b e a np o db o r e r,t w o s t r i p e d l e a 白巴e t l e 宮城県では, 1 9 9 0年代後半から水回転換畑における ダイズ栽培が急増し ( 6 ),ほ場の規模や立地環境が大 区画ほ場 ( 0.5ヘクタール未満, 0 . 1~0.3 ヘクタールが一 般的)も含まれた 調査ほ場数は, 2 0 0 4年 1 0ほ場, 2 0 0 5 きく変わってきた.それに伴い,ダイズ(子実)を加害 年2 0ほ場, 2 0 0 6年 1 7ほ場, 2 0 0 7年 1 2ほ場である する害虫の種類にも変化が見られるようになった 以 ほ場からのダイズの採集は,収穫期にほ場中央部の 4ヶ 前は,ダイズサヤタマバエ A S p h o n d y l i ay u s h i m a iやマメ 所から lヶ所あたり 5茎を無作為に抜き取り ( 1ほ場あ 各 シンクイガ L e g u m i n i v o r ag l y c i n i v o r e l l a,吸実性カメム たり 2 0茎),風乾後に室内で爽の分解調査を行い,被害 シ類などが主要な子実害虫であったが(1. 3 ),近年はマ の特徴から加害種別の被害粒率または被害爽率を調査し メシンクイガの被害粒と並んで,フタスジヒメハムシ た.また,フタスジヒメハムシの爽加害により発生した M巴d y t h i an i g r o b i l i n e a t aによる黒斑粒の発生が問題にな 黒斑粒と腐敗粒も,直接子実を加害したものではないが, っている.そこで,防除対策の資料とするため,宮城県 子実被害とした 北部において,害虫による子実被害の実態およびダイズ 子実害虫の被害とダイズ作付年数の関係については, 作付年数と害虫による子実被害の関係を調査したので報 2004~2007 年の実態調査の他に, 2008 年に調査した 5 ほ 場も加えた 告する 本文に先立ち,現地ほ場の選定にご協力下さった宮城 なお,生産者の聞き取り調査によりダイズ 作付年数が明らかになったほ場のデータだけを用いて, 県大崎農業改良普及センターの方々並びに校閲頂いた宮 アークサイン変換後に T ukey-Kramer法による多重比 城県古川農業試験場の城所 較検定を行った 隆氏に感謝の意を表する. 方 法 結果及び考察 害虫による子実被害の発生率を第 l図に示した特に, 害虫による子実被害の実態調査は, 2004~2007 年に 宮城県北部の大崎市および加美郡加美町,加美郡色麻町 被害の多いものは.マメシンクイガとフタスジヒメハム の現地ほ場から採集したダイズで行ったー現地ほ場は, シによるものであった 2 0 0 1年以前,本県における主要 転換畑で団地化された地域を選定したが,大区画ほ場 な子実害虫は,ダイズサヤタマパエやマメシンクイガ¥ ( 0 . 5ヘクタール以上, 1ヘクタールが一般的)の他に一般 吸実性カメムシ類であったが(1. 3 ),ダイズサヤタマパ *宮城県古川農業試験場 M i y a g iP r e f e c t u r a lFurukawaA g r i c u l t u r a lE x p e r i m e n tS t a t i o n,Fukoku88,F u r u k a w a O s a k i, O s a k i,M i y a g i9 8 9 6 2 2 7,JAPAN -186一 , 1 0 口2 0 0 4 年 ~却05年 8ト 圏 闇 l ァ 被 室 一 京 「 % 隊 総 主 司 2 0 0 6年 2 0 0 7年 6 4 2 O マメシンクイガ フタスジヒメハムシ ヒメサヤムシガ類 カメムシ類 ダイズサヤタマバエ ツメクサガ 第 1図害虫の種類別・年次別の被害粒(爽)率 注1 ) ダイズサヤタマパエは被害爽率,それ以外は被害粒率で表した 2 ) 図中の縦棒は,標準誤差を表す. エや吸実性カメムシ類による被害は少なくなったことが n = 2 9 認められた 1 9 9 0年代後半,水回転換畑における栽培が 増え,普通畑における栽培は減少した ( 6 ) 目 しかも,大 区画ほ場の団地化により,数回以上まとまって栽培さ れるようになった.このような立地環境の変化が,ダイ ズ畑の害虫相に影響を与えたのかもしれない.また,こ 被 1 0 ( O a a ることが多く,等級低下の要因の lつとなっていること が挙げられる また,フタスジヒメハムシによる腐敗粒 やマメシンクガによる「くちかけ豆」などは,収量の面 5~9 作付年数 能性もある 腐敗粒は取り除かれるが,黒斑粒は生産物に取り残され b 2 3 4 類やダイズサヤタマバエなどの子実害虫が問題となる可 その理由として,形状選別などにより b 1 0 した小規模な普通畑ダイズにおいては,吸実性カメムシ 題となっている 9 一 ヰ 立 喜 子 こでは調査を行わなかったが,雑木林や里山などに隣接 フタスジヒメハムシの爽加害により黒斑粒や腐敗粒が 6 車 害ユ 1 5 ~ 5 生じるが,特に生産現場においては,黒斑粒が大きな問 4 2 5 2 0 第 2図 ダイズの作付年数とマメシンクイガによる被害 の関係 注1) アークサイン変換後に Tukey-Kramer法によ る多重比較検定を行った 同じ添字は 5%レベルで有意な差がないことを 示す. 2 ) 図中の縦榛は,標準誤差を示す. 3 ) 図中の数字 ( n ) は,調査ほ場数を表す から重視しなければならない問題である 夕、イズの作付年数とマメシンクイガによる被害粒率の 関係を第 2図に示した マメシンクイガによる被害は, クイガに対する防除対策を重視する必要がある.しかし 作付 4年目のほ場の被害粒率については,ほ場開のばら ダイズの作付 1~2 年目のほ場において極めて少なく(被 つきが大きく,また小林ら ( 4 ) の報告では,連作 3年目 害粒率の平均値 1 %未満), 3年目でもかなり少ない(同 から急増している 2 % ) しかし,作付 4年目以降になると急激に多くなり 害虫であると言われており,発生源となるようなダイズ (同 14~15%) , 1~3 年目のほ場と有意な差が認められた ほ場が近くに多く存在すれば侵入量が増えて,多発する 本種は,移動性があまり大きくない ( pく0 . 0 5,Tukey-Kram巴r法).本種の越冬生態について までの年数が短くなるが,その逆の状況では多発するま は,老熟幼虫が爽に孔をあけて地上に降り,繭を作りそ での年数が長くなる可能性がある. したがって,本種の のほ場で越冬する 移動距離を明らかにすることは,防除対策を講じる上で したがって,ダイズの連作は本種の 被害を増加させる大きな原因となる. 重要な課題と考えられる. 近年,水稲やムギとの輪作により作付年数 1~2 年のダ イズが多いが,連作となっているほ場も存在する がって,作付 4年目以降のダイズにおいては フタスジヒメハムシによる爽および子実の被害率とダ した イズ作付年数の関係を第 3図に示した.マメシンクイガ マメシン とは異なり,フタスジヒメハムシによる被害は作付初年 -187 n=29 1 0 4 3 0 被 2 5 葦 20 言 語 1 5 6 a られる.本種の防除対策を講じる上で,これらの移動実 9 態を知ることが重要な課題と考えられる. 本調査から,宮城県北部において近年被害の多い子実 害虫はフタスジヒメハムシとマメシンクイガであった 特に,フタスジヒメハムシはダイズ作付初年日から多い ~1O % 5 O ことから,早急に防除対策を確立する必要がある.また, ' ρ b巳υ44JηL1n ょu 被害粒率(%) ワ 白U l 2 3 4 マメシンクイガに対する防除は,ダイズ作付 4年目以降 5~9 から重視する必要があることが分かった 今後,更にこ れらの害虫の発生生態を明らかにし IPMに基づく紡除 a 体系を組み立てる必要がある. 引用文献 1)船迫勝男・伊藤春男・小林尚・奥俊夫(19 7 7 )宮 l 2 3 4 城県におけるダイズ子実害虫相の地域性ならびに虫 5~9 作付年数 8:1 7 2 1 害粒率の発生予察北日本病虫研報 2 第 3図 ダイズの作付年数とフタスジヒメハムシによる 被害の関係 注1) 上図.被害爽率,下図:被害粒率 2 ) アークサイン変換後に Tuk 巴y -Kramer法によ る多重比較検定を行った 同じ添字は 5 %レベルで有意な差がないことを 示す 3 ) 図中の縦棒は,標準誤差を示す. n ) は,調査ほ場数を表す. 4 ) 図中の数字 ( 2) 布施 寛・鈴木穂積・石黒清秀-斎藤真弼・金子勝 康 ( 1 9 8 2 ) 庄内地方における転作ダイズの病害虫 E 昭和 5 6年度集団転作ダイズに発生した病害虫 北日本病虫研報 3) 城所 33:9 7 1 0 2 隆( 2 0 ∞)宮城県におけるダイズ子実害虫の同 時防除適期.北日本病虫研報 4) 小 林 5 1:1 8 7 1 8 9 . 尚・奥俊夫・土岐昭男・千葉武勝・渡辺肝 悦・小林次郎・船迫勝男・江口憲雄・斎藤 満 ( 1 9 7 9 ) 東北地方の水回転換畑ダイズにおける 1 9 7 8 年の虫害の特徴と対策北日本病虫研報 30:2 6 3 0 . 日から多く,作付年数との相関は認められなかった 5) 湖山利篤 ( 1 9 3 9 ) フタスヂヒメハムシの越冬に就て ( pく0 . 0 5,Tuk 巴y -Kramer法) 布施ら ( 2 ) によると,連 作年数と害虫による子実被害の聞に相関関係の見られた 応用昆虫 2:2 5 6 2 5 9 2 0 0 9 )生息場所管理による土着 6) 小 野 亨 ・ 城 所 隆 ( 害虫はマメシンクイガのみで,フタスジヒメハムシにつ 天敵の利用とダイズ害虫管理 いては,生育初期の発生と被害が初年目に少ない傾向が 虫管理(安田弘法・城所 p .2 0 1 2 2 2 学学術出版会,京都, p 認められたが,第 l世代成虫の発生盛期以降は差がなか った.フタスジヒメハムシは,一般にダイズ畑で成虫越 7 ) 斎 藤 隆 ・ 佐 藤 政 太 郎 ・ 布 施 寛 ( 19 8 9 )ダイズを加 冬するものと考えられるが ( 5,7 ),ダイズ播種前の 4月 下旬 ~5 月上旬に活動を開始することから (5 , 生物間相互作用と害 隆・田中幸一編),京都大 7 ),ダイ ズ播種前に一度ほ場外の植生に移動して,ダイズ発芽後 に再び越冬後成虫がほ場外から侵入してくるものと考え -188一 害するフタスジヒメハムシの生態と防除 第 2報 発生経過と爽を加害する時期の要防除密度.山形農 試研報 2 4:5 3 6 1
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