第 9 章 角運動量保存則

pLATEX 2ε : chap9 : 2015/6/15(16:48)
第 9 章 角運動量保存則
§9.1 中心力と等速円運動
力が常に固定点の方向を向き、その大きさが固定点の中心からの距離 r の関
数である場合、その力を中心力とよぶ。中心力 F の大きさは r の関数 f (r) で
表され、その方向は固定点からの位置ベクトルを r とすると、r/r の単位ベク
トル(大きさ1のベクトル)で表せる。
F (r) = f (r)
r
x
y
z
= (f (r) , f (r) , f (r) )
r
r
r
r
(9.1)
一方、一定角速度 ω の円運動の向心加速度は rω 2 なので、ニュートン方程式よ
り中心力は f (r) = mrω 2 = mv 2 /r となる.
人工衛星
加速度 = rω 2 で中心力は F = −GM m/r 2 なので
mrω 2 = GM m/r2
(9.2)
が成り立つ.r の項を左辺に集めると
r3 =
GM
GM T 2
=
2
ω
4π 2
(9.3)
が得られる.回転の周期の2乗と軌道半径の3乗が比例することを示して
いる. これはケプラーの第3法則を表す.スペースシャトル、国際宇宙ス
テーションは地上 400-600km の上空を回る.r = 6400 + 400 = 6800km な
√
√
ので、地球1周の周期は T = 2πr 3/2 / GM = 2πr 3/2 /(R g) = 5600s= 約
90 分となる.気象衛星「ひまわり」や放送衛星は赤道上で静止軌道にある.
地球の自転とおなじ周期24時間で回転しているので,日本からは衛星は
つねに一定の方向にある.衛星放送のパラボラアンテナの向いている方向
に放送衛星がある.静止軌道の位置は T = 24 × 60 × 60 = 86400s なので
r = {GM T 2 /(4π 2 )}1/3 = {gR2 T 2 /(4π 2 )}1/3 = 42300km の位置にある.す
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第9章
角運動量保存則
なわち地上約 36000km 上空にあり,スペースシャトルの軌道よりかなり上に
ある.
§9.2 角運動量
質量 m の質点が速度 v で動いているときの運動量は
p ≡ mv
(9.4)
で定義され,原点からの質点の位置を r として,原点から測った角運動量ベク
トル (angular momentum vector) は
L ≡ r × p = r × mv
(9.5)
で定義される.
ベクトルの外積
2 つのベクトル A と B のベクトルの外積 (outer product),あるいはベクトル
積 (vector product) を
A×B
(9.6)
と表す.これはベクトル A,B が張る平行四辺形の面積
|A × B| = |A||B|| sin θ|
(9.7)
を長さとしてもつベクトルで,その方向は A, B の張る平面に垂直で,右ねじを
A から B へと回したときに進む向きをとる.
AxB
B
θ
A
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§9.2 角運動量
図 9.1 ベクトル外積
直交座標系における x,y,z 軸に平行な基本単位ベクトル i ≡ (1, 0, 0),j ≡
(0, 1, 0),k ≡ (0, 0, 1) の間のベクトル積は
i × j = k, j × k = i, k × i = j
(9.8)
i×i=j×j =k×k =0
(9.9)
となる.二つのベクトル A と B
A = Ax i + Ay j + Az k
(9.10)
B = Bx i + By j + Bz k
(9.11)
の外積は上の関係を用いて
A × B = (Ax i + Ay j + Az k) × (Bx i + By j + Bz k)
= (Ay Bz − Az By )i + (Az Bx − Ax Bz )j + (Ax By − Ay Bx )k
(9.12)
平行なベクトルの外積は 0 である.
磁束密度 B 内の電荷 q 荷電粒子が速度 v にはたらくローレンツ力はベクトル積
F = qv × B
(9.13)
で表現できる.
(x, y) 平面内の運動の角運動量のベクトルは z 方向を向く.その大きさは r と
p のなす角を θ とすると、rp sin θ となる.成分で表すと、Lz = xpy − ypx .
反時計回りの円運動の場合, θ は 90 度なので
Lz = rp = mrv = mr2 ω
(9.14)
ただし,ω は角速度 2π/T である.時計回りの円運動の場合, θ は-90 度なので
Lz = −mr2 ω である.
x = a > 0 を +y 方向に vy > 0 で直進する質点の角運動量は
Lz = mavy > 0
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第9章
角運動量保存則
回転していなくても角運動量は0でない。
§9.3 力のモーメント
ドライバーでねじをしめるとき,握り部の太いドライバーの方がしめやす
い.これは回転中心と力の作用点が離れているほどトルクが大きく作用能率が
よいからである.トルクは力のかかる点の位置ベクトル r = (x, y, z) とかかる
力 F = (Fx , Fy , Fz ) の外積 N = r × F で与えられる.
位置ベクトルと力のベクトルが x, y 平面内になると、力のモーメントは z 方
向になる.支点 O から距離 r 離れた点で r から角度 θ 方向に F の力がはたら
くと力のモーメントは
Nz = rF sin θ
位置ベクトルと力が同じ方向なら θ = 0 で Nz = 0.θ = π/2 なら Nz = rF .
§9.4 回転運動の基礎方程式
角運動量の時間変化は
dL
d
dr
dp
= (r × mv) =
× mv + r ×
dt
dt
dt
dt
(9.15)
右辺第 1 項は v × v = 0 で消える.第 2 項において運動法則 dp/dt = F が成
り立つことから
dL
=N ≡r×F
dt
(9.16)
が成立する.ここで N は力のモーメント (moment of force),あるいはトルク
(torque) と呼ばれる量である.この式が回転運動の基礎方程式である.
§9.5 角運動量保存則
角運動量の時間変化は
dL
=N ≡r×F
dt
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(9.17)
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§9.5 角運動量保存則
中心力の場合は力は動径方向を向く
F = f (r)
r
r
(9.18)
のでトルクは発生しない:
N ≡r×F =r×r
f (r)
∝r×r =0
r
(9.19)
式 (9.17) でみたように角運動量の変化はトルクで与えられるため,中心力の働
く系では角運動量は変化しない.これを角運動量保存則と呼ぶ.
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