せん断加工に適した表面処理 と潤滑法

■特集
!Part 2
賢く使おう! 潤滑テクニック一問一答
潤滑法
1
せん断加工に適した表面処理
と潤滑法
せん断加工に特に専用的な手法はないが、せん
生じるが、その他の多くの場合は凝着摩耗が主体
断加工の特殊性に注意して方法や潤滑剤を選択す
である。パンチ側面の凝着は摩耗・欠損につなが
る必要性はある。
るため、この部分の振る舞いは 1 つの指標になる。
!1 工具から見たせん断加工工具の特徴
せん断加工工具の刃先に作用する圧力はきわめ
て高く、また必ず新生面との接触を伴う。さらに、
高速で大量のせん断を行う関係で刃先近傍温度も
図 1 は塩素・硫黄系極圧剤の効果を見たもので、
塩素と硫黄の有効性、さらに同じ硫黄系でも活性
度の高いものが効果が大きいことがわかる。
!4 ドライ加工
高くなり、たとえば熱伝導率の小さいステンレス
潤滑油を使わないドライ加工の試みがあり、た
鋼の打ち抜きでは、刃先は 400℃ 程度あるいはそ
とえばセラミックス工具2)や、密着性を高めた
1)
れ以上になると言われる 。
!2 潤滑油が具備すべき条件
共通して言えることは材料・工具によく吸着し、
DLC コーテイング工具を用いたプレス加工の試
みが増えてきている2)。せん断加工においてもア
ルミニウムでは 10 万回の実加工でバリの高さ変
金属接触を防ぐことである。前節で述べたような
化がほとんどない良好な結果が得られ、またステ
新生面との接触、高い工具面圧力、刃先温度の上
ンレス鋼のせん断でも良好な結果が得られた報告
昇など過酷な条件下にあることを把握して潤滑油
があるなど、実用化の試みがなされている3)。
を選択したい。基本は低温から高温まで潤滑機能
表面処理は PVD、CVD で多様な方法があるが、
を有し、油膜強度が高く、粘度変化が小さいこと
密着性も大変改善されており、潤滑油の使用とあ
などが挙げられる。したがって、高粘度油をベー
わせて効果を狙う必要がある。なお、表面処理は
スとしつつ粘度指数向上剤や油性剤、極圧剤の添
硬さの効果もあるが、むしろ焼付きや凝着および
加が望ましいが、脱脂や環境保全、コストなどを
これらの発生に伴う欠損などへの効果が大きいこ
考慮するとほぼこの逆になる。加工条件や制約条
とに注目する必要がある。
!3 添加剤の効果
油性剤と極圧添加剤が代表的である。油性剤は、
金属表面へ吸着して吸着膜をつくり、境界摩擦を
低下させるが、ほぼ 150℃ 程度で効果が減少する。
極圧剤は化学反応により生成した極圧膜が凝
着・焼付きを防ぐもので、リンや塩素、硫黄系が
代表である。反応温度はリン<塩素<硫黄の順で、
参考文献
1)前田禎三・青木勇:塑性と加工、
21−230(1980),
241−247
2)片岡征二:塑性と加工、47−546(2006)
、569−573
3)野口裕之:プレス技術、47−3(2009)
,24−28
パラフィン系
基油のみ
20μm
件を考慮して適切な潤滑油を選択することになる。
(青木 勇)
パンチ側面
打ち抜き枚数
基油+リン分 0.08%
3,300
6,600
10,000
基油+塩素分 0.34%
3,300
6,600
10,000
100μm
塩素系で 150∼400℃、硫黄系で 200∼900℃ で効
果がある。なお塩素系(塩素化パラフィン)は、
発がん性とダイオキシン発生の問題から使用を控
える傾向にある。また、硫黄は銅系材料の変色、
硫黄は活性金属の腐食に注意が必要である。
摩耗は、凝着摩耗とひっかき摩耗(アブラシブ
摩耗)に大別される。ケイ素鋼板や酸化皮膜付鋼
板の打ち抜きでは工具端面部ではひっかき摩耗が
第 48 巻 第 2 号
(2010 年 2 月号)
図1
添加剤の効果1)
基油+硫黄分
(天然)
0.5%
(1 mm 厚 SK 5 材
のφ10 打 ち 抜 き、
基油+硫黄分
(単体)0.5%
工具 SKS 3、基油
−6
2
粘度32×10 m /s)
3,300
6,600
10,000
3,300
6,600
3,300
6,600
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